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インタビュー

【RIZIN】「朝倉未来も自分も格闘技に対して真摯じゃない」──弥益ドミネーター聡志が大晦日決戦前に語ったこと(全文掲載)

2020/12/25 10:12
 2020年12月31日(木)にさいたまスーパーアリーナで開催される「Yogibo presents RIZIN.26」で、68kg契約・ヒジありルールで、朝倉未来(トライフォース赤坂)と対戦する弥益ドミネーター聡志(team SOS)が24日、公開練習とリモートによる囲み取材に応じた。  冒頭で「友人が持っていた」という朝倉未来風のサングラスをかけて「ごきげんよう」とカメラに挨拶してから公開練習に臨んだ弥益。1R1分というわずかな時間で、左右をスイッチしたパンチと、ヒザを触るニータップのテイクダウンの動きも混ぜながら軽快にステップを踏んだ。  しかし、パートナーの両足タックル狙いには、なんと、ケージの上を掴んでテイクダウンを阻止。「自分もやるぞ」と朝倉未来のロープ掴みを牽制した。  国立大学で細胞生物学を学び、現在は食品メーカーに勤めながら、プロMMAファターとしても活躍するサラリーマン格闘家・弥益は、「仕事をこなしながら強くなる、結果を出さないと今後も格闘技を続けられない」「(朝倉未来は)気持ちの問題でやることのクオリティに差が出るタイプ」「自分は下剋上しやすいタイプ」「本当に1Rから倒しに来てくれるような戦いをするのであれば、自分はありがたい。望むところ」など、歯に衣着せぬ言葉で大晦日の大一番を語った。  朝倉未来にとって、前DEEP王者は一筋縄ではいかない相手だ。弥益ドミネーター聡志の言葉は切り取るのではなく、ぜひ全文でその「文脈」を感じ取ってほしい。 朝倉選手には、自分の時は最大限油断していただきたい ──試合を1週間後に控えた現在の心境はいかがですか。 「いやーなんか、この時期って仕事もだんだん忙しくなってきて、いつもはこんな時期に試合することを考えていないので、ただただ今は忙しいのと、試合に対しての気持ちで日々、脳みそがいっぱいいっぱいになっている感じです」 ──弥益選手が未来選手に勝つためにポイントとなる点を、言える範囲で教えて下さい。 「うーん、相手にも付き合いつつ、その土俵の中で自分を出す事と、相手を自分の土俵にどれだけ引きこめるか、その配分が重要になってくるかと思います」 ──ところで、今日は「ごきげんよう」というサングラス姿から公開練習をスタートさせましたが、あのサングラスはどこから手に入れたんですか。 「えーと……すみません、自分の友人が持ってきていたので……(笑)。違いますよ、皆さん! やらされてますよ! ちゃんと記事に書いてくださいね、やらされてます!」 ──弥益選手は毒舌キャラとして定着していたかと思うのですが、今回は思ったよりも大人しいなと感じていました。しかし、さきほど公開練習では、ケージを掴む反則でテイクダウンを逃れていましたが、あんなことしていいんですか? 「でも、レフェリーに止められなかったので、いいかなと思って……」 ──レフェリー……それは実戦の時にもちゃんと注意して欲しいということですか。 「違います。自分もやるぞ、と言うことですね」 ──(苦笑)今日の公開練習でも見せたように、弥益選手はトリッキーなスタイルで相手を幻惑しているようですが、それは相手に的を絞らせないためでしょうか。 「動いて的を絞らせないのと、それだけではなく自分の攻撃をその中に隠すというか。結局、相手に正解を見させないスタイルなので、もちろん要所に(攻撃を)出していく必要があるのかなと考えています」 ──「あっ」と驚く秘策はありますか? 「あっと驚く秘策……すみません、あと一週間で考えます(笑)」 【写真】ドミニク・クルーズからも影響を受けている弥益のステップ。サウスポー構えかと思いきやオーソドックス構えに足を入れ替え右ストレート ──クリスマスイブの今日は仕事を終えてからこの練習に来たのですか。 「そうですね、今日は時間がキツキツだったので定時で上がらせいただいて来ました」 ──お仕事が年末で忙しい時期と言う事でしたが、職場ではその辺は容赦なしということですか。 「容赦なしということはなくて、やっぱり同じ部署の方は自分がRIZINに出場することもご存知ですし、もちろん最大限に気を遣っていただいているというか、『用事あるなら仕事やっておくよ』と優しい言葉を頂いてます。  自分も一度、メディカルチェックのために有給を使いましたが、練習のために仕事を休んだとかはないです。会社は30日が仕事納めで、RIZINは29日がオフィシャルスケジュールがあって、30日が前日計量なので、その2日のお休みをいただく代わりに、今週の土曜に休日出勤をします。土曜の休日出勤が仕事納めになります」 ──大晦日の大一番前でも公式日程以外は、練習で仕事を休んだりしないのは、弥益選手の仕事に対するポリシーからですか。 「自分は会社員なので、それが当然だと思っています。その中で強くならないと、結果を出さないと今後も(格闘技を)続けられないと思っているので」 ──会見の記事などを見た同僚から「RIZIN出るの?」といったような反響はありましたか。 「会社の人は『(格闘技をやっていることは知っていたけど)そんなすごい感じだったの』というような事を言われたり、覚えていない同級生から連絡がきたりとかありましたね(笑)」 ──急に親戚が増えていたりはしないですか? 「親戚は増えていないですけど、もしかすると新年以降に増えちゃうかもしれないです」 ──「増える」ということは、大晦日に勝つということですね。ところで、弥益選手のことを知らないファンもいると思いますので、もう少しプロフィールを聞かせてください。現在は食品メーカーに勤める会社員ということですが、筑波大学の大学院では何をされていたんですか。 「細胞生物学の研究をしていました。理系でずっと実験をしているような生活でした」 ──両者ともにクレバーさが格闘家としての強さのバックボーンにあると感じるのですが、ご自身ではどう思っていますか。 「モノを考えるのは昔から好きで、その良さが格闘技に活きていると思っていますし、考えない人は結局強くならないので、学歴がどうこうではなくて、考えることが出来る事は格闘技の成長に必要不可欠だと思っています。そこに学歴は関係なく、強い人で頭がいい人はいっぱいいると思います」 ──今回あらためて、朝倉未来選手の動画を見返したりしましたか。 「ひと通り過去の試合を見直して、モチベーションという言葉が正しいのかは分からないですが、試合での振る舞いが違うというか、やっている事は一緒なんですけど、身体のコンディションじゃなくて気持ちの問題で、やることのクオリティに結構差が出るタイプなんだなという印象を受けたので、自分の時は最大限油断していただきたいなと思ってます」 ──そのための今日の仕込みだったのですか? 「仕込み……怒られそうで不安なんですけど(苦笑)」 [nextpage] 最強を目指す過程の一つという認識は特に無い。単純に、こいつより弱いと思われたくない ──ところで今回も仕事をしながら減量を行うことになるのでしょうか。 「もちろん。バンタム級(61.2kg)の時も仕事をしながら減量していたので、それに比べたら今回は、なぜか68kgなので、楽させていただいてます」 ──フェザー級の65.8kg契約ではなくて、なぜか68契約だと。朝倉選手が対戦相手の弥益選手ではなくて、平本蓮選手とトラッシュトークを繰り広げている現状をどのように感じていますか。 「いやー寂しいですよ(笑)。“私だけを見て”っていう気持ちになっています」 ──先程、朝倉選手に「油断していて欲しい」と仰っていましたが、弥益選手を軽視しているのが「油断」だったり「余裕」にも見えるんですけど、それでも寂しいですか。 「どうなんですかね。朝倉選手は自分と距離を置きたいのか分からないですけど、余裕というようには見えないですね。何か“目をそむけているな”という感じはちょっとしますけど」 ──実は、朝倉選手と弥益選手はいろんな部分で似ているのではと感じています。例えばMMAのIQが高い、限られた時間の中で工夫をして練習している、またお互い敗戦からの再起戦ということもあります。ご自身でもその辺りに共通点はあると思いますか。 「いわゆる格闘技に全力で取り組んでる選手の方々とは、いい意味でも悪い意味でもちょっと一線を画しているという意味では、大まかに言えばに似ているかなという印象は持っていますね。なんだかんだ“自分も彼も格闘技が好きなんだろうな”という所はすごくシンパシーを覚えております」 ──「悪い意味でも一線を画している」とも仰いました。それは「もっと出来るはずなのにやっていない」という意味ですか。 「まあ、端的に言ってしまうと、格闘技に対して真摯じゃないと思っています。自分も同じですけど」 ──弥益選手の場合は、時間がない中でやりくりをしているのではないですか。 「2人ともそうだと思うんですよね。結局、使える時間の中で全力で格闘技をやっていると思うんです。ただ格闘技の中で本当に真摯に向き合うというのは、本当に他を犠牲にするくらいの取り組みじゃないと、自分はいけないと思っていますし、それが格闘技に対する一番の礼儀だと思っているので、そういう意味から考えると、2人とも真摯とは言えないと思ってます」 ──それぞれの生活の置かれたなかで、最大限に取り組む厳しさも真摯さだとは思いますが……。朝倉選手と弥益選手の、この試合にかけるモチベーションの差はどれくらいあると思いますか。 「正直、彼のことは分からないですが、自分のモチベーションは別に、最強を目指す過程の一つという認識も特に無いですし、単純に、目の前の試合で勝ちたいなと。こいつより弱いと思われたくない。大勢の人の前で良い大人がみっともない姿を見せたくないな、という気持ちでしょうか。  見栄をはっているんだと思いますし……何なんでしょうかね。極端な話、自分は格闘技をやっていれば試合をしなくてもいい人間なんです。でもなんだかんだ言って、試合に出てしまっているのは、結局、試合に勝つ時の幸福感が忘れられないので、それのジャンキーになってしまっているところもある。一方で負けることの恐怖、殴られることとかそういうのじゃなくて、負けることの恐怖がすごくあるのは、本能的な、見栄を張っているところがあると思います」 [nextpage] 本当に喧嘩をしに来てくれる、1Rから倒しに来てくれるのであれば、自分は望むところ ──「格闘技をやっていれば試合をしなくてもいい人間」が、それでも試合に臨むと。先日の会見で、朝倉選手は前回の反省を踏まえて「今回の試合は“攻め”。自分の入りをすごい練習した。自分からパンチを当てに入る。そのへんが相当上達した」と、少しスタイルを変えた試合をしたいと話していました。そのことは弥益選手にどう影響しますか。 「本当に喧嘩をしに来てくれる、1Rから倒しに来てくれるような戦いをするのであれば、自分はすごくありがたいですし、望むところという感じです」 ──ただ、中間距離のカウンタースタイルを大事にする朝倉未来選手が、本当に近づいてきてくれるのかのは分からない? 「そう簡単に変えられないと思いますけどね」 ──会見でも「喧嘩をさせてほしい」と仰っていました。朝倉選手は路上で喧嘩をしてきましたが、弥益選手が今回望む喧嘩はリング上です。弥益選手は、実生活で喧嘩の経験はどのくらいありますか。 「小学校とか、学校内の可愛い喧嘩はたぶんやってたと思いますけど、路上でぶん殴って少年院に入るなどはやってないですね」 ──弥益選手にとって、今回の“喧嘩”とはどういう為にするものですか。 「勝つ為ですね。負けたくないですし。勝つために、自分が求める結果を得るために喧嘩をするという感じです」 ──それは自分のペースになり得るということですか。 「そうですね。“喧嘩をする”という事は自分のペースになるということと思ってますし、それを作れるような試合の組み立てをしなくちゃいけないなと思っています」 ──それは、でも同じく距離や角度を大事にする弥益選手のいつもの土俵でしょうか。 「うーん、微妙なところですね……。でも自分の土俵なんですよね、実はそれ」 ──弥益選手が前回のDEEPでの牛久絢太郎選手とのタイトルマッチから修正したことはなんですか。 「修正というより、どちらかと言うと前回、上手く出せなかった部分、本来出すべき所が出せなかったというイメージが自分のなかで強かったので、今まで取り組んできた自分の良さを出すための練習をあらためてしてきました。さらに、その中で朝倉選手に通用する部分、“通りやすい”部分を重点的に強化してきたという感じです。変わったところというよりは、今までやってきたことをしっかり出せるような練習をして、そこに朝倉未来対策をエッセンスとして入れてきたという感じです」 ──なるほど。過去に朝倉選手と練習をしていますよね。数回の練習とはいえ一度でも肌を合わせると体感したものはあると思います。実際の印象を教えて下さい。 「めっちゃ強いです。結構、練習でも思いっきり殴ってくるな、というところが強かったです」 ──練習でも相手を力を入れて殴ることが出来るメンタルが強い、ということですね。朝倉選手は弥益選手との練習の事を「印象にない」と言っていましたが……。 「いやー何でですかね。おかしいな、覚えていて欲しいなと思いました(笑)。彼がいる目の前で別の選手に肋軟骨を折られていて、それが試合の2、3週間前に折ったから、その時に朝倉選手が『試合いつなんですか?』と聞いてくれていたと思います」 [nextpage] 何でもない選手にも負ける可能性があるけど、すごい相手にも勝てる。自分は下剋上しやすいタイプです ──記憶にあるはずだと。さて、今回はご自身が格闘技ファンのときからビデオなどでも見てきた、さいたまスーパーアリーナでの有観客での試合となります。弥益選手は観客を意識しますか? 「やっぱり無観客だったら……と考えたら嫌だなと思いますし、お客さんが居てくれた方がありがたいですね。せっかく自分も相手もほかの選手の人も、全力をかけて戦うので、その場の熱を感じてくれる人は──コロナウイルスのことを無視すれば──多ければ多いほど嬉しいし、試合しがいがありますね」 ──観客の歓声が試合に影響しますか。 「たぶん声援を送るのはダメだと思いますが、自分の応援だろうと相手の応援だろうと、観客のリアクションは大きければ大きいほど、自分は調子に乗るタイプなので、(リアクションを)待っている所はあります」 ──さいたまスーパーアリーナの大勢の観客で自分のスタイルが崩れるというようなことはないですか。 「自分って、調子に乗ったほうが強いんですよ(笑)。調子に乗れば乗るほど、自分のいい所が出るんです。なので、それが自分のスタイルに悪影響を及ぼすことはないと思っています」 ──今回の弥益選手の立場はアンダードックだと報道されていますが、番狂わせが起きる条件とはどういうものだと思いますか。 「流れだと思います。全体的な空気感、本人の空気感もそうですし、見ている人の空気感、大会当日の流れももしかしたら関わってくるかもしれないですよね。そのあたりの空気感というのが、何か意外な事を起こすために必要なんじゃないかなと思っています」 ──たとえば、朝倉選手のアンチの声が高まるのは、流れになりますか。 「まあ、自分はアンチ朝倉未来も好きではないです。単純に、前回も、斎藤(裕)選手が勝ったからといってアンチ朝倉未来が調子に乗るのは違うかなと。その主張に乗っかるのもダサいなと思っているので。アンチ朝倉未来が自分の味方だとは全然、思っていませんし、ウザいなと思っています」 ──では、自分に向かう流れとはどんなものだと思いますか? 「自分に対する観客の期待感を育てられるかどうかはひとつあると思います。“こいつ、なんかやりそうだな”という空気を自分がいかに作り出せるか、それを周りにも感じさせられるか。で、当日自分に期待してくれている人がどれだけ増えているか、というところもひとつの要素かなと思っています」 ──今回の取材でその期待感が高まるかもしれませんね。DEEPやROAD FCで活躍され、現在はジャッジを務める弥益選手のマネージャーの梅田恒介さんも、朝倉未来選手の試合を見て来たと思います。どのように話していますか。 「梅田さんの評価も、僕自身の僕への評価と似ていて、『ほんとうに何でもない選手にも負ける可能性があるタイプだけど、すごい相手にも勝てるタイプ、下剋上しやすいタイプ』だと思っていただいているので、朝倉選手が格上だという認識は同じなんですけど、『全然、いけるだろう』という言葉はいただいています」 ──この試合の先は、なにか見据えていることはありますか。 「とりあえず“先”と言うと、年始4日からしっかり出社できるかなというところです」 ──クリスマスはどのように過ごされますか? 「今日はこれ(公開練習)があったので、明日は仕事で多分バタバタしそうな感じがしますので、もしかしたら家に帰るのが遅くなるかもしれません。土曜は仕事が終わったら家族と過ごそうと思います」 ──最後にファンへメッセージをお願いします。 「今年はコロナウィルスなどいろいろあって皆さんもすごく大変だったと思います。ただ、大晦日は本当に素晴らしい選手がたくさん出場しますので、RIZINをご覧になっている瞬間だけでも嫌なこととかそういう事を忘れられるような大会になると思うので、ぜひRIZINをご視聴ください。よろしくお願いします」
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