MMA
インタビュー

【UFC】“マトリックス避け”で魅せる、UFC3連勝中のラファエル・フィジエフ「ムエタイだけをやっていたわけじゃない。MMAはいつも近かった」

2021/08/07 13:08
 2021年8月7日(日本時間8日)、米国テキサス州ヒューストンのトヨタセンターにて「UFC265」が有観客で開催される。プレリミナリー最後のメインカードに登場する注目選手が、元ムエタイ戦士のラファエル・フィジエフ(キルギス)だ。  ライト級(5分3R)でレスリングベースのボビー・グリーン(米国)と対戦するフィジエフは、現在ONEムエタイで活躍するソーグロー・ペッティンディーアカデミーと「トヨタムエマラソン」決勝で2度戦っている立ち技の強豪だが、MMAでも2015年のプロデビューから9勝1敗と驚くべき戦績を挙げている。  ROAD FC時代に強豪キム・スンヨンやムングントスズ・ナンディンエルデンを1R KOに下し、Titan FCを経て、2019年4月からUFCに参戦。初戦こそマゴメド・ムスタファエフのスピニングバックキックからのパウンドに敗れたものの、以降、アレックス・ホワイト、マルク・ディアケイジーに判定勝ちすると、2020年12月の前戦ではベテランのヘナート・モイカノを1R 左フックでKO。頭角を現してきている。  キック時代から得意とするボディブローを、MMAでも難なく効かせて、強烈なフックで顔面を打ち抜く、そのスタイルは、ムエタイと並行して行ってきた組み技格闘技の下地が生きているという。  注目の南カフカスのアゼルバイジャンをルーツに持ち、アントニーナ&ヴァレンティーナのシェフチェンコ姉妹を生んだ中央アジアのキルギスの国籍を持つフィジエフは、本誌のインタビューに「自分が何者であるか、ルーツを忘れてはならない」と語った。 トフィック・ムサエフとは時々話している 【写真】タイガームエタイでピョートル・ヤンと練習。指導も務めるフィジエフ ──韓国ROAD FCでも戦ったラファエル・フィジエフ選手ですが、カザフスタン生まれで、キルギス国籍、お父さんがアゼルバイジャンという3つの国をバックボーンに持っていると聞きます。カザフからキルギスに移住したということでしょうか。 「僕はカザフスタンで生まれた。僕の祖先は、もともとアゼルバイジャンにいて、弾圧などを受けてカザフスタンに移住したんだ。そして、警察官だった父の仕事の関係で、幼い頃に家族でキルギスに移った。  僕の心の中には常にそれぞれの国への想いがある。なぜなら、自分が何者であるか、自分のルーツを忘れてはいけないから。僕のルーツはアゼルバイジャンになる。父がアゼルバイジャン人、母はロシア人なんだ。いま家族と一緒にキルギスに住んでいるけど、彼らはいい人たちでここが僕の国だと感じているよ。キルギスを愛しているし、この国に留まりたいと思っている」 ──アゼルバイジャンのトフィック・ムサエフ選手とも交流はあるのでしょうか。 「トフィックとはインターネットで時々話すんだ。また、彼のコーチや友人とも話をしているよ。でもまだ実際に会ったことがないから、どこかで一緒に練習できたらいいなと考えているよ」 ──カザフスタンからキルギスに移住してファイターになろうと決意したのでしょうか。格闘技の経歴は? 「最初は父と同じ警察官になろうと思い、キルギスの警察学校に入ったんだ。法律の学位を取った。卒業して、しばらく警察の仕事をしていたよ。  格闘技はもともと、子供の頃から、父が僕や従兄弟たちにボクシンググローブを与えて、スパーリングをするように言っていたんだ。当時は勝とうと思ってもなかなか勝てなかったから、あまり好きじゃなかったんだけど(笑)、10代の頃に村から街に引っ越して、新しい学校でいじめに遭ったんだ。それで、ムエタイのトレーニングを始めることにした。  ただ、初期の頃もムエタイだけをやっていたわけではなくて、ムエタイが基本だったけど、ボクシング、コンバットサンボ、ハンドトゥハンドコンバット(白兵戦闘術)、柔術、それにレスリングのトレーニングも少しやってたんだ。だから、MMAにはいつも近かったと言えるね。  それで、タイへ移住してムエタイを本格的に学んだ。国際IFMAムエタイトーナメントで複数回優勝して、同時にコンバットサンボでも全国王者になった。それで2015年からプロMMAファイターになったという感じさ」 [nextpage] MMAとキックボクシングの違いは、グラップリングがあるということだけじゃない ──そして現在同じくUFCで5連勝中のムスリム・サリコフがメインに出ていた大会で、フィジエフ選手はプロMMAデビューしたと。「トヨタムエマラソン」が2016年と2017年ですから、当時はMMAとムエタイの試合を並行して戦っていたのですね。 「その通りだね」 ──ワンデートーナメントの「トヨタムエマラソン」では決勝戦に進出し、現在ONEムエタイでも活躍するソーグロー・ペッティンディーアカデミーとも対戦しています。あの大会では、フィジエフ選手がUFCでも見せた話題の“マトリックス”スウェーでハイキックをかわすハイライトリールが拡散されましたが、ボディ打ちから顔面という、現在のUFCでも使っているコンビネーションも見せていましたね。あの動きはMMAで使いこなす選手はなかなかいないように感じます。 「それは、僕がテイクダウンを必要以上に恐れていないからだよ。ムエタイは僕の基本スタイルだけど、常に様々な格闘技のトレーニングを受けてきたからね。今回はタイガームエタイに加え、サンフォードMMAでも練習してきた。最大の課題は、自分のレスリングやグラップリングのスキルをより高いレベルに引き上げることだった。MMAと、ムエタイやキックボクシングの違いは、グラップリングがあるということだけじゃない。試合のダイナミクスや距離感が違うから、打撃パートも調整しなければならなかった」 ──組み技の下地があるから、あの打撃が打てると。ピョートル・ヤンなど多くのUFCファイターが訪れるタイガームエタイでは、あなたは、キックボクシングのコーチも務めているそうですね。現役ファイターでありながら、指導も受け持つことの利点は何でしょうか。 「コーチングが僕に役立つのは、毎日集中しなければならないこと。毎日、何を教えるかを考える必要があるんだ。コーチの中には、月曜・火曜・水曜で同じことをして1週間の計画を立てる人がいるけど、僕はそれが好きじゃないんだ。毎日、もっと学びたいから。テコンドーやボクシングのビデオを見て、そこからフットワークを取り入れ、あそこからコンビネーションを取り入れ、ここから頭の動きを取り入れて……と、生徒に教えるために一緒に学ぶんだ。コーチするためにはその動きの意味を理解していないといけないからね。毎日、そのことに集中し、このスポーツに参加し、試合のある生活を送っている。だから教えることは、僕にとってとても役立っているよ」 [nextpage] 僕は12歳の時からタイクリンチをやっている 【写真】サンフォードMMAにて。ONE参戦中の若松佑弥、 It's Showtimeブラジル王者のエマーソン・ファルカオ、UFCバンタム級2連勝中のランディ・コスタらとともにトレーニングするフィジエフ ──フィジエフ選手のファイトスタイルは、相手の攻撃に、体重を乗せたフックで対抗するという印象を持っています。真っ向勝負では非常に強いですが、今回の対戦相手のボビー・グリーン選手のように、ガードが低く距離をとってくる選手にも当てることは可能でしょうか。 「これまで何度も同じようなタイプの選手と戦ってきたけど、彼らは自分の本能だけに従う人たちなんだ。それが手を下ろして、距離をとって戦うのが好きということなんだろうね。僕も本能のままに戦うけど、本能だけではなく、自分のスキルも使って戦うよ」 ──では、グリーン選手のヒジ打ちを含めたスタンドスキルについてはどう感じていますか。 「ボビーは強いし、立ち回りも上手だ。そしてクリンチワークも好むけど、僕は12歳の時からタイクリンチをやっている。クリンチが“超うまい”とは言わないけど、彼にハードな戦いをさせるだけのスキルは持っているよ」 ──グリーン選手が前戦でチアゴ・モイゼス選手に接戦の判定で敗れた試合は、フィジエフ選手にとってヒントになったでしょうか。 「あの試合を見たけど、僕は彼(グリーン)が勝ったと思っているよ。その意味で僕は彼をより理解していると思う」 ──フィジエフ選手は、2020年12月の前戦「UFC256」で、ベテランの強豪レナート・モイカノ選手を1R KOで下し、3連勝を飾りました。この連勝が意味するところは? 「僕にとってそれは、特に変わったことは何もなく、“ただの連勝”なんだ。過去の勝利は今の僕の助けにはならない。今は新しい戦いがあるので、そこに向かうだけさ」 ──この試合を越えての目標は何でしょうか。 「非常に近い時期に、たぶん2カ月後にはまた戦いたい。10月とかね。年明けまでに、最低でももう1回は戦いたいね。  正直に言うと、評価されることはプロスポーツにおける僕の究極の目標だ。栄光のために、認められるために、お金のためにやっている。ファンにエキサイティングなパフォーマンスを見せてボーナスの記録を残したい。でも、お金だけあっても幸せにはなれないし、お金がない栄光だけでも不十分だ。栄光とお金の両方を手に入れることが、僕の努力のモチベーションになっているよ。そしてそれを続けていくことでタイトルにつながると思っている」
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