2009年のUFCバックステージでのジョーンズとコールマンの「第三次大戦」
このJJを含む“GOAT”(Greatest Of All Time)と呼ばれるUFC世界王者の3人──ジョン・ジョーンズとGSPとハビブ・ヌルマゴメドフについて、“名伯楽”ジョン・ダナハーが秘話とともに、その“GOAT”たる理由を語っている。スティーブン・トンプソンによるGSP評に続き、興味深いエピソードを紹介したい。
ジェイク・シールズの『Jake Shields' Fight Back Podcast』に出演したグラップリング界の巨匠ダナハーは、ジョン・ジョーンズ(JJ)とジョルジュ・サンピエール(GSP)を間近で見てきた名コーチだ。
「MMAの偉大な選手について語るとき、信じられないほど才能のある選手がたくさんいるけど、私個人としては、『歴代3大MMAファイター』は常にジョージ(GSP)、ジョン・ジョーンズ、ハビブだ。もちろん他にも傑出した選手はたくさんいる。アンデウソン・シウバやエメリヤーエンコ・ヒョードル、桜庭和志、それにBJ・ペンも。しかし、私にとっては、GSP、JJ、ハビブの3人になる」と“GOAT”を挙げる。
「この3人は全員、余裕を持って対戦相手をことごとく退けている。ジョージは2度負けたが、再戦では2人に決定的な勝利を収めた」と、元UFC世界ウェルター級&ミドル級王者のGSPについて語る。
「GSPの場合、アンデウソン・シウバと戦ったらどうなったかという思いが常にある。明らかに、アンデウソンには体格的にアドバンテージがあった。しかし、私はトレーニングでジョージがアンデウソン・シウバよりもずっと大きな選手を簡単に倒しているのを見たことがある。だから魅力的な試合になっただろう。ハビブとの試合はもっと複雑だっただろう。ジョージのキャリアが終わってから何年も経っていただろうからね。全盛期は過ぎていたけど、まだ驚異的な体型で、たくさんトレーニングしていたよ」と、GSPが階級を越えてGOATだったという。
そして“JJ”ことジョン・ジョーンズについてダナハーは、驚くべきエピソードとともに、その非凡な才能とメンタリティーについて明かす。
「ジョン・ジョーンズは、私が出会ったMMAファイターの中で最も素晴らしい人物の一人だ。彼に初めて会ったときのことを覚えている。『UFC100』(2009年7月)が行われたとき、私はジョージと一緒にそこにいた。ジョージはコメインでチアゴ・アウベスと戦い、ブロック・レスナーがメインイベントだった。ファイトウィークが始まった時、私たちはジョージの最初のワークアウトのために火曜日の夜にトレーニングルームに向かった。UFCが選手たちのために用意した部屋は満員で、マットの上に出るには待たなければならなかった。
ダン・ヘンダーソンと戦うためにマイケル・ビスピンがトレーニングしていたり、いろいろな人がいた。国によってトレーニングのスタイルが全然違う。練習や準備に対するアプローチは人それぞれだ。私はフィラス・ザハビの隣に座っていて、ジョージは私たちと一緒にウォーミングアップをして、マットの上の自分の番を待っている。ようやくトレーニングが終わり、若いジョン・ジョーンズがそこに登場した」
トレーニングルームに来たジョン・ジョーンズはローカル大会で8連勝をマークしていたものの、UFCではまだ3戦目。『UFC100』では4試合目のアンダーカードだった。
「彼は一人でやってきてトレーニングパートナーを探していた。その大会では、マーク・コールマンも同じライトヘビー級で試合が組まれていた。キャリアの晩年を迎えていたが、知っての通り元PRIDE王者で、伝説的な選手だ。若手はみんな彼を尊敬していた。
部屋にやってきたJJは、そのレジェンドにシングルレッグ(片足タックル)のテイクダウンについて質問し始めた。『こうして仕掛けるとグリップを切られて止められてしまう。どうしたらいい?』と。その時、マーク・コールマンは、『スイッチ・トゥ・ダブル(ダブルレッグ=両足タックルに切り替えろ)』とアドバイスした。
しかし、JJは「手首を押さえられているからそれができないんだ」と聞き返す。コールマンは再び『スイッチ・トゥ・ダブル』と返すのみ。JJも引き下がらない。『でも、もし相手が上からプレッシャーをかけてきたら? 俺は頭を上げることができない』と食い下がる。そこでコールマンは、(ゆっくりと)『スイッチ・トゥ・“ファッキン”ダブル』とJJに(睨みつけるようにして)言ったんだ。周りの人はこんな感じ(目をキョロキョロ)だ。そこで、ジョン・ジョーンズは、『ちょっと試してみてもいい?』と言って、コールマンとマット上で組み始めた。
“軍曹(コールマン)”は、シングルレッグからダブルレッグへと100%爆発した。ジョン・ジョーンズは猫のように機敏な反射神経の持ち主だ。彼はそれをディフェンスする。2人はただただトレーニングルームを疾走し始めた。人々は逃げ惑う。まるで紅海が目の前で割れるように。彼らは土曜日の夜に試合をするのに、火曜日にコンクリートの壁に真っ向からぶつかり、人の上を走り回り、人を倒しまくっている。大混乱だ。“第三次クソ世界大戦”になった。
私は“これが本当に起こっていることなのか”とジョージとお互いに顔を見合わせた。ジョージは『これは狂気の沙汰だ!』と言っている。彼らは5分間の戦争をした。そして、部屋を空にして、2人とも完全に疲れ果ててしまった。それが彼らのワークアウトだった。
その後、私たちはその部屋に入ったんだけど、その部屋には文字通り誰もいなかった。クレイジーなヤツと一緒にいたからね。そしてその次の夜、みんなが戻って来て、(2人に触発されて)第三次世界大戦が再び始まった。驚いたよ。あんなことは現代では絶対に起こらない。みんなプロ意識が高すぎるし、教養もあるからね」と、ダナハーは2009年のUFCでの出来事を振り返った。





