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2020年1月18日(日本時間1月19日)、米国ネバダ州ラスベガスのT-Mobileアリーナで『UFC246』が開催される。
メインカードでは、元UFCライト級&フェザー級二冠王、コナー・マクレガーが1年3カ月ぶりに復帰し、名勝負男として名高い“カウボーイ”ドナルド・セラーニとウェルター級で対戦する。
注目の一戦の見どころを、WOWOW『UFC-究極格闘技-』解説者としても知られる“世界のTK”高阪剛に語ってもらった。
――『UFC246』では、マクレガーvsセラーニという夢の対決が実現しますが、高阪さんはこの一戦をどう見ていますか?
「この試合はまず、マクレガーがどれぐらいのパフォーマンスの状態で、オクタゴンに戻ってきてくれるかがポイントになると思います」
――ハビブ・ヌルマゴメドフに敗れて以来、1年3カ月ぶりの復帰戦で、すぐに撤回したとはいえ、一度は引退も表明していますからね。
「そもそも身体が衰えて引退表明したわけじゃないし、しっかりと試合に向けて作り込んでくることは可能だと思うんです。ただ、試合に対する強い気持ちがないと、なかなか身体は動いてくれないものなんですよ」
――UFCのトップ戦線で試合をするというのは、どんな一流選手でも相当な準備が必要だと。
「なおかつ、マクレガーはセルフプロデュースというか、試合を盛り上げることも自分でやるタイプなので、肉体的にも精神的にも、より作り込まなきゃいけないと思いますから。で、前回のヌルマゴメドフ戦の映像をあらためて見返してみたんですけど、あの時もしっかりUFCで勝ちを収める準備をしてきたと思うんですよね。それが1ラウンド最初のタックルへの反応やディフェンスにも表れていたんで、マクレガーがやろうとしていたことはしっかりとできていたんだけれど、ヌルマゴメドフのタックルがそれを上回っていたと言わざるをえない」
――UFCでも屈指のテイクダウン能力を誇りますからね。
「そうなると相手は、タックルが来るということが頭に刻み込まれた状態で試合をするので、ヌルマゴメドフのタックルフェイントがものすごく効くんですよ」
――警戒しすぎるほど警戒しているからこそ、効いてくるという。
「だからマクレガーは、2ラウンドにタックルフェイントからの右フックをもらってダウンしましたよね。あれだって、普通の相手だったらフェイントに引っかからないだろうし、フェイントを無視すると思う。だけど、かかってしまったのは、裏を返せば、それだけタックルの対策を練ってきたからこそだと思うんですよ」
――体が勝手に反応してしまったわけですね。
「そうですね。だから結果的に負けてしまいましたけど、相変わらず打撃を当てる技術は非常に高いものを持っているし、プレッシャーをかけて追い込んで、パンチを当てていく、マクレガーらしい試合をやろうとしていたことは見えたので。あの戦いができるなら、まだまだ期待できると思いますね」
――今回の相手、セラーニはヌルマゴメドフとはまったく違ったタイプの選手です。
「長身のセラーニは、ヌルマゴメドフのように自分から低くタックルに入るタイプではないですからね。だからマクレガーも打撃戦を想定しつつ、身長差も加味しながら、どこでプレッシャーをかけて倒しにいくかを考えて、準備していると思います。ヌルマゴメドフ戦を経たことで、ひとつ段階を上がったマクレガーが見られたらいいな、というのが期待としてあります」
――自分より長身のストライカーであるセラーニとの相性はどうでしょうか?
「悪くないと思うんですよ。結局、セラーニもディフェンスを固めて、サークリングをして、隙を見てパンチを打つようなタイプではないし。自分から仕掛けていくことで相手に穴を作って、最後に畳み掛ける試合の作り方なので。自分から攻撃するということは、イコール、マクレガーと打ち合いになる可能性が高いですからね」
――でも、セラーニはストライカーのイメージがありますが、一本勝ちが17度もあって、極めも強いです。そこは寝技が弱点と言われるマクレガーにとっても警戒すべき点ではないでしょうか?
「もちろんそうですが、同じ寝技でもヌルマゴメドフとセラーニでは、これまたタイプが違うんです。グラウンドで潰して、潰して、逃げ道をなくしていって、最終的に首なり腕なりを極める。寝技の理詰めで相手が何もできない状態まで追い込んで仕留めるのがヌルマゴメドフの寝技なんですよね。それに対してセラーニの場合は、グラウンドになっても打撃を積極的に入れていって、相手がそれを回避しようとして動いた時や、もしくは展開作りの中で極めていく。あとは仰向けになってから三角絞めで極めることも多いし、それも含めて、流れの中でやる寝技なんですよ」
――寝技の攻防あっての極め、というわけですね。
「で、もし仮にマクレガーがグラウンド状態になったとしても、そこには付き合わないと思うんですよね」
――マクレガーは以前、ネート・ディアスにも一本負けしていますから、極力、グラウンドになる前に仕留めようとする可能性が高い。
「そうですね。あと、メンタル面も試合に影響を与えると思うんです。これはお互い言えることですが、連敗同士なんですよね。マクレガーの方も、フロイド・メイウェザーとのボクシングマッチを含めれば連敗中ですから」
――実際、マクレガーはエディ・アルバレスを破ってUFCライト級王者になった時以来、3年2カ月も勝利から遠ざかっています。
「だから、お互い“勝ちたい”っていう気持ちが、ものすごく強い状態での試合になると思うんですよね。その一方で、メンタル的には2人とも、“負けない試合をやってまで勝ちたくない”と思っているフシがあるんですよ。だから“どうやったら勝てるのか”という、前向きで攻撃的な考えでオクタゴンに上がるはず。いわば、“勝ちに飢えている”状態なので、お互いが仕留めにいく戦いをすると思うので、すごくいい試合になる可能性が高いですね」
――両者ともにKOを狙ってくると思われる中、打撃戦ではどの辺がポイントとなりますか?
「やはり、お互いのサイズの違いがまずありますよね。身長はセラーニが8センチ高いですが、逆にリーチはマクレガーの方が3センチ長い。そうなると、懐は身長の高い方が深くなるので、セラーニの方が相手を射程距離に入れやすい。マクレガーの方は、相手の射程距離に入らない位置取りを常に考えないと、打撃をもらってしまう可能性が高くなります」
――では、ややセラーニ有利になりそうですか?
「とも言えないんですよ。セラーニは広いスタンスで腕を開く構えなので、ストレートが当てやすいのはマクレガーかなと思いますね」
――打撃をもらってしまった場合、試合をたくさんこなしているセラーニの方が、少し打たれ弱くなっている気もします。
「それは否めないですね。あれだけ激戦を続けていたら、ダメージはどうしても蓄積します。だから正直、フラッシュダウンとか、意識が一瞬飛ぶ回数というのは、セラーニの方が増えている可能性は高い。逆にマクレガーの方は、長い期間を休んでからの試合になるので、頭のダメージはきれいになくなっていると思うんです。その中で、倒しに行く前提の打撃をしてくるから、セラーニはそれをもらわないようにしないと、身体はピンピンしていても、気がついたらパタッと倒れているようなことも考えられます」
――では“激闘王”であるセラーニがこの試合で激闘をすると、かなり危険だと。
「そうですね。だから、自分らしい戦い方で勝ちたいでしょうけど、それはリスクが高いし、かといってディフェンシブな戦い方はしたくない。頭の中でいろんなことが渦巻きながら準備をしているんじゃないかと思います」
――そうなると、セラーニの出方もポイントになってきますね。
「だから試合の序盤に注目したいですね。試合が始まって1分以内で、どういう戦いでくるのか分かると思います。まっすぐ前に出ていくのか、距離を取ってサークリングするのか。マクレガーは、オクタゴンの中央に陣取ると思うので、そこで勝負するのか、まずはファーストコンタクトに注目してほしいと思います」(取材/文・堀江ガンツ)
◆「UFC246」放送スケジュール
『生中継! UFC‐究極格闘技‐ UFC246 in ラスベガス UFC最強問題児マクレガー、全世界待望の復帰戦!』
1月19日(日)午後0:00[WOWOWライブ]生中継
(WOWOWメンバーズオンデマンドにて同時配信)
1月23日(木)深夜0:00[WOWOWライブ]リピート
(WOWOWメンバーズオンデマンドにて同時配信)
【メインカード】
▼ウェルター級 5分5R
コナー・マクレガー(アイルランド)
ドナルド・セラーニ(米国)
▼女子バンタム級 5分3R
ホリー・ホルム(米国)
ラケル・ペニントン(米国)
▼ヘビー級 5分3R
アレクセイ・オレイニク(ロシア)
モーリス・グリーン(米国)
▼女子ストロー級 5分3R
クラウディア・ガデーリャ(ブラジル)
アレクサ・グラッソ(メキシコ)
▼ライト級 5分3R
アンソニー・ペティス(米国)
ディエゴ・フェレイラ(ブラジル)
【プレリミナリー】(UFC FIGHT PASS)
▼女子フライ級 5分3R
ロクサン・モダフェリ(米国)
メイシー・バーバー(米国)
▼フェザー級 5分3R
アンドレ・フィリ(米国)
ソディック・ユサフ(ナイジェリア)
▼ライト級 5分3R
ドリュー・ドーバー(米国)
ナスラット・ハクパラスト(ドイツ)
▼フェザー級 5分3R
チャス・スケリー(米国)
グラント・ドーソン(米国)
▼フライ級 5分3R
ティム・エリオット(米国)
アスカル・アスカロフ(ロシア)
▼女子フライ級 5分3R
サビーナ・マゾ(コロンビア)
J.J.アルドリッチ(米国)
【収録日・収録場所】
2019年1月18日 米国ネバダ州ラスベガス T-Mobileアリーナ
【出演】
解説:宇野薫、堀江ガンツ