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【MMA】リオ五輪銀メダリスト太田忍の総合格闘技での可能性は?「興味はすごくあります」

2020/10/01 21:10
 2016年リオデジャネイロ五輪のレスリング男子グレコローマンスタイル59kg級銀メダリストの太田忍(26)が、所属するALSOKを「一身上の都合により30日付で退社」。報道によると、総合格闘家に転向する可能性があるという。  レスリング界では、2019年全日本選手権フリースタイル65kg級準優勝の中村倫也(25)が4月に、総合格闘家転向を発表済み。さらなる大物と言える銀メダリスト太田の転向はあるのか。MMA(総合格闘技)での可能性を追った。  太田は同社を通じ「4年と半年の間、多大なるサポートをしてくださり、レスリングを応援していただいているALSOKには、心より感謝しております。また、CMに出演させていただき貴重な経験をさせていただきました。退社の決断は自分自身へのチャレンジとして、新しい気持ちでレスリングに臨むために決断しました。引き続き、日々レスリングに精進して参りますので、皆様、温かいご声援をよろしくお願いします」と、円満退社のコメントを発表している。  来夏に延期された東京五輪で60kg級の代表入りを目指していた太田は、日本体育大学レスリング部の後輩である文田健一郎との争いのなかで、63kg級へ転向。世界選手権では、2018年の世界王者ステパン・マリャニャン(ロシア)を相手に得意のがぶり返しを決めるなど優勝を遂げている。しかし、63kg級は五輪には設定されていない階級のため、67kg級へ転身し、東京五輪を目指すことを発表していた。  身長165センチの太田にとっては67kg級は体格的に厳しい階級。2019年12月の全日本選手権では、まさかの初戦テクニカルフォール負けで、東京五輪への道が断たれている。  太田は、以前から広く格闘技に興味を示しており、自身のYouTubeチャンネルでは、現WBA世界ライトフライ級スーパー王者の京口紘人とボクシンググローブを着用してのマススパーリングや、柔道家のドンマイ川端(龍)とは、道衣有り・道衣無しでスパーリングを敢行。MMA(総合格闘技)ファイターでは浅倉カンナ、三浦彩佳、渡部華奈らともコラボしている。  また、ジム生をONE ChampionshipやRIZINに送り込んでいる大沢ケンジ和術慧舟會HEARTS代表とは、グラップリングと、MMAのオープンフィンガーグローブを着けてのミット打ち、ボクシンググローブでのテイクダウンまでのシュートボックス等にトライ。得意のがぶり返しでの豪快な投げ、下から脇を差してのブリッジによるスイープなど非凡な才能を見せている。  スパーリング後、大沢は太田に思わず「MMAやろうよ」と勧誘。太田は、「即答で『ハイ』とは言えないですね。一応、パリ五輪を目指してるんですけど……31(歳)になっちゃうので、そっからだと遅いじゃないですか。興味はすごくあります。RIZINとかも見にいかせてもらってますし」と、興味はあるとしながらも、「しっかりレスリングに区切りをつけたら。(MAMの練習は)レスリングの強化にもなりますし。MMAいいなあ、でもね、これがMMAの選手になったらしんどんだよ。いまは楽しいけど」と、揺れる思いを語っていた。  太田は1993年12月生まれの26歳。プロデビューが26歳だった大沢は、太田のポテンシャルについて、「スタート地点から(レベルが)高い。26歳でのメダリストのMMA転向はあまりないから話題になります。際が強くて絶対に抑え込めないし、打撃と首極める技・フロントチョークがあれば、時間がかからずにトップに行ける。2年で世界と戦える」と太鼓判。  続けて「早いうちに来た方がいい。メダル(獲得)から近ければ近いほど値が高い。このダイヤの原石を磨かないわけにはいかない。ちょっとでも磨けばピカピカになるし、注目は尋常じゃない。太田さん、俺に2年ください」とあらためてMMAにスカウトしている。  その後、太田は、9月27日の『RIZIN.24』をさいたまスーパーアリーナで生観戦。「RIZIN.24 しっかり目にたのしんで来ました!」とコメントを記している。太田を招待し、かねてからオリンピアンのMMAへのスカウトにも動いていることを表明しているRIZINも、太田の動向に注目しているようだ。  この『RIZIN.24』を太田が生観戦したことは興味深い。シドニー五輪フリースタイル63kg級日本代表の宮田和幸代表率いるBRAVEジムから、グレコローマンレスリング出身で現DEEPライト級王者の武田光司が試合を行っているからだ。  埼玉栄高校時代に、全国高校選抜大会、インターハイ、全国高校生グレコローマン選手権、国体の4冠を制している武田は、1995年8月生まれの25歳。太田と東京五輪代表の座を争った文田健一郎や、樋口黎(フリースタイル・リオ五輪銀メダル)と同級生で、ともに海外遠征にも出ている。  その武田は、さいたま大会で修斗同級王者の川名雄生と対戦。川名のシャープな打撃に苦しんだ武田は、ダブルレッグは切られ、四つからは投げることが出来ず。ハイクラッチのシングルレッグでリフトし、川名に尻餅を着かせるが、立ち上がりが巧みな川名を抑え込むまでは至っていない。  スプリット判定で接戦を制した試合後、武田は、「ボンボンとパンチを打ってくるんじゃないかっていうプレッシャーがあったので、タックルに行くに行けなかったし、お互い一歩が出せなかった」とタックルに入ること自体が困難な試合だったことを振り返った。 「僕のバックボーンはレスリングですけど、テイクダウンが出来ないと勝てないというままでは無理だな、限界があるなと感じました。宮田先生にも言われたんですけど、僕はグレコローマン出身でフリースタイルがあんまり上手じゃなかったので、もっと(別の)テイクダウンの仕方とかを練習しないと、今日みたいにテイクダウン出来なかった場合に、シフトチェンジして打撃で行くのかとか、そういうところをもっともっと練習しないと、まだまだダメだなと思いました。武器封じられても戦っていける技、打撃も覚えなきゃこの先はないと痛感しました」と語っている。  MMAでは必須科目のレスリング。フリースタイルでは、北京五輪金メダルのヘンリー・セフードをはじめ、カレッジ出身のジョン・ジョーンズ、カマル・ウスマン、ジャスティン・ゲイジーらUFCファイターでオールアメリカンレスラーは多い。効率のいい両足を掴んでのダブルレッグテイクダウンを武器とし、フォークスタイル・レスリング経験者の場合は、下になった状態でも起き上がる動作が、MMAで活きてくる。  一方、上半身の攻防に限るグレコローマンでは、ランディ・クートゥアーやダン・ヘンダーソン、マット・リンドランド、ジョー・ウォーレン、チェール・ソネンらが活躍。立った状態での崩し、さらにグレコを活かしたクリンチボクシングを得意とする選手が多く、ケージレスリングとのミックスも鍵となる。  太田の場合は、山口県の柳井学園高校時代にフリースタイルも経験しており、上半身を崩してのインサイドトリップ=大内刈や足払いなどの足技も得意とするなど、器用なタイプ。何より、世界一と言われる左右どちらでも投げられる強烈な「がぶり」を「返し」のみならず、パウンドを交えたコントロールや絞めにも応用できれば脅威となる。  大沢ケンジ代表は本誌の取材に「身体能力がめちゃくちゃ高くて、バランスが抜群にいいのでテイクダウンはされないと思います。とにかくボディコントロールが凄い」と絶賛。  必ずスタンドから始まるMMAにおいて、「打撃はまだ時間はかかると思いますが、組みが際立って強いので、しっかり打撃を練習すればトップまでは早いと思います」と、そのポテンシャルの高さを評価している。  また杉山とのコラボでは、リオデジャネイロ五輪の3日前に右肩を亜脱臼し、「テーピングでガチガチにして戦っていた」ことも明かしており、逆境のなかで銀メダルを掴んだハートの強さもプロ向きだ。  日本の男子レスリングは、戦後初めて参加した1952年ヘルシンキ五輪のフリースタイル・バンタム級で石井庄八が日本勢唯一の金メダルを獲得して以来、不参加だった1980年モスクワ五輪を除き、リオデジャネイロ五輪まで16大会連続でメダルを獲得しており、太田も『絶対に負けない』精神を受け継いだ1人と言える。  心に刃を乗せるレスラー太田忍は、果たしてYouTubeに続いてMMAにも進出するか。そこがさらなる強さと成功を得られる場であれば、今後もMMAに転向するアスリートは現れるだろう。 [nextpage] シューズ着用はOKも、蹴りはNGに=RIZINルール改定  2020年9月3日、RIZINが一部ルールの改定を発表。「シューズを着用した選手による、ヒザを含む足によるあらゆる打撃行為」が反則となる。  しかし、シューズの着用自体は許可されており、レスリングシューズ等を履いて戦う最大のメリットである、踏ん張りやステップの部分においては、選手によっては有効活用が可能だ。と同時に、シューズを履くことによって、足関節などが極まりやすくなるデメリットもある。  またRIZINでは、PRIDE時代同様に、道衣、ロングスパッツ、シングレットなどの着用もOKとなっている。  出来る限り「イコールコンディション」であることがスポーツの前提だが、様々な競技出身者が総合格闘技のなかで、その持ち味を活かせるように作られたのがRIZINルールであり、それはPRIDE時代からの歴史を踏まえたものであると、笹原圭一RIZIN広報は語る。 「時代に合わせてルールを微調整したり、思い切った変更をしたりすることはありますが、ルールとはその団体の歴史や成り立ちそのものを表しているので、PRIDE時代から、各競技出身者の特性を活かして戦えるようにしてきたRIZINが、レスリングシューズの着用や、道衣などの使用をNGとすることは今のところありません」(笹原氏)  では、なぜ今回のRIZINルール改正では、シューズ着用での足(ヒザを含む)による打撃が反則となったのか。  笹原氏は「これまでに例はありませんが、シューズを着用して三日月蹴りをした場合、かなり危険なのでは、という議論は2016年頃からしていました。三日月ではなくても、シューズを履いてトーキックをする選手がいた場合、靴先の指を固めて力を入れて蹴ると、仮に肝臓に入らなくても危険なのではという意見もありました。  一方で、2019年の大晦日の神龍誠選手の試合で見られたような、シューズを履いた足での、素足の相手の足への踏みつけは、特段、危険視しておりませんでした。ですから、見栄えはともかく、神龍選手の試合がきっかけで禁止した、ということはないです。  あとは、これまでは足関節の取り合いなど、両者グラウンドの時にシューズを履いた選手も蹴りがOKでしたが、これもかなり危険であるという意見があり、また『靴を履いて顔面を蹴る』という行為自体が、生理的に受け入れ難いと感じる人が多いということも考慮されました。シューズ着用でのヒザ蹴りも禁止にしたのは、“ヒザ蹴りをしようとしたら、キックになった”というようなことが起こり得るので、『シューズを着用する場合は、足による攻撃(ヒザ含む)は反則』とした、ということです。  また、RIZIN全283試合中、選手がシューズを履いた試合は20試合のみというデータからも勘案し、今回の改正に至っています」と説明している。  今後、レスリングからMMAに転向するファイターは現れるか。前述の太田忍は、「フリースタイルと違ってグレコローマンは上半身だけの攻防なので、より足での踏ん張りが大事。マットから下半身への力の伝達が重要になってくるのでグリップに優れたシューズが重宝する」と語っているが、すでにYouTubeでの格闘家とのコラボでは裸足で戦っており、MMAへの柔軟性を見せている。
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