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インタビュー

【UFC】スラム失神KOの風間敏臣、CT検査は「異常無し」──極め切れなかったサブミッションと、救急搬送について

2025/08/11 21:08
 2025年8月9日(日本時間10日)米国ラスベガスのUFC APEXにて『UFC Fight Night: Dolidze vs. Hernandez』(UFC Fight Pass/U-NEXT配信)が開催され、三角絞めを持ち上げられてのスラムによりKO負けを喫した風間敏臣が、試合後すぐに待機していた救急車に搬送されCT検査。「異常無し」と診断されたことがUFCから報告された。  この項では、日本MMA界随一の柔術家である風間の足関節を含むサブミッションのトライがなぜ極まらなかったのか。その後のスラムKO後のUFCの迅速な対応がなぜ可能だったのかを、検証したい。 仕掛けは悪くなかった  この日のバンタム級では、風間敏臣(日本)が、エライジャ・スミス(米国)と対戦。前週の中村倫也、平良達郎のフィニッシュ勝利に続く、UFC日本人選手の「8月決戦」の3人目。翌週の8月17日には朝倉海、22日に鶴屋怜の試合も控えるなか、風間はUFC APEXのケージに立った。  風間は、2021年の『ROAD TO UFC』で中村倫也と決勝を争い、準優勝でUFCと契約。23年8月のUFCデビュー戦は、ギャレット・アームフィールドに1R TKO負けも、24年8月のハラランボス・グリゴリオウに2R、逆転の三角絞めでオクタゴン初勝利を掴んでいる。Me, Weに移籍して初の試合。28歳。  レスリングベースのスミスはMMA8勝1敗。2024年9月の『Contender Series 2024: Week 6』で欠場選手の代役として緊急出場。豪州XFC王者で当時無敗のアーロン・タウ(※RTU205でリオ・ティルトに1R KO勝ち)にアナコンダチョークを仕掛け、オーソからの右を当てるなどタフな試合を制して判定勝ち。  25年2月の前戦では、RIZINで元谷友貴に判定勝ちしているヴィンス・モラレスと対戦し、モラレスのダースやペルヴィアン・ネクタイ、終了間際のRNCを凌ぎ、ジャブ&ロー、右アッパーを効かせて判定勝ち。2012年、17年の『TUF』に出場した父・ギルバート・スミスが果たせなかったUFC初勝利を挙げている。MMA8勝のうち4KO・1一本勝ちをマークする22歳。  風間のセコンドは中田大貴、良太郎、柔術家の兄の風間大五郎。エライジャのセコンドには父ギルバート・スミスがついた。  試合は、風間の積極性と変化が見える展開だった。  ともにオーソドックス構えから、スミスの左ジャブのダブルにブロッキングとステップでガード。頭の位置を動かして角度を変えての入り。そのため、スミスの跳びヒザもクリーンヒットさせずに胴をクラッチしてのテイクダウンに成功。  そのまま浴びせ倒してのニアマウントを奪う風間に、スミスはすぐに亀になって立ち上がりへ。その際でバックを奪いに行く風間だが、両足はフックできず。  スミスはケージ際で腰を上げて背後の風間を前に落とすと、下になった風間は、スミスの右足を左手で手繰り、トラックポジションへ。しかし、その顔を上から殴り、ヒジを落とすスミス。  風間は両手を胴にクラッチし、頭を胸につけて殴るスペースを減らすと、両足をスミスの両ヒザ裏につけてバタフライガードから、左足をスミスの左鼠径部に差し込む形に移行。  そして、胴クラッチを解いて再び左腕で下から右足を手繰って崩しに。この瞬間、顔を曝け出すことになるが、スミスの右パウンドの瞬間に右足を跳ね上げてバランスを崩して被弾を避けると、相手の足を広げさせていた右足を解除して内がけで右足にからみ、股間に差し込み、内側から鼠径部に当てて、左足はスミスの左ヒザ裏に当てて固定。  左肩に挟み両手で掴んでいた右足を、自身の右脇に抱え直して内ヒールフックへ! 右足は左ヒザ裏で三角に組んで相手のヒザで固定することに成功。  ここでスミスは右手でケージを一瞬掴みながら(※反則)左手で鉄槌。被弾しながらもヒールを絞って、両足で煽って尻もちを着かせた風間。ここが極めの最大のチャンスだったが、身長より5cm長い180cmのリーチを持つスミスは、右のパウンドを届かせると、その瞬間に右ヒザを曲げて右踵を外すと、上からパウンド。  ハーフから半身になって潜ってスミスの腹の下に頭を隠そうとする風間だが、それを剥がしたスミスに、風間は再び今度は正面からの50/50から足関節狙いに。ヒザを曲げ、いったん後ろを向いてから右回りで正対して足を抜いたスミスに、風間は再びバタフライガード。  上のスミスを右でアンダーフック、左で背中越しにクラッチしてスミスを引きつけると、スミスの左腕を右側頭部と肩で固定して、チョイバー、ストレートアームバーに。スミスが左手を引いて右手とクラッチすると、風間は右のパウンドを被弾しながらも、ディープハーフからバタフライガードに移行。  そこから右足を鼠径部に置いた風間は、スミスの左のパウンドの瞬間に右足で左手を越えて左足とロック──三角絞めを狙った。この段階ではまだ左ヒザ裏では組めていない四角の形。  頭後ろで両足を組まれたスミスはすぐに迷うことなく風間を高々と肩口まで持ち上げ、その頂点で左手を風間のアゴ下に置いて受け身を取り辛く固定してから、マットに叩きつけた。風間は失神。そこにスミスは2発のパウンドを中腰で叩き入れて、レフェリーが間に入った。  1R4分10秒、スラムによるKO。  試合前の本誌のインタビューに、「相手を持ち上げてぶん投げる、あの感じが大好きなんだ。観客も盛り上がるし、俺はそのエネルギーを受けてファイトするタイプだからね。ダブルレッグはマジで大好き。誰かを持ち上げてスラムするのが快感なんだ」と語っていたスミスは、前戦で風間が極めた三角絞めについても「彼のガードからのサブミッションは上手いと思うよ。でも、トップポジションからの攻めはあまり見たことないし、正直言って、彼が上になる展開は考えてない。こっちはしっかり準備してきたし、俺がトップにいる以上、風間とグラウンドに行くのは全然怖くないよ」と語っていた。  また、風間も「受けから始まるものって、結局受けで終わっちゃう部分が多いと思うので、それを待つのではなく、やっぱり自分でどんどん展開を作っていきたい」と語っていた通り、相手のテイクダウンにカウンターで引き込むのではなく、自分から攻めて、有利なポジションからの展開を望んでいた。それが最初のテイクダウンでトップからのバックへの動きに現れていた。  ではなぜ、風間から攻める流れのサブミッションはチャンスを迎えながらもフィニュシュに至らなかったのか。「たら・れば」を承知で、際の勝負どころを検証したい。 [nextpage] なぜ内ヒールは極まらなかったのか  冒頭の跳びヒザをキャッチしてのマウントからバックまでの流れは風間も身についた動きながら、足を巻くことができず、首を狙いに行った際で背後から両脇を差すダブルアンダーでのバックキープも間に合わなかった。それをさせなかったスミスは素早く腰を上げて風間を前に落としている。  そこからの展開も風間は作り込んでいた。  前に落ちながらの足関節のセットはフィニュシュに近づく動きだったと、元同門の高橋“SUBMISSION”雄己はいう。  グラップラーの高橋は、MMAでもプロ修斗に参戦し、『EBI』ではグラウンド掌底ありのコンバット柔術ルールのバンタム級16人制トーナメントで優勝を果たしたばかりだ。  高橋は、「相手の足にしがみつくような状態から、自身の右足を相手の股下に入れていく所謂“マトリックス”の形で仕掛けていきました。敏臣さんはこの状態から相手の踵を自分の右脇の下に抱えにいきます。こうする事で、マトリックスから50/50を裏側から仕掛ける“バックサイド50/50”という足関節を狙うためのポジションに移行出来ます。  ここから狙う足関節は内ヒールが最も効果的です。補足すると、内ヒールというのは、ヒザが自分の股間で固定可能な状態から、相手の踵をキャッチして、ヒザの可動域以上に踵を捻る事によって極まる技です。  敏臣さんもここから内ヒールを狙いますが、この後スミス選手がターンして敏臣さんの方に向き直った事により、バックサイド50/50の状態から、一般的な50/50の体勢になりました。  この50/50も、バックサイド50/50と同様に内ヒールを狙えるポジションになります。敏臣さんも、相手の踵を脇に抱えて内ヒールのアタックを仕掛け続けています。この時点において、50/50のポジションは内ヒールが極まるために十分な深さにありました」と、そのセットアップが有効だったと解説する。  しかし、ヒールフックは極まらなかった。高橋はこのときのグリップに注目する。 「外から見た印象では、踵のキャッチが不十分であったように思えました。自分はいつもサブミッション塾などで指導する際に、ヒールが極まる条件について、 ・ヒザが固定出来ている事・踵がキャッチ出来ている事  と伝えています。上記2点の『条件を満たしているのに、上手くヒールが極まらない』というご相談を会員さんからまま受けるのですが、この時の原因は踵のキャッチの仕方が上手くいってない場合が多いです。  今回はヒジの内側のあたりでキャッチしてしまっていたのですが、これだと固定が甘くなってしまう。そのため、相手の足を脇で挟んでいる側の手首を90°に立てて、立てた手首の内側に踵を引っ掛けるようにフックを作ります。  その上で逆の手とクラッチを作っていくのですが、この時のクラッチは親指を出さずに手のひら同士を合わせるゲーブルグリップが望ましいです。そのゲーブルグリップの向きですが、今回のように仰向けでヒールを仕掛ける場合、先ほど言ったように必ず踵は手首の内側で引っ掛ける必要があるので、踵を引っ掛けてある側の手の親指が天井を向くようにします」と、極めの瞬間を語った。  同時に「観ていた人が“極まった!?”と思ったあのシーンで逃げられてしまった原因については、概ね上記が考えられますが、試合はメンタルやフィジカル、コンディションなど様々な要因がパフォーマンスに影響するものです」と、ケージでパウンドがあり、オープンフィンガーグローブも着用するなかでグリップする難しさにも言及している。  そして「結果は本人の納得いくものではなかったかも知れませんが、日本を代表してUFCの舞台で勇敢に戦う姿を僕達に見せてくれた敏臣さんには拍手を送りたいです」と、攻め続けるなかで下になっても展開を作った風間のトライを称えた。 [nextpage] 失神KO「風間が搬送される病院まで23分」と実況  フィニュシュは、受け身の取れない危険なスラム&パウンドだった。  風間としては、タイトに三角で組めていなかったゆえにアゴ下に手を入れられて頭をマットに叩きつけられ、失神した。ここでの選択肢は、持ち上げられないように足を手繰って立ち上がりを防ぐか、持ち上げられたら三角を解除するか。  それもさせる間もなく角度をつけてビックスラムで風間をKOしたスミスは試合後、「父がよく言っていたのは『三角絞めは角度をつけることで絞まる』と。相手は正面から仕掛けてきたから(リフトした)。正直に言うと、彼が俺に三角絞めを仕掛けてくるなんて信じられなかった。彼がそれに挑戦したことに対して称賛を贈るよ。でも、知っているだろう? 俺は柔術の大会に出場していて、若い頃の写真や動画があるけど、そこで相手が三角絞めを作り、俺が同じように持ち上げたシーンがある。父はいつも俺に言っていたんだ。『もしこれがファイトなら、お前は絶対に叩きのめしただろう』と言っていたのを覚えている。今回はついにその機会を得た。ジムでのトレーニングパートナーや相手にはできない。俺の仲間は大好きだけど、知らない相手で、全てが懸かっている状況なら、残酷なスラムで叩き潰せるから」と、想定通りと振り返っている。  また、「ヘッドバットの感触はなかったか?」 の質問には、「檻を突き破るように叩きつけただけだと思った。頭突きのような感覚は感じない。でも、もしそれが起きたなら、彼はサブミッションを離すべきだった」とも語っている。  解説のダニエル・コーミエーが、「これまでクイントン・ランペイジやジェラルド・ハリスがこのようなスラムを見せたが、これほど破壊的なものは見たことがない」と評したスラムKO。  風間は頭をマットに叩きつけられ、失神後も2発のパウンドを浴びた。その瞬間は会場のAPEXも沸いたが、倒れたままの風間に会場は静まりかえり、スミスも正座して回復を待った。  実況は、「風間は目を開けた。(ラスベガスの)大学医療センター外傷センターが、このイベントで使用する病院です。ここから23分、約11マイル離れた場所にあります。風間が搬送される場所です。彼の容態に関する最新情報があれば、現場にいるカレン・ブライアントが報告します」と風間のダメージを危惧して伝えている。  その後の状況を、風間のコーナーマンとしてついた良太郎は、Xに「現在日本のボクシング界で不幸な事故が相次いでいます。今回の試合後、リング降りたらすぐにストレッチャーに乗り、外には救急車が待機。病院に行きCT検査と非常にスムーズに選手の命を守っています。言ってしまえば資金源の差なのでしょうが、それでも選手ファーストで素晴らしい対応だと思いました」と記した。  これらの対応は、政府管轄下にある各州のアスレチックコミッションが定めたシステムによって行われている。  今回の場合、ネヴァダ州アスレチックコミッションの管轄内での大会。プロモーター・ライセンスを取得した団体はコミッションが定めた、計量時のオフィシャル、ドクター、救急車、スタッフ、試合日のオフィシャル、レフェリー、ジャッジ、ドクター、カットマン、救急車、インスペクターらのギャラを収める必要があり、その用意ができなければ合法的に公式の大会を開催することが出来ない。  州によっては、民間の救急車2台を配置するほどの安全体制が取られており、救急車やドクターの稼働状況次第で、大会が中断するケースも過去には見られている。  風間は、病院で受けたCT検査の結果、「頭部・顔面・首、いずれも異常は確認されなかった」と、UFCは10日朝、報告している。 【高橋“SUBMISSION”雄己】サブミッション塾オンラインサブミッション塾教則動画
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