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インタビュー

【UFC】王者ピョートル・ヤンに挑戦する5連勝アルジャメイン・スターリング「最初にミスを犯した方が倒れるだろう」

2021/03/05 17:03
 2021年3月6日(日本時間3月7日)、米国ネバダ州ラスベガスの「UFC APEX」にて『UFC 259』が開催される。  UFC世界ライトヘビー級、バンタム級、女子フェザー級の豪華3大タイトルマッチが組まれた今大会の最大の注目は“黄金のバンタム級”で、王者ピョートル・ヤン(ロシア)に、アルジャメイン・スターリング(米国)が挑戦する「UFC世界バンタム級選手権試合」という声も高い。 “FUNK MASTER”スターリングは、2020年6月6日の「UFC 250」で強豪コリー・サンドハーゲンに1R、わずか88秒リアネイキドチョークで一本勝ちして以来の試合で、UFC5連勝中。佐々木憂流迦や井上直樹の練習仲間としても知られている。  一方“NO MERCY”の異名を持つヤンは、2020年7月11日の「UFC 251」でヘンリー・セフードが返上した王座をジョゼ・アルドと争い、5R TKO勝ちでベルトを獲得。UFC7連勝中(MMA10連勝中)で今回が初防衛戦となる。  両者は当初、2020年12月13日の「UFC 256」で対戦予定も、ヤンのビザの問題により中止となっていた。その因縁の対戦に向けて、アルジャメイン・スターリングが囲み取材に応じた。その話は、対戦相手のピョートル・ヤンのことのみならず、王座挑戦に辿り着いた軌跡と、彼の人生哲学にまで及んだ。 カーフキックは極めて危険な攻撃。MMAの新しいテクニックとしてみんな研究してくる ──いよいよUFC世界バンタム級のタイトルマッチです。現在の心境をお聞かせください。 「この試合に向けて非常にナーバスになっているけど、それは毎試合のことだよ。ほんとうに不思議だけど、ナーバスにならなかったのはマルロン・モラエス戦(2017年12月に1R KO負け。以降5連勝)だけだった。緊張するということが、高いレベルの試合で思い通りに反応するためのセーフティーネットになることを理解したよ。  試合が心配だしナーバスだけど自信はある。実際に試合で何が起きるか楽しみだ。これが今の心境で、試合に向けて必要な準備を全てしてきた。だからいい事が起きると思っている。だけど試合となると何が起きるか分からないし、怖いけど楽しみでもある。あと数日、気持ちを高めて試合に向けて準備していきたい」 ──対戦相手のUFCバンタム級王者ピョートル・ヤンをどうとらえていますか。 「ピョートル・ヤンは本当にタフなファイターで、持久力があり勝負に出てくる。プレッシャーをかけ続けずっと正面から攻めてくるし、相手を追い続けて激しい打撃を当ててくる。キックもパンチも良いし、パンチはスピードもある。  組み技についてはよく分からないけど、そこが攻めるべき部分だと思う。彼との打撃に応じることもできるけど、相手のゲームに付き合う必要はない。リーチではこっちの方が有利(ヤンは170cm、スターリングは180cm)だし、彼と同様に自分もタフで持久力がある。数インチが勝負の行方を決めるハイレベルな試合になるだろうから、最初にミスを犯した方が倒れるだろう。これは非常に難しい試合だから、自分のペースでチャンスを狙いたい」 ──試合前には、SNS上で舌戦も繰り広げました。意図を教えてください。 「試合の一部だと思うよ。彼や自分の性格を分かってもらえる。両方ともリスクを好むと思うし、お互い話すのが好きで有言実行する人間だ。相手を挑発するのは楽しいことだし、試合がもっと盛り上がる。試合に賭けるものが大きくなるし、自分のことを自慢する機会でもある。どちらが発言を撤回するかという意味でもワクワクするよ。彼が真に受けているかどうか分からないけど、自分はそんなことはしない。ただの試合だし、人生はそのまま続くからね。だから試合でやるべきことをやって勝利を掴みたい」 ──現在、流行しているカーフキックについて、アルジャはどう考えていますか。 「カーフキックは極めて危険な攻撃で、試合の流れを大きく変えるものだ。対戦する両者のテクニックを(試合で)全て見ることができないからフェアじゃないとも言える。ハビブ(ヌルマゴメドフ)のような無敗の王者でも、ジャスティン・ゲイジーからもう何発かカーフキックを受けていたら試合の流れは変わっていただろう。彼の動きからどれだけダメージがあるか見ることができる。MMAの新しいテクニックとしてみんな研究してくるだろうね」 ──ラスベガスの「UFCパフォーマンス・インスティトゥート」では、反射時間や脳のトレーニングを行ったようですね。どう感じましたか。 「UFCパフォーマンス・インスティトゥート(PI)でパワー強化と調整の主任だったボー・サンドバルと一緒にトレーニングをしてきた。 バイクやバーサクライマー(上半身と下半身を同時に動かすため、短時間で高強度のトレーニングが可能)、トレッドミルで鍛え、 回復時にすべてのシナプスを強化するために脳のトレーニングもした。良いトレーニングだよ。従来のものとは異なり、いつも普通にやっていることを別のやり方で挑戦するんだ。チェスのゲームみたいで、精神を別のやり方で刺激するんだ。ここPIで多くのことに挑戦してきたし、選手たちとトレーニングを積んできたよ」 ──ほんとうのチェスもやっているようですね。 「最近チェスが好きなんだ。チェスのアプリを入れてルームメイトのクリス・ワイドマンと一緒にやっているし、ここにチェスの駒も持ってきているから、バブル(選手やスタッフの完全隔離状態)の中でもチェスができる。新しい『スーパースマッシュブラザーズ』もたまにする。それに新しい言語、スペイン語とロシア語を学んでいるんだ。妹が大学でロシア語の授業を採っているから、自分も学んで二人で話せるようにしたいんだ」 [nextpage] ドラッグを売ったり、ギャングに入る以外の選択肢はなかった。今ここにいられるのは信じられないこと ──あなたはいつもジムでの明るく振る舞い、周囲を和ませていると聞きます。 「トレーニングはみんな真剣にやっているから、少し笑うことができる余裕が必要で、真面目になり過ぎないようにしている。自分はストイックだから、特に自分のことを大事にしてくれる同じような選手とトレーニングするのは楽だよ」 ──格闘技の魅力は何だと思いますか。 「格闘技は一対一で、自分自身で流れをコントロールし、成功を掴むことが出来る。常に向上することが出来て、動きや状況判断をトレーニングし、パワーもスピードも改善出来る。 一対一の格闘技では成功、敗戦について自分にすべての責任がある。そして体格などに恵まれていなくても、トレーニング次第で才能豊かな選手を倒すことが出来る。つまり“才能”とは厳しいトレーニングが出来るかどうかだ」 ──そんなあなたが好きなファイターは? 「みんな好きだし、みんなの試合を観ている。自分と同じ階級の選手も好きなんだ。スタイルが好きだし、真似したり学びたいことがある。ネイト・ディアスやホルヘ・マスヴィダル、コナー・マグレガー、ダスティン・ポイエー、ジョン・ジョーンズ、スティペ・ミオシッチ、ダニエル・コーミエー、アマンダ・ヌネス……etc、すごい選手がたくさんいるし、彼らから多くを学ぶことが出来る。ただ、このスポーツが好きなんだ。毎週試合を観るし、自分が出ない試合でも楽しみながら観るのはいいことだよ」 ──あなたはかつてジョン・ジョーンズのトレーニングを見て「一緒にトレーニングする機会をもらえないか」と頼み、チームメイトになった。元同僚のJJから学んだことは? 「ジョンから学んだのは、若い頃から彼が自分自身の将来を決めていたことだ。ただトレーニングパートナーと練習をするだけでなく、自分で考え、YouTubeを見て研究している。そうやって、彼は試合に勝ち成功してきた。彼は才能があるけどトレーニングもしっかりしている。彼が勝ち獲ったものは、すべて努力によるものだ」 ──バンタム級王者になった後の展望を教えてください。 「ベルトを獲って次の挑戦者と闘う──シンプルだよ。チャンスを与えられたのだから、他の選手たちにも与えるべきだ。そして自分が最強であることを証明する。ランキングには意味がある。『再びランキングをグレートにして』意味あるものにしたい」 ──将来について、どのように考えていますか。 「何が起きるか楽しみだよ。長い間闘ってきて、ようやくここまで辿り着いたから感傷的になる。感情のジェットコースターのようなものだったからね。今まで両親に言われたように、感情を表に出さずにコントロールしてきたけど、この事については色々考えたし、今の自分、そしてこれまで努力してきたことを誇りに思う。  生まれ育った環境ではドラッグを売ったり、ギャングに入る以外の選択肢はなかった。だから今ここにいられるのは信じられないことだ。自分がどういう人間か、今までの苦悩、そしてこれまでの軌跡を忘れないようにしたい」 ──ファイターになる前は靴の販売員をして、生活するために学校でヘアカットもしていたそうですね。苦境を乗り越え、目標を達成するためのアドバイスを。 「人生では選択を迫られる時がある。その選択により問題が発生することもある。自分自身に真摯であれば、誰でもいい選択が出来ると思うし、時には運も必要だろう。悪い状況にあっても挽回するチャンスはある。自分より不幸な人がいると考えて、幸せに生きて健康でいることが大事だ。  酷い状況にいるなら出口を探そう。何を犠牲にすべきか、睡眠か、自由な時間か、夕食か、友人や家族に会うことか……自分にとって何が大切か? どこにいたいのか? 難しい選択だけど一度選んでからはすべてが楽になった。何をやりたいか、目標が何か分かっているなら、世界はそれができるように動いてくれるだろう」
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