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バンタム級のWBAスーパー王座とIBF王座を持つ井上尚弥(27=大橋)が日本時間の11月1日、米国ネバダ州ラスベガスでWBA2位、IBF4位、WBO1位にランクされるジェイソン・マロニー(29=豪州)の挑戦を受ける。
この試合に際し、ひと一倍感慨深い思いを抱いている人がいる。両選手と対戦した経験を持つ元WBA世界スーパー・フライ級チャンピオンの河野公平さん(39)だ。
2016年12月30日、有明コロシアムで当時WBO世界スーパーフライ級王座を保持していた井上と対戦し、6回1分1秒TKO負けを喫した河野氏は、2017年7月、ラムボー・ゴーラットスポーツスクール戦で5回 TKO勝ちを収め再起を果たすと、2018年5月19日、豪州メルボルンでマロニーと戦い、6回終了TKO負け。同年11月に引退を表明している。
“モンスター”井上は、これまでのキャリアで3人の日本人と対戦しているが、世界戦となると河野公平氏、ただ一人となる。井上が圧倒的有利とみられている試合について、両者と対戦経験を持つ河野氏は、「マロニーはスキのない選手ですが、井上選手はすべてが図抜けている」と話す。
階級を上げてさらに強くなった井上
――河野さんは10度の世界戦を含めプロ18年で46戦(33勝14KO12敗1分)しましたが、KO(TKO)負けは井上戦とマロニー戦だけなんですね。
河野 パンチをもらうこともありましたが、急所を外して耐えていたので(笑)。
――2016年12月の井上戦を振り返ってみてください。
河野 試合前、井上選手とスパーリングをした後輩から「パンチが掠っただけで足が痺れた」と聞いていたんですが、やるからにはもう一度世界タイトルを取ると意気込んでいました。打ちに行ったところにカウンターを合わされても仕方ないとは思っていましたが、実際、それまでもらったことのない左フックを合わされました。(映像は)何度も見直しましたが、気持ちいいぐらいの完敗です。
――戦ってみて、井上選手は何が優れていると感じましたか。
河野 すべてです。スピード、パワー、技術……すべてがすごい。パンチのパワーに関しては左ジャブが他の人の右と同じぐらい強かったし、右は他の人の3倍ぐらい強かった。いまはもっと強いでしょうね。それに、こっちが打ちに行っても、そのときには彼はそこにいないし。僕は相手が打ってきたら打ち返すという戦いが多かったんですが、井上選手は打ち返そうとしたときには(パンチが当たる位置に)いませんでした。ポジションの取り方も巧いですね。僕は世界戦を10回やりましたが、あんな選手はいませんでした。ラウンドの後半には連打してきたし、気持ちも強いですね。あとボディ打ちも巧いしフィジカルも強い。軸がしっかりしているから体がぶれないんでしょうね。とにかくすべてが図抜けています。
――その試合から4年。井上選手はさらに強くなったと思いますか。
河野 僕と戦ったときはスーパー・フライ級でしたが、それから階級を上げてパワー、スピードなどさらにすごくなったと感じます。
僕と戦ったときとは比べものにならないぐらい強くなっているんじゃないですか。
――昨年11月のノニト・ドネア(フィリピン/米国)戦では9回にパンチを浴びてピンチもありました。
河野 あれはビックリしましたね。でも、技術力は上がっていると思います。
――あえて、いまの井上選手の課題を探すとすると?
河野 少しガードが下がるところはあるけれど、課題というほどではないでしょうね。
すべてのレベルが高くてスキがないマロニー
――マロニーとは2018年5月にオーストラリアで戦いましたが、敵地での試合に抵抗はありませんでしたか。
河野 マロニーのことは事前にチェックしていたし、もう一度世界チャンピオンになるためにはこっちが乗り込んで行って強い相手と戦う必要がありましたから。
――どう戦う作戦だったのでしょうか。
河野 映像を見て、オーソドックスでスキのない選手だなと思いました。特に何をしようというのはなく、距離を潰して自分のボクシングをしようと思いました。
――実際に戦ったマロニーの印象は?
河野 終わった瞬間に思ったことは「この選手は普通に世界チャンピオンになるんだろうな」ということでした。すべて良いし、スキがない選手なので。
――戦力に関して特別なものは感じましたか。
河野 特別にスピードがあるとかずば抜けてパンチがあるとか、そういうことは感じませんでしたが、すべてのレベルが高くてスキがない選手ということですね。パンチ力もあるんですが、それは僕が受けたダメージということなので……でも、ダメージが残ったということはパンチがあるんでしょうね(笑)。マロニーはなんでもできる総合力の高い選手です。
――その試合から2年半、マロニーは成長していると感じますか。
河野 ロドリゲスとの試合(2018年10月のエマヌエル・ロドリゲス戦)を見ると、コンビネーションが良くなっていると思います。
僕と戦ったときはボディ打ちがなかったけれど、けっこう(ボディブローを)打っていましたね。全体的に成長していると思います。それに今回はモチベーションも高いでしょうね。
――マロニーの課題を挙げるとすればどんな点でしょうか。
河野 きれいなボクシングなので、少し変則的な動きが加わるといいのでは。
――もしもマロニーにアドバイスするとしたら?
河野 自分を信じて思い切りやる、ということしかないでしょうね。そうとしか言えません。
――マロニーは「身長165センチ」と伝えられますが、実際はもう少し大きいともいわれます。
河野 僕が167センチで、それよりも少し大きかったので168センチぐらいじゃないですかね。
――総合力が優れている選手同士の試合となります。
河野 マロニーもスキがない選手ですが、井上選手はさらに突き抜けていますからね。仮にマロニーを普通のチャンピオンとしたら井上選手は「スーパー」、そのぐらいの違いはあります。そんなふたりが戦ったら、やっぱりそういう結果(井上の勝利)になると思います。
――では、もしも井上選手が苦戦するとしたら、どんな展開だと思いますか。
河野 打ったあとにクリンチされるとか、そういうことをやられると戦いにくいのでは。
――最も高い確率で予想されるパターンは?
河野 マロニーはディフェンスがいいので、勝負は終盤まで行くんじゃないでしょうか。それを考えると井上選手の終盤KO勝ちですね。
――両選手と戦ったことがあるだけに河野さんにとっても興味深い試合になりそうですね。
河野 試合を見に行きたかったんですが、こういう状況じゃ仕方ないですね。テレビで見ます。
なお、このインタビューは10月24日(土)午後2時からのWOWOW特別番組『11.1聖地ラスベガスへ!「井上尚弥」ボクシング最強王者への道』にて放送予定。また、井上尚弥対ジェイソン・マロニーのWBA・IBF世界バンタム級タイトルマッチは、ゲスト解説にWBA世界ミドル級チャンピオンの村田諒太選手(帝拳)を迎えて、11月1日(日)午前10時30分からWOWOWプライムで生中継される。
【放送日程】
『11.1聖地ラスベガスへ!「井上尚弥」ボクシング最強王者への道』
【放送日】10月24日(土)午後2時~[WOWOWライブ]
ボクシングの本場ラスベガスでの防衛戦を控えるWBA・IBF世界バンタム級王者「井上尚弥」。これまでの軌跡、独自映像を通して最強王者への道のりを紹介
『いよいよ明日!「井上尚弥」ラスベガス防衛戦直前スペシャル!』
【放送日】10月31日(土)夜9時~[WOWOWライブ]
日本ボクシング界の至宝、WBA・IBF世界バンタム級王者「井上尚弥」のラスベガス防衛戦に先駆け、現地からの直前情報をたっぷりとお届けする。
『生中継!エキサイトマッチスペシャル
WBA・IBF 世界バンタム級タイトルマッチ 井上尚弥vsジェイソン・マロニー』
【放送日】11月1日(日)午前10時30分[WOWOWプライム]
・ゲスト:村田諒太
『生中継!エキサイトマッチSP「マイク・タイソンvsロイ・ジョーンズ」』
【放送日】11月29日(日)午後0時~[WOWOWプライム]