MMA
インタビュー

【UFC】朝倉海と対戦するティム・エリオット「“ゲートキーパー”で結構。フライ級でティム・エリオットに勝てないなら、UFCに出場する資格はない」

2025/08/14 16:08
 2025年8月16日(日本時間17日)米国イリノイ州シカゴのユナイテッド・センターで開催される『UFC 319: Du Plessis vs. Chimaev』(UFC Fight Pass/U-NEXT配信)にて、朝倉海(JAPAN TOP TEAM)とティム・エリオット(米国)が対戦する。 ▼フライ級 5分3Rティム・エリオット(米国)20勝13敗(UFC9勝11敗)11位朝倉 海(JAPAN TOP TEAM)21勝5敗(UFC0勝1敗)15位  エリオットはフライ級11位。朝倉は元RIZINバンタム級王者で現UFCフライ級15位。  朝倉は、2024年12月のUFC初戦で同級王者アレシャンドレ・ パントージャ(ブラジル)のベルトにいきなり挑戦も、2R リアネイキドチョークで一本負け。今回は約8カ月ぶりの再起戦となる。31歳。  兄の朝倉未来はじめ、柔術家の竹浦正起、打撃トレーナーの小倉將裕ら新体制で今回のシカゴ大会に臨む。  対するUFCベテラン38歳のエリオットは、大学時代に4度オールアメリカンに輝いたレスリングベースのグラップラー。2009年にプロMMAデビューすると、2011年12月の『RFA 1』で元UFC世界ライト級王者のジェンス・パルヴァーにヒザ蹴りでKO勝ち。2012年5月にUFCデビューし、ジョン・ドッドソンに判定負けも2連勝。その後、3連敗でUFCをリリース。  2015年7月にTitan FCフライ級王座につくと3連勝。世界のフライ級王者が集う『The Ultimate Fighter: Tournament of Champions』出場メンバーに選出され、TUF4連勝。2016年の決勝で扇久保博正に判定勝ちでUFCと再契約を果たした。  優勝者として、2016年12月にUFC世界フライ級王者のデメトリアス・ジョンソンに挑戦し、得意のギロチンを仕掛ける場面も作ったが、5R判定負け。  2度目のUFCの戦績は7勝7敗の五分。近年では、堀口恭司と対戦予定だったタギル・ウランベコフに2022年3月に判定勝ち、ビクトル・アルタミラノに判定勝ちで2連勝後、2023年10月にムハンマド・モカエフの肩固めに一本負け。  2023年12月の前戦では緊急参戦でス・ムダルジを1R 肩固めに極めた。2024年5月に平良達郎との試合が組まれるも前十字靭帯損傷でキャンセル。その後に怪我も重なり、今回は1年8カ月ぶりの復帰戦となる。その間、2025年3月にはEBIのグラップリングに参戦。アレクシス・トーレスに三角絞めで敗れている。  当時10連勝中だったモカエフとの試合では、1Rと2Rにタックルにギロチンチョークを合わせ、2Rにはスラムで外されたものの三角絞めも仕掛けたエリオット。最終回に肩固めに捕まって逆転一本負けを喫したが、無敗のモカエフを苦しめた。  前戦では、ス・ムダルジを寝技に誘うために打撃が効いたふりをするなど老獪な動きのなか、シングルレッグでテイクダウン。蹴り上げをさばいてガードパス。サイドからダースを狙いながらヒジ打ち。左脇を開けさせて1R 肩固めを極めている。  20勝中7つの一本勝ちと3つのKO・TKO勝ちをマークし、10の判定勝ち。KO・TKOによる黒星は、デビューした年に1度のみ。それ以降は、打撃でのフィニッシュは許していない。  ギロチン、ダース、アナコンダチョークの首系の極めに加え、下からの三角絞めも得意としており、その強いグラップリングを武器に、スタンドでも左右スイッチして間合いを潰してシングルレッグテイクダウンからサブミッションを狙う。勝負所での押さえ込みも強い一方、一本負けを6度記録しており、諦めが早く試合のムラがあるのも特徴だ。  前戦でパントージャのプレッシャーに後手に回った朝倉海にとって、今回もグラップリングの強いエリオット相手に、いかにスタンドで立ち合えるか。今回は打撃の比率を多くして戦いたい、というエリオットだが、朝倉としては、トリッキーでスクランブルに強いエリオットに付き合わずにいかに断ち切れるかが鍵となる。  パントージャが示した攻略法をエリオットが参考にしてくるなか、朝倉はパントージャ戦の課題を克服し、自身の間合いを崩されたときのステップやアングル、テイクダウンディフェンス、カウンターの打撃でエリオットを削って勝機を掴めるか。  王座戦の5Rと異なり、今回は3R。初のUFCでフライ級に戻しての一発勝負だった前戦の125ポンド(56.7kg)に比べ、非タイトル戦3Rの126ポンド(約57.2kg)は、朝倉にとってより戦いやすい環境となるだろう。また、TRIBE TOKYO MMAでの出稽古と、セコンドの柔術家・竹浦正起との取捨選択のなかでいかに戦略を立てたか。  日本人UFCファイターでは、8月2日に同じフライ級5位の平良達郎が、急遽対戦相手変更のなか、パク・ヒャンソンを2R フェイスクランクに極めてブランドン・ロイバル戦の敗戦から再起。同日にバンタム級の中村倫也もネイサン・フレッチャーを1R、左三日月蹴りを効かせて左ストレートでダウンを奪ってのパウンドで62秒 TKO勝ちで、ムイン・ガフロフ戦での初黒星から再起を遂げている。  しかし、9日のUFCバンタム級では風間敏臣がUFC連勝を目指したが、エライジャ・スミスに1R スラムによるKO負けを喫した。  日本人UFCファイター「8月決戦」の 4人目、トリを飾る朝倉海は、悪夢のパントージャ戦から8カ月、プレリム後のメインカードの第1試合に登場予定だ(※8月22日の鶴屋怜は負傷欠場)。  13日の会見でティム・エリオットは、「誰もが“ゲートキーパー”(門番)を軽蔑しているようだけど、俺にとってはそれは妥当な評価だと思う」と謙虚な言葉と同時に、朝倉について「この試合の問題は、海が今度は俺と戦うことになったこと。2人のタフな相手と連続して戦うことになるんだ。2連敗は彼にとって本当に痛手だと思う」と語った。  下記は会見でのティム・エリオットとの一問一答。 [nextpage] エリオット「日本のファンは本当に格闘技が好きなんだ。その国を訪れて直接見てみたいと思わせる」 ──Xに投稿したシカゴの素晴らしい景色についての動画を見ました。到着してからファイトウィークはどうでしたか。 「本当に最高だったよ。シカゴにはあまり滞在しなかったけど、最初の数夜はウィッカーパークに泊まった。すごくクールな場所だった。最高の地区だよ。食事も最高で、人々は本当に親切だった」 ──コンディションはいかがですか。 「正直、これ以上ないほど良い。毎回どんどん良くなっている」 ──あなたはこのスポーツ界で長く活動していて、大きな大会で戦ったり、厳しいジムでトレーニングしたりしてきました。ただ、今回のスポットライトはあなたにとって新しいものだと思います。朝倉海のような選手は、彼の名前が挙がると熱狂的なファンがたくさんいて、彼に対する期待がすごく高い。そんな海を相手にするのはどうですか。 「この対戦は本当に嬉しかった。UFCで戦った経験もあるし、USADAの後もUFCで戦った。大きな舞台でも小さな舞台でも戦ってきた。でも正直、海と戦うことで、ペイパービューのパート(メインカード)に出られるチャンスを得られたんだ。つまり、海と戦うからペイパービューのパートで戦える。それには少し感謝しているんだ。ここにいることが嬉しくて好きだ。でも、俺は長年この世界にいるのにペイパービューのカードで戦う機会はほとんどない。だから、それは全て彼次第で、彼がやっていることなんだ」 ──あなたはUFC以外のMMAも観戦するようですが、海が別のプロモーション(RIZIN)でバンタム級でチャンピオンになる前に、彼についてどれくらい知っていましたか? 「少しだけ知っている。彼が俺の友人である(扇久保)博正と戦ったこと、博正と俺は互いに戦っているから(TUF決勝)。また、俺の友人であるフアン・アーチュレッタが海と戦ったことも知っている。彼は俺がデメトリウス・ジョンソンと戦った際にセコンドを務めてくれたからね。海は1発で試合を決める破壊力ある打撃を持ち、テイクダウンに強烈なヒザを合わせることができるファイターだ。  でも、今では相手の試合のビデオをあまり見ないんだ。それは一種の抑止力になる。相手の試合を見ると、彼らがやる良いことしか見えないから。自分の試合を見ると、悪いことしか見えてこない。だから、キャリアのこの段階では、(対戦相手の分析は)コーチに任せるようにしている。自分はそうしないようにしているんだ。試合を見るのは好きだよ。でも分析はしないようにしている。なぜなら、俺は考えるタイプではなく、行動するタイプだから。ただ出て行ってやるだけ。もし考えすぎると、それは俺を妨げるだろう。  彼が誰なのかは知っているし、素晴らしいアスリートで、素晴らしいファイターであることも知っている。でも正直、彼の試合をたくさん観たわけじゃない」 ──その点から、王者パントージャと海の試合を観ましたか? 海はさきほどの会見で「リングで戦うことに慣れていたので、ケージに慣れていなかった」と言っていました。今や彼は経験を積んだので、ファンは異なるパフォーマンスを期待すべきでしょうか。 「ああ、そうだろうな。かなり違う。もし俺がリングで戦っていたら、同じように感じるだろう。彼は最高の自分を発揮するだろうと期待している。リングに入ったことはないから、その一つだけでは足りないけど、彼は結局のところファイターだ。本当に上手い。戦う場所や方法は(もう)それほど差はないだろう。あと、彼はギロチンチョークをもらうと思うから、ケージがどう関係するかな」 ──普通、アメリカ人が海のような人気のある選手と戦う時、日本のファンだけでなく──例えばムハンマド(モカエフ)と戦った時のはあなたへのメンションやDMに多くのロシア人ファンが反応したと思います──では、この試合に向けて日本のMMAファンはあなたをどう扱っていますか? 「彼らは完全に違うんだ。多くのロシア人は俺をあまり好きではないかもしれないけど、日本のファンは違う。彼らは単に格闘技のファンであり、他のことは気にしない。戦いたいと思っていること、そして良い試合を見せられることが重要なんだ。多くの人が何でも批判する。髪型やスタイル、“これが退屈だ”とか、“あれがどうだ”とか。でも日本のファンとはそんなことは一切ない。それだけでなく、本当にその国を訪れて直接見てみたいと思わせた。この試合後、朝倉海と相撲の試合に参加しようかって話すらしたくらいだ。なぜなら、俺はビーチレスリングの経験があって、ビーチレスリングの全国チャンピオンだからね。 それは相撲と少し似ている。だから、どうだろう、見てみるのはクールだ。  とにかく、日本の格闘技ファンは格闘技が好きなだけで、それだけさ。他のことは本当に重要ではないんだ。なぜなら、それが俺たちがここで行っていることだから。それが全てだ」 ──ところで今回のメインイベントのミドル級王座戦ドリカス・デュ・プレシvs.ハムザト・チマエフについて、あなたの意見を聞きたいです。 「本当に、俺はずっと迷っているんだ。チマエフは本当に大きく、止まらないように見える。俺はチマエフを選ぶ。彼はまだ多くの試合をしていないけど、彼が戦うたびに、いつも観戦するのが楽しみになる。でも、つまり、これは“厳しい戦い”になるだろう。非常に興味深く興奮する。賭けるかどうかは分からないが、俺は彼を選ぶ。彼は大きすぎて強すぎる」 [nextpage] 戦う意欲や欲望は「チャンピオンになりたい」とか「勝つため」だけじゃない。戦うことが好きなんだ ──UFCで20試合を戦ってきましたが、あなたは階級転向を経て、このフライ級に戻ってきました。どんな変化がありましたか。 「ずっとこの階級を廃止する予定だったんだ。そして、フライ級全体で4~5人しかいなかった頃を覚えている。でも、俺は常に信念を貫き、その階級に残ろうとした。135ポンドで戦うことはできるけど、俺はUFCでフライ級の道を切り拓いた一人だと感じているよ。ジョン・ドッドソンやイアン・マッコールと共に。当時は選手数が少なかったけど、今は状況が違う。今やここでは多くの強豪がおり、最も興奮する部門の一つだ。常に興奮する部門だったけど、今はスター選手がいて、タイトルもマイティ・マウス(DJ)からパントージャに変わった。今後は誰がチャンピオンになるかも未定だ。良い選手がたくさんいる。俺の『ジ・アルティメット・ファイター(TUF)』のシーズンで、異なる国から来た“野蛮人たち”がいたのを見た。だから、続けてきてよかったと思う。俺のレガシーは最高ではないかもしれないが、この階級を維持する一員として常にいるだろう」 ──そして、あなたの最後の試合は2023年12月でした。土曜日(日本時間日曜日)に海と対戦する際に、リング錆(ringrust=リングから遠ざかることで試合感覚がズレること)や調子の悪さを心配していますか? 「正直、心配事はたくさんあるけど、リングラストは特に心配していないんだ。この地球上で自信を持ってできることはほとんどないけど、死の床に伏せても、15分間は戦えると思う。たとえスタミナが持たなくても、それでもリングに立って良いパフォーマンスを見せられるはずだ。  確かに歳を取ってきて、年齢を感じ始めているけど、戦う意欲や欲望は“チャンピオンになりたい”とか“勝つため”だけではない。戦うことが好きなんだ。UFCで報酬を得ていなくても、デニーズの駐車場で戦っていただろう。だから、好きなことをして生計を立てられる幸運な一人であることに感謝しているよ」 ──あなたはまだこの階級で11位にランクインしています……。 「それはおかしいな。俺は600日ほど試合をしていないのに(笑)。この人たちは一体何をしているのかな」 ──海を倒した場合、トップ10の中で戦いたい相手は他にいますか? 「戦いたい相手はたくさんいる。誰もが“ゲートキーパー”(門番)を軽蔑しているようだけど、俺にとってはそれは妥当な評価だと思う。フライ級でティム・エリオットに勝てないなら、UFCに出場する資格はないだろう。俺はそれでいいと思っている。この試合の問題は、海が(日本で)パントージャのような存在で、今度は俺と戦うことになったこと。2人のタフな相手と連続して戦うことになるんだ。彼が立ち直れないと言っているわけではないが、2連敗は彼にとって本当に痛手だと思う。  俺はUFCチャンピオンになるつもりはないし、たとえなったとしても、それは俺の立場を目指している若い選手たちから何かを奪うことになるだろう。今、俺がやりたいのは、興奮する試合を繰り広げ、自分がやっていることを楽しみ、お金を稼ぐことだ。でもトップ10には戦いたい相手が山ほどいる」 ──ここでその件についてフォローアップすると、あなたはUFCチャンピオンにはならないと思っているのか? それがあなたの言いたいことか? 「それは俺がそう思っていないわけではなく、単に俺の目標は世界チャンピオンになることではないからだ。俺はそれに特に興味はない。お金も同じ。俺はただ、良いパフォーマンスを披露し、興奮する試合を繰り広げ、この仕事で家族を支えられるようにしたいだけだ。2010年から続けているこの仕事は、俺を多くの場所へ連れて行ってくれた。最も重要なのは、娘と多くの時間を過ごせること。ベビーシッターを雇う必要もなかった。みんなが見てくれたからこそ、それができたんだ」
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