10月13日(日)、東京・両国国技館で開催される『ONE:CENTURY PART II』で、ホノリオ・バナリオ(フィリピン)と対戦する青木真也(日本/Evolve MMA)が個別インタビューに応じた。
青木は5月の前戦でクリスチャン・リーにTKO負け以来の再起戦。ライト級王座陥落後の初戦の相手は14勝9敗のバナリオ。2012年からONEに参戦しているバナリオは、ONE初期は連敗に苦しんだものの、2016年からONE5連勝。2018年9月にアミール・カーンにRNCで一本負けし連勝が途切れたが、2018年11月にラフール・ラジュに判定勝利。しかし、2019年は1月にローウェン・タイナネスに1R TKO負け。8月にパク・デソンに判定負けと2連敗中だ。
青木は自身のSNSで「今回の外国人メインの日本市場向けとは言えないカードの中でオレはジャパニーズMMAがやりたい。自分にしかできない、自分の仕事はそこだと思っています。コクのあるMMAを見せるのが青木真也の仕事なのだろうと思っています」と意気込みを記している。果たして、その真意は。
「誰にも負けない僕の唯一のアドバンテージは長くやっていることです」
――青木選手が発して話題となったジャパニーズMMAとの言葉についてからお聞きしたいと思います。
「ジャパニーズMMAとは“概念”ですね。歴史でありストーリーであり、情緒のある日本のファンが感情を揺さぶられるような格闘技をしたいな、と僕は思っています。日本人による日本人のためのコンテンツって今のONEの中ではほぼ無いじゃないですか。それって、今の日本のMMAのファンというか、ドメスティックなRIZINやK-1を楽しみにしているファンがいて、そことONEって全く違うことをやっているんですが、同じ格闘技ということで一緒にされていますよね。
そこでONEのアジアもしくはアメリカのマーケットを軸としたカードだけをやっていても、日本のファンにはいいカードだと言ってもらっていても正直、会場へ足を運んでもらったりだとか熱を持って見てもらうにはちょっと弱い。そうなった時に、物語性があって情緒があって、PRIDEやDREAMや戦極を見ていた30~50代のファンが見てくれるようなものを僕が出来たならな、と。そのために一生懸命プロモーションをしないとな、と思っています」
――とはいえ、ONEは日本の団体ではないのであえて日本的なものを見せる必要はないんじゃないか、との意見もあると思います。
「はい。僕もないと思います。ただ日本で見ているお客さんがいるから。日本の関係者にもいろいろなことを言う人がいるけれど、僕は“ローカルの集合体が世界”だと思っているんですよ。結局、今ってコミュニティ作りじゃないですか。自分たちの宝塚をそれぞれ持っていて、その宝塚の集合体が日本であり、世界だから。世界で勝負するとかアジアだからとか言っていると、どこにも刺さらないものになってしまう可能性がありますよね。
僕がずっと見ていて思うのは、ONEの強さってローカルスターを作ることなんです。アンジェラ・リー、エドゥアルド・フォラヤン、スタンプ…ローカルのスターとローカルのスターをぶつけてビッグマッチにする手法ですよね。だから僕は、ジャパニーズMMAというか日本の格闘技というジャンルはちゃんと持っていて大切にしていた方がいいと思うんですよ。世界を軸にしているものをローカライズする必要ないんじゃないかって意見は、僕的には違います。だってぶっちゃけ、UFCもそうじゃないですか。ローカライズしている。なぜ中国人が中国でチャンピオンになるんだって話ですよ」
――その青木選手が見せたいものに対して、夜の部でバナリオという相手。観客がストーリーを感じるのには難しい相手だと思いますが。
「難しいですね。2つの方法論があります。ひとつは対戦相手で盛り上げる手法。前回の僕がそうでした。タイトルマッチでリマッチでと。もうひとつは、僕のやってきたストーリーだったら僕の葛藤だったりこの試合に向ける想いを乗っけるしかない。そういう意味では那須川天心vs志朗に似ているかもしれないですね。あの試合は那須川天心vs志朗では作れないじゃないですか。那須川天心の葛藤だったりモヤモヤにフォーカスして作るしかない。それに近いと思いますね」
――あくまでも青木真也が軸ってことですね。
「そうです。そのストーリーでしかない。誰にも負けない僕の唯一のアドバンテージは長くやっていることです。歴史。2003年から日本の格闘技をやっている、日本のメジャーシーンに上がって13年やっているその歴史で勝負する感じですね。
なにこのおじさんは歴史とか言い張っているの、と思う若い子もいるかもしれないけれど、歴史だけは積み上げだから。那須川天心に5年の歴史はあるけれど、10何年の歴史はない。そこでしか僕たちは勝てないですよね」
――それは見る側の思い入れということですか?
「簡単に言えばそうです。DREAMを見ていた人たちが僕らと同世代なら、社会人になって会議の資料作ってこき使われてぶん殴られていたやつらが社会で上に上がっていて、青木真也はまだ頑張っているんだ、見てみようと。そういう歴史でやっていくしかないですよね。つらいことを言うと右肩上がりではなく、緩やかな縮小を受け入れつつ残ったものを大事にしていく手法ですね。矢沢永吉と同じですよ。今持っているお客さんを大事にしていって、ファンと共になくなっていくという」
――確かにTwitterで青木選手と川尻達也選手がやり合うとめちゃくちゃ盛り上がりますもんね。
「そうそう(笑)。僕と川尻が遊んでじゃれ合っているだけで絵になるから。あれって若い子たちがやっても、何をやっているんだよバカで終わってしまう。でも僕と川尻でやれば歴史があるから何とかなるんです。これは僕がここ2~3年で気づいて使っている手法ではありますね。仲は悪くてもいいから、みんな手を取り合う意識はあるんですよ、同世代は」
――現役のファイターなのに、なぜそんなプロデューサー的なことも考えるようになったのですか?
「これは僕がONE以前から、ずっと団体の中心に立つような仕事をしてきたからじゃないですか。PRIDEとDREAMと2つ団体をなくしていますからね。そりゃあ何か構造みたいなものを考えますよ。DREAMvs戦極をやって、両方なくしているわけですから、対抗戦をやってはダメなんだなって肌感覚で気づいて学んでいくわけですよ。逆に10年以上もメジャーで格闘技をやっていて、これどうしたらいいのか、どうやったいいのかってことが分からなかったら、真面目にプロ格闘技をやっていないですよね」
――なるほど。定番の質問で申し訳ないですが、バナリオの印象も聞かせてください。
「バナリオは実はピークが来ていたのはチャンピオンになった2013年くらいで、そこから階級を上げたりしてライト級では苦戦をしていますよね。決して上位陣とは言えないんですが、僕自身もいつどうなるか分からない年齢ではある。相手に潰されるよりも自分がいつ潰れるか分からないとの気持ちでやっています」
――バナリオは接近戦には強いけれども粗いという印象があります。
「どうだろう。接近戦に強いタイプってあまりいないんじゃないですか。要は打撃だから距離感の調整が上手い、近いからパンチを振った時に危ないっていうのは誰もが一緒。誰もが接近戦は強いと僕は思います。リスクはあると思いますね。だからしっかりと堅くやって、勝負はしっかりと勝ちたいですね」
――ファイターとして、今回負ければ連敗になるということは気になりますか?
「僕は2016年から2017年にかけてですが連敗しているんですよ。初めて連敗した時は、もうダメかなって思った時期があってそこからもう一度持ち直しました。逆に言うと、辞めるんだったらその連敗をした時だったのかなと思いますね。今は自分の納得するところまでやりたいなって思っています」
――自分のキャリアの終着駅を考えることもありますか?
「無いと言ったら嘘になりますが、僕はもう経済的な意味ではやってないんです。メシを食うために格闘技をやっていないっていうのが一番強くなっちゃっているんですよ。生計が成り立たないから格闘技から離れるって選手が多いんですけれど、僕はそこのゾーンではもうないんですよね。好きだからやっている、というところに入ってきてしまっていて、北岡悟もそうだと思うんですが終わりどころを見つけるのが難しいです。
僕は36歳で53戦やっているんですよ。辞めるタイミングはいくらでもあったわけで、そうなるともう辞めるタイミングなんかないですよね。ずっとやり続けるんじゃないですか。キックボクシングで言ったら立嶋篤史とか大月晴明とか、ああいう感じになってしまうんじゃないですか。その覚悟はしています」
――その続けていくモチベーションは何なんですか?
「みんなそうやってすぐ、モチベーションとか崇高なことを言うじゃないですか。他にやる事がないからでしょう。他にこれより楽しいことがないからでしょう。満たせることが他にないからなんですよ。だから実は辞めていったヤツらって賢いんだと思います。他に折り合いをつけてやりたいことがあるとか、もうキツいからやらないとか言えるけれども、僕たちは楽しくなってやっちゃうんですよ。もう折り合いはつかないですよね」
――MMAバカ一代のような。
「というよりも、辞められなくなっているんですよ。空手もそういうところありますね。自分の生甲斐みたいなものがあるんでしょう。さすがに60歳になっても小さいグローブで殴り合うことはできないでしょうが、技術は追究していきたいと思います」
――もはや求道者ですね。
「はい。そんなに道は求めてないですけれどね(笑)」