MMA
インタビュー

【MMA】堀口恭司戦から10年半、デメトリアス・ジョンソンが語る、堀口の変化「今、彼の強みは対戦相手に応じて戦術を適応できる点にある」

2025/11/21 21:11
『ONE173』に合わせて来日した、元ONE&UFC世界フライ級王者のデメトリアス・ジョンソン(DJ)が、大会前にグラップリングセミナーのため、東京・練馬のTRIBE TOKYO MMAを訪れた。  当初は、プロ練習視察、セミナー指導のみの予定から、DJは到着早々、当たり前のようにラッシュガードに着替えて、「他の人と一緒に練習する機会があるなら、そうするべき」と午前のプロ練習から参加。すでにMMAのトレーニングはしていないといいながらも、いまなお試合にも出ている柔術の動きをスパーリングに採り入れ、「彼らが何をしたがるかを見て、俺がどう動くだろうか、彼らがどれだけ強いかを見ようとした」と、連続スパーリングを行った。  2カ月前には、UFC世界バンタム級王者のメラブ・ドバリシビリとトレーニングセッションを行い、同じラスベガスではマイキー・ムスメシ、12月7日に平良達郎と対戦するブランドン・モレノとも練習を行っている。  現役を退き、間合いと攻防のなかで巧みに動くDJは、いまのMMAへの心境、11月23日にUFC(U-NEXT配信)に復帰する戦友・堀口恭司についても語った(前回からの続き)。 堀口は、パントージャやアドリアーノ・モラエスとATTで一緒にトレーニングしている。世界最高のフライ級選手たちとトレーニングしているんだ。だから、問題ないはずだ 【写真】2015年の堀口恭司とDJ。試合後に日本で邂逅した。 ──ボトムからレッグロックをしているシーンを多く見受けられたような気がします。 「俺が下になった時、ただ自分のフレームをキープしようとして、動いて、彼らがパスガードをするか様子を見るんだ。今は昔と違って、俺は柔術をやってるから、ラッソーとかスパイダー、デラヒーバ、またはリバースデラヒーバのような技が好きなんだ。で、MMAの場合は、そこに集中していると顔を殴られてしまうから、実際それはできないだろう? だから俺は、“もしMMAの選手にリバースデラヒーバをやったらどうなるだろう?”とか、“ニーシールドをやったらどうなるだろう?”って考えに集中していたんだ。何人かの選手は今日ドロップダウンしてきて、一人の選手にはヒールフックを極められた。俺はもうそういうポジションでは戦わないから、色々試してみて彼らが自分のカリキュラムに対してどう反応するか試したんだよ」 ──なるほど。このTRIBE TOKYO MMAは日本のトップクラスのMMAジムの一つです。トップレベルのファイターたちのスキルについてどう感じられましたか? 「良かったと思う。ボディロックがすごく上手い。足払いも上手かった。レッグロックにもすごく精通している。何をすべきか分かっているんだ。打撃を恐れていないし。どれだけ……って驚いたんだけど(笑)、亮(長南)が俺たちにやらせようとしていたドリル、テイクダウンしてから、押さえ込んだり、立ち上がったり──あれも、ハイレベルだよ。それに、このジムの若松佑弥とは前に戦ったことがある。彼はとても強い。たくさんの人をノックアウトしているし。アドリアーノもノックアウトした。彼はONE Championshipのワールドチャンピオンだ。和田竜光もいるだろ、彼はONE Championshipでとても長く戦っている。亮は最高レベルで戦ってきただろ。だから、みんなが上手いことに驚きはなかったよ」 ──今日、あなたが最後に教えていたテクニックは、最近のMMAでスクランブルに相手を動かさないようにする動きとは反対に、相手を動かすという方法のように感じました。 「今、俺のキャリアについて言えば、もうやり方が違うんだよ。俺はいつも相手のミスを利用して、彼らの自然な反応の裏をかく必要があった。それができれば、ただの反応として見えたものに、俺はペナルティを与えられたんだ、わかるだろ? それと、当然だけど、打撃で思いっきり殴りつけたり、テイクダウンをさせないようにしたり、ボディキックやプッシュキックを打ったり、実際にパンチを当てたりするとなると、それはまた別の試合になる。相手を動かしてやろうって? 俺はめちゃくちゃ速く動くよ。嘘じゃなくて、俺はただ前に出るだけ。彼らが俺の動きに反応し始めた時、その時が、俺が次にどうするか、あるいは何を打ち込むか決める瞬間になるんだ」 ──動いて反応を引き出し、そこを突くと。「そう、俺がスタンドで速い動きで打撃を出しても、相手がそれに対応してきたら、そこを変えて組みに行く。それで相手が組み始めたら、また打撃に戻る。どちらが主導権を握っている? 相手に試合の流れを決めさせない。決めるのはこっちなんだ」 ──さて、土曜日の夜(日本時間11月23日0時からプレリム、3時からメインカード)には、かつてあなたとタイトルマッチを戦った堀口恭司選手がUFCに戻ります。どうなると思いますか。 「彼は良い状態だと思うよ。堀口恭司は、もう歳もキャリアも重ねた(35歳・プロ15年)時期に来ていると思うんだ。たくさんの怪我と、たくさんの試合をしてきた。ノックアウトもされたし。朝倉海にノックアウトされ、セルジオ・ペティスにもノックアウトされたけど、そのあと、彼はきちんと勝ち返している。だから恭司は面白いんだ。負けて、勝つ。負けて、勝つ。それで今はUFCに戻ってタギル(ウランベコフ)と戦う。彼は125ポンド(フライ級)に階級を戻したから、どうなるか楽しみだね。俺は結局のところ──恭司はもうすぐ36歳だろう? まだ若いよ、大丈夫だと思うよ。彼がUFCで戦うことになったから、UFCはもっと面白くなるだろうね。でも、彼はアレッシャンドリ・パントージャやアドリアーノ・モラエスとATTで一緒にトレーニングしている。世界最高のフライ級選手たちとトレーニングしているんだ。だから、問題ないはずだよ」 ──対戦した人間として堀口恭司の強さをどう感じていますか。 「彼のキャリア初期の強みは、非常に速く、距離を保ちながら相手の動きを察知し、ブリッツ(稲妻)のようにただひたすら相手を打ちのめすことだった。俺はそれを虚空(ヴォイド)と呼んでいる。しかし今、彼の強みは対戦相手に応じて戦術を適応できる点にあると思う。それは主にコーチングの成果だろう? だって見てみろ、朝倉海戦を。朝倉海は距離で保ち、 ヒザを打って相手をぶっ飛ばすんだ。そこから堀口はカムバックしてカーフを蹴った。彼は“イージーファイト”だって言ったね。セルジオ・ペティス戦では、セルジオが蹴りを放ちそのまま回転してドーンとバックフィスト。ノックアウトされたが、堀口はまた戻ってきてペティスを叩きのめした。だから彼は試合への適応力とコーチの指示を聞くのが非常に上手いんだ。だからこそ彼の最高のスキルセットは過去のものだと思う。かつては相手を圧倒するスピードだった。だが歳を重ねるほど、より多くの試合を経験する。テイクダウンも混ぜてより賢く戦うようになる。なぜなら身体は以前とは違うからだ。だから賢くなった。それがより良いことだと思う」 ──以前戦ったときとあなたも異なるように。 「1000%だよ。うん。俺がキャリアの真っただ中にいた頃は、違ったね。レスリング、レスリング、レスリング、レスリングって感じだった。今は違う。繰り返すけど、俺はもう戦っていない。でも、戦っていた時、ロッタンと戦った時、俺は彼をテイクダウンした。俺はただ、相手の弱みにつけ込める場所で戦うんだ。アドリアーノは身体も大きいし、グラップリングが強いから、自らテイクダウンしようとはしないだろ? 俺は彼とスタンディングで戦う方が良い。それでとにかく動く。彼は俺に組みつくことができなかったから、俺はずっとクリンチで彼を打ち負かした。もし彼が組むことができていたら、俺はまた別の何か違うことをしたかもしれないけど、彼は組むことができないと気付いたんだろうね。ロッタンと戦った時は、スタンドで戦う必要があった。2ラウンド目には、『グラップリングできないろう?、テイクダウンしてやるよ』って感じだった。だから彼をテイクダウンしたんだ。  そして、戦うことに関して言えば、俺は今日皆にも言ったけど、戦うこと(Fighting)と競うこと(Competing)は二つの異なるものだと思う。戦う時は、ただ戦うだけだけど、競い合う時は、ここに座って和田竜光の映像をしっかり見るんだ。俺は“和田竜光はどこで何が上手い? ああ、、彼はここに穴があるな。彼はこれは上手いが、これはそうでもない。よし、彼が上手くないところで戦おう”ってなる。それが俺がキャリアの中で得意としていたことだ。例えば、若松佑弥との試合も振り返ってみてほしい。彼は立って試合をしたがったけど、俺は、そうならば“彼とレスリングをしてやろう”ってなったんだ。佑弥とは立って試合しちゃいけない。レスリングをするんだ。彼に背中を着けさせてギロチン、それで完璧。彼が立って勝負しようとうとしたら、ノックアウトされるかもしれない。ノックアウトされたくはないだろう?」 ──和田竜光選手はあなたが今日教えていた、必要のない間合い・場面でエネルギーを使いすぎないという事に非常に共感しているように見えました。 「あぁ、戦いの中でエネルギーを無駄にすることは、もう今の俺にとって意味がないと思うんだ。必要になる瞬間はあるけど、そうしなくてもいいくらい上手くなっているべきなんだと思う。その方が理にかなっているだろ。変に聞こえるのは分かるけど、今日のトレーニングみたいに、力を入れずに全ラウンドをこなして、動き回り、物事を見ることができるような地点に到達したいんだ。そして、それが重要だと思う。なぜなら、明日、また次の日、またその次と、それを繰り返すために、フレッシュでいなきゃいけないからね」──あなたはファイティング(戦うこと)とコンペティション(競うこと)は違うと仰いましたね。相手によって状況は違ったのか、それとも、キャリアの途中でスタイルを変えられて、両方をすべて採り入れているのですか? 「ああ、それは、俺がセフードとの試合から学んだことだ。例えば、俺がこの人に勝つとする。ノックアウトするか、一本勝ちすれば、僅差で彼に勝ったんだ。それは理にかなっている。でも、全てがめちゃくちゃ拮抗している時、あなたは“テイクダウンした。抑え込んでいる。よし、ガードをパスした、バックを取った。よし。俺が勝っている”と競い始めなければならない。戦うことに関しては、俺はただ最初から最後まで戦い続けるなんて考えてない。それは、アドリアーノと戦った時でさえ、俺がやったことなんだ。競うけど、それよりも戦う。競うけど、戦う、もしそれが意味をなすなら、変だったよ。例えば、“よし、よし、俺はここにいる。キックを蹴った。彼が俺をテイクダウンした。よし、今は競っていない。今はあなたと戦っているんだ”って感じ。でも、立ち上がったら、“よし、今度はあなたと戦っている。競っている。鋭い。よし、これをやっているように見せないと”ってなる。“これをやった。彼が俺をテイクダウンした。よし、今はあなたと戦っているんだ”って感じで、それは“行ったり来たり”するんだ。うん。著作権使用料を請求しないといけないな(笑)」 ──和田竜光選手のオタツロックの攻防は、いまや必須の動きになりました。 「そう、あれだけリーチが長い選手が小さい選手と戦うとき、ボディトライアングルを許すと、抜け出すのは受けている方は本当に大変なんだ。俺は実際に和田竜光に肋骨2本折られてるかね。和田竜光が俺に組みついた時、俺が回ろうとしたら、“パキッ、パキッ”って鳴って。“クソッ”って思ったよ。だから、俺が言いたいのは、戦うことはビジネスなんだ。ビジネスなんだよ。今は俺の考え方が違う。引退したから、戦いを見るときは、ビジネスとして見ている。“ねえ、君は売れる? 勝てる? 注目を集められる? 視聴者はいる?”ってなる。もしその人がそれらを持っていなくても、彼らはめちゃくちゃ上手いかもしれない。でも戦いでお金を稼げないなら、それは意味がない」 ──ビジネスって仰られましたが、皆が楽しんでいるように見えていました。 「ああ、すごく楽しかったよ。さっきも言ったけど、これには二つの側面があるだろ? ジムで週に5、6日トレーニングしていた時は、ビジネスじゃなかった。それはスポーツだった。俺はもちろんそのスポーツが大好きで、情熱を注いでいた。今は引退した。だからその時の戦いを見るときは、ビジネスとして見ているんだ」 ──ラスベガスでは、マイキー・ムスメシ、ブランドン・モレノ選手ともトレーニングしていましたね。 「以前彼と一緒にトレーニングしたことがあるよ。うん、彼も良い選手だ。うん、うん、彼らとトレーニングする時、“MMAは時代が変わった”と感じるんだ。2013年に俺がトレーニングしていた頃は、誰も今みたいにトレーニングしてなかった。YouTubeを見てる奴らもいるし、週に5、6日トレーニングしまくっている奴らもいる。俺はもうそれをやってない。ただやってないんだ。だから、それが彼らの全てだという誰かと一緒にマットに上がると、それは……キツくなるだろうね。今日のトレーニングがそうだったか? キツくはなかった。でも同時に、俺にはエゴがない。“俺はここにいる全員を打ち負かすべきだ”なんて思ってない。いや、そうすべきじゃない。もし俺がここの誰かに勝ったとしたら、それは彼らが十分にハードにトレーニングしていないってことだ。だって俺はもうトレーニングしてないんだから。理にかなってるだろ。世界一のマイキーと練習する時、彼が毎日ひたすら練習してる……ああ、頑張ってねって思うよ。  MMAっていうのは“勝つ! 勝つ!“”って勝利辺倒に陥りやすい。大事なのはいつも勝つことばかりじゃなくて、世界中のいろんな人から学び、成長することだ。試合も同じ。俺は自分自身もKOされてきたし、俺が相手をKOもしてきた。かつて和田竜光と最高の試合をした。若松佑弥とも戦い、今や若松佑弥はONEフライ級世界王者だ、俺のことをKOしたアドリアーノをKOして、チャンピオンになったんだ。MMAっていうのは本当に過酷で熾烈なスポーツだからこそ、練習を一緒に楽しめるようないい人たちに囲まれて、楽しんでほしい」 ──あなたも楽しんでるみたいで良かったです。 「ああ、確かに楽しんでるよ。本当にありがとう。ぜひ、みんなも試合をU-NEXTで見てみてほしい。アリガトウコザイマス」
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