2020年10月18日(日)、羽田空港出発ロビーにて、バンタム級のWBAスーパー王座とIBF王座に君臨する井上尚弥(27=大橋)が取材に応じた。
17時発のロサンゼルス経由でラスベガス入りする井上は、14時30分に空港に到着。黒を基調としたトレーニングウェアでリラックスした表情で、井上真吾トレーナー、井上拓真、井上浩樹、家族らとともに羽田を後にした。
日本時間の11月1日(日)に米国ネバダ州ラスベガスでWBA2位、WBC5位、IBF4位、WBO1位のジェイソン・マロニー(29=豪州)を相手に防衛戦に臨む井上。今回の試合は多くのメディアから「2019年の年間最高試合」に推されたノニト・ドネア(37=フィリピン/米国)との激闘から1年ぶりの試合となる。
このコロナ禍のなか、ボクシングのみならず“格闘技の聖地”であるラスベガスで世界戦に臨む“モンスター”の言葉は、格闘技関係者にとっても示唆に満ちたものとなっている。井上尚弥とジェイソン・マロニーの試合を生中継するWOWOWから届いたインタビューを、これまでの発言とともに紹介する。
「無観客」のロマチェンコの試合を見た。ライティングも人の声もあるから問題ない
――試合まで2週間。いまの心境は?
「もう気持ちの面でも肉体的にも仕上がっている状態。割と日本ですべての調整をこなしてきたので、向こうに行ってからの2週間は身体の調子と気持ちによって練習の上げ下げはするけれど、あとは体重調整ですね」
――髪の毛(金と銀中間ぐらいの色)は……。
「それはいいじゃないですか(笑)」
――国内でのスパーリングの数は?
「数えていないので合計は分かりません。この試合に備えてということで数えると、いつもよりは少ないと思います。ただ、この1年間でトータルでやってきているので。4月のカシメロ戦に向けてスパーリングをやっていたし、そのあとも続けてやってきたので、スパーリングの数そのものは多いと思います」
――想定していたように良いコンディションが作れましたか。
「コンディションはいつもどおり。コンディション調整に失敗したことがないので、いつもどおりです」
――1年ぶりの試合です。プラス面は?
「一番は怪我の回復ですね。1年間、試合が出来ていないというストレスとか、そういう感覚はないです。自分のなかでは1年ぶりの試合という感じはしません。感覚的には半年ぶりぐらいの試合の感じですね」
――体重調整が難しくなったというのはありませんか。
「それはないですね」
――試合が決まった直後にマロニーのことをチェックしたはずですが、その後、あらためてチェックしましたか。
「最新の試合(6月のレオナルド・バエス戦=マロニーが7回終了TKO勝ち)を見ました」
――新しい発見はあありましたか。
「9月の時点では最新の試合を見ていなかったので、それを最近見て、また自信が深まりました。基本的にはロドリゲス戦(18年10月のエマヌエル・ロドリゲス戦=マロニーの12回判定負け)をイメージしていろんなことを組み立てていたけれど、(バエス戦は)それとは少し違ったマロニーでした。でも、テンポなどがロドリゲス戦よりも少し遅いかなと思ったぐらいで、特別大きな発見はないですよ」
――唯一の不安要素ともいえた「無観客試合」ですが、もうイメージはできましたか。
「トップランク社のイベントの会場は映像でチェックしたし、きょうもロマチェンコの試合は見ましたから。自分が心配していたのは後楽園ホールでの無観客状態でした。ラスベガスはそうではなかったので。ライティングもあるし人の声もあるし。だから問題ないと思います」
――この試合が決まった際、「カギになるものを探す」と言っていましたが、見つかりましたか。
「具体的には見えています。掴んでいます。言えないけれど(笑)。11月1日をお楽しみに、というところです」
――今回は初めてのラスベガスで初めての無観客といった未知の部分が多いです。それは不安? あるいは楽しみ?
「不安は無いですね。ロサンゼルスでも試合してグラスゴー(英国スコットランド)でも試合して、海外での試合に関してはまったくといっていいほど不安は無いです。ただ、ホテルから出られない点がどうかなというぐらい。全体的に見れば楽しみの方が多いですよ」
――今回、どんな内容、どんな結果が最高のアピールだと考えますか。
「そこを追い求めたらキリがないけれど、圧倒的な強さを見せるなら前半KOが理想。でも、そこにこだわらず、まずは勝ちに徹して、そのなかから自分がやれる勝ち方、倒し方というのを出していこうかなと思っています」
――「1ラウンドから倒しにいかないといけない」という風には考えていない?
「そうは考えていません」
――でもチャンスがあれば1ラウンドでも行きますか。
「もちろんチャンスがあれば行きますよ」
――長丁場も想定してトレーニングしてきましたか。
「もちろんです」
――今回の試合、井上選手のどこに注目すればいいでしょう?
「どこに注目というよりも……ここというポイントはないので、とにかく試合全部を見てほしいですね」
――では、渡米前に最後に自信と意気込みをお願いします。
「1年ぶりの試合になるのでファンの人たちも待ち遠しかったと思うので、皆さんの気持ちをドネア戦のように再び熱くさせるような試合をします。テレビを見ている人たちが熱狂するような試合を見せます」
井上尚弥vs.ジェイソン・マロニーのWBA・IBF世界バンタム級タイトルマッチは11月1日(日)午前10時30分からWOWOWプライムにて生中継。また試合前日の10月31日(土)には、「いよいよ明日!「井上尚弥」ラスベガス防衛戦直前スペシャル!」と題し、記者会見や前日計量の模様など現地からの特別番組も放送される。
【PLAYBACK】2020年10月上旬
ラスベガス決戦20日前の井上尚弥11月1日にマロニー戦を控えKO宣言
絶対に倒す! その意気込みでラスベガスに行く
もともと井上は2020年4月25日にラスベガスでWBO王者のジョンリエル・カシメロ(31=フィリピン)と3団体の王座統一戦を行う予定だったが、コロナ禍のため計画が変更された。相手は主要4団体すべてで上位にランクされるマロニーに変わり、試合は無観客で行われる。2万人の大観衆の前で戦ったドネア戦とは状況が激変する。
以前は「その点だけが心配」と話していた井上だが、「だんだんとイメージが湧いてきました。いろいろと(無観客試合の)動画もアップされていますし、そういうのを見て自分のなかでイメージはできています」と不安は払拭されている様子だ。
もちろんトレーニングも順調に進んでいる。ただ、いつもは海外からスパーリング・パートナーを招聘しているが、コロナ禍中の今回はそういうわけにはいかなかった。
「調整はいつもどおりですが、海外やほかのジムからスパーリング・パートナーを呼べなかったりしたので基本的には大橋ジムの選手とやるようにしています」と井上は説明する。相手を想定して強化した点についても尋ねたが、「それはちょっと言えませんね」と笑ってはぐらかされた。
米国での試合はスーパー・フライ級王者時代の3年前に経験(カリフォルニア州カーソン)しているが、“ボクシングの聖地”ともいわれるラスベガスは初登場となる。無観客ではあるが、試合はテレビを通じて米国や日本をはじめ世界中に放送される。
ボクサーの総合評価ともいえる「パウンド・フォー・パウンド」で各メディアから上位5位以内にランクされる井上にとっては、さらなるアピールの場ともなる。
「ラスベガスに行くのも楽しみだし、ラスベガスでの調整もすごく楽しみにしています。高いモチベーションで試合に臨めると思います。基本的には日本と同じような気持ちでやろうかなと思っています。気をつけなければいけないのは食事面でしょうか」と話す。
約1年ぶりの試合だが、前戦で負った眼窩底骨折や右目上の裂傷がその間に完治したため、肉体面でも不安のない状態で戦いに臨める。
「ドネア戦同様、熱くなるような試合をお見せできるようにやるだけです」と気負った様子はない。それでも、「1ラウンドからエンジンをかける?」との問いには「もう絶対に倒しますよ! 絶対に、はい。それだけの意気込みでラスベガスに行くので。結果は自分も楽しみにしています」と熱い答えが返ってきた。
どっちの距離で戦っても問題ありません
3階級にわたる14度の世界戦を含め19戦全勝(16KO)の戦績を収めている井上に対し、マロニーも22戦21勝(18KO)1敗と高いKO率を残している。世界ランカー相手のノンタイトル戦だったが、マロニーは6月には今回と同じ会場で無観客試合を経験しており、その点ではアドバンテージがあるともいえる。
その自信もあってかマロニーは「井上にも弱点がある。そこを突く」とメディアに話している。これに対し井上は「ドネア戦を観て(井上に)隙があると言っているみたいですが、あの試合は(被弾と裂傷の影響で2回以降)右目が見えない状態でしたからね。(視界良好な)今回はその点で前回とは大きな差が出ると思います」とキッパリ。
そして離れても接近しても戦えるマロニー攻略法に関しては「どっちの距離で戦っても問題ありません。どんな戦いにも対応できるようにはしているので大丈夫」と加えた。
日本はもちろんのこと世界中が注目する今回の試合。井上は「ここでしっかりと結果を出して次につなげたい気持ちはあるし、この先、ラスベガスでやっていくことを考えると大事な試合になる。結果も含め必ず良い勝ち方で終わらせたいと思います」と揺るぎない自信を口にした。
【PLAYBACK】※2020年9月上旬
バンタム級のWBAスーパー王座とIBF王座に君臨する「モンスター」井上尚弥(27=大橋)が、日本時間の11月1日(日)、米国ネバダ州ラスベガスでジェイソン・マロニー(29=豪州)の挑戦を受ける。
井上にとってWBA王座は4度目、IBF王座は2度目の防衛戦となる。マロニーはWBO同級1位、WBA3位、WBC5位、IBF4位にランクされている。当初、井上は4月25日にWBO王者のジョンリエル・カシメロ(31=フィリピン)と3団体の王座統一戦を行う予定だったがコロナ禍のため延期になり、互いに相手を変えて防衛戦に臨むことになった。
19戦全勝(16KO)の井上に対しマロニーも22戦21勝(18KO)1敗と極めて高いKO率を残しており、KO決着が確実視されるカードといえる。
強敵との対戦決定を受け、井上はWOWOWの独占インタビューで「相手は技術もありタフでスタミナがある。パンチもないわけではないし、面倒くさいタイプ」とマロニーを分析。そのうえで「ラスベガスで戦うからには倒したい。テーマとしては“倒しきる”ということに尽きる。そのためには自分が120パーセントに仕上げること。そうすれば問題ない」と自信と意気込みを口にしている。
ラスベガスに着いてから2週間の隔離がある
――4月に予定された試合が延期になり、対戦相手がカシメロからマロニーに変わりました。3団体の王座統一戦ではなくなりましたが、モチベーションに変化はありませんか。
「別にベルトに強い興味や執着があるわけではないし、変更も理由(コロナ禍)が理由なので仕方ないと思っています。マロニーも実力のある選手だし、まずは試合ができることに喜びを感じています」
――4団体の王座統一という夢は先送りになりますね。
「こういう状況なので、4団体統一という興味は自分のなかでは少し薄らいだ気がします。いまはいかに自分の満足いく相手と戦うかということに興味を感じます」
――2019年11月7日のノニト・ドネア(フィリピン/米国)戦以来、約1年ぶりの試合ということになります。この間、モチベーションを保つのが難しかったのでは?
「4月の試合が延期になってからずっと試合モードで来ているので、モチベーションが落ちるということはないです。いつ試合が決まってもいいように体は動かしてきたので。(体調面に関しては)常に7~8割をキープしていけば試合ができる体はできるので問題はありません。あとは精神的な部分をいかにキープできるか。たしかに1年ぶりの試合になりますが、(スーパー・フライ級王座を獲得した)オマール・ナルバエス(アルゼンチン)戦のあとの(負傷による)1年のブランクとは気持ちの面で全然違います。ドネア戦でケガをしたので4月の試合だと不安はあったけれど、延期になったことでその不安はなくなりました」
――「ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)」優勝で世界的な評価が上がったという実感はありますか。
「優勝したことに対する評価は感じるけれど、(WBSS決勝の)ドネア戦が必ずしも求めていたような内容と結果ではなかったので、そういう意味ではファンの期待を裏切ったのかなと自分では思っています。でも、ああいう状況(右目上に裂傷、出血、眼窩底骨折)で12ラウンドを戦いきって勝てたので自信にもなりました」
――今回はボクシングの聖地ともいわれるラスベガスでの試合です。
「ラスベガスでやるからには期待されているということなので、KOしなければと感じます」
――今回の試合を通して何を見せてくれるのでしょうか。
「(見てくれる方たちに)元気や活力を届けられたらと思っています。前回は判定だったけれど、相手がドネアだったから満足してもらえたところがあると思うんです。でも、今度は判定までいったらまずいと思っているので、しっかりKOしたいなと思っています」
――初めてのラスベガスで初めての無観客試合。初めてのことが多いですね。
「前回のドネア戦が2万人のお客が入って、今度は無観客。すべての条件が初めてですから、気を引き締めていきます」
――不安な点もありますか。
「肉体的なものは気にしていないですが、精神的なことに関してはどうかなと思っています。ラスベガスに着いてから2週間の隔離があるので、そこだけです」
井上に挑むジェイソン・マロニーは1991年1月10日、豪州ビクトリア州ミッチャム出身の29歳で、双子の弟アンドリューは2020年6月までWBA世界スーパー・フライ級王座に君臨していた。そのアンドリューは井上と同じ“モンスター”を名乗っており、そんな点にも奇妙な縁が感じられる。
マロニーはアマチュアで約80戦こなしたあと2014年8月にプロデビュー。6年間で21の勝利を収めてきた。細かく立ち位置を変えながらスピードのあるワンツー主体で攻める連打型の選手で、最近は4連続KO勝ちと勢いがある。
唯一の敗北は2年前、井上が優勝した階級最強決定トーナメント「ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)」の初戦(準々決勝)で当時のIBF王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)に惜敗したもの。この試合は米国のフロリダ州オーランドで行われたが、勝者と対戦することになっていた井上はリングサイドで生観戦している。
面倒くさいタイプだがKOしなければ意味がない
――ロドリゲス戦の前にマロニーとはロシアで行われたWBSSの発表会で会っているんですね。
「そのときはマロニーのことは何も知らなかったんです。『一緒に写真を撮ってくれ』というので撮り、それを彼がツイッターに載せていましたね」
――どんな印象でしたか。
「普通に優しそうな人でした。自分と撮った写真とドネアと撮った写真を載せていて、見たらドネアと身長がほぼ同じように感じました。でも試合(ロドリゲス戦)では前かがみの姿勢だったので、あまり大きくは感じませんでした」
――マロニーは「井上は過大評価されている。何も恐れるものはない。俺が化けの皮を剥がしてみせる」と強気です。
「過去に戦った選手はだいたい同じことを言っていますよね(笑)。そのコメントを言うにふさわしいものを彼が持っているかというと、そこまでではないんじゃないかと思っています」
――では、マロニーに関して気をつけるべき点は?
「正直言って“気をつけなくてはいけない”という思いはありません。カシメロには一発で倒すパンチがあるので怖さはありますが、マロニーにはそれは感じません。その分、やりにくいのではと思っています。パンチもなくはないし、技術も高く、タフで12ラウンド戦うスタミナもある。いちばん面倒くさいタイプですね。勝ちに徹すれば判定勝ちは難しくないけれど、内容を求めて倒すことを考えれば少し時間がかかるかも。ラスベガスでやるから塩試合(拙戦)はダメですからね。KOしなければ意味がないと考えるので、テーマとすれば“倒しきる”ということに尽きます」
――警戒はしていますよね。
「警戒というか……要は自分の問題なんです。自分が120パーセントに仕上げれば問題ないので、それを目指して調整します」
――+20(パーセント)は何なんでしょうか。
「100パーセントは自分が仕上げる分で、あとの20パーセントは運です。ボクシングには運も必要なので。その運を掴めるように努力するということです」
――KO決着を前提とすると前半、中盤、後半、どのあたりをイメージしていますか。
「マロニーの戦闘スタイルを考えると、後半まで行ったら逃げ切られる可能性があるので、倒すなら前半か中盤でしょうね」
――カギになりそうなパンチは?
「いま探しているところです。マロニーはディフェンスもいいので、パンチを出すときの癖やパンチの戻し方なども含めて映像を見てチェックしています。そうしたことは普段はリングに上がってから考えるのですが、今回の場合はリングに上がってからでは遅いかなと思って……。だから前もって癖などをチェックしています。今回がこれまでで一番相手のことを研究しています。倒すための突破口を自分から掴みにいかなくちゃいけないので」
――ここまで(9月上旬)、調整は順調ですね。
「はい、順調です。まったく体調を崩すことなくきています」
――試合に向けた意気込みを。
「1年ぶりのリングなので、見てくれた人たちが『(自分も)頑張ろう』と思ってくれると嬉しいです」
【放送日程】
◆『11.1聖地ラスベガスへ!「井上尚弥」ボクシング最強王者への道』
【放送日】10月24日(土)午後2時~[WOWOWライブ]ボクシングの本場ラスベガスでの防衛戦を控えるWBA・IBF世界バンタム級王者「井上尚弥」。これまでの軌跡、独自映像を通して最強王者への道のりを紹介。
◆『生中継!エキサイトマッチスペシャル WBA・IBF 世界バンタム級タイトルマッチ 井上尚弥vsジェイソン・マロニー』
【放送日】11月1日(日)午前10時30分[WOWOWプライム]
◆『生中継!エキサイトマッチスペシャル 4団体統一世界ライト級タイトルマッチ ワシル・ロマチェンコvs テオフィモ・ロペス』
【放送日】10月18日(日)午前11時~[WOWOWライブ]
◆『生中継!エキサイトマッチSP「マイク・タイソンvsロイ・ジョーンズ」』
【放送日】11月29日(日)午後0時~[WOWOWプライム]WOWOW番組オフィシャルサイト