パディ・ピンブレット「いつもみんながゴールポストを動かしてくる」
──UFC参戦以来、ずっと大きな注目を集めてきましたが、今回はあなたにとって過去最大の試合になるのではと思います。実際のところ、ご自身でもそう感じられていますか?
「そうだな。今の俺にとって、どんな試合も“キャリア最大の一戦”になるって感じだよ。勝たないとダメな試合だし、今年最高のPPVで、しかも最高のファイトカードのなかで“コメイン”を任されてるわけだから。ここで輝かなきゃ意味がない」
──多くのファイターはキャリアの中で、“こいつに勝ったら本物だ”と世間に認められるような試合を経験します。コナーが初めてダスティン・ ポイエー(ライト級5位)と対戦したときもそうでした。今回、マイケル・ チャンドラー(7位)と戦うことは、あなたにとっても“自分がエリートファイターだ”と証明できる一戦になると思いますか?
「そうなればいいけどな。だけど俺に対しては、いつだって“ここまで”ってゴールポストをみんな動かしてくるんだよ。試合前は“チャンドラーがKOするだろ、パディは大したことない”とか散々言われる。でも俺が勝ったら、今度は“いや、チャンドラーもUFCで2勝4敗のヤツだし”とか“もう衰えてた”とか言い出すんだ。ま、慣れたよ。とにかく勝って実力を示すだけだ」
──あなたのYouTubeチャンネルを拝見しましたが、今回はこれまで以上にキャリアを真剣に捉えているように感じました。ジムでの練習やスパーにも変化を感じますか?
「めちゃくちゃ感じるね。スパーの時から調子いいし、ラスベガス入りしてからも、こんなにファイトウィークに体力があるのは初めてだよ。パッド打ちを何ラウンドもやった後でも、さらに動けるし。ありがちなセリフだけど“過去最高の仕上がり”ってやつだ。今までで一番いい状態だし、それが試合でハッキリ出ると思う」
──手のサイズ比べをしていたようですが、どちらが大きかったですか?
「俺の方が“ムースナックル(男性がタイトなズボンを履いた時に股間の盛り上がりがはっきり見える状態を指すスラング)”みたいなゴツい手だって、みんな言ってたな(笑)。彼は小柄だし、俺の方がデカいと思うよ」
──人々が“ゴールポストをどんどん動かす”とおっしゃいましたが、これはトニー・ファーガソン戦やボビー・グリーン戦、キング・グリーン戦の前後にも言われていましたよね。最初は気にしたこともあったんでしょうか? それとも、もう割り切っている感じですか?
「こんなの16歳でアマチュアやってた頃からずっと言われてることだよ。“今回は負けるだろ、こいつは大したことない”ってね。でも俺は毎回勝ってきた。正直、もう慣れっこで、何も新鮮じゃないね」
──ケージ・ウォリアーズの時代から、あなたの名前は注目を浴びていた印象があります。それに、当初のUFC契約を断って自分に賭けた、なんて話も有名ですね。昔から“スター候補”と周りから見られてきたことを、自分自身ではどう受け止めていましたか?
「うーん、ケージ・ウォリアーズでベルトを獲った頃には海外でも知名度が上がったし、休暇でタイとかスペインに行ったときも、普通に写真を求められてたんだ。UFCに来る前からね。でもUFCはやっぱり“MMAのプレミアリーグ”だから、そこに出始めてからはさらに拍車がかかった。でも俺は全然気にしない。礼儀さえ守ってもらえれば、写真もOKだよ。“魔法の言葉は?”って感じで、ちゃんと“お願いします”とか言ってくれたら大歓迎さ。赤ん坊連れのときはちょっと遠慮してほしいけどね」
──コナーやショーン・オマリーは“最初から自分がスーパースターになるのは分かっていた”という言い方をしていました。あなたも同じように、プロになった頃から“こうなる”と分かっていましたか?
「うん、俺も最初から言ってたよ。“将来、絶対こうなる”ってね。だから今の状況になってもビビらないし、自然と受け入れられる。最初から“俺は世界でトップクラスのスターになって、いつかは世界王者になる”って言い続けてきたから」
──今年に入ってマウリシオ・ ルフィ、イグナシオ・ バーモンデス(ライト級15位)、トム・ノーランなど、若いライト級ファイターが次々と出てきました。彼らも“ライト級上位陣はそろそろ引退や衰えが見えてきた”と言ってます。あなたはこうした若手の波を感じますか? 数年後には彼らとタイトルを争うかもしれない、とか。
「そうだな。俺も同じことを思うよ。ライト級の“旧世代”はそのうちみんな引退したり、トニー・ファーガソンみたいに下降線たどったりするだろうし。大半が35歳超えてるよな? ベニール・ ダリウシュ(9位)とかヘナート・ モイカノ(10位)、マイケル・ チャンドラー(7位)、ダスティン・ ポイエー(5位)、シャーウス・オリヴェイラ(2位)……みんなベテランだらけだし、マテウス・ ガムロ(8位)とかダン・ フッカー(6位)も30代半ばになってるかも(35歳)。あと何年かしたら、トップ10はまったく別顔ぶれになると思う。俺とかアルマン・ ツァルキャン(1位)くらいしか残ってないかもね」
──あなたのコーチが“シャーウス・オリヴェイラの試合を見れば、チャンドラー攻略のヒントが詰まっている”みたいなことを言っていましたが、具体的にはどんなところでそう感じるんでしょうか?
「そりゃいろいろあるさ。一つ挙げるとしたら、オリヴェイラはチャンドラーを正確に捉えてたろ? チャンドラーはレスリングが強いとされてるけど、ピュアレスリング(D1クラス)とMMAでのレスリングは違う。俺の方がMMAレスリングは上だと思うし、グラップリングでも打撃でも俺の方が総合的に上だと思ってる。彼はパンチ力があるかもしれないけど、誰が本当に強いのか証明してやるよ。正直、俺がKOする可能性の方が高いと思うね」
──さきほど“旧世代のトップファイター”の話をされました。偉大な元王者やレジェンド級の選手を倒すことで、キャリアの実績を積み上げたい?
「そりゃあもちろん。これから殿堂入りしそうな選手、たとえばジャスティン・ ゲイジー、ダスティン・ ポイエー、オリヴェイラ……そういうのに勝てたら最高だろ? 特にシャーウス・オリヴェイラとはいつか絶対やりたい。UFC史上最多サブミッション勝利記録も持ってる元王者だし、防衛もしてきた。体重超過した試合も含めてタイトル防衛だと思ってるし、彼との試合はスタイル的にも絶対面白いよ。でもダスティンはあと1試合くらいで引退しそうだし、ゲイジーもいつまで続けるか分からない。でもそういう選手たちはライト級の歴史を築いた存在だし、彼らを倒して名を上げるのは“最高にカッコいい”って思うんだ」
──ダスティン・ ポイエーがUFC 314のアナリストを務めるようですが、「あなたの試合を見て、良いコメントをしなきゃいけない立場になるかも」と考えるとワクワクしますか?
「正直、彼は俺のことあんまり好きじゃないと思うんだよね。でも俺よりもマイケル・ チャンドラーの方を嫌ってるのは間違いないだろうね。だから、俺が勝ったあとで彼とちょっと話せたら面白いんじゃない? どういうコメントするかも含めて、楽しみにしてるよ」
──先日、(同じリバプール出身で洞門のUFC女子ストロー級ファイター)モリー・マッキャンが引退を発表しましたね。パディ&モリーのコンビで大きな注目を集めたこともありましたが、もう一度一緒に出場したかった、という気持ちはありますか?
「そうなんだよ。正直、まだ引退してほしくなかった。なんとなくそうなるかもって兆しはあったけど、まさかあんなタイミングで決断するとは思わなかったね。対戦相手の変更も痛かったし。最初は打撃主体の選手だと思ってたのに、いきなりグラップリングの強い相手をぶつけられたんだから、いろいろ狂ったんだろう。でもモリーにはほかにもやりたいことがあるし、子どもを望んでるとも言ってたし、自分のビジネスもある。ファイト以外の人生もあるわけだから、そこは尊重するしかないよ。本当はもう一度一緒に出場したかったけどね」
──あなたとチャンドラーは、どちらも2021年にUFCデビューしています。あなたはケージ・ウォリアーズからの道のりの中で、最初のUFC契約を断ったり、当初はギャラが安かったりという苦労もありましたが、今振り返って、この展開は想像以上でしたか? それとも想定通りですか?
「これはずっと想定してた通りだよ。ただ、ケガをして1年休んだり、双子が生まれたりして、少しペースが遅くなったのはあるかな。でも順調だよ。ここでマイケル・ チャンドラーを倒して、次は秋のアブダビあたりでラファエル・フィジエフとか、シャーウス・オリヴェイラとか、ジャスティン・ ゲイジーとか、ダスティン・ポイエーとか、そういうビッグネームと戦いたい。そして2026年にはベルトを狙う――そんな青写真は描いてるね」
──先日、アルマン・ ツァルキャン(1位)とSNSで揉めていましたが、何かきっかけがあったのでしょうか? 彼はあなたのコメントに反応したようですが……。
「うん、インタビューで“俺はトップ5に興味があるからチャンドラー対パディなんか見ない”って言ってたからさ。でも結局、俺に関してツイートしてきたりするわけだろ?“興味ない”って言う割には、って思うよね(笑)。俺は気にしてないけど、そういう矛盾したこと言われると“あれ?”ってなる。ま、俺は誰とでも戦うし、別にアルマンを嫌ってるわけでもない。ただ、ちょっと“口ではああ言うけど本当は気になるんだろ?”って思っただけだよ。今回勝ったらトップ5の誰でも構わない。アルマンでもいいし、オリヴェイラ、ゲイジー、ポイエー……誰でも倒してタイトルに近づきたいだけさ。個人的に恨みがあるのはイリア・トプリアくらいだからね。俺はどんな相手からのオファーも断らないから」
──パトリシオ・“ピットブル”・フレイレが、あなたからアドバイスを求められて、それに答えたと話していました。チャンドラー対策に関して何かヒントを教えてくれた、と。
「そう、2週間くらい前の記者会見のときに話して、実は一緒にスパーしようかとも思ったんだ。彼も低身長でパンチが強いし、俺はリーチがあるから、お互いにいい練習相手になれそうだった。でもタイミングが合わなくて実現しなかったね。それでも“こうするといいぞ”っていう技術的なアドバイスをいくつか教えてもらった。もし試合でその動きがうまくハマったら、パトリシオには大きな感謝とともに、その映像をシェアするつもりだよ」
──3年前に“ザ・バディ・ファウンデーション”を立ち上げ、男性のメンタルヘルスや子どもたちの食糧支援に取り組まれていますね。進捗はいかがでしょうか?
「すごくいい感じだよ。イギリスには“James's Place”っていう男性向けのカウンセリング施設があって、俺自身もそこに通って助けられたんだ。そこでの相談員を1人(もしくは2人)増やせるくらいの資金を、俺たちのファウンデーションから寄付して雇用をサポートできた。ああいう場所が増えれば、追い詰められてる男性が自殺を選んだりせずに済むかもしれない。そういう活動を続けていきたいんだ」
──マイケル・ チャンドラー(7位)は、一部ファンや対戦相手から“反則を辞さない”とか“ダーティーファイターだ”と言われることがあります。その点についてどう考えますか? 対策としてレフェリーに何か伝える予定は?
「彼ってケージの外ではすごくナイスな男なんだけど、中に入ると、ずいぶん荒っぽいことを平気でやるよね。でも俺からすれば“ルールすれすれの行為も勝つためなら仕方ない”って考えも分かるよ。俺自身、“やれることは全部やる”ってタイプだし。だけど、やっぱり後頭部やグローブを掴むのはレフェリーにもしっかり見てもらいたいよね。オリヴェイラとの試合でも後頭部を何発も打ってたし、ゲイジー戦のときもアイポークがあったのに、そのまま殴り続けたりしてた。それを許容するレフェリーは勘弁してほしいし、できればハーブ・ディーンやマーク・ゴダードみたいな、厳正なレフェリーがいい。試合外では彼と昨日も会って話したんだけど、本当にいいやつなんだよ。ただ、オクタゴンの中では“めちゃくちゃ荒いヤツ”ってことは間違いないね」