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コラム

【1999年4月の格闘技】フィリォの右拳に“ゴッドハンド”が宿った、ホーストを失神KO

2020/04/19 13:04
【1999年4月の格闘技】フィリォの右拳に“ゴッドハンド”が宿った、ホーストを失神KO

後ろ蹴りを放つフィリォ(右)。ホーストの「フィリォは自分から攻められない」との言葉を覆して自分から前へ出た

 1986年10月に創刊され、30年以上の歴史を誇る格闘技雑誌『ゴング格闘技』が、秘蔵写真と共に過去4月にあった歴史的な試合や様々な出来事を振り返る。36回目は1999年4月25日に横浜アリーナで開催された『K-1 REVENGE』から、フランシスコ・フィリォ(ブラジル)vsアーネスト・ホースト(オランダ)のリベンジマッチ。

 フィリォは極真会館ブラジル支部で空手を学び、1991年11月に開催された『第5回全世界空手道選手権』にてアンディ・フグ(スイス)に上段廻し蹴りで一本勝ち。一躍注目を浴びる存在となり、1995年3月には荒行・百人組手を完遂。同年11月の『第6回全世界空手道選手権大会』では第3位、1997年4月の『第1回全世界ウェイト制空手道選手権大会』では重量級で優勝。

 そのフィリォが極真会館に所属したまま1997年7月にK-1初参戦。アンディ・フグを一撃で秒殺KOする離れ業をやってのけ、同年9月から開幕したK-1グランプリでは1回戦でバンダー・マーブをKO、東京ドームで行われた決勝トーナメントでは準々決勝でサム・グレコをKOと3連続KO勝ち。


 しかし、その快進撃に待ったをかけたのが、準決勝で対戦したホーストだった。両者は向かい合ってフェイントをかけるだけで東京ドームをどよめかせるという名勝負をやってのけたが、判定2-0でホーストが勝利。フィリォにプロ初黒星を付けた。

 その後、フィリォはレイ・セフォーと引き分け、ピーター・アーツにTKO勝ち、リック・ルーファスにKO勝ちとデビューしたばかりの新人とは思えない活躍を続けたが、8戦目となる1998年12月のK-1グランプリ準々決勝でマイク・ベルナルドに3RでTKO負け。2敗目を喫すると共に初のKO負けを味わった。

 そして迎えたホーストとのリベンジマッチ。1997年のK-1グランプリではフィリォに勝利した後、決勝でアンディを破り優勝を飾っている。しかし、1998年のK-1グランプリでは準々決勝でサム・グレコにTKO負けを喫していた。つまり、両者ともTKO勝ちからの再起戦で迎えたリベンジ戦ということになる。

 前年のK-1グランプリ決勝トーナメントを前にして、アレルギー体質から来る発疹と40度の高熱によって体重が約9kgも落ちてしまったホースト。今回の計量でも91.6kgと1997年のグランプリ制覇時とは約5kgのダウン。その身体や表情を見ても、決してベストコンディションではないことは明らかだった。


 全選手入場式の前も、セコンドと談笑しながら軽く身体を動かしている他の選手とは対照的に、ホーストは一人で階段に腰を下ろし、宙を見つめていた。

 こんなホーストではK-1史上に残る名勝負、1997年グランプリの準決勝戦の再現はとうてい望めそうもない。セコンドのヤン・プラス会長に聞くと「アーネストの調子自体はいい。しかし、まだ体重が戻っていないから不安があるんじゃないかな」との答えが返ってきた。

 今回、フィリォはモーリス・スミスのジムで「練習後は疲れて、シャワーも浴びられなかった」ほどのハードトレーニングを積んできたという。それでも、ホーストの芸術的なコンビネーションを封じられるかと言えば、この時点ではまだ一抹の不安はあったが…。

 試合開始。フィリォは両腕のガードを上げて、アップライト気味にしっかりと構える。変わったのは構えだけではない。カウンター狙いのホーストの右が当たっても、怖がらずに前へ前へと攻めていく。戦前、ホーストが言っていた「フィリォは自分から攻めることが出来ない(カウンター狙いしかない)」という言葉を、真っ向から否定するような動きだ。

 クライマックスはその直後に訪れた。右、右とパンチを出してホーストを後退させたフィリォは、コーナーに詰まったホーストにさらに右の三連打、そして左フック。ホーストはマットに倒れる前に気を失っていた。壮絶すぎるKOだった。


「まるで誰かが私に乗り移ったかのような感じだった」とフィリォ。まさに“ゴッドハンド”大山倍達総裁がフィリォの右拳に宿ったかのようだった。奇しくも、その日は大山総裁の五年祭が行われた日でもあった。

 また、ホーストは後に「この時に初めて引退を考えた」と語っている。

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