K-1が2023年から年に1度開催している、40歳以上を対象とした『K-1アマチュア~THE MASTERS~』。昨年から出場し、大会スポンサーも兼ねている元プロキックボクサーの兼子ただし氏にマスターズの魅力と大会に懸ける想いを聞いた。
兼子氏は高校を中退、荒れた少年時代を過ごして少年院に収監されていたこともあったが、キックボクシングでプロデビューして日本ランキング1位にまで上り詰めた。スポーツストレッチ専門店「SSS(スリーエス)」を経営し、実業家として成功。著書も多数あり、メディアにも多く出演している。
強力な事実を10やった方が勝てる
――昨年の『K-1アマチュア~THE MASTERS~』(以下マスターズ)に初出場されて、どんな感想をお持ちですか?
「僕が思っていたより参加希望の方が多くてよかったなというのと、自分の話で言うと久しぶりに試合をして、興奮というか緊張というか、やっぱりこの競技は面白いなと思いましたね」
――マスターズという大会自体の良いところはどう感じましたか?
「年齢を重ねた人たちがやっているので、試合のパフォーマンスは若い人たちに比べれば落ちると思うんですけれど、みんな大人なので普通の選手よりも戦う場面が多いんです」
――と言いますと?
「まず試合で戦うじゃないですか。そして年齢とも戦わなければいけない。参加費を払って、仕事の時間も削ってやるので、経済的にも戦わないといけない。だから、相手と戦って、自分と戦って、社会と戦って、リングに上がるんです。ある意味、普通の選手よりいろいろ戦ってるんじゃないかと僕は思ってるんですよね。それがマスターズの価値だと思っています。プロの選手とはまた違った角度の価値があるなと思っています」
――実業家としても成功されている兼子さんから見て、マスターズの可能性をどう感じていますか?
「どの企業も自分たちの認知を高めることが必要だと思うんですよね。その認知の究極の、ブランディングとでも言いましょうか、それになるなと僕は思ってるんですね。それがマスターズの一つのあり方になればいいなと思っています。結局、会社の社長って一番のテーマは自分の発言の浸透力なんですよ。
お客さんに対しても、従業員に対しても、いいことを言う社長はいっぱいいるんです。自分の事業の良さを、メリットを話せる社長ばっかりだと思うんですよ。でも、大概その話を聞いてくれてないんです。会社の社長のテーマは実はそこなんですよ。
発言の浸透力が弱いか強いかで事業が成り立つかどうかが決まると僕は思うんですね。フェイクは浸透力が弱い。リアルは浸透力が強い。何でそれを分けるかって言うと、要は本当にやっている人間とやっていない人間とは人って意外と分かっているんです。
従業員は社長の言っていることが真実なのか、社長の金儲けに付き合わされているのか、これに迷うんですよ。だから、従業員に社長の金儲けに付き合わされてると思われているところは離職率が高いです。
でも、社長の言っていることの浸透力が高い、言っていることがリアル、本当だなと思うところは離職率が低くて、事業の利益も出しやすいんですよね。とすると、会社社長の威厳というか、発言力を持つには、その方がリアルな人に見せる。そこが重要なんですよ。
力のない弱い広告を1000やるんだったら、強力な事実を10やった方が僕は勝てると思います。僕は今まで他の分野でもそうですけれど、リアルな10という材料を持って今まで成功してきてるんですね。僕と同じような業界で1000の広告を打ちまくっている人もいますけれど、僕には勝てません。
結局、従業員も僕を見る、周りのお客様も僕を見る。1000より10のリアルが勝つのはもう実証済みなんです。だからこの10を作るのに、マスターズに出場するというだけで僕はそれが成しえると思っています」
――試合出場が事業にフィードバックしてくると?
「そうです。口だけじゃなくて、やることをやっているなと。自分を管理して練習をして、遊ばないで練習に取り組んでいる姿勢を見たら、その人が変な嘘をつくわけないってみんな思いますよね。発言力に信憑性が出るわけです。
いつも仕事が終わったらキャバクラに行って飲みまくってる社長が『俺たちは社会貢献だ』って言っても、みんな信用しないですよ。そこが業績を上げられないことなんだって気づいてないんです。人は、リアルな人の気持ちを信じるじゃないですか。その一つの表現としてマスターズに出て、勝っても負けてもどっちでもいいんです。マスターズの場合は、僕は出ただけで勝ちだと思っているので。
他の競技は違いますよね。勝たなければダメなんですけれど、マスターズだけは出るだけでも勝ちだと思ってますね。出場した背景、生活状況などを動画にまとめて出したら、こんなに頑張っている人なんだってブランディングは完成なので。
マスターズに出場したという動画に残ったことが自分の事業を大きくするし、人間としての魅力を大きくするってことは確実だと思っているので、このことが広まれば出る方は大勢いると思います」
――話が逸れますが、BreakingDownにもいろいろ事業をやってる方も出場しているじゃないですか。自分の会社名を上げるために。それについては兼子さんはどう思われてるんですか?
「人力(じんりょく)って言葉を僕は使うんですけれど、人力っていうのはその人の人間に勉強する内容があるのか、尊敬する内容があるんだったら、僕はたくさんの価値があると思うんですね。僕、もともと不良なので嫌いじゃないですよ。でも、それが勢いとか不良とか暴力的なことだけだと価値は高くはできない。限界値がありますね。だから同じレベルを繰り返すしかない。
質を高めることは僕はちょっと難しいんじゃないかなと思います。でもマスターズだったら、僕の業界でも全く違う業界でも企業価値が上がっていったり、例えば国際的になっていったり、学術的・論文形式になったり、質を高めるのは無限大だと思うんですね。不良の喧嘩の延長戦のストーリーだと限界値が早いかなと思っています」
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バカみたいにお金を使うんだったら身体を使った方がいい
――今回、5月31日(日)東京・後楽園ホールで開催される『K-1 REVENGE』の中で、兼子さんが出場するマスターズの試合が組まれましたね。
「僕も驚いたんですけれど(笑)。最初は驚きましたが、PRとしてはいいんじゃないかなと思っています」
――マスターズという部門をアピールするには絶好の機会。
「そうです。お客さんに見に来てくださいねっていうことではなく、僕と同じように出て、社会人としての実力、人力というものを出しませんか、磨きませんかっていうのを、経営者とかビジネスライフのリーダーたちにお伝えしたいですね。ぐちゃぐちゃ口で言うよりも、K-1に出てドロドロにやった方があなたの魅力が上がりますよって言いたいんです。それがマスターズの魅力だと思います」
――今回リベンジが大会テーマになっていますけれども、どう考えていますか?
「試合自体はリベンジではないんですけれど、キックボクシングに取り組むこと自体が僕のリベンジなんです。現役の時には中身のあるキックボクシングの競技ができなかったことと、自分のパフォーマンスが思うようにできなかったっていうリベンジで、K-1さんに出てるっていうのが僕の中であるんですね。
もう一つは、これは全選手に言えることですけれど、キックボクシングっていうこれだけ過激なスポーツをやっているのに、社会的に還元ができない、引退したらみんな普通のバイトしてるんですよ。引退したら注目されなくなるんです。
社会にその時の経験を生かすという、そういう方法論を知っている人もいない。それも僕が悔しく思っているところで、僕はキックボクシングの経験は社会に生かして成功した例なんですけれど、そのリベンジでもあるなという。僕は社会人としては成功しましたけれど、キックボクシングを兼ね備えた成功をしていると思っていない。なので、競技としていい成績を出しながらも、それを社会にもっと還元できているっていう、その結果を出したいというリベンジですね」
――なるほど。兼子さんはマスターズというものに対して魅力を感じて注力していきたいということですが、今後はどのように展開していきたいと考えていますか?
「僕と同じように、同じ価値観を持った経営者や社会のリーダーの人たちに出てきていただいて、 マスターズを通じて自分の価値を上げていく、そういう人たちを増やしたいですね。そこに分かりやすいものがあったらいいと思うので、僕がK-1さんにお話ししているのが、チャンピオンベルトを作ったり、ランキング制を作ったり、もしくは国別対抗戦をチームでやるような感じで、競技としても面白みを出していきたいと考えています。その中の一人一人が各企業の社長だったりリーダーだったりすることは、これまた面白くて。社会でバトルしてる人たちがK-1でバトルする、というような感じですね」
――今までのシニアのキックボクシング大会とは規模が違ってくるというか。
「規模も違いますし、価値観が違いますよね。おじさんが年齢いってるのに頑張ってるねみたいな感じも、もちろんありますよ。でも試合だけではなく、それをやっている過程に価値があるっていうか、出場するまでに頑張ってるところが社会的な信頼と結びついてくる。
そうすると自分の各企業の価値が上がるじゃないですか。そんな人がやっているんだったら、この会社に頼んでみようとか、この会社に依頼してみようっていう認知になります。さっき言ったような1000の広告費にバカみたいにお金を使うんだったら、お金を使わず身体を使った方がいいよ、ということなんです。僕は『負けたって価値があるよ』ということが言いたいんです」
――そういうお知り合いの社長さんにも声をかけてられるんですか?
「いや、まだ声はかけてないです。僕の道場の生徒には出たらいいんじゃないの? と言います。初めたばかりの人たち、全くやったことがない50代のおじさんが『兼子さんみたいに出たいから来ました』っていう人もいました」
――そうなると年一回ではちょっと足りなくなってきそうです。
「そうですね。僕は年2回ぐらいできたらいいな思っていて。K-1さんに提案したところ、今年は8月23日と11月29日の2大会が開催されることになりました。年に2回は毎年あるような形にしていって、ランキングを競い合う、タイトルマッチを取り合う。男性だけではなく女性部門もできたらいいなと」
――女性部門も?
「そうですね。僕のジムにも50代で出たいって人がいますから」
――ベルトがあると、やる側としては相当励みになりますね。
「違いますね。この間もK-1のスタッフさんに言ったんですけれど、頂上がない山なんて誰も登らないんですよ。頂上があるから登るんです。その頂上を目指すからみんなモチベーションが上がって奮起するんです」
――もうプレイヤーとしてだけではなく、運営の方にそういうアイデアを出しているんですね。
「勝手に案を出してるだけなんですけれど(笑)。ただ僕が申し上げたのは、さっきも言ったように頂上が分からない山なんて誰も登らないということです。そして頂上は一個じゃなくて、そこにランキングがあれば登っていく過程が分かります。階級も50kg、60kg、65kgとあって女子もあれば、頂上がいっぱいある山だったらみんな登るじゃないですか。
それでいて、その過程で負けた人も勝った人も価値がある。普通のアマチュアスポーツだと勝ちを前提にやってるものなんですけれど、シルバースポーツってそういうものなのかなと。例えば僕はアイアンマンというトライアスロンもやってるんですけれど、1レース3000人ぐらい出て、一人12万かかるんですよ。でも、年間売り上げで5億ぐらいの企業価値があると言われているんです。
アイアンマンでは、ゴールした人は全員勝者だと、そういうコピーがあるんです。順位じゃない、タイムじゃない、ゴールした人は全員勝者だっていう格言があって。30歳から80歳ぐらいの人までゴールしてるんですね。僕はそれに凄くリスペクトがあって、K-1マスターズもそうなるのかなって思っています。K-1というブランドと、K-1マスターズっていうものの価値を皆さんが理解していただければ。勝者だけが勝者じゃないんですよ。
みんな仕事をしていて時間を割いて、身を削って出るわけじゃないですか。出てもお金にならないですよ。アイアンマンと一緒で、K-1マスターズに出た人間は全員が勝者なんです。ただ、試合に勝ち負けがあるだけ。マスターズには敗者はいないと僕は思っていますね」