1986年10月に創刊され、30年以上の歴史を誇る格闘技雑誌『ゴング格闘技』が、秘蔵写真と共に過去5月にあった歴史的な試合や様々な出来事を振り返る。24回目は1997年5月30日、全日本キックボクシング連盟で行われた魔裟斗(藤ジム)vs小比類巻貴之(アクティブJ)の初対決。
今から振り返れば“運命”としか表現できない対決であった。1997年5月30日、全日本キックボクシング連盟の後楽園ホール大会は、大会直前にメインカード出場選手が相次いで欠場。3回戦(当時のメインカードは全て5回戦)の試合がいきなりセミファイナルに昇格した。その試合こそ、魔裟斗(藤ジム)vs小比類巻貴之(アクティブJ)だった。共にデビュー2戦目で戦績は1勝1KO。
マスコミや関係者の間で、魔裟斗はすでに評判の選手だった。プロテストでは大きなグローブを着けてのスパーで対戦相手をKOしたエピソードを持ち、デビュー戦でも初回KO勝ち。期待を裏切らない鮮烈デビューを飾っていた。一方の小比類巻も新空手の全日本大会でベスト4に入っており、デビュー戦は新人離れしたテクニックでKO勝ちしていた。
2人は自分のテーマ曲と共に観客席側から姿を現し、ゆっくりと階段を降りてそれぞれリングへ上がった。わずか2戦目の選手同士の試合で、入場テーマ曲が流れるなどということはかつてなかったことだった。全く関係のないところで起きたアクシデントも、本人たちにとっては嬉しいハプニングに姿を変えていた。
試合は、魔裟斗が荒っぽいパンチとローのコンビネーションで1R序盤から飛ばしていった。対する小比類巻はタイミングよくヒザ蹴りを合わせる。魔裟斗の左フックが当たるか、小比類巻の首相撲が魔裟斗のスタミナを奪い取るかのスリリングな展開に、3回戦とは思えないほど会場は沸いた。
しかし試合終了直前、残りあと数秒で魔裟斗は小比類巻のヒザ蹴りで立て続けに3度のダウン。3R2分52秒、小比類巻のKO勝ちとなった。プロわずか2戦目同士の戦いが、観客を十二分に満足させる試合となったのである。
「自分を信じれば勝てるってことが分かった」と自信を深めた小比類巻に対し、敗れた魔裟斗は悔しさのあまり試合翌日から練習を始めたという。
当時の『ゴング格闘技』には「新時代到来の前兆」とのタイトルが付けられてこの試合レポートが載り、「近い将来、名ライバルになりそうな2人だが、まず小比類巻が一歩リードした。魔裟斗がこれからどう追っていくかにも注目していきたい」との文で締めくくられている。