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インタビュー

【Road to ONE】睾丸破裂、『炎の体育会TV』出演、受刑者への指導──“最も勝利を望まれない男”リトルが一世一代の勝負へ「おっさんにも未来だらけだから」

2021/02/20 11:02
 中学生になっても小柄で“リトル”と呼ばれた。桜庭和志がPRIDE GPを勝ち上がる姿を見て、格闘技のバックボーンが無いまま、ガッツマンに入門した。“篩に掛けられる”練習のなか、石渡伸太郎ら先輩の背中を追って、アマチュア修斗、プロ修斗、そしてPANCRASEで戦ってきた。  睾丸破裂、『炎の体育会TV』出演、受刑者への指導……気づけばキャリア10年を超え、35歳になっていた。まだ成し遂げていない、強くなれる──そんなリトルに、19歳のホープとの試合が舞い込んできた。  2021年2月22日(月)東京・渋谷TSUTAYA O-EASTにて開催される、ONE Championship「CLASTY Presents Road to ONE:4th Young Guns」での田上こゆる戦のオファーだ。  プロ修斗4戦無敗の新星を相手に“最も勝利を望まれない”十年選手は言う。「おっさんにも未来だらけだから、勝ちは譲れない」と。  大会は「ABEMA 格闘チャンネル」にて完全生中継され、「ONE Super App」にて世界同時ライブ配信が予定されている。 主催者に『勝ってすみませんでした』って言いたい ――今回の試合のオファーを聞いたときはどう感じましたか。 「1月の中旬から末にかけて聞いて、けっこう急だったので、大会自体があるのかどうかも分からないような感覚だったんですけど、『Road to ONE』という言葉を聞いて、これはチャンスだなと思って、すぐ受けたいなと思いました」 ――対戦相手が、修斗4連勝中の田上こゆる選手と聞いて、断った選手もいたかもしれません。名前を聞いてどう感じましたか。 「もちろん名前は聞いたことがあって、若くて勢いもある選手だなということも聞いていました。でも、逆に修斗のランカー(ストロー級世界7位)でもあるし、勝つことで、そのレベルに自分の強さがあるということも証明できるわけなので、これはもう本当にチャンスだなと思いました」 ――19歳の田上選手に対し、リトル選手は今大会最年長の35歳。そして『ガキには、未来しかない』というコピー。失礼ですが、ここまでベテランが勝ちを望まれていない試合は珍しいのではないかと思いました。 「ハハハッ、完全にこれヒールだなと思って。今回、僕はヒールに徹しようと思っています。逆に燃えますね、本当に。主催者に『勝ってすみませんでした』って言いたいですね」 ――19歳という、リトル選手の半分くらいの若さについてはどう思いますか。 「19歳……自分はその歳の頃、まだ試合をしていないですからね。田上選手、BLOWSですよね。2008年、23歳の頃にアマチュア修斗で大宮フリーファイトで初めて試合をして、自分の1試合前が呑谷尚平選手(※2016年に肺がんで他界)が出ていてチョークで勝って、その後に自分が試合して判定勝ちでした。田上選手はBLOWSでもほんとうに新世代(※2015年全日本アマ修優勝)というか、勢いもあって、ガンガン行けてという感じだと思うんですけど、自分もずっとMMAをやってきているし、MMAの試合をすることで、相手にとってたぶん経験したことがないような、攻めとか間合いとかっていうのが結構あると思うので、そこ(年齢差)は経験値で埋めていこうかなと思っています」 ――リトル選手のファイトスタイルは前のめりなところもあって、今回、第1試合と聞きましたが、10年選手のMMAで戦う部分と、盛り上げてほしいというバランスで悩むところはありませんか。 「どちらにせよ、僕が勝ったら、それだけで面白いと思うんです。もちろんお客さんが楽しむ試合というのは、僕は意識しないでも出来ると自分でも思っているので、そこはもう変に意識せずに、勝ちに行くことで面白い試合になると思います」 ――コロナ前に結婚をされて、今は仕事もしながら練習をされているわけですよね。 「はい。フィットネスジムを2つ経営していて、いろいろ人に動いてもらったり、あと、府中刑務所に運動を教えに行ったりもしています」 [nextpage] 受刑者も「普通の人」。格闘技で胆力をつけてもらいたい ――それはいったいどんなきっかけで、どんな運動を教えているのですか。 「運動を教えることが出来る人の募集があって、選考のときに『自分がやらせてもらえたら、3カ月おきに体力測定をしながら、ちゃんとデータを取って報告できるし、格闘家だから格闘技を通して、人の痛みや、楽しんでもらいながら教えることが出来ます』と話して採用していただき、2016年から週1でずっと、府中刑務所の主に高齢者の受刑者に、ボクササイズなどの運動を教えています」 ――法を犯して塀の中に入った受刑者に、身体を動かすことを教えることで、リトル選手は何を伝えたいと考えていますか。 「みんな普通の人間なんです。ちょっともろい、ちょっと弱い人間なんですけど。『語り合う会』にも参加させていただいて、みんなちょっとしたミスとか、ちょっとしたずれで、刑務所に入って、出てもまた居場所がなくて、また入ってということもあります。  ボクシングでパーリングしたときに、チョンと当てたらめっちゃずれていっちゃうような、ああいう感覚で人生も崩れて行く。それは、どんな人でも同じ危険性があって、自分ももしかしたらそっち側に転ぶことだってあるかもしれない。そんな普通の人のちょっとしたもろさが、格闘技を通して身体を強くすることで、確実にメンタルの強さにも繋げることが出来ると思っています。そして、人との繋がりです。他者と繋がりが無いとどうでもいいやと思って法を犯してしまうので、その人との繋がりを大事にしています」 ――格闘技は1人では出来ないですよね。たとえマススパーでも相手がいるし、試合は他者と向きあうことになる。 「そういったことをボクササイズの中でもいろいろ工夫してやっています。いつも人と身体を動かしていることで、ちょっとした場面で踏み留まれる──胆力をつけてもらいたいんです」 ――格闘技はその胆力がつくと。 「はい。教えることで、自分も教わっています。いつも行くと『待ってたよ』って言ってくれるし、試合が決まると『頑張って応援しているよ』と言ってくれる。待っていてくれる人のためにも、『勝ちましたよ』と報告したいです」 ――ジムでの指導や外での指導を終えて、ガッツマンでの練習は何時頃から行うのですか。 「練習を始めるのは夜の10時半か11時くらいからスタートして、12時半くらいまで練習して、その後でHIDE'S KICKさんに出稽古に行ったり」 ―─24時を越えて出稽古を受け入れるほうもすごいですね……ほかにも? 「最近は行けていないのですが、CAVEで稽古をつけてもらっています」 ―─ガッツマン繋がりということですね。そんな格闘技人生をもう10年以上、続けていて、今回の試合でリトル選手としては、もう1段階、突き抜けたいところですね。 「シンタさん(石渡伸太郎)から、いつも『いつ引退するんだ?』と言われて(苦笑)、自分でもキャリアの終盤で、最後に来たビッグチャンスだなと思っているので、これはもう本当にこういうコロナの時期に来たるべくして来た“プレゼント”を絶対にモノにして、その先に繋げたいです」 [nextpage] スパーで睾丸破裂、筋肉が落ちちゃうんじゃないか 【写真】ピュアレスリングにも挑戦したリトル(左)。表彰台1位はジャングルポケットの太田博久だった。 ――リトル選手は、大きな怪我もしていますね。たしかローブローで手術をして。 「2019年の夏に、スパーリングでたまたまファールカップをしなかったんですよ。軽いマスのつもりだったので」 ――たまたまマス、ですか(苦笑)。 「あっ、へんな意味じゃないですよ! それが、けっこうヒートアップしちゃって、サウスポーとオーソの形になったときに、ローがバチンと入って、めちゃめちゃ痛くて、40分くらいのたうち回ってて。さすがにこれはおかしいなと思ったので、そのままタクシーで病院行って、病院からまた救急車で違う病院に行ったみたいな形で」 ――……辛そうです。どういう診断だったんですか? 「睾丸の破裂でした。もう1個完全にぐちゃぐちゃの状態で、修復不可能で、摘出しました」 ――では、今は片方のみなんですね。手術のときは、もう結婚はされていて、心配だったんじゃないですか。 「子供のこととかよりも、やっぱり自分は格闘家なので、睾丸が1個潰れたら、バランスよく動けるのかなとか、男性ホルモンが減って筋肉が落ちちゃうんじゃないかという不安がすごいありました。実際、男性ホルモンの数値は低いんですよ。『薬を飲みますか』と言われたときに、男性ホルモンを入れるとドーピングになるという話もあって、そのままで練習も試合もしてるんですけど……」 ──以前は、ネヴァダ州アスレチックコミッションなどは、外傷によって睾丸が外科的に取り除かれた選手や、自然に十分な量のテストステロンを生産できない選手が、テストステロン補充療法(TRT)を行うことを許可していましたが、2014年に禁止されていますね。しかし、確実に数値が落ちてしまうのはハンデにも感じます。 「いまのところ、特に筋肉が落ちたという感じはないです。周囲の心配ということで言えば、妻も『やれやれ』という感じで、気にしてないようです」 ──それは、リトル選手が格闘技をすることに理解があるからではないでしょうか。 「たしかに超理解あると思います(苦笑)」 ――リトル選手は、実は地上波デビューも果たしていますね。しかもゴールデンタイムに。 「あっ、『炎の体育会TV』ですね」 ――2018年の『全日本マスターズレスリング選手権大会』58kg級決勝で、柔道で愛知県大会60kg級優勝というジャングルポケットの太田博久選手相手に、ピュアレスリングで勝負しました。 「あれは前年に、30歳を超えてから社会人でレスリングを始めた一般練習生の方が決勝に進出し、太田選手に敗れていたので、自分も挑戦してみようと思って。一緒に同じ目標を持って、やったことのない技術を一緒に試し合って、それがすごいためにもなったので、続けていきたいと思っています」 [nextpage] 目の粗いざるで篩に掛けられたような日々を生き抜いた ――MMAの試合では、ちょうど10勝10敗。豪快に勝つ時もあれば、派手に負けるときもあるリトル選手が、12月の前戦では佑勢乃花選手に判定勝ちでした。あの試合で掴んだことは? 「これまで3分3R制の試合が多くて、怪我で休んだりもしていたこともあり、5分3Rで少し消耗はしたんですけど、意外とMMAで試合をしたというか、あんまり僕の試合っぽくない地味な試合だったんですけど、動きの繋ぎがあって、こういう戦い方もありだなとは思いました」 ――その白星が無かったら今回の試合も決まらなかった。ガッツマンで格闘技のキャリアを10年以上続けて、仕事も軌道に乗せながら、ファイターとして戦う理由を教えてください。 「そうですね……中学生のときにPRIDEで桜庭さんの試合を見てから、“僕はこれをやらなくてはいけないんだ”と思って、そのまま家の近くの極真空手の道場を見学に行ったんですけど、ちょっと怖くて駄目で、高校で部活で身体をつくろうと思ってラグビーを3年間やって、引退したタイミングでガッツマンに入門しました。格闘技に幼い頃から触れたわけでもなく、バックボーンも無かったけど僕、小柄で小さくて、友達から“リトル”って呼ばれていて、やっぱりいつもどこかで強さというものに憧れがずっとあったのかなと思います。  そんな自分が、伝統を重んじるガッツマンの先輩方に、礼儀から何から教わり、厳しい練習にも耐えてこれた。あれを抜けてこれたから、いまどんな逆境でも全然、大丈夫なんです。あの頃、ブームでたくさんの人がいましたが、辞めてしまう人が多かった。ガッツマンに残った人たち、新しくジムを出しても格闘技を諦めなかった人たち──みんなプロになって、チャンピオンシップにたどり着いています。すごい目の粗いざるでふるいにかけられたような日々でしたが、しがみついた人間だけが残ってた」 【写真】ガッツマン道場にて。PANCRASEを主戦場とするが、「修斗」の文字のもとで練習を重ねてきた。 ――その生き残りとしては、まだ19歳に負けられないと。 「そこはちょっと、桜田直樹代表をはじめ、シンタさん、神酒(龍一)さん、村山(暁洋)さん、奥野(泰舗)さん、廣田(瑞人)さん……みんないる中で、自分はそこまでの選手にはなっていないですけど、泥を塗るわけにはいかない。これまで先輩の方々の試合を見てきました。シンタさん、石渡伸太郎さん、ボロボロでも全然気にしないで試合に向かって、いつも終わった後に何日か入院するような試合を見せる。覚悟が違うんです。僕もそういうつもりで試合をしたいなと思います」 ――では、今回の試合を見る人たちに、最後にメッセージをお願いします。 「今回は明らかに相手が勝ってほしいという大会の意図が見えるんですが、そこは自分もずっとファイターをやってきたので、今回はヒールに徹してでも、みなさんには申し訳ないんですけど、勝ちをいただいていきます」 ――『ガキには、未来しかない』なかで、35歳の小さな巨人の格闘技にも期待しています。 「おっさんにも未来だらけなので(笑)。おっさんにも未来しかない──それを見せます!」
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