アンディ・フグの必殺技「フグ・トルネード」がさく裂、ベルナルドの巨体が崩れ落ちた
1986年10月に創刊され、30年以上の歴史を誇る格闘技雑誌『ゴング格闘技』が、秘蔵写真と共に過去5月にあった歴史的な試合や様々な出来事を振り返る。23回目は1996年5月6日、神奈川・横浜アリーナで開催された『K-1 GRAND PRIX決勝戦』から、アンディ・フグ(スイス正道会館)vsマイク・ベルナルド(南アフリカ)のヘビー級トーナメント決勝戦。
4度目の開催となるヘビー級トーナメントのK-1グランプリは、初の16人制で行われた。3月の開幕戦を勝ち上がった8名によって決勝トーナメントが争われた。優勝候補最右翼だったピーター・アーツが準々決勝で、その対抗馬だったアーネスト・ホーストが準決勝で姿を消した。
決勝へ勝ち残ったのは、3月の開幕戦でバート・ベイル、今回の準々決勝でバンダー・マーブ、準決勝でホーストを破ったアンディ・フグ。そして3月の開幕戦でジェフ・ルーファス、今回の準々決勝でアーツ、準決勝で武蔵を破ったマイク・ベルナルドの2人で争われることに。両者は1995年に2度対戦しており、両方ともベルナルドがKO勝ちしている。
K-1GPでのアンディは過去2度1回戦負け、ベルナルドは前年の1995年に初出場し、準決勝で敗れていた。両者とも初の決勝進出。
いつものように空手衣を着てリングに上がるアンディ。ベルナルドは両手を大きく広げて入場するが、声援はアンディに集中している。アンディが復讐を遂げて初制覇を達成するのか、それともアーツを破った勢いをかってベルナルドが初制覇するのか。注目のゴングは鳴った。
じりじりと前へ出るベルナルドに対し、アンディは左へと回っていく。ベルナルドが右ローを放つと、アンディはいったん組み付いて離れ際に左右フック。
「アンディ、リベンジだ!」ファンの声に応えるがごとく、アンディは左ストレートからの右ロー、右ジャブからの右ローとリズムに乗っていく。準々決勝、準決勝ともにローを蹴られてダメージのある脚をかばい、ベルナルドは組み付いてのヒザ蹴りに活路を求めるが、アンディのローで上体は徐々に傾いていく。
2R、左ジャブで距離を取ろうとするベルナルドに、アンディは左ローでバランスを崩しておいて左右フック。さらに返しの右ローを叩き込むと、ベルナルドの巨体が崩れ落ちた。
ガッツポーズのアンディ。場内は総立ちでカウントを開始する。「シックス、セブン、エイト…」カウントの合唱が「ナイン」まで来たところで、ベルナルドは立ち上がった。
そんなベルナルドの精神力さえも断ち切る、アンディの下段後ろ廻し蹴り、自ら“フグ・トルネード”と命名した一撃がベルナルドの左足を襲った。再び倒れるベルナルドに、場内からは再度カウントの大合唱。既にトーナメントでボロボロになっていたベルナルドは大の字となり、アンディは拳を突き上げる。勝者と敗者のコントラストは、残酷なまでに明らかだった。
場内は総立ち。全員が祝福の「アンディ・コール」を送る。アンディ・フグがついにK-1の頂点に立った。
試合後の記者会見で、アンディに面白い質問が飛んだ。「好きな日本の言葉はありますか?」というものだった。
アンディはふっと笑いを浮かべ、こう答えた。「押忍、という言葉が好きです。押忍は自分がミステイクした時に使ったり、自分を励ますために使ったりといろいろな意味がある言葉だから好きです」
押して忍ぶ。苦難には耐えるが、決して退かず前進することが「押忍」の意味だと言われる。K-1GPを制覇するまでのアンディの道のり。それはまさに「押忍」の道のりだった。