2025年7月27日(日本時間28日)、メキシコ・モンテレイのヒムナシオ・ヌエボ・リオン・ウニドにて『Eddie Bravo Invitational 24: The Bantamweights』(EBI24/UFC Fight Pass配信)が開催され、高橋“SUBMISSION”雄己(和術慧舟會HEARTS)がコンバット柔術ルールのバンタム級16人制トーナメントに出場。1日4試合を戦い抜き、見事、優勝を果たした(photo by @buendiasp)。
グラウンドでの掌底打撃が許されるコンバット柔術への高橋の参戦は、2023年大会以来、2度目。前回は準々決勝で敗退したが、今回は英国のサブオンリー大会Polarisと欧州独占契約を結んでいるなか、テクニックとフィジカルを磨き、メキシコ開催のEBI参戦を決めた。
▼バンタム級1回戦 1R6分〇高橋“SUBMISSION”雄己(日本)[2分24秒 外ヒールフック]×ウリエル・ウリベ(メキシコ)
1回戦でウリエル・ウリベと対戦した高橋。ウリベはMMA7勝5敗の29歳で、メキシコのLux Fight Leagueで6勝4敗。高橋はプロ修斗でMMA2勝1敗の戦績も持つ。
試合は開始早々、ウリベがダブルレッグテイクダウン。後方に倒れながらそのまま頭を押えてフックガードから足を跳ね上げてスイープした高橋が上に。その立ち際に迷いなく右の掌底を叩き込む。
下からシングルレッグでこかすウリベに、高橋は左で差して立ち上がり。押し込んできたウリベを左差しのまま、再び股間に足を入れて後方に投げてハーフで押さえ込み。上体を上げると右手で顔を叩いてパスガード。
サイドからニーオンベリーで押さえ込む。ウリベが体を起こすと掌底。亀になるウリベをがぶる高橋は首を狙うと、ウリベも跳ね上げて高橋を前転させて首を抜く。
スタンドに。組み手争いからツーオンで左腕を手繰りつつシングルレッグのウリベに掌底を叩く高橋。下になりながらチョイバーを狙う。ウリベが右の掌底を入れるが、潜る高橋は左足を取り、ヒールフックへ。
両足をクロスして防ごうとするウリベに足を抱えてトップを取る高橋はウリベの上に座って外ヒールを極めてタップを奪った。
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準々決勝は難敵ヴァスケスをオーバータイムで下す
▼バンタム級準々決勝 1R8分〇高橋“SUBMISSION”雄己(日本)[オーバータイム]×マニー・ヴァスケス(メキシコ)
準々決勝の相手は、MMA12勝4敗でBellatorで1勝。DWCSにも出場している10th Planet Lombardのマニー・ヴァスケス。1回戦でエドゥアルド・ヴィラーをボディトライアングルからのリアネイキドチョークを極めている。
組手争いから引き込んだ高橋は、ガードから掌底。ハーフガードからバタフライ。ヴァスケスは右の掌底を真っ直ぐ、アッパー気味に打ち分け叩き込む。煽り跳ね上げる高橋。右で脇差しシッティングで頭を肩につけて密着。フックガードから両足を股間に入れて跳ね上げて立ち上がり。
長身から後ろ頭を掴んで圧力をかけるヴァスケスに、高橋は引き込みシッティング。ヴァスケスは両ヒザを着いて左で頭を押えて固定し、右アッパー掌底を叩く。頭で頭を押して掌のひらでも頭を叩くヴァスケスに、潜りを狙う高橋。ヴァスケスはボディロックでパスを狙うと、高橋はチョイバーの仕掛け。さらに自身の頭を遠ざけて、右の掌底でヴァスケスを叩く。
腕をクラッチしてから引き抜いたヴァスケス。組手争いで押し込むが、高橋はみたびシッティングでバタフライガード。左ヒザを外に出して左前腕を顔に当てて固定し、右の掌底のヴァスケスに、高橋はニーシールドを外して潜り! 足を手繰りに行くがヴァスケスにも足を飛ばして、両者立ち上がり。
引き込む高橋にボディロックパスを狙うヴァスケス。バタフライにする高橋は頭を引き付けアゴ下に頭をつけて左の掌底を連打。ヴァスケスも右の掌底をボディ、頭と打ち分けるが振りかぶっての強い打撃は高橋も打たせず。
オーバータイム。最初はヴァスケスがバックから。ボディトライアングルに組んだヴァスケスに脇を潜り、腰をずらして正対した高橋。39秒エスケープ。
次は高橋がバックを選択。たすきからワンハンドで肩を抱いて首を狙う高橋。ヴァスケスの正対に、マウントを合わるも37秒。
2回目のオーバータイム、ヴァスケスは、またもバックから身体を反らせてすぐにボディトライアングル。ダブルアンダーで両脇を差してから右で首を狙うヴァスケスに左を向いて横ローリングの高橋は、背後からのヴァスケスの掌底も防ぎながら腰を回して正対し脱出。
高橋は再びバック。上半身を少し横にずらしながらもおたつロックを組むと、ボディトライアングルで伸ばした右足をヴァスケスの左足にかける。ヴァスケスは右足首を高橋の右足首にかけておたつロックを解除しようとするが、諦める。正対を試みるヴァスケスだが、右足のフックが効いて向き直れず。再び右足首で解除しようとしたところでホーン。
3回目のオーバータイム。ヴァスケスはバックから。ここも後方に引き込み、一気にボディトライアングルを組んだヴァスケスは左ヒザ裏で4の字を組むと、伸ばした左足を高橋の左ヒザ裏に外からフック。そのフックを外そうとする高橋に左腕でアゴ上から絞めに。ここを凌いだ高橋! 左脇を潜り、右回転。外側のおたつロックで正対を防ぐヴァスケスに、さらにもう1回転でロックを外して向き直り、エスケープ! 場内が大きく沸く。
今度は高橋が3度目のバックから。足をおたつに組ませないように手を伸ばすヴァスケスに内側のおたつロックを組んだ高橋。上はたすきで頭をヴァスケスの横につける。
手のクラッチを剥がすヴァスケスにすぐに組み直す高橋。非常に力のこもるハンドファイトの攻防に「頑張れ」の声。指のクラッチを剥がされると自身の手首を掴んでクラッチする高橋。ヴァスケスはおたつロックを足で外して胸を合わせてホーン。
エスケープのタイム差で高橋の手が挙げられた。高橋が準決勝進出へ。
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準決勝も死闘、OTでスタンディングオベーションのRNCを極める!
▼バンタム級準決勝 1R8分〇高橋“SUBMISSION”雄己(日本)[オーバータイム] ※RNC×クリス・クロフォード(米国)
準決勝に勝ち上がって来たクリス・クロフォードは、1回戦でホゼ・サンドヴァルと対戦。サンドヴァルのリバースクローズドにストレートフットロックを極めて1分56秒で一本勝ち。
準々決勝では、UFCファイターのジミー・フリックと対戦。フリックのダブルレッグにクロフォードは左足でラバーガードを合わせてミートフックで肩を抱いて固定し、右手で掌底連打。フリックが頭をガードしたところで右足を上げて三角に組んで左腕を十字に極めている。26秒一本勝ち。2試合合計142秒のため、2回戦で3度のオーバータイムをこなした高橋と比べるとスタミナ消費が少ない形だ。
試合は、引き込む高橋が外掛けで足関節狙い。座ったクロフォードは右の掌底! バチンと音を立てて被弾した高橋は、一瞬のけぞるもすぐに左足に狙いを変えてストレートフットロックへ。そこに効いていないとガッツポーズを見せたクロフォードは、うつ伏せで絞ろうとする高橋にヒザを曲げて足を抜いてバックに。10th Planet所属のクロフォードにはホームともいえるEBIで歓声、コールが沸く。
亀で首を守る高橋だが、両足を差し込んだクロフォードは、ボディトライアングルに。左手首をコントロールし、右脇の下から高橋に掌底を打ち込む。唇を赤く腫れさせながらも右手でガードの高橋。
クロフォードは右腕をアゴ上からかけて左肩を抱いて絞めに。その腕を剥がした高橋も、背後に張り手も、笑うクロフォードは再び絞めに。リアネイキドチョークのヒジを押し上げて外す高橋に、会場からは「ユーキ」コールも。
ボディトライアングルを左側に組み替えたクロフォード。亀になりかけた高橋を再びバックマウントから引き込み。背後から顔面、脇腹に掌底を叩くクロフォード。ボディトライアングルを解除してシングルバックに移行し、ツイスター狙い。
極めさせない高橋をバックコントロール。高橋が亀になると腕十字を狙うと、その際で腕を抜いて立ち上がる高橋に大きな歓声が沸く。
残り2分。スタンドからシッティングガードになるクロフォード。立ち上がり、ヒザを着いたグラウンドの際で右の掌底を狙う高橋。
下から右足首を掴んだクロフォードに高橋もグラウンドへ。左足首を抱えて脇に挟んでストレートフットロックを仕掛けるもクロフォードが足を抜いてホーン。
オーバータイム。腕十字のスパイダーウェブを選択したクロフォード。二の腕をクロスしてディフェンスの高橋はすぐに内側を向いてヒザ立ちに。足を手繰らせずに腕を引き抜きエスケープ。クロフォードも握手を求める。21秒。
次は高橋のターン。バックを選択した高橋は、たすきから左腕を喉下に巻くことに成功! すぐに後ろ手を剥がしに行くクロフォードだが、右手は対角にタイトに回され届かず。諦めたようにクロフォードはタップした。
観客も実況席も大興奮。大歓声のスタンディングオベーションのなか、高橋が勝ち名乗りを受けた。
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決勝戦、エディ・ブラボーレフェリーの前で死力振り絞りおたつロック
▼バンタム級決勝 1R10分〇高橋“SUBMISSION”雄己(日本)[オーバータイム]×アイザック・コルドバ(米国)
決勝戦。レフェリーはエディ・ブラボーが務める。相手のアイザック・コルドバはここまで3試合、全て一本勝ち。
1回戦でケヴィン・ショナシーをサイド気味のマウントから脇を抱えて三角に引き込み、右足も抱えて横に倒したまま、3分14秒で三角絞め。
準々決勝では、リカルド・ハルタドのフックガードからの外ヒールを横回転で外してパス。シングルレッグのハルタドをまたいで横から三角絞め。右手で左足をすくって頭後ろで左手でロック。絞めてタップを奪っている。1回戦同様に正対せずに巧みに極めた形だ。この試合はわずか1分30秒。
準決勝では、マリオ・カラスコを相手にアグレッシブな攻めで圧力をかけてギロチン狙いから、脇差しパス。さらに左脇をかち上げて流してニアマウントから、左で枕、亀になるカラスコにサイドからリアネイキドチョーククラッチでほぼ下になって、2分10秒、肩固めを極めている。
対する高橋は1回戦は一本勝ちも、2試合連続でオーバータイムでの勝ち上がり。森安一好トレーナーとのフィジカル・スタミナ強化の成果を4試合目でどこまで発揮できるか。
試合は開始早々に詰めるコルドバに、高橋は1回戦から変わらず細かいステップ。組手でコルドバに頭を下げさせられるが、高橋は巴気味に引き込み。コルドバの激しいガードパスのアタックに潜りから外足を掴んでストレートフットロック! うつ伏せになって極めに行くが、足を抜いたコルドバが上体を起こしてバックへ。
バックマウントから強い右の掌底を連打! さらに両足をボディトライアングルに組んで、リアネイキドチョークへ。亀になる高橋に左手で対角の右脇を掴んで、右手で掌底のラッシュ! 右手を側頭部に当ててブロッキングの高橋は左手の掌底も打たれて前転してコルドバを背中の下に。
コルドバはボディトライアングルのまま上体を起こすと、ともに場外へ。2名のレフェリーが両者の足を引いて中央へ。コルドバがバックのまま再開。
ボディトライアングルからバックから強い掌握を突くコルドバ。高橋も背後に平手。ときおり背後に平手を打つ高橋だが、バックマウントから右の掌底を被弾。
コルドバの脇を潜ろうとするが、戻すコルドバのハンドファイトから首を狙うコルドバに組ませない高橋はみたび座って横回転でボディトライアングルをずらそうとするが、足を組み直すコルドバ。背後から顔を押さえて呼吸をし辛くさせるコルドバにブーイング。
ボディトライアングルから外側のおたつロックのコルドバにフックを外す高橋。コルドバが足を解いた瞬間に、亀になる高橋。そこに得意のバックからの三角を狙うコルドバ。前方に落として抜ける高橋に場内は拍手も、すぐに突進するコルドバ。片足立ちで凌ぐ高橋。場外に。
スタンド再開。組んで押し込むコルドバ。両腕を掴んで引き込んだ高橋はその際で右の掌底。顔を遠ざけ中腰になって足をさばこうとするコルドバのスペースに潜って右足を手繰る高橋は左足を掴んで足関節へ。コルドバが足を抜く際で掌底。残り1分30秒。
トップのコルドバのガードパス狙いに、足を戻す高橋は柔術立ち。中央へ。押し込むコルドバ。残り5秒に、観客はシンコ、クアトロ、トレス、ドス、ウノ! とカウントダウン。オーバータイムに期待する。
休む間もなく中央でオーバータイムに。先行のコルドバがバックから。
引き込み絞めるコルドバに背中と腰をずらしてボディトライアングルを組ませない高橋がわずか7秒でエスケープ!
次は高橋がバックに。左腕を徐々に食い込ませるが、コルドバも腕を差し入れて極めさせず。コルドバの横回転についていく高橋は足はかからずもリアネイキドチョークの組手に。ここはコルドバが内側を向いて外してエスケープ。45秒を費やした。
2度目のオーバータイム。腕十字からのコルドバ。腕を組んで防御の高橋はここも力強く内側を向いてトップに。コルドバは「ヒョードルスタイル」で下から足を抱えて頭を抜いて腕十字も、ヒジを抜く高橋がエスケープ。20秒。
続いて高橋のターン。バックコントロールから。右回転するコルドバに、ボディトライアングルを組んだ高橋が右足を対角の左腿内側におたつロック! 腰はずらしていても内側を向けないコルドバにツイスターのクラッチでキープ。フックを外したコルドバは47秒をかけた。
3度目のオーバータイム。腕十字のスパイダーウェブを選んだコルドバに、高橋はすぐに体を起こして上になり腕を引き抜いて、その勢いのまま後転。
エスケープのタイム差で高橋がコルドバを下し、EBIバンタム級トーナメント優勝。ベルトを巻いた。
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日本人史上初のEBI=メジャーリーグのタイトル奪取──人生に納得するために
「ニューEBIチャンピオン」とコールされた高橋は、マット上のインタビューで英語で「何て言ったらいいか、今日は僕のグラップリング人生で最高の日です。エディ、自分を招待してくれてありがとう。自分のグリップスキルを証明できたと思います。世界のベストステージに向かいます。UFC Fight Passで配信されていますよね。どうかUFC BJJのステージに」とマイク。
インタビュアーから「あなたはここで本当に特別なものを創り上げました。これはEBIやコンバット柔術で見た中で最も熱狂的な観客です。このタイトルを防衛するために戻ってきてもらえますか?」と問われ、高橋は「はい、もちろん戻ってきます。ビバ、メヒコ!」と語り、大声援を受けた。
「ずっと見てきた」というサブオンリーのPolarisと契約し、EBIのチャンピオンにも輝いた高橋は、今後、何を目指すか。
帰国後、本誌の取材に高橋は、「『ざっとこんなもんだ』と涼しげに言いたかったですが、かなり消耗戦の末の勝利になってしまいました。二回戦のマニー・ヴァスケス戦が本当にシンドくて、準決勝、決勝はバックを取らせ続けてこちらの運動量を抑えながら相手にも腕を消耗してもらおうという選択に出て……見栄えもクソもない内容でした。でも、今回トーナメント中で一番キツいところから勝ち上がったのは俺だったと思います。準決勝、決勝とほぼ秒殺で上がって来て体力を残してる相手にOTやった後に消耗戦を挑んで競り勝ったのは……自分でも自分にお疲れ様と言いたいです。これを人生で2度やれと言われたら2度とごめんですが、集中力・フィジカル・メンタルを限界まで使って勝ち切った経験は確実に今後の大きな糧になると思います」と、タフファイトを振り返った。
グラップリングで、日本人史上初のEBI=メジャーリーグのタイトル奪取の快挙に、高橋は「死力を尽くして挑んだもののやってのけてしまえば“こんなもんかな”という感じで。少し休んで、次はPolarisのタイトルを獲りに行きます」と、止まることはない。そこには、グラップリングと向きあう高橋の死生観が、そうさせているのだという。
「死ぬ時になって、例えば閻魔さまみたいな人が出て来て、『もう一回人生トライする?』って言われても『これ以上のパフォーマンスはもう出せないから、大丈夫です!』と言えるくらいの心持ちで他界出来るような人生を送りたい、という思いが、価値観の割と重めのところにずっとあって。競技生活の大きな目的はEBIとPolarisで王者になる事で、それがあれば、仮に将来死に際になっても人生に納得出来るかなと思っていたのですが、良い意味で、“死ねる理由”が一つ作れました。次はPolaris獲りに行きます。
そして、PolarisもEBIも世界最高のタイトルの一つではあると思うのですが、それは必ずしも『=世界最強』ではないです。PolarisとEBIのタイトルを通行手形に、マイキー(ムスメシ)なのか、その時の世界最強との試合をアピールします」と、その先も見据えた。
また、競技者のみならず、Level-Gプロデューサーとして、グラップリングの裾野を広げるためにアマチュア大会も企画中とのこと。
「サブミッションオンリーのグラップリングを、日本全国で楽しんでもらえるアマチュアトーナメントの開催準備を粛々と進めています。題して『Level-G オープン』。EBI王者の手掛けるグラップリングアマチュアトーナメント、近くリリースするのでどうぞお楽しみに!!(笑)」──ファイトネームに“SUBMISSION”を冠する高橋は、グラップリングを極める道を進む。