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元UFC&Strikeforce世界女子バンタム級王者で、現在ONE Championshipの副社長を務めているミーシャ・テイトが、コロナ禍のなか、「外出を控える暮らしの中での育児」について語った。
2014年9月のUFC日本大会で中井りんを下すなど、女子格闘技のパイオニアのひとりとして知られるミーシャは、現在ONEで女子MMAファイター出身役員として、コラム「ミーシャ・テイト通信」を連載。「ネットいじめと対処法」「敗北を受け止めて強くなる」など、毎回、さまざまなテーマでファンに語りかけている。
2018年6月に、MMAファイターのジョナサン・ヌネス(Evolve MMA)との間に第一子となる長女アマイアちゃんを授かったミーシャは、今回、「新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックが終息するまでは外出自粛の日々が続きますが、決して悪いことばかりではありません。子どもと有意義な時間を過ごす機会としてとらえましょう」と呼びかけている。
「質の良い時間を子どもと持つための努力がいかに大切かを、私たちは簡単に忘れてしまう。けれど、親は子どもの人生に大きな影響を与える存在です。彼らが幼い頃には特に。はっきり認めましょう。私たちは常に忙しく動き回っています。だけど、家族ほど大切なものはないとみんな分かっているはず。実践するのは時には難しいことも分かっていますが、今の状況は、初めて時間が私たちの味方になってくれています。このまたとない機会をできる限り活用しない手はありません!」と、ミーシャは自宅待機の状態を「またとない機会」と語る。
ミーシャからの提案は以下の通りだ。
「まずやるべきは、子どもが(テレビや携帯電話などの)画面を見ている時間をなるべく減らすこと」
ミーシャは、米サイトに掲載された国立衛生研究所によるリポートをもとに、「これまで私が読んだ知識によれば、画面を見ている時間が、幼い子どもの脳の発達に与える影響は軽視できないものです。子どもが長時間、画面を見て過ごすのを許しておけば、将来的に非常にネガティブな影響を及ぼす可能性があります。あとから後悔するよりは、今から気をつけておく方がいい。バランスを保つのがポイントです」と訴える。
ミーシャが引用したリポートでは、米国・国立衛生研究所が10年間で1万1千人以上の子供を追跡調査した結果、「1日に2時間以上、画面を見ている子どもたちは、思考力と言語テストのスコアが低い」ことが分かったのだという。
「仮想レゴや仮想ブロックで遊ぶ“アプリ”を与えられ積み上げてみせた子供が、本物のブロックを目の前にして実際に積み上げようとすると、まるで一度もやったことがないかのようになってしまう。アプリと現実は移転可能なスキルではない。二次元から三次元に知識を移すことはできないのだ」とリポートには記されている。
ミーシャは言う。「ジョニー(・ヌネス)と私は娘のアマイアに1日最大45分間までは画面を見ることを許しています。それはテレビも、スマホも含めて45分です」
アマイアはちょうど、テレビを見たり、スマホで動画を見る楽しみを覚え始めたところ。「彼女はすでにどうやってYouTubeにアクセスして『ココメロン』のアニメを見たらいいかを習得しています。私はそのやり方を一度も教えたことがないのに。子どもが望むものを得るために機械を使いこなす情熱には目を見張るものがあります」とミーシャは驚きを隠さない。
「アマイアは自分の周りで起きていることによく気がつく子どもだけど、その理由の一つは確実に、私たちがあまり彼女にデバイスを触らせないことにあると思う。ある意味、アマイアは家の中で起きていることに注意を向けざるを得ないのです。子どもにiPadを見させておきたくなる親の気持ちはよく分かります。でも、自分の胸に聞いてみてほしい。“何時間も画面を見せておくことで、自分は子どもに何を与えられているのだろうか?”と。親子で向き合って一緒に過ごす時間の方が、絶対に価値があるはずだ」
時には、アマイアがまったく画面を見ずに過ごす日もある。
「一番いいやり方は、自分たちがお手本になることです。もし親が家ではずっと座ってテレビを見ていたり、スマホをいじってばかりいたら、子どもたちもそれを真似するでしょう? 親として、画面を見る時間を減らすのは価値ある犠牲です。一番大切なのは子どもたちなのだから、私はできる限りの時間をアマイアと向き合って過ごしたいと思っています」
また、この外出自粛の期間は「子どもにいろいろなことを教えるのにぴったりの時でもある」という。「私たち大人は子どもの吸収力を甘く見がちですが、アマイアの進歩には驚かされ続けています。私は彼女と一緒に何度も数える練習をしてきました。クリスマス休暇中のある日、彼女は階段を下りながら誰にも促されずに、1から10まで数えてみせたんです。1歳6カ月で。心の底からびっくりしました」
本を読むことも、家で子どもと過ごす楽しみのひとつだ。
「アマイアが生まれる前、私たち夫婦は多くの本を揃えようとしました。“ベイビーシャワー”(出産前に妊婦を祝うパーティー)では、招待客にカードの代わりにアマイアへのメッセージを書いた本を持ってきてくれるように頼みました。それは、アマイアが大きくなった時に誰から贈られた本なのかを知って、より嬉しく感じると思ったから」
シンガポールに移住してからは、ジョニーが毎週アマイアと“お出かけ”の時間をつくった。2人で本屋に行って、アマイアが選んだ本を買う。残念ながらこのコロナ禍で、今はお出かけは中止しているが、「読書は子どもとの絆を深めるのにとてもいい」と言う。
たとえ小さな子が物語をしっかり理解できなくても、挿絵を見ながら鳥がどんな姿なのかを学べる。画面のアニメと違ってその挿絵は動いたりはしないが、その分、子どもたちは鳥が飛ぶ姿を文章から“想像”するのだ。
アートや工作のプロジェクトも楽しいものだ。
最近ミーシャとアマイアは、絵の具で遊ぶプロジェクトにいくつかトライした。蘭の植え替えのために買った鉢を白く塗り、アマイアに手形をつけてもらう。弟が生まれたら、彼の手形も加わるだろう。それから、マカロニネックレスとブレスレットもいくつか作った。簡単にいえば、生のマカロニを紐でつなげたものだ。ネックレスにする前に、色を塗ることもできる。
2人は他にもいろいろなアートプロジェクトを楽しんだが、そのひとつに手作りムーンサンド(砂粘土)がある。だいぶ散らかる遊びで、アマイアのような活発な子と遊ぶなら、終わったあとにすぐにシャワーを浴びて汚れを洗い流す準備をしておこう。多くのムーンサンドは口に入れても安全だし、親が心配するような化学物質も使われていない。アマイアはムーンサンドで遊ぶのが大好きで、よく小さいお城を作っている。家には黒板もあるし、塗り絵の本も置いてある。アートは子どもの創造性を自由に伸ばすのに最適なアクティビティだ。
退屈したらお菓子を焼けばいい。
とはいえ、基本的にアマイアには砂糖が少なめのものを食べさせているので、たとえばカップケーキを焼く時もフロスティング(糖衣)のないものを与えている。ミーシャは、「砂糖の入ったものをアマイアに食べさせると、いつも行動や集中力にあまり良くない影響があることに気づく」と語る。
もし十分なスペースがあるなら、ガーデニングを楽しむのもいい。外出禁止期間でも、オンラインで種を注文して、植木鉢を買って、何かを植えることができる。家の中を見まわして、自由にアイディアを巡らせてみよう。ロックダウン中にできるDIYプロジェクトがいくつか見つかるはずだ。
「もし、これまで子どもと深くかかわる時間がないと感じていたなら、今こそがその時だ。私が挙げたアクティビティのどれかでもいいし、寝かしつける時に歌を歌ってあげるとか、シンプルな食事を一緒に楽しむのでもいい」と、ミーシャはコロナの時代に、家で子どもたちとともに過ごす時間そのものの重要さを語る。
そして「それ以上に重要なのは……」と、ミーシャは続ける。
「また生活が元どおりになった時、どうやって家で子どもとの時間を持ち続けられるかをゆっくり考えることかもしれない。長い時間の中で、こういった小さな時間が積み重なっていく。私たちがいなくなった時、子どもたちはそういう時間を懐かしく思い出すだろう。今はどうしたらもっといい親になれるかを考えるのに、一番いい時期かもしれない。きっと、子どもたちは、幼い頃に親がどれだけ大切に自分を扱ってくれたかを忘れないだろう」
「私は自分の子どもの口から、『必要な時にそばにいてくれなかった』とか『いつも仕事で忙しくて、大切にしてくれなかった』という言葉を聞きたくない。そんな経験は家族には遺したくない。完璧な親になれる人などいないけれど、できる限り良い親になれるよう、時間を費やすことをいつも心がけていたい。覚えておいて欲しい。いつも、最終的に一番大切なのは、家族なのだから」(※ONEチャンピオンシップ協力)