パッチー・ミックス「俺の母さんは養母なんだ。俺と兄弟姉妹を引き取って育ててくれた。そんな母さんが今回、地元で試合を見てくれる。だからこの試合で恩返ししたい」
──いよいよUFCファイトウィークですが、これまで経験してきた他の団体と比べてどう違いを感じますか?
「うん、ちょっと違う感じはあるね。つい最近までタチアナ・スアレス(女子ストロー級2位)のタイトルマッチのファイトウィークに同行してたんだけど、あれは今回以上に大規模だったよ。そのときは外から見てただけだったけど、今回は自分自身が選手としてやってるわけで、Bellatorでのファイトウィークとは全然違う感覚だよ」
──試合のない時期がしばらく続いていましたが、突然UFCの契約が決まって、すぐに試合が組まれましたね。この数週間の心境や反響について教えてください。
「本当に最高だった。1年間ずっと準備してたんだよ。2試合がキャンセルになって、ドバイに渡ってONEの王者とグラップリングで戦ったりして、とにかく動き続けるようにしてた。だからUFCからの連絡が来たときは超エキサイティングだった。コーチたちも大喜びだったし、やっぱUFCは世界最大の舞台だからさ。タイミングとしても完璧だったし、すでに減量や準備も整っていた。こうして今ここにいられることに心から感謝してる」
──あなたはどこで戦っていても、世界最高レベルのバンタム級選手の一人だと評価されてきました。UFCという看板がついたことで、心境に変化はありましたか?
「俺は元々、相手をフィニッシュすることにモチベーションを持って戦ってきた。逃げないし、下がらないし、常に仕留めにいく。それが俺のスタイル。アマチュア時代は11戦全勝、プロでも20勝してほぼ全員仕留めてきた。UFCでも新たなスタートを切って、また全員をフィニッシュしていくだけさ」
──デビュー戦では、いきなりマリオ・バティスタ(バンタム級10位)と対戦ですね。UFCでの初戦としてはどう感じていますか?
「戦えて嬉しいよ。試合がなかった期間が長かったから、今は“どんな相手でも感謝”って気持ちだ。俺は3度の世界王者で、20勝中15フィニッシュ。朝倉海やマイケル・チャンドラー(ライト級12位)、パトリシオ・ピットブルよりも実績があると思ってる。だって俺、ピットブルを倒したセルジオ・ペティスを極めたからな。今回マリオとやることにしたのは、彼が7連勝中で、しかもジョゼ・アルド(元UFC王者)を破ったばかりだったから。しばらく試合がなかった俺にとっては、“この相手を倒せば一気にインパクトを与えられる”って思ったし、UFCに恩を売れる。ランキングや相手の格にこだわるよりも、まず倒すべき相手がそこにいるならやる。それが俺のやり方さ。最終的に全員狩る。頂点に立つには、全員を倒すしかないからね」
──前回のマリオのジョゼ・アルド戦は「盛り上がりに欠けた」との声もありましたが、同じような試合運びをしてくると思いますか? そして、それをどう崩しますか?
「正直、あの試合はポジションの膠着が原因だと思う。アルドにはテイクダウンディフェンスがあるし、マリオはフェンス際で押さえ込んでた。でもアルド自身がフェンス際であまり動かない選手だから、あの試合が退屈だったのは“マリオだけのせい”だけじゃない。ただ──俺にはあんなことは絶対にできないよ」
──ここ数年、フリーエージェントのトップ選手たちがUFCに移籍してきましたよね。元PFLやBellatorのの選手たちが、「自分はMMAファイターだ」と周りに言っても「UFCで戦ってるの?」と返されてしまうことが頻繁にあったと話していました。あなたにもそういう経験はありますか? そして、今「UFCにいる」と言えることへの気持ちは?
「実際、そういう経験はキャリアを通してずっとあったよ。でも、俺はもう何年も前に100万ドルを獲ってる。だから“Bellatorの世界王者で、ミリオンダラー・トーナメントの優勝者”って言えば、それなりに認めてもらえた。でも今、UFCに来たことで、格闘技をよく知らないカジュアルファンにとっても話が通じやすくなった。だから、これは“チェックリストのひとつ”って感じだな。今なら自信を持って言えるよ。“俺は世界一の舞台、UFCにいる”ってね」
──熱心なファンの反応という意味では、マイケル・チャンドラー(ライト級12位)やマイケル・ペイジ(ウェルター級15位)、ケイラ・ハリソン(女子バンタム級2位)がUFCに来た時も話題になりました。ただ、あなたに関しては「現役の王者」で「今が全盛期」だということで、より強い期待を寄せている声が多いです。
「間違いなく実感してる。だって俺はまだ31歳で、戦績は20勝1敗。しかもその1敗も、ほんとに僅差の判定だったからな。つまり、実質“あと1ラウンド取ってたら無敗”だったわけで、80%以上のフィニッシュ率。しかも最近戦った5人の合計戦績は、120勝15敗。とんでもない経験値とネームバリューのあるファイターたちだ。だから俺は、これまでUFCに来た中でも最も注目された選手のひとりだと思ってるよ。
もしBellatorの売却がなかったら、俺はこのチャンスを得られてなかったかもしれない。でも今はすべてがうまく噛み合って、俺はここにいる。そして俺は、本気で“世界最高のバンタム級ファイター”だと思ってるし、それを証明するにはUFCにいなきゃいけない。だから熱心なファンの応援はありがたいけど、俺は試合で全部証明する。なぜ俺がここまで評価されてきたのかってことを」
──記者会見の最初のとき、「ようやく世界最高の選手たちと戦えるね」と言われて、内心「いや、すでに戦ってきたんだけど」と思いませんでしたか?
「思ったよ。だってマゴメド・マゴメドフには2回勝ってるし、1回は極めた。他にも、堀口恭司(RIZIN二階級王者)とはUFC時代の後に戦ったし、セルジオ・ペティスは23歳のときにUFCで活躍してたが、俺とやったのは30歳で7年間無敗だった全盛期。しかも彼は直前にパトリシオ・ピットブルに勝ってた。ラフィオン・ストッツは19勝1敗で、二度の全米王者。そんな彼を俺は1分でKOしてる。ストッツの俺以外の敗戦相手はメラブのみ。そういう相手たちに勝っても、まだ“本物と戦ってない”と言われる。だからマリオ・バティスタと戦うことになったけど、俺にとってステップアップとは思ってない。彼がこれまでの5人より強いかどうかも分からないし、勝てるとも思えない。ただ、彼をフィニッシュすれば、それで俺のキャリアがやっと“公式に”証明されるってことになる。それだけさ」
──マリオは前回の試合内容があまり評判良くなかったですが、今回のイベントはバンタム級タイトルマッチもあります。あなたのUFCデビューとして、これ以上ない舞台では?
「完璧だよ。俺はただのグラップラーじゃない、“外科医”なんだ。戦略でも動きでも慎重に考えてる。この試合を受けたのは、ショーン・オマリー(バンタム級1位)やメラブ、そしてタイトルマッチの空気を感じたかったから。この舞台に自分の頭を置きたかった。家で観てるだけなんて絶対イヤだった。ここにいるチャンスがあるなら、掴むべきだと思った。マリオの連勝を止めて、チャンスを手にする。それが目的だよ」
──今回、キャリア最長のブランクを経ての試合になりますが、この期間はあなたにとって必要な時間だったと思いますか?
「必要だった。ケージの外で成長する時間になったよ。この1年、試合が何度も流れて何も返ってこなかった。だから、ジムでひたすら練習して、仲間のサポートに徹してた。ダン・イゲ(フェザー級14位)、ジェレミー・ケネディ……たくさんの仲間を助けた。10th Planetの柔術仲間もね。その中でMMAをまた心から好きになれたんだ。1年前も強かったけど、今は2~3倍強いと思ってる」
──タチアナ・スアレス(女子ストロー級2位)とは長く一緒に過ごしています。彼女の存在がどれだけ支えになってますか?
「めちゃくちゃ助けになってるよ。家でもジムでも一緒。彼女とトレーニングして、帰りに車で一緒に帰って、食事して、寝て……全部一緒。彼女の存在はモチベーションになってるし、オーストラリアにも一緒に行って、少し休んでからまた練習再開して、彼女も今はスパーもやってる。お互いにベストを目指していることがすごく刺激になる」
──あなたはニューヨーク州出身で、この会場も地元に近いですね。今回の1週間、理想のスケジュールはどんな感じですか?
「まさに完璧なスケジュールだよ。Bellatorのデビュー戦でリッキー・バンデハスと戦ったときも、家族みんなが観に来てくれて、1分で試合を終わらせた。そして今、UFCデビューがニュージャージーで、またみんなが来てくれる。前日の夜は30人ぐらいで盛大なディナーをして、試合当日は起きて、軽く動いて準備する。相手と一日中でも戦う覚悟はあるよ」
──何も予定が決まっていない中で、戦う準備し続けるのは、どれほど大変でしたか?
「俺はエクストリーム・クートゥアーで練習していてショーン・ストリックランド(ミドル級2位)たちと一緒にジムを引っ張っている。俺は常にスパーリングを含めたトレーニングをしていて、『トレーニングキャンプ』って発想は信じてないんだよ。試合が決まってから準備する──それじゃ遅い。俺は普段から“ファイトキャンプの状態”で生きてる。だから今回“3週間前に決まった試合”って言われても、俺にとっちゃ数カ月前から準備してたようなもんだ。何かが起きる予感はあった。何が来るかは分からなかったけどな。ラッキーなことに、ついに声がかかったんだ」
──昨日、ホテルの外でファンと交流している動画を投稿していました。UFCのポスターに初めてサインしていましたが、あれは特別なモチベーションにつながったりしましたか?
「いや、俺はとにかく地に足がついてる人間なんだよ。誰に対しても同じように接する。ドアマンだろうが誰だろうが、敬意を持って接するよ。世界王者になったし、これまで何百万ドルも稼いできたけど、それで自分が偉いなんて思ったことはない。ファンとも、SNSでつながったり、写真を撮ったり、気軽に話したりするのが好きだ。俺だって、超普通の人間だからな。俺はこの11年で(アマチュア含めて)32戦31勝してきた。でも、スターになるようなチャンスはなかったんだよ。だからこそ、俺は他人に対して謙虚でいられる。Bellatorのイベントじゃ、あんなふうにファンの愛を感じることなんてなかったから、ほんと最高だったよ」
──あなたは「学校のランチを1ドルで売ったり、他の子を20ドルでボコボコにして、その金で家族の食料を買っていた」といった話が報道されています。これについてはどうですか?
「それ、誰が言ったんだ? そんなこと言ってた動画があるらしいけど、正直それはミスリードだと思うな」
──では、あなたの子ども時代が今のあなたに与えた影響について聞かせてください。
「学んだことはたくさんある。俺の母さんは養母なんだ。俺と兄弟姉妹を引き取って育ててくれた。シングルマザーで、4人の子を一人で育て上げたんだよ。俺は生まれた時、たったの680グラムしかなかった。未熟児だったんだ。そんな俺をこの世界に連れてきてくれて、今のこの人生を与えてくれた母さんに感謝してる。今回、母さんが試合を見てくれる。だから俺はこの試合で恩返ししたい。自分の夢だけじゃなくて、家族の夢を全部叶えてやるつもりだ」





