キックボクシング
インタビュー

【ONE】ムエタイのスーパースターと崖っぷちの状況で戦う健太「格闘技人生一発逆転の大チャンス」

2019/12/26 14:12
2020年1月10日(金)タイ・バンコクのインパクトアリーナにて開催されるONE Championship『ONE: A NEW TOMORROW』で、センマニー・ サティアンムエタイ(タイ)とキックボクシングルールで対戦する健太(E.S.G)。  健太は2005年1月に高校生でプロデビュー、大学生時の2008年5月にNJKFウェルター級王座に就くと同スーパーウェルター級王座、Krush-70kg初代王座、WBCムエタイ日本統一ウェルター級王座などを獲得。2011年9月にはK-1 WORLD MAX日本トーナメントに出場し、1回戦で城戸康裕を破り準決勝へ進出している。ONEには今年3月から参戦。  今回の相手センマニーは6歳でムエタイを始め、15歳でルンピニースタジアム認定ミニフライ級王座を獲得。その後はラジャダムナンスタジアムで3階級制覇も達成し、2012年にはタイ・スポーツ記者協会が認定するムエタイMVPも獲得したムエタイ界のスーパースターだ。 ■崖っぷちだと思っていたが、崖から突き落としに来た ――2020年1月にONE参戦が決まりました。2020年初戦になります。 「ONEでの戦績が1勝2敗で崖っぷちなので“次は勝たないといけない。リリースされないためにも今度こそは!”という気持ちでいたところに、凄いのが来たなとビックリしました」 ――健太選手のSNSを拝見したところ、センマニーの“噛ませ犬”という表現をされていましたね。 「言いたてのものをちゃんとチェックしていただきありがとうございます(笑)。正直なところ、バンコクでの開催ですし、タイではバリバリのスター選手ですし、僕は噛ませ犬的な立場でもあるのかなと。もちろん僕はそんなつもりはないですけどね」 ――逆にポジティブに考えるとビッグチャンスです。 「ここで勝ったらめちゃくちゃ大変なことになりますよ。僕的には格闘技人生一発逆転の大チャンスだと捉えています」 ――主催者は“健太なら何かやってくれるんじゃないか!?”と期待している部分もあるのでは? 「主催者は期待してないと思います(苦笑)。ONEでなかったら普通は組んでもらえないマッチメイクですし、タイだとギャンブルの賭けの対象にもならないマッチメイクですよね」 ――ONEのマッチメイクは鬼だとは思いませんか? 「そうですよね。ペットモラコット、ムアンタイ、次がセンマニーと、レジェンドクラスと続々と。崖っぷちだと思っていたんですが、崖から突き落としに来たな、というのが正直な感想です(笑)。でも逆に、先ほど言ったように最大のチャンスでもあります。ONE Championshipだけに“ワンチャン”です」 撮影/安村発――対戦を意識したことはありますか? 「全くないですね(笑)。練習前にYoutubeでムエタイのトップ選手の試合映像を見るのですが、そんな感じでテクニックなどを参考にして見ていた選手の一人でしたから」 ――センマニー選手の参考になったテクニックはどういうところでしょう。 「組んでからのヒジ、ヒザの使い方、距離感の取り方、ミドルを蹴った時のブレないバランス感覚ですね。正直なところ、攻略が難しい相手ではあります」 ――左ミドルキックの名手として知られています。 「距離感もいいし、左ミドルと左ストレートが同じモーションから出て来たり、左ミドルを蹴った後すぐに左ストレートを打って来たり。あれは厄介ですね。でもそこに合わせていかないとしょうがないです」 ――目もいいですし、カウンターも上手いです。 「よく取材で聞かれるし、SNSでも言ってるんですけれど、逆にみんな教えてくれって思うんですよ。何がいいのか、どう戦ったらいいのかって(笑)」 ――健太選手は梅野源治選手の物真似が得意ですが、センマニーの物真似で本人と対戦することもありえるのでしょうか。 「えっ!? 僕は梅野選手の物真似をしているとは公言していないのですが……(苦笑)、センマニーはサウスポーであって僕はそうでもないので、センマニーの動きを参考にしているというよりも、今回はセンマニーと対戦している選手の動きを参考にしています」 ――現在の状況を崖っぷちと言われましたが、過去にもそう考えた時期はありました? 「過去に2度、3連敗していた時期があり、その時は崖っぷちだったのでもう辞めようと思ったことがありました。いつも思うのですが、ただやっていてもしょうがないのでこんなんだったら辞めようと思うことがあって、また気持ちが立ち上がる。その繰り返しが続いていて、もういつ辞めてもおかしくない状況です。91戦もやってきてその言葉に信憑性もないんですけどね(笑)。今の状況をどげんかせんといかん!(宮崎弁でどうにかしないといけないという意味)。僕が勝つと思ってみんな見ていないと思うので、僕は噛みつきます。めちゃくちゃ闘志が燃えていて、めちゃくちゃワクワクしてます」 ――ONEでは2人のタイ人選手と対戦していますが、これまでキックルールで対戦したタイ人とファイトスタイルなどで違いはありますか? 「日本人の母とタイ人の父のハーフであるチャトリ・シットヨートン会長は、タイのレジェンドたちが活躍できる場、世界のスポーツと比べても遜色ない舞台として与えたのがONEなんじゃないかなと勝手に思っています。ルンピニーやラジャダムナンで活躍していた選手が、そういう場所を卒業し、もう1つ輝ける舞台だとも思えるのですが、センマニーに関してはまだ若くてタイの二大殿堂スタジアムで活躍している現役バリバリの選手ですね(笑)」 ――ONEで獲得するファイトマネーが高額だけに、タイ人選手の試合での勢いが違ったりは? 「そうですね。それも感じますね。あと、これまでに対戦した2選手の試合映像をYoutubeで見ていたらタイ人同士の試合で5R制だったので、1、2Rはゆっくりしたペースで戦い、3、4Rは攻めて5Rはゆっくり流すというペースで戦っています。そのイメージでペットモラコット、ムアンタイと向き合ったら、1Rから攻められてポイントを取られてしまいました。3Rしかない中で1Rから取られるなんて致命的で、2Rに取り返しにいっても、3Rに逃げられてしまいます。逃げるタイ人はめちゃくちゃうまいですからね。今回も3分3R制ですが、いかに1Rを取るかが勝負になります。まさに“ONE”です」 ――1Rから勝負にくるなんて、ムエタイ選手の戦いではなく、日本人選手と戦っているようですね。 「そうなんですよ。ムアンタイなんかゆっくりしたペースで来ると思ったら、1Rから声を出してフルスイングしてミドルキックを出してましたから。向こうは元々試合巧者ですが、さらに作戦を考えてきてますよね。次は三度目の正直なので、僕は初回からフルスピードで攻めますよ。3戦目でようやくONEでの戦い方に気付きました(笑)」 [nextpage] ■健太が語るOFG&ケージでのキックボクシング ――通常のグローブとは違って、オープンフィンガーグローブ(以下OFG)での戦いはどうでしょうか。OFGだとガードしていてもその隙間から攻撃が入ってくると言われています。 「僕は特別違いを感じません。今年5月のONE2戦目、リトアニアのデイヴィダス・ダニーラと戦った時に、アッパーを受けてスウェーで避けたのですがそれは感じましたね」 (C)ONE――グローブよりもOFGの方が表面が薄いことでタイ人のパンチが重く感じることは? 「そこは感じないのですが、首相撲の攻防になった時にタイ人は素手に近いOFGだと相手をコントロールする力が上がってしまうので、タイ人に有利なルールなんじゃないかなと。グローブを付けてあれだけ首相撲がうまいのに、更に取り合いがうまくなるので首相撲からのヒジに恐怖を感じます」 ――逆にOFGで戦うことでご自身にメリットは? 「僕はジャブを結構得意としているのですが、ジャブでも鼻を折れるぐらいの強打になりますし、僕の良さが出るんじゃないかと思ってます」 ――リングではなくケージでの戦いに関してはどうでしょう。 「ONEだとリングでも試合はありますが、僕は3戦ともケージでの戦いでした。リングよりも広いので、首相撲で捕まれにくいとも感じましたね。リングだと詰まりやすいですが、ケージだと詰まれにくいのかなと。ケージは円なので横の動きができるから、リングよりも捕まりにくくて僕はフットワークが使えていいかなって思っています」 ――ロープを利用したスウェーが出来ませんよね? 「ケージはタイ人よりもタイ人ではない選手の方が有利のような気がしますね。タイ人が逃げに入った時に、ロープに寄りかかって前蹴りをするじゃないですか。ああいうのが使えないから。ただ、あまりケージを使ってとか特別な戦い方は考えてないですね」 ――ケージでの際での攻防になった時に、蹴ったらケージに足が当たりそうで蹴り辛い、負傷しそうだという選手もいます。そこを意識したことは? 「金網は凄く硬いので、なるほど、確かにそうですね(笑)。距離を詰めてミドルを出そうと考えたことはありませんでした。逆に相手に際で蹴らしてそれを狙うのもありですね。ケージ慣れしているMMAの選手にそこは相談してみたいと思います」 (C)ONE――健太選手はOFGでの戦いでもダウンが一度もないことで、自身のタフさに改めて気づいたりは? 「ダニーラのアッパーを食らって記憶がなくなったのでそれは感じないですね(笑)。でもロッタンはOFGでバカバカ打ち合ってあんなに打たれ強いので凄いですよ」 ――ONEで戦いたいという日本人キックボクサーは増え続けていますが、そんなに甘い世界ではありません。キャリア豊富で日本トップファイターの一人である健太選手が過酷な状況であることを証明していますよね。 「ホント厳しい道ですよ。僕がセンマニーにやられて凄い結末になる…なんてことを見せ付けるつもりはないですけど、逆に日本人選手は凄いと希望を与えるような、ONEと日本人キックボクサーの架け橋になります」 ――センマニーに勝ったら試合後に大変なことになりますね。   「タイでは輸入物はまだ高いのですが、ホテルではF-1で優勝した時のようなシャンパンパーティーですよ。日本でもやったこともないですけど(笑)」 ――次が92戦目となり、100戦に近づくことで新しく見えてきた景色はありますか? 「100戦に近付くにつれて自分がさらに強くなっている、健太完全体になりつつあるのを感じています。以前よりもバランスが良くなってきましたし、バランスが良くなったことで今まで出来なかったコンビネーションができるようにもなりました。20戦目、30戦目、40戦目……の時と比べても間違いなく、今の自分の方が強いです」 ――年齢を重ねることでスタミナ面で不安は? 「日々の疲れは出るようになりましたけど、全然不安はないですね。技術も備わってきていて、もう強くなり続けるだけです」 ――2011年K-1 MAXに出ていた選手が次々と引退していく中で、今だにトップ戦線で活躍しているのは、2011年9月、-70kg日本トーナメント一回戦で対戦した城戸康裕選手ぐらいですね。 「確かにどんどん引退してますね。でも僕は他人との比較でやっていないので、特に気にしていません。今自分がONEに出て強い選手とやり続けることだけを考えています。といいつつ、キックに限らず、ベテラン選手が活躍するスポーツを見るとやたらと感情移入して勇気をもらっているのは確かです。ちなみにリーチ・マイケル(ニュージーランド出身の日本国籍を持つラグビー選手)が頑張っているな~と思ったら、年下でした。なんだ! あの貫禄ある顔は! みたいな(笑)」 ――ジムにはタイ人トレーナーも雇って練習環境も充実してきたようですね。 「はい、凄くいい人でどんどん自分のバランスが良くなってきている気がします。よりミドルキックとかスウェーが上手くなっている気がしています」 ――センマニー戦をクリアーして2020年はどういう1年にしたいですか。 「世間の30代アスリートに勇気を与えるような、世界で活躍する健太を見せたいと思います。センマニーに勝ったらONEのタイトルに挑戦させてくれと、シャンパンで酔っぱらった勢いで調子に乗って言っちゃいそうですよね」 ――最後にファンへメッセージを。 「格闘技の醍醐味はアップセットじゃないですか。みんなをビックリさせたい、感動させたいと思います」
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