MMA
インタビュー

【RIZIN】山本美憂「大観衆のなかでも彼の声は、全部一個一個聞こえる」

2020/05/25 12:05
 元レスリング世界女王でRIZINを主戦場とする山本美憂(KRAZY BEE/SPIKE22)が、グアムPXCの元バンタム級王者で現在、RIZINに参戦中のカイル・アグォン(米国)と婚約。馴れ初めやグアムでの生活、今後について、本誌に語ってくれた。 ――ご婚約、おめでとうございます。 「ありがとうございます。インスタは、まだ結婚前、プロポーズを受けたという報告でした(笑)」 ――日本を主戦場とする強豪選手のお2人の婚約ということで、日本でも話題になっています。インスタでは、砂浜でのお写真でしたが、カイル・アグォン選手からは、どのような状況でプロポーズを受けたのでしょうか。 「カイルは、何日か前から(プロポーズを)計画をしていたらしいんです。コロナのことがあって、結婚の手続きもちょっと遅れてしまっていて。でも、その前にプロポーズしなきゃ、と本人は思っていたらしくて。でも、私は、結婚の話は出ていたけど、プロポーズとかは、カイルを見ていたら絶対しないだろうなと思ってたんです。いきなり結婚なんだろうなって」 ――ということは予想外だったと。 「はい。たまたまプロポーズ前日のレスリング練習のときに、カイルの調子がめちゃくちゃ悪かったんですよ。カイルはレスリングが大好きな動きの一つだから、ショックを受けていたような感じで、『今日最悪だった』とずっと言ってて。けっこう休養日も無かったからか、急に、『明日は練習オフにして、ビーチへ行って、メディテーションをしよう』と誘われました。グアムの人はそういったことをよく行うし、『確かにレスリングがひどかったしね』という話をして『じゃあいいよ』ってビーチへ付き合うことにしたんです。  でも、珍しいなと思って。カイルは『ビーチへ行くと日焼けするから嫌だ』とか言ったので(笑)。それで、カイルが会社から帰ってきて、『じゃあ行こうと』と言って、いつもタモンのビーチなんですけど、そこをずっとずっと歩いて、人がいないプライベートビーチっぽくなっている場所まで歩いていって、正直、“遠いなあ、人がいないところでゆっくりしたいのかな”と思って。着いて、海の中へ入って、じーっとメディテーションしてたんですけど、だんだんカイルが、『もういいよ』って、10分くらいで海から上がってしまったんです。こっちは『え? もういいの?』と思って(笑)。  そしたら今度は、『砂浜で打ち込みをしよう』と言い出して。“メディテーションなのになんでタックルの打ち込みしなきゃいけないの?”と思っていたら、『昨日ダメだったところをおさらいしようよ』と言って。レスリングでは、いつも私がコーチなので、『分かったよ』と答えました。その代わり“中途半端にはやらないぞ”と思ったんです。いつも結局スパーリングみたいになってるから(苦笑)、私はけっこう気合満々だったんですよ。  それで、まずはビーチでドリル練習しているところから撮ろうとなって、携帯をセットして撮って、そしたらカイルが1発目に入ってきたタックルが、めっちゃ遠いところから入ってきて、“なんだ、こりゃ”と思って、即行切ってバックを奪ったんです。それでパッと起き上がって、“次は私がタックルに入ろう”と思って、立ち上がって見たら、彼がヒザを砂浜に着いて手を上げていて……」 ――なんと、ドラマチックな……。 「でも、私、最初見えなかったんです。タックルに入る気満々だったから。『あれ? どうしたの?』と止まって、よく見たら手の上に指輪があって……びっくりしました。あの指輪が見えなかったら、たぶんタックルに入っちゃってたんで、指輪が大変なことになっていたなあって(苦笑)」 ――指輪がアグォン選手もろとも砂浜に吹っ飛んでなくてよかったです(笑)。 「そうなんです。それが怖くて、カイルは本当は2、3回くらい打ち込みしようと思ってたらしいんですけど、1回で終わらせた方が安全だと判断したそうです(笑)」 ――指輪をご覧になってどのようなお気持ちでしたか。 「まさかプロポーズをちゃんとすると思ってなかったから、すごいびっくりしましたね。嬉しかったです」 ――2018年7月に石岡沙織戦がありましたが、そのときにアグォン選手の姿がセコンドにありました。出会いはその頃でしたか。 「弟(KID)がグアムで治療をすることになって、その頃なので、石岡戦の3週間くらい前ですかね。私も現地で練習することになって、カイルが私のヘッドコーチになりました。ずっと毎日、毎日彼が仕切って、試合に向けて練習をしてきた、という感じですね」 ――最初の印象は? 「『SPIKE22』のジムで見たときは、私この人絶対見たことあると思ったんです。この忘れられない顔、どこでだろうと思って……よく考えたら、うちのKRAZY BEEのジムに、PXCとかPANCRASEのポスターが貼ってあって、その中にいたんですよね、きっと。コーチとしては、本当にやっぱりレスリングをやっているから『こっちのほうが美憂には合うと思うよ』と、私のスタイルを知った上で、教えてくれる。  それに私、寝技・関節技は嫌いだったんです。でも、カイルから教わることによって、自分が極めることはまだ出来なくても、相手に極められことが無くなった。特にカイルの上手いところは、寝技でもいろいろポジションを変えながら、パウンドを常にコツコツと打って行く。それを私が教えてもらったときに、もう本当にグラウンドが上達して好きになりました」 ――なるほど。2017年10月のアイリーン・リベラ戦の後ですから、アグォン選手の指導を受けてから、石岡沙織戦、アンディ・ウィン戦、長野美香戦、浅倉カンナ戦、と4連勝しているんですね。2019年10月には、ハム・ソヒ選手に敗れましたが、その後、ハム選手は浜崎朱加選手を破り王者に就いています。 「ハム・ソヒ戦のときは認めたくはないんですけど……カイルがセコンドについていなかったんです。台風で日本に来れなくて……。だから、たぶんそれで私が気持ちが定まらなかったのかもしれません。1R目を戦って、“私、これ勝てる”と思ったけど、2R目でどんどん気弱になっていました。カイルがいないから負けるのは絶対嫌だと思っていたのに見事に負けて……カイルにちょっと八つ当たりしました(笑)。“ほらね”と」 ――苦しいときにコーナーからのアドバイスや後押しは重要なのですね。 「カイルは全然声は大きくないんですよ、おとなしいんです。だけど、試合のとき、必ず、全部一個一個聞こえる。だから、抑え込み方とか、ちょっとポジションを変えるのも、あんな大観衆のリングの上でもカイルの声が聞こえて、その指示に従って動くような感じなんです」 ――信頼するコーナーの声はすっと耳に入ってくると。ハム・ソヒ戦後の大晦日のアム・ザ・ロケット戦では、首相撲が強い相手に対して、ボディロックからテイクダウンして、その後、脇差しパスガードからクルスフィックスでパウンドをまとめました。あそこの動きも……。 「そうです。みんなカイルの声の通りに動けました」 ――そういった進化を果たしたアグォン選手との出会いは、以前、ピュアブレッド大宮にいたメルカ・マニブッセン(現SPIKE22代表)とKID選手との親交から生まれたのですね。 「そうですね。メルカとノリ(KID)は昔からずっと兄弟みたいな感じで、病気が発覚して、グアムに着いたその瞬間から、メルカはもうずっとノリの傍にいて。息を引き取るときもずっと一緒にいて……。SPIKEのボスで、私がSPIKEで練習するようになってカイルをつけてくれた。私のボスだけど、みんな本当、家族のようで、とても助けてもらっています。ノリがここに連れてきてくれたんだな、と思います」 (※当時について美憂は「弟の病気が発覚して、できるだけ彼のそばに居たいという想いがありました。同時に、弟のためにドンドン試合をしようと思っていました。自分が試合をすることで、本人が病気のことを少しでも忘れてくれるかなと思っていたんです。彼が亡くなったその日も、試合が近かったのでトレーニングをしていました。休むと、彼が怒ると思ったので。自分で決めて飛び込んだこの世界だけど、弟を巻き込んで……やっぱり期待に応えたかった。彼がいなかったら今の私はいないし、弟だけどいろんなことを教えてくれました」と振り返っている) ――……今、電話の後ろから声が聞こえていますけど、子供たち、アーノンくんやミーアさん、アーセン選手もグアムにいるんですよね。 「そうですね。ミーアもアーノンもいて。アーセンと奥さんの子供の空(そら)、KIDの家族もいます」 ――美憂選手の好きな「どこへ行っても自宅のように感じる。私達はカタツムリのように家を移動します」というオードリー・ヘプバーンの言葉通りのホームですね。賑やかそうです。 「そうなんです。大にぎわいです(笑)」 ――グアムは新型コロナウイルスの感染者が少ない(※5月24日の時点で166名)と聞いているんですけど、ジムの状況はいかがですか。 「感染者数は少ないですけど、まだジムはオープンしていないので、個人練習が続いています。コーチのところにレスリングマットを敷いたり、SPIKEのジムからサンドバッグを持ってきたり……家の前で、アーセンと私とカイル、3人で練習をしています」 ――なるほど、今は耐え時ですね。美憂選手は2018年からハム・ソヒ選手以外には負けなしです。チャンピオンシップに近づいていると考えると、ハム・ソヒ選手に同じく敗れた浜崎選手との挑戦者決定戦なども場合によってはあり得るかなと考えます。あるいは、RENA選手へのリヴェンジマッチなども。次の試合について、美憂選手はどのような道筋を描いていますか。 「対戦相手を決めるのはRIZINの方なので、それはそこに任せたいと思います。今のところ、私は提案された対戦相手に『ノー』と言ったことがないので。だから、RIZINが出してきた選手は受けます」 ――RIZINのチャンピオンベルトを巻くために、一刻も早く王座戦をという焦りはないのですね。 「一つひとつ勝っていれば、絶対チャンピオンに繋がると考えています。私の場合は、レスリングから数えると長いけど、MMAはまだ3年目で“新人”だと思っています。はっきり言って、まだまだ習うことがあるし、伸びしろもまだまだあると思うので、人の倍、練習をやらないと。そうして下からどんどん追いかけて、上にのし上がりたいという気持ちです」 ――格闘技への興味や練習への意欲が枯渇しないですね。 「練習はもう、大好きですね。なんかもう楽しくてしょうがない(笑)」 ――この期間の練習の成果が発揮される日を楽しみにしています。いまは国外ですと出入国制限もあって大変ですね。 「そうなんですよね。でも、本当に自分が出動できるときになったら、ちゃんと皆さんの前でいい試合が出来るように、毎日トレーニングを欠かさず頑張ります」 ――では、最後にファンへメッセージを。 「いま、自分がここに立っているのは様々な皆さんのおかげだと感じています。いろいろなことがあって、いろいろなことに理由があって、ここにいることが出来ているから、それに毎日感謝して、少しでも強くなって、いい試合ができるように頑張ります。楽しみにしていてください!」 ――試合を楽しみに待っています。 「ありがとうございます。あと、2人とも勝ってもフィニッシュ出来ていなくて、フルラウンド戦ってるから、それがコーチのせいだと思われるのは悔しくて。だから、ちゃんと試合をフィニッシュして勝てるように頑張ります!」 ――力強い言葉をありがとうございました。「母子同時勝利」に続いて「夫婦同時勝利」が見られる日も楽しみにしています。
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