2020年6月6日(日本時間7日)、米国ネバダ州ラスベガスのUFC APEXにて『UFC250』が無観客試合として開催される。
メインイベントは、UFC初の女子2階級同時制覇王者であるブラジルのアマンダ・ヌネスが、カナダのフェリシア・スペンサーを迎え撃つ、女子世界フェザー級王座の初防衛戦。
この一戦の見どころを、WOWOW『UFC -究極格闘技-』解説者としても知られる“世界のTK”高阪剛に語ってもらった。
――女子バンタム級とフェザー級の2冠王者で、これまでバンタム級王座を5度防衛したアマンダ・ヌネスが、今回フェザー級王座の初防衛戦に臨みます。無敵の快進撃を続けるヌネスを、高阪さんはどう見ていますか?
「ちょっと手がつけられないほど強くなっているのは、多くの人が感じていると思いますが、その圧倒的強さの要因がどこにあるかが、大事なところです。いろんな要因はあるとは思いますが、まず挙げられるのがパンチの距離感。相手に当たるだけじゃなく、仕留めることのできる距離。自分にとってのヒットポイントがけっこう遠いところにあることを、ヌネスはどこかでつかんだと思うんです」
――相手のパンチは当たらないが、自分は倒せるパンチが出せる距離をみつけた、と。
「だからヌネスの試合を観て、“相手は手も足も出ないじゃないか”って感じる人もいると思うんです。距離設定が遠いので、相手からすると自分の打撃が出せない、出したとしてもいい位置で当てているわけではないので、倒すまでには至らないっていうことが起こっているんです」
――ヌネスの相手は、本当はもっと距離を詰めたいところだけど、その前に遠い間合いから強い打撃を当てられて、一気に畳み掛けられてきたわけですね。
「そうですね。通常、リードジャブで距離を測っておいて、利き手の大砲をズドンと叩き込むのがセオリーです。でもヌネスの場合は、リードジャブを出さなくてもすぐ距離設定ができる。相手からすると、まだパンチが飛んでこないタイミングで、強い右ストレートをもらってしまったりしているんです」
――遠い間合いから、一気にKOできるような右ストレートを放ってくるというのは、かつてのエメリヤーエンコ・ヒョードルもそうでした。
「そういった面では、ヒョードルと同じ強みを持っているかもしれない。普通、ラッシュを仕掛けて倒しにいく選手というのは、インファイトで相手の懐に入っていって、一発もらっても二発返すような殴り合いの末、KOするパターンが多いんですよ」
――クリス・サイボーグなんかは、まさにそのタイプです。
「でも、ヌネスはそうじゃないところが強みであり、相手にとってはより攻略するのが難しいんですよ。そしてヌネスも最初からそういう距離で倒せるようになったわけではなく、過去、何度か敗れたり、うまく試合を運べなかった経験を経て、見つけ出したんだと思うんです」
――ヌネスは今でこそ無敵の状態ですが、キャリア前半ではけっこう負けていました。
「まだ遠い間合いでの戦い方を見つけていなかった頃は、組み技の攻防に付き合いすぎたがために体力が削られてしまい、肝心の打撃の威力が落ちてしまった……そんなことが起こっていましたね」
――UFC3戦目のキャット・ジンガーノ戦(2014年9月)で、グラウンドでのパウンドでTKO負けしたときは、そんな感じでした。
「そういう経験も踏まえて、ヌネスも決してグラウンドが苦手なわけではないんですが、自分の最大の強みである打撃を活かすためには、あまり寝技をやりすぎるのはよくないんだな、と気づいていったんでしょう」
――UFC参戦前、インヴィクタFCやストライクフォースで敗れたのも、シーザー・グレイシー柔術アカデミー所属のグラップラー(アレクシス・デイビス、サラ・ダレリオ)でした。
「当時はスタンドでの距離がもっと近かったので、相手からするとタックルが取りやすい距離でもあった。でも、当時のヌネスは、その近い距離が自分にとってもいい距離だと思い込んでいたと思うんです」
——強打も入れられるし、自分からテイクダウンにもいけるし、と。
「でも、何度か敗れたあと、“自分のストロングポイントはどこなのか”をしっかりと見極める作業を怠らなかったことが、今のヌネスの状態を作ったんじゃないかと思います」
――そして今回の対戦相手のスペンサーは、身体の大きいグラップラーという、かつてヌネスが苦手としたタイプの選手です。
「だから、これは見ものですよね。スペンサーは寝技に自信を持っているだろうし、実際に強いですから。また組むことに躊躇がないんですよね。組んで倒すというのは体力を使うので、一度組んでうまくいかなかったりすると、“今度切られたら、体力的に削られてしまうんじゃないか”という考えが頭をよぎるもの。でも、スペンサーは躊躇なく再度ケージに押し込んでテイクダウンを狙っていったりしますから。それを2回3回続けるというのは、余程そこに自信があるんでしょう」
――となると試合展開としては、スペンサーが何度も組みつきにいき、ヌネスは組みつかせないようにスタンドの遠い間合いで勝負しようとすることが容易に考えられます。
「やりたいことが逆なんですよ。だから主導権の取り合いになるだろうし、そこで本人たちがどういったことを起こすかが注目ですね」
——それと、スペンサーには打たれ強さもあります。
「そうですね。多少打たれても気にせず前に出てくるし、逆に打ち返しておいて、組みにいったりする。サイボーグとの試合でもそうでしたが、気持ちの強さとそもそもの打たれ強さを持っている。また、身体はけっしてバキバキなわけではないですが、あれが組んだときに“密着力”が増すんですよ」
――巨大なお餅が乗ってくるような、いわゆるジョシュ・バーネットタイプ。
「だから相手からすると、組みつかれているだけで息が上がってきたりするんです。そしてヌネスは、寝技でそういう状態に持ち込まれるのが嫌で、今のスタイルを作り上げた。だからスペンサーが組みついてきたとき、ヌネスがどう対処するのかが見ものだし、それも攻略して上回るようなら完全無欠の選手にまた近づく。その辺のモノサシにもなる試合だと思います」
――無敵のヌネスを倒すとしたら、スペンサーのようなタイプであり、ヌネスがそれさえも返り討ちにしたなら、より“完全体”に近づくと。
「お互い相手がやりたいことはわかっているので、対策は立てやすいと思うんです。だから、あとは5ラウンドあるので、どこで意外な攻撃を差し込んでくることができるか。スペンサーは、サイボーグとの試合で、タックルのフェイントで縦のヒジ打ちを入れて、サイボーグの顔面をカットしたり、意外なこともやってくる。そういったところにも注目したいですね」(取材/文・堀江ガンツ)
【放送日程】『生中継! UFC‐究極格闘技‐ UFC250 in ラスベガス 無敵の最強女王ヌネス、フェザー級タイトル防衛戦』
6月 7日(日)午前11時[WOWOWライブ]生中継6月12日(金)午前11時30分[WOWOWライブ]リピート(※いずれもWOWOWメンバーズオンデマンドにて同時配信)
【メインカード】
▼UFC女子世界フェザー級選手権試合 5分5Rアマンダ・ヌネス(ブラジル)フェリシア・スペンサー(カナダ)
▼バンタム級 5分3Rハファエル・アスンソン(ブラジル)コディ・ガーブラント(米国)
▼バンタム級 5分3Rアルジャメイン・スターリング(米国)コーリー・サンドヘイゲン(米国)
▼ウェルター級 5分3Rニール・マグニー(米国)アンソニー・ロッコ・マーティン(米国)
▼バンタム級 5分3Rエディ・ワインランド(米国)ショーン・オマリー(米国)
【出演】解説:高阪剛、堀江ガンツ実況:高柳謙一
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