2度のダウンを奪われ、その後も押されていた石井(右)が最終R残り43秒での大逆転劇
1986年10月に創刊され、30年以上の歴史を誇る格闘技雑誌『ゴング格闘技』が、秘蔵写真と共に過去4月にあった歴史的な試合や様々な出来事を振り返る。58回目は2007年4月22日に東京・後楽園ホールで開催された新日本キックボクシング協会『TITANS NEOS』より、ヒジ打ちありのキックボクシングならではの大逆転劇。
新日本キックボクシング協会の不動のライト級王者・石井宏樹(藤本ジム)が、J-NETWORKライト級1位でMA日本キックボクシング連盟ライトニングトーナメント2007優勝の実績を持つ小宮由紀博(フォルティス渋谷)を迎え撃った。
他団体と交わらない“鎖国”制度を敷いていた新日本キックだが、この『TITANS』はニューブランドとして他団体の選手を受け入れていた。石井は2006年の『TITANS』でJ-NETWORKのエースであり、WFCA世界ライト級王座を保持していた西山誠人をTKOに破っている。いわば小宮はJ-NETWORKからの第二の刺客だった。
1R、石井が右ローを蹴ると小宮はその蹴り足をキャッチしての右ストレート。この一発が石井の顔面を捉え、石井がダウンを喫する。出鼻を挫かれた形となった石井は右ローとジャブで体勢を立て直そうとしたが、小宮の右ボディストレート、左アッパーで後退。一気に距離を詰めた小宮がまたも右ストレートをクリーンヒットさせ、2度目のダウンを奪った。
誰も予想だにしなかった展開に場内は騒然。あと1度のダウンで石井はKO負けだ。小宮は右ストレートを連打して一気に攻め込んだが、石井はジャブとヒジ打ち、そして必死のディフェンスで最大のピンチを逃れた。
2Rも石井はジャブとロー、そしてローとパンチのコンビネーションでリズムを取り戻そうとするが、そのジャブに小宮山は右ストレートのカウンター。足元がフラつく石井に小宮は飛びヒザ蹴りを仕掛け、石井はクリンチ。
3R、小宮のスピードがあるパンチに石井はクリンチで凌ぐという苦しい展開に。小宮は石井のローに右ストレートを狙い撃ち。石井も次第に手数を増やしていき、前に出る場面が増えてきた。
4R、小宮のジャブ、右アッパーがヒット。石井の右ローには右ストレートを合わせる。あわやの場面もあったが、石井は右ロー、左フック、右ハイで反撃。小宮の攻撃を手数では上回った。
そして5R、判定勝ちは狙わず倒しに行く小宮が右ストレートで前へ出ると、石井も左フックからの右ストレートで応戦。小宮のパンチが目立った展開になる中、石井は「ポイントではもう逆転できない」と判断。距離を詰めてのヒジ打ちで逆転を狙う。
小宮はヒジをブロックしての右ストレートと右アッパー、これが石井の顔面を捉え、もはや万事休す。ついに石井の牙城が他団体選手によって崩されるのかと、場内は大騒ぎに。
しかし、石井のフルスイングした右ヒジ打ちがついにヒット。小宮の額を切り裂き、小宮の顔面が血で真っ赤に染まりドクターチェックに。傷口を見たドクターは試合続行不可能をレフェリーに告げ、試合はストップ。5R2分17秒、残り43秒での石井の大逆転TKO勝利となった。勝利を目前にしながら敗れた小宮は悔しさからその場にうずくまり、九死に一生を得た石井も安堵のあまりその場に座り込んだ。
ヒジ打ちによるTKO勝利という、まさにキックボクシングならではの大逆転劇に後楽園ホールの観客は酔いしれた。