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MMA
インタビュー

【新春特別企画】ホイス・グレイシーが語っていたこと

2020/01/05 23:01
【新春特別企画】ホイス・グレイシーが語っていたこと

2019年12月29日、さいたまスーパーアリーナにて「Bellator JAPAN」が開催された。

RIZINとのコラボレーションにより実現した「Bellator JAPAN」では、主催者発表で15,160人の観衆がさいたまに集まり、“MVP”マイケル・ペイジやマイケル・チャンドラー、ロレンズ・ラーキン、ゴイチ・ヤマウチといったBellatorトップファイターの試合が生で日本のファンの前で行われた。

船便により日本に持ち込まれたサークルケージだけでなく、Bellatorは大会周辺でも、米国等で行うファイトウィークのイベントを日本でも開催していた。

そのひとつが、Bellatorの特別親善大使を務めたホイス・グレイシー(ブラジル)による、柔術セミナーだった。ホスト道場に選ばれたのは池袋のトライフォース柔術アカデミー。

同アカデミー創設者の早川光由代表は、1993年の第1回UFC直撃世代。「大型選手がたくさんいる中で、細見のホイス・グレイシーが無傷で優勝したことに感動し」、さらに95年のバリトゥード・ジャパンでのヒクソンの活躍にも刺激を受け、カーリー・グレイシーから柔術を学んだ平直行が指導する正道会館柔術クラスに入門、最初の柔術の手ほどきを受けている。

「当時、初日に学んだことは、ストリートファイトでの護身術でした」という早川代表が開いたアカデミーが、ホイスの日本セミナーの会場となったことは必然か。

また今回のホイスの通訳として、1990年代後半からオールドトーランスにあったグレイシー・アカデミーで、ホリオン、ホイスから直に教えを受けたマックス増沢・MAX柔術アカデミー代表が参加。ホイスの言葉を受講生たちに伝えていった。

柏木信吾RIZIN海外事業担当によって、トライフォースに案内されたホイスが柔術衣に巻いた帯は、コラル帯(赤黒帯)ではなくダークブルーの帯。1969年に柔術連盟ができる以前のグレイシーファミリーシステムにおいて師匠を示す帯色だったダークブルーの帯を、ホイスは2016年2月の「Bellator 149」でのケン・シャムロック戦(判定勝ち)の前にも着けている。

正道会館柔術クラスからの生徒、そして主にトライフォースの色帯選手が参加した今回のセミナー。ホイス・グレイシー柔術の道衣を纏ったホイスが、挨拶後に最初に紹介したテクニックは、接近を試みる相手に対するサイドキックだった。

もちろんいまの競技柔術でキックは反則だ。ホイスは、最初からセルフディフェンスとしてのグレイシー柔術を、伝えようとしていた。

ヒクソンの前蹴りに対し、ホイスはなぜサイドキックなのか。ホイスは、「私の父・エリオはデフェンスをとても大事にしていました。相手のヒザを蹴ろうとして追い詰めようとしているときもデフェンスをしている。そこの違いだと思います」と語る。フィジカルにも優れたヒクソンはセルフディフェンスでもアグレッシブな姿勢に対し、ホイスはできるだけ頭を相手から遠ざける、エリオ式を継承しているのだという。

相手の攻撃を防いでクリンチへ。「クワガタタックル」と揶揄されることもあった柔術家のクリンチだが、ホイスはそこにもディテールを見せた。サイドキックからただ闇雲に顔を曝け出して胴に組み付くのではなく、相手の打撃の両手の上から自らの腕を差し入れてのアンダーフック。そして背中に回した手はサムレスグリップでクラッチしていた。

クリンチ時も相手の打撃をもらわない頭のポジションの重要性を何度も強調するホイス。相手のアゴ下に頭をつけて見せると、「頭の位置が悪い人は頭を叩いていきます!」とユーモアたっぷりに説明した。

そしてボディロックテイクダウン。両手のクラッチを手前に引きつけて、頭と肩を前に押し出し、歩くように左右の足を前方に踏み出してテイクダウンする。

同時に、相手に両脇を差されてクリンチをされた場合のヒップスローもレクチャー。バックに回られないよう首を片手で巻いて、相手の手前の肩を両手でいったん持ち上げるようにして引手をつかみ、釣り手は相手の脇を持って大腰のような形でしっかり腰に乗せて前方に投げる。

もし腰に乗らなければ、外足を後方に伸ばしての足技でのテイクダウンもホイスは披露した。後方に伸ばしたヒザを相手の足に密着させることがポイント。そしていずれも引手をいかにつかむか。ホイスは道衣を着ながらも袖や襟をつかむことなく、ヒジや脇をつかんでの投げを見せていた。

「ヘッドロックからの投げでバックを取られるのをどう回避しますか?」と問われたホイスは「テイクダウンはどうやる?」と逆に質問者に問い、引手をしっかりつかんで見せて、「狙いは骨を折ること。テイクダウンし潰すときに体重をかけるべきなんだ」と笑顔で回答した。

ヒップスローからサイドを奪ったポジションから狙えるアームロックは2種類を紹介。スカーフホールドアームバーは、テコの原理をいかに使うか。相手のヒジの位置に自身の太腿が固定されなければ極めることはできない。そして引手はつかんだままでその上から外側の足で押さえて極める。

相手がアームバーを嫌って腕を曲げてきたら、袈裟で固めたまま両足に挟んでアメリカーナへ。これも引手をつかんだまま前方の足にかけ腰を浮かすようにしてその足を後方に引くことで極まる。

「下の相手が腕を伸ばすことに抵抗してきたら?」と問われると、「僕はテイクダウンする前にどうした? キックしただろ? ここに顔があるんだ。殴ればいい」と柔術家たちに伝えるホイス。

そしてアームロックが極まらなければ、と前方に頭をマットに着けてのマウントに移行。スリーブチョーク、袖車絞めを披露した。ポイントは相手の見えないところでセットアップし、警戒されずに喉下に手を差し込むこと。

さらに圧巻は、マウントでダブルアンダーフックで抱き着かれたときのダブルアームロック。股を内側に締め、両足が外側に向いているとよりタイトに極まるという。

ここまでの技を繋げて復習をうながすホイス。すべての技がフィニッシュまで繋がるシークエンスとなっている。

練習後には、ホイスは正座して質疑応答に臨んだ。

「普段の柔術テクニックでも打撃があることを想定しているのですか?」と問われると、「もちろん常に。マーシャルアーツはポイントを取るために創られたものではない。空手、クンフー、テコンドーも、どのマーシャルアーツがいいというのではない。どれも自分の身体を護るために創られている」と、柔術に限らず、武術の多くが護身として生まれたことを語った。

「いつも考えているよ。相手が殴ってきたらこうしようと。それがセルフデフェンスなんだ。ポイントシステムがマーシャルアーツを駄目にしたんじゃないか。それでいいの? 武術って本来、相手の頭にいかにダメージを与えて制するかというものでは?」と参加者に問いかけた。

また、早川代表からの「UFC1から出て他流試合を行ってきて、緊張を回避する方法は?」との問いには、「試合前は寝るよ」と笑顔。「1時間前にホイラーが自分を起こして『OK、ストレッチをしよう』『よし行こう』って。もしコーナーが別の人だったらコントロールが効かないかもしれない。私が誰かのコーナーにつくときはよりナーバスになるけどね」と、自身の試合よりも他者の試合の方が緊張すると答えた。

1993年11月12日、米国コロラド州デンバーで初めて行われた「The Ultimate Fighting Championship」=「UFC」は、1ラウンド5分の無制限ラウンド制で判定による決着は無し。目潰しと噛み付き・金的以外はあらゆる攻撃が有効とされるルールのなか、ホイスは素手で自身より大きな相手と戦った。

「グレイシー」の名前を背負って戦うプレッシャーは? と問われると、「無い。自分は何をしたらいいか分かっていたから」と回答。エリオの時代からブラジルでバーリトゥードを戦ってきたグレイシーにとって、“何でもあり”のなかでサバイブする術があったことを語る。

新明佑介JBJJF事務局長からは「ホイス先生の考える柔術の試合は?」との質問も。ホイスとは考えを異にするカーロス・グレイシーJr.によって創設された「IBJJF」の言葉に「うーむ」とわざと笑顔を作ったホイスは、一言「ノータイムリミッツ、ノーポイントだ」と語った。

「時間制限とポイント制では、力の強い人が身体の弱い人に勝つという構図になる。時間をかけられれば、もし歳をとっていても自分が何が出来るかが分かる。ダン・スバーン戦を憶えているかい? いまのルールなら私は負けだ。15分、ガードを取っていたら負けてしまう。実際の試合で私は最後の1分でチョークしてタップを奪うことが可能だ」

では、マーシャルアーツがセルフデフェンスのためだとしたら、試合をする意義は? と写真家でもある井賀孝氏から問われたホイスは、「トーナメントそのものに私は反対しない。たとえば、もしマイク・タイソンが空手スクールにいたら、誰でもKOしてしまうだろう。でも、彼はカラテのブラックベルトを持つべきかい? 彼はカラテのスタイルを知らないじゃないか。トーナメントも同じだと思う。柔道の黒帯や凄いレスラーがいたら、柔術の試合で勝ってしまうかもしれない。ここに来てみんなをピン(フォール)したらブラックベルトになる? でも彼は柔術を知らないよね。トーナメントは時として強さがあるものだけのために創られてしまう。セルフデフェンスとしてのアートを知ってはいない。そこが問題だと思う。その点で、僕はほかの人たちと同意できないんだ」と、試合に関しての私見を語った。

その一方で、「練習では1分ごとに時間を区切ることもあるし、長い時間でやることもある」と臨機応変に指導しているというホイスは、「ファイターにとって必要なこと」について、以下のように答えている。

「練習して知識を得ること。自分がやっていることを理解できること。もし僕がラグビーをやっても何も知らないよね。そして耐久性が大事だ。すごく速い車もガソリンが無ければどこにも行けない。小さなスクーターに抜かれてしまう(笑)。もうひとつはエンジンパワー。多くの人は体力と知識があっても持久性がない。1Rで疲れてしまう。知識を持つこと、耐久力を持つこと、そしてパワー、この順番で必要だと思う」


(C)Bellator

ホイス、ヘンゾの教えを受けた息子クォンリー・グレイシーが、2018年1月のMMAデビュー戦で判定負けも、2018年11月と2019年4月のBellatorで勝利し、2連勝を飾っている。


(C)Bellator

「クォンリーは彼自身の探求心を満たすために戦っている。もちろん、息子にもグレイシースピリットは伝えている。ディシプリン(規律)とともに。今日のようなクリスマスにも練習をしているはずだ」

柔和な笑顔でそう語ったホイスは、道場生一人ひとりと握手をかわし、セミナーを終えた。

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