2025年4月12日(日本時間13日朝7時)、米国フロリダ州マイアミのカセヤ・センターにて『UFC 314: Volkanovski vs. Lopes』(U-NEXT配信)が開催されている。
▼ライト級 5分5Rマイケル・チャンドラー(米国)23勝9敗(UFC2勝4敗)7位パディ・ピンブレット(英国)22勝3敗(UFC6勝0敗)12位 ※UFC6連勝中
元Bellator世界ライト級王者でUFC同級7位のチャンドラーはUFCデビュー戦でダン・フッカーに1R TKO勝ちしたものの、その後は1勝4敗。ビッグネーム相手が多く、トニー・ファーガソンには2R TKO勝ちもダスティン・ポイエー、シャーウス・オリヴェイラ相手に2連敗中。
対するピンブレットは、元Cage Warriorsフェザー級王者で、現UFCライト級12位。UFC6連勝中だが、オクタゴン4戦目にジャレッド・ゴードンに辛勝後、6連敗中のファーガソンに判定勝ち。2024年7月の前戦はボビー・グリーンに1R三角絞めで勝利しランキング入りを果たした。
マイケル・チャンドラー「パトリシオも過去にここに来たいって思ったことがあったんじゃないか」
──数年にわたって、コナー・マクレガーとの実現しなかった試合や、シャーウス・オリヴェイラ(ライト級2位)との再戦の話題がずっと続いていましたが、今回は久しぶりにまったく新しい相手と対戦することになりました。UFC側からパディ・ピンブレット(12位)戦のオファーが来たとき、パディは「昨年の12月には、この試合が決まると分かっていた」と話していましたが、もしかするとすぐに出場したくなかったのでは? という見方もあるようです。実際のところ、オファーを受けてから契約するまで、どんなお気持ちで、どれくらいの早さでサインされたのでしょうか?
「俺はリスクを恐れないし、大勢から“無茶だ”と思われることを平気でやるタイプだけど、同時に自分の言葉には責任を持つ男だ。だからUFCから話があったときは“やる”って即答したよ。ただ、タイミング的にはいろいろ調整が必要だった。オリヴェイラとの前戦で負ったケガを治さなきゃいけなかったしね。あの試合は何か月か大変で、まずはしっかり治して、UFCが望む時期に合わせられるかを確認した。最初は6月や4月の話も出たけど、結局“もう行ける”って踏んで、すぐにでも戻ろうと思ったんだ。
万全に回復した今は気力も充実してるし、シャーウス戦のあとに残った嫌な感触を晴らしたい気持ちも強い。あの試合では、自分史上最高のパフォーマンスが出そうなところで、ちょっとしたアクシデントに見舞われたからね。でももう大丈夫。最高のキャンプをやってきたし、数日前には娘も生まれた。このモチベーションを力に変えて、パディ・ピンブレットを派手に仕留めて、3人の子どものパパとして胸を張って帰りたいと思ってるよ」
──初めての娘さんなんですね?
「そう、初めての娘だ。名前は“Dru(ドリュー)”。三文字で一音節。うちは息子も“Hap(ハプ)”と“Ace(エース)”で、そういうスタイルでいくんだ。すごく楽しみだよ」
──おめでとうございます。さて、ランキング的には少し下の相手と戦うのは久しぶりですが、コナーとの対戦やイスラム・マハチェフ(ライト級王者)とのタイトルマッチほどではないにしても、パディ・ ピンブレットはライト級で最も話題性のある存在の一人に見えます。そういった意味では、この試合は大きな注目を集めると思うんですが、どのように感じていらっしゃいますか?
「これはスポーツだから、勝ち負けやランキングが大事なのはもちろん分かってる。でも“誰もが観たい試合”というのも同じくらい価値があると思うんだ。俺がケージに入るとき、パディがケージに入るとき、人々は盛り上がる。俺たちが勝つところを観たいファンもいれば、逆に負けるところを観たいファンだっている。それでも注目されることに変わりはない。そういう意味で、これはファンにとって実質メインイベントと言っていいんじゃないかな。
UFCに入って俺が“崖っぷち”を感じたのは2回だけだ。まずデビュー戦だな。すべてを得るチャンスでもあったし、すべてを失う恐れもあった。結果はダン・ フッカー(ライト級6位)を2分半で仕留めることができた。もう1回はトニー・ファーガソンとの試合で、確か相手は7位か8位、俺は5位とかだったかな。リスクが高い試合だったけど、あのときも凄いKOを見せて“ノックアウト・オブ・ジ・イヤーにもなって、スポーツセンターのトップにも取り上げられた。俺はそういうプレッシャーのある場面でこそ本領を発揮するタイプなんだ。今回も、あの2試合と同じような展開になると信じてるよ」
──YouTubeにアップされたドキュメンタリー「688 days」も拝見しました。そこで、あなたは「15年間、MMAを“試してきた”」という表現を使っていましたね。さらに過去のBellator時代、ウィル・ブルックスに敗れた頃などのスランプの話が出てきました。今回の連敗と当時の精神状態を比べるとどうでしょう? 今ではお子さんもいらっしゃるし、舞台はUFCですし、当時と同じとはいかないと思いますが……。
「当時の経験は本当に俺にとって大きかった。人間って、試練や挫折を経験しないと自分が何者なのか分からないだろ? 俺の場合はあのとき、“688日間”も勝利から遠ざかって、キャリアが終わるんじゃないかって不安を抱える日々だったんだ。それまで俺は12勝して、そのうち10試合は1~2ラウンドで仕留めるような圧倒的な勝ち方が多かったのに、エディ・アルバレスとの再戦で負けて、その次はケガを抱えながら無理して出て、勝てないままズルズルいって……。本当に苦しい時間だった。
でも今振り返れば、それが一番の財産になったとも思ってる。いや、“二番目”かもな。この先、本に書くつもりの“一番の財産”が他にあるからさ(笑)。とにかく、悪いことが起きてこそ自分の本質が見えてくるってことだ。今の俺は連敗がどうとか、何日勝ってないとか、数字的なものはあまり気にしてない。“完璧”を目指すんじゃなくて“成功”を目指したいんだ」
──パディは今回のキャンプで「マイケルは俺の子どもの食い扶持を奪いに来るヤツなんだ」って考え方をしているそうです。彼も双子が生まれたばかりで、そういうメンタルで望むと言っていて……いわば“仮想の敵”としてあなたをイメージしている感じですが、そのあたりはどう思われますか? 実際には嫌い合ってるわけではないでしょうけど。
「もちろん嫌ってるわけじゃないさ。だけど、これが格闘技の面白いところだろ? 俺はパディ・ ピンブレットをすごくリスペクトしてるし、試合では意識が飛ぶくらい強烈に倒してやりたいとも思ってる。だけど、なるべく彼の身体に深刻なダメージを残したくはないんだ。終わったらお互い立ち上がって、ハグして、それぞれ家族のもとに帰れればいい。俺も家族と過ごしたいし、パディも同じ気持ちだろう。格闘家は皆、それぞれの大きな犠牲や努力を背負ってケージに上がってる。だからこそ競い合うがゆえのリスペクトがあるんだ。でも実際、お互いの飯の種を奪うくらいの覚悟でやり合うわけだから、そこはやっぱり本気の勝負になる。最高の舞台で、その覚悟をぶつけられるのは光栄だよ。UFCという最高の場所で戦えるわけだからね」
──ところで、さきほど“本”の話がありましたが、出版の予定は近いのでしょうか?
「まだリリース日までは決まってないけど、一応、最終原稿は仕上がったところだ。これから詰めていく段階だな」
──それと曲を出されるとか?
「そう。木曜の深夜にアキラ・ザ・ドンとのコラボ曲がリリースされるし、別でレッドフェリンとも一曲作ってる。いろいろ動いてるよ」
──試合の準備に加えて、そんなに多方面で活動していて“燃え尽き”てしまわないか、心配になってしまいます。実際のところ、負担は大きくありませんか?
「正直、今は大丈夫だな。まあ、これが正解かは分からないけど、俺はうまく切り分けるのが得意なんだと思う。常にジムに居続けるような生活はしてない。もしそうだったら、もう数年前に身体がもたなくなって引退してたかもしれない。オフのときは筋トレや心肺機能を維持するトレーニングをやりつつ、サプリや食事には気を遣って、プロアスリートとしての体づくりを常にキープしてる。で、あとは起業や投資など、いろいろなプロジェクトで自分を刺激してるんだ。俺が輝ける場所はUFCのケージかもしれないけど、それだけが人生じゃない。どれだけ多くの人に貢献できるかを考えながら生きてるんだよ」
──このイベントには、あなたと因縁のあるパトリシオ・“ピットブル”・フレイレも参戦しますよね。彼がUFCで戦うこと、そしてヤイール・ ロドリゲス(フェザー級5位)と対峙することをどう思われますか?
「正直、どうなるかは分からない。だからこそこのスポーツは面白いんだ。下馬評が1対100だろうが、100対1の大本命だろうが、勝つときは勝つし負けるときは負けるからね。でも、パトリシオは確かに競争力のある王者級ファイターだし、バイオレントで危険、そして本気で打ち込んでるヤツだ。ヤイール・ ロドリゲスも常にトップに名を連ねる実力者だし、厳しい試合になるとは思うけど、見ていてワクワクするマッチアップだよ。
俺が言うのもなんだが、パトリシオも、きっと過去にUFCの試合を見たり、味方のセコンドについたりして、“ここに来たい”って思ったことがあったんじゃないかと思う。俺もそうだったからね。数年前に自分がUFCに来たときと同じで、彼にとっても正しい選択だったと思う。ロビーでさっき会ったんだけど、ちょっと握手して、因縁を少し水に流そうって感じだった。確かに過去にはいろいろあったけど、もう彼と再戦することはないと思うし、今は彼の成功を願ってるよ」
──「再戦はない」とおっしゃいましたが、パトリシオが階級を変えてくる可能性もありますよね。それでももう接点はない、ということでしょうか?
「俺はもう興味ないかな。正直、“復讐”とか“借りを返す”みたいなのって、俺の性分じゃないんだ。世間の人はどう思うか分からないけど、別に俺は夜もぐっすり眠れてるし、これまでの負けは負けで受け入れてきた。格闘技が人生のすべてじゃないからね。負けを直すために再戦を求めたりする必要もないんだ」
──もう一つ、常にあなたと関連づけて語られる名前といえばコナー・マクレガーの存在がありますね。彼がアイルランドの大統領選に出るかもしれない、という話をどう思いますか?
「もしアイルランド国民なら、コナー・マクレガーに投票すべきかもな(笑)。まあ、実際のところ、コナーが何を考えてるかは分からないよ。俺の“やりすぎ”具合や多忙さを心配してくれる人もいるけど、彼はそれを何倍にもしてる感じだよな。いろんなビジネスや企画に手を出して、あれこれ大変そうだけど、それがいいのか悪いのかは本人次第。大統領選の話だって政治的パフォーマンスかもしれないし、本気かもしれない。まあ、世間の注目を集めるには悪い手じゃない。どうなるか、様子を見るしかないね」
──パディ・ ピンブレットは時々相手と激しくやり合うこともありますよね。今回はお二人ともかなり落ち着いた印象を受けますが、これについてはどう思われますか?
「正直、どうなるか分からなかったよ。パディは面白いトラッシュトークが得意だし、(リバプールの)“スカウス”なまりでどんどん突っかかってくるイメージもあるからね。でも、実際はそうでもない。トニー・ファーガソンとの試合後、俺はパディに直接声をかけて“ナイスファイトだった”って伝えたんだ。たとえ同じライト級の選手で、今後いつか戦うかもしれない相手だとしても、いい試合をすれば素直に称えたい。格闘技はリスペクトが大事だしね。
パディも“あなたみたいに派手なKOはできなかったけど、勝ててよかった”って言ってきた。そんな感じでお互い礼儀をわきまえてるし、別に嫌い合う必要なんてどこにもない。週末はチャンドラー対ピンブレットが、ファンにとって実質メインイベントになるだろうし、そこで最高の激突をして、お互いに手を握り合って、もしかしたら一杯飲みにでも行くかもね」
──少し前に“俺は自分の負けを愛してる”という趣旨の発言をしていましたね。あなたは大学レスリング時代、ビッグ12の大会で2年連続準優勝を経験しています。当時の負けの受け止め方と、今の負けの受け止め方にはどんな変化がありますか?
「大学時代は本当に大変だった。自分で自分を追い込みすぎて、レスリングという競技を“人生のすべて”にしてしまってたんだ。“これ以外はどうでもいい”みたいな感じで、友達や家族の誕生日会や葬式にすら行かないほど没頭してた。ある意味、それくらいやらなきゃ強くなれない部分はあるんだけど、自分のアイデンティティをすべて競技に捧げちゃうと、負けたときのダメージがすごく大きくなる。
最後にレスリングのシングレットを脱いだとき、“ああ、俺はなんてプレッシャーを自分にかけてたんだ”って気づいたんだ。それをMMAに持ち込まないようにしようと思った。もちろん浮き沈みはあったし、何度か同じ罠にはまったこともある。でも今は“勝ち負けがすべてじゃない”と分かってる。大事なのは、日々こつこつ努力を積み上げることで、それが自分の人生にとっての成功に繋がると信じてる。試合がどう転ぶかは分からないけど、俺はやるべきことを全部やった。自分の力を信じてケージに入り、勝利をつかみにいくよ。結果がどうなろうと、俺は全力を尽くしたと胸を張れるんだ」
──あなたはシャーウス・オリヴェイラと2度戦っていますが、今、ライト級やフェザー級周辺では、イスラム・マハチェフ(ライト級王者)がウェルター級に上がるかもしれないとか、チャールズがイリア・ トプリアと戦うかもしれないとか、いろいろな噂がありますよね。そういった動き全体を、あなたはどう見ていますか?
「ぶっちゃけ、どう転ぶか分からないから面白いんだよ。個人的には、ジャスティン・ ゲイジー(3位)がチャンスを得て、“BMFベルト”を懸けてマックス・ ホロウェイ(4位)とやる…みたいな絵も浮かぶし、結果次第ではまたランキングが動いて、俺とチャールズが次のNo.1コンテンダー争いをする可能性もある。そこへイリア・ トプリアが絡んでくるかもしれないし、ダスティン・ ポイエー(5位)が引退するかもしれない、イスラム・マハチェフ(ライト級王者)がウェルター級に上がるかもしれない…とにかく噂が多い。
でも、そういう混沌こそが“世界で一番面白い階級”って言われるゆえんだろうな。しかも、これだけ名前が挙がる選手はみんな本気で戦うヤツらばかり。シャーウス・オリヴェイラだってプロフェッショナルだし、俺は彼に2回負けたけど、だからって嫌いなわけじゃない。あいつは自分の仕事をやっただけで、その点をリスペクトしてる。彼も、タイトルやBMFベルトを懸けた試合に絡む可能性が十分あるし、正直、どういう組み合わせになっても面白い展開になると思うよ」
──あなたの本のタイトルは“See you at the top”になるのか、“Walk on”になるのか、という声もあるようですが?
「“See you at the top”は、ジグ・ジグラーがすでに書籍で使ってるから、同じ題名にはしないつもり。俺は格闘技界に“See you at the top”のフレーズを持ち込んで、それを広めたけどね。でもタイトルはまだ検討中だ。“688 days”とか“Walk on”とか、俺がこれまで経験してきたことを盛り込みたいし。出版はジョン・ゴードンっていう有名作家が立ち上げた会社から出せることになってて、最初の1冊目としてすごく大きい機会なんだ。タイトルはもう少し時間をかけて考えるけど、今から完成が楽しみだよ。
──“See you at the very top”も良いのでは?
「そうだね、“Over the top”もありかもな(笑)」
──あなたはこれまでポイエー、ゲイジー、オリヴェイラといったライト級のトップファイターたちと戦ってきました。今回、パディ・ ピンブレットとの一戦は“格下との対戦”と見る人もいるかもしれません。そのあたり、どう考えてらっしゃいますか? 負けることを想定してしまうと、タイトル戦線から遠ざかるんじゃないかとも言われています。
「俺としては“格下”とか考えてないし、“何年もトップとばかり戦ってきたのに、今回は格下”みたいな意識はない。ケージに入れば、相手は腕が2本あって足が2本あって、胴体と頭が1つある、それだけのことさ。名前やオーラに惑わされず、そこにあるターゲットを仕留めるだけだから。
それに、俺は試合前から“もし負けたらどうしよう”なんて一切考えてない。勝利を目指して全力を尽くすだけで、万が一負けたら負けたで、そのとき改めて次の手を考える。勝ってもまた考える。結局、俺は14歳の頃から競技をやってきて、常にそうやってきた。だからこそ、試合に向けて準備を万端にし、“勝つために最善を尽くす”だけ。それが俺のやり方だよ」
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パディ・ピンブレット「いつもみんながゴールポストを動かしてくる」
──UFC参戦以来、ずっと大きな注目を集めてきましたが、今回はあなたにとって過去最大の試合になるのではと思います。実際のところ、ご自身でもそう感じられていますか?
「そうだな。今の俺にとって、どんな試合も“キャリア最大の一戦”になるって感じだよ。勝たないとダメな試合だし、今年最高のPPVで、しかも最高のファイトカードのなかで“コメイン”を任されてるわけだから。ここで輝かなきゃ意味がない」
──多くのファイターはキャリアの中で、“こいつに勝ったら本物だ”と世間に認められるような試合を経験します。コナーが初めてダスティン・ ポイエー(ライト級5位)と対戦したときもそうでした。今回、マイケル・ チャンドラー(7位)と戦うことは、あなたにとっても“自分がエリートファイターだ”と証明できる一戦になると思いますか?
「そうなればいいけどな。だけど俺に対しては、いつだって“ここまで”ってゴールポストをみんな動かしてくるんだよ。試合前は“チャンドラーがKOするだろ、パディは大したことない”とか散々言われる。でも俺が勝ったら、今度は“いや、チャンドラーもUFCで2勝4敗のヤツだし”とか“もう衰えてた”とか言い出すんだ。ま、慣れたよ。とにかく勝って実力を示すだけだ」
──あなたのYouTubeチャンネルを拝見しましたが、今回はこれまで以上にキャリアを真剣に捉えているように感じました。ジムでの練習やスパーにも変化を感じますか?
「めちゃくちゃ感じるね。スパーの時から調子いいし、ラスベガス入りしてからも、こんなにファイトウィークに体力があるのは初めてだよ。パッド打ちを何ラウンドもやった後でも、さらに動けるし。ありがちなセリフだけど“過去最高の仕上がり”ってやつだ。今までで一番いい状態だし、それが試合でハッキリ出ると思う」
──手のサイズ比べをしていたようですが、どちらが大きかったですか?
「俺の方が“ムースナックル(男性がタイトなズボンを履いた時に股間の盛り上がりがはっきり見える状態を指すスラング)”みたいなゴツい手だって、みんな言ってたな(笑)。彼は小柄だし、俺の方がデカいと思うよ」
──人々が“ゴールポストをどんどん動かす”とおっしゃいましたが、これはトニー・ファーガソン戦やボビー・グリーン戦、キング・グリーン戦の前後にも言われていましたよね。最初は気にしたこともあったんでしょうか? それとも、もう割り切っている感じですか?
「こんなの16歳でアマチュアやってた頃からずっと言われてることだよ。“今回は負けるだろ、こいつは大したことない”ってね。でも俺は毎回勝ってきた。正直、もう慣れっこで、何も新鮮じゃないね」
──ケージ・ウォリアーズの時代から、あなたの名前は注目を浴びていた印象があります。それに、当初のUFC契約を断って自分に賭けた、なんて話も有名ですね。昔から“スター候補”と周りから見られてきたことを、自分自身ではどう受け止めていましたか?
「うーん、ケージ・ウォリアーズでベルトを獲った頃には海外でも知名度が上がったし、休暇でタイとかスペインに行ったときも、普通に写真を求められてたんだ。UFCに来る前からね。でもUFCはやっぱり“MMAのプレミアリーグ”だから、そこに出始めてからはさらに拍車がかかった。でも俺は全然気にしない。礼儀さえ守ってもらえれば、写真もOKだよ。“魔法の言葉は?”って感じで、ちゃんと“お願いします”とか言ってくれたら大歓迎さ。赤ん坊連れのときはちょっと遠慮してほしいけどね」
──コナーやショーン・オマリーは“最初から自分がスーパースターになるのは分かっていた”という言い方をしていました。あなたも同じように、プロになった頃から“こうなる”と分かっていましたか?
「うん、俺も最初から言ってたよ。“将来、絶対こうなる”ってね。だから今の状況になってもビビらないし、自然と受け入れられる。最初から“俺は世界でトップクラスのスターになって、いつかは世界王者になる”って言い続けてきたから」
──今年に入ってマウリシオ・ ルフィ、イグナシオ・ バーモンデス(ライト級15位)、トム・ノーランなど、若いライト級ファイターが次々と出てきました。彼らも“ライト級上位陣はそろそろ引退や衰えが見えてきた”と言ってます。あなたはこうした若手の波を感じますか? 数年後には彼らとタイトルを争うかもしれない、とか。
「そうだな。俺も同じことを思うよ。ライト級の“旧世代”はそのうちみんな引退したり、トニー・ファーガソンみたいに下降線たどったりするだろうし。大半が35歳超えてるよな? ベニール・ ダリウシュ(9位)とかヘナート・ モイカノ(10位)、マイケル・ チャンドラー(7位)、ダスティン・ ポイエー(5位)、シャーウス・オリヴェイラ(2位)……みんなベテランだらけだし、マテウス・ ガムロ(8位)とかダン・ フッカー(6位)も30代半ばになってるかも(35歳)。あと何年かしたら、トップ10はまったく別顔ぶれになると思う。俺とかアルマン・ ツァルキャン(1位)くらいしか残ってないかもね」
──あなたのコーチが“シャーウス・オリヴェイラの試合を見れば、チャンドラー攻略のヒントが詰まっている”みたいなことを言っていましたが、具体的にはどんなところでそう感じるんでしょうか?
「そりゃいろいろあるさ。一つ挙げるとしたら、オリヴェイラはチャンドラーを正確に捉えてたろ? チャンドラーはレスリングが強いとされてるけど、ピュアレスリング(D1クラス)とMMAでのレスリングは違う。俺の方がMMAレスリングは上だと思うし、グラップリングでも打撃でも俺の方が総合的に上だと思ってる。彼はパンチ力があるかもしれないけど、誰が本当に強いのか証明してやるよ。正直、俺がKOする可能性の方が高いと思うね」
──さきほど“旧世代のトップファイター”の話をされました。偉大な元王者やレジェンド級の選手を倒すことで、キャリアの実績を積み上げたい?
「そりゃあもちろん。これから殿堂入りしそうな選手、たとえばジャスティン・ ゲイジー、ダスティン・ ポイエー、オリヴェイラ……そういうのに勝てたら最高だろ? 特にシャーウス・オリヴェイラとはいつか絶対やりたい。UFC史上最多サブミッション勝利記録も持ってる元王者だし、防衛もしてきた。体重超過した試合も含めてタイトル防衛だと思ってるし、彼との試合はスタイル的にも絶対面白いよ。でもダスティンはあと1試合くらいで引退しそうだし、ゲイジーもいつまで続けるか分からない。でもそういう選手たちはライト級の歴史を築いた存在だし、彼らを倒して名を上げるのは“最高にカッコいい”って思うんだ」
──ダスティン・ ポイエーがUFC 314のアナリストを務めるようですが、「あなたの試合を見て、良いコメントをしなきゃいけない立場になるかも」と考えるとワクワクしますか?
「正直、彼は俺のことあんまり好きじゃないと思うんだよね。でも俺よりもマイケル・ チャンドラーの方を嫌ってるのは間違いないだろうね。だから、俺が勝ったあとで彼とちょっと話せたら面白いんじゃない? どういうコメントするかも含めて、楽しみにしてるよ」
──先日、(同じリバプール出身で洞門のUFC女子ストロー級ファイター)モリー・マッキャンが引退を発表しましたね。パディ&モリーのコンビで大きな注目を集めたこともありましたが、もう一度一緒に出場したかった、という気持ちはありますか?
「そうなんだよ。正直、まだ引退してほしくなかった。なんとなくそうなるかもって兆しはあったけど、まさかあんなタイミングで決断するとは思わなかったね。対戦相手の変更も痛かったし。最初は打撃主体の選手だと思ってたのに、いきなりグラップリングの強い相手をぶつけられたんだから、いろいろ狂ったんだろう。でもモリーにはほかにもやりたいことがあるし、子どもを望んでるとも言ってたし、自分のビジネスもある。ファイト以外の人生もあるわけだから、そこは尊重するしかないよ。本当はもう一度一緒に出場したかったけどね」
──あなたとチャンドラーは、どちらも2021年にUFCデビューしています。あなたはケージ・ウォリアーズからの道のりの中で、最初のUFC契約を断ったり、当初はギャラが安かったりという苦労もありましたが、今振り返って、この展開は想像以上でしたか? それとも想定通りですか?
「これはずっと想定してた通りだよ。ただ、ケガをして1年休んだり、双子が生まれたりして、少しペースが遅くなったのはあるかな。でも順調だよ。ここでマイケル・ チャンドラーを倒して、次は秋のアブダビあたりでラファエル・フィジエフとか、シャーウス・オリヴェイラとか、ジャスティン・ ゲイジーとか、ダスティン・ポイエーとか、そういうビッグネームと戦いたい。そして2026年にはベルトを狙う――そんな青写真は描いてるね」
──先日、アルマン・ ツァルキャン(1位)とSNSで揉めていましたが、何かきっかけがあったのでしょうか? 彼はあなたのコメントに反応したようですが……。
「うん、インタビューで“俺はトップ5に興味があるからチャンドラー対パディなんか見ない”って言ってたからさ。でも結局、俺に関してツイートしてきたりするわけだろ?“興味ない”って言う割には、って思うよね(笑)。俺は気にしてないけど、そういう矛盾したこと言われると“あれ?”ってなる。ま、俺は誰とでも戦うし、別にアルマンを嫌ってるわけでもない。ただ、ちょっと“口ではああ言うけど本当は気になるんだろ?”って思っただけだよ。今回勝ったらトップ5の誰でも構わない。アルマンでもいいし、オリヴェイラ、ゲイジー、ポイエー……誰でも倒してタイトルに近づきたいだけさ。個人的に恨みがあるのはイリア・トプリアくらいだからね。俺はどんな相手からのオファーも断らないから」
──パトリシオ・“ピットブル”・フレイレが、あなたからアドバイスを求められて、それに答えたと話していました。チャンドラー対策に関して何かヒントを教えてくれた、と。
「そう、2週間くらい前の記者会見のときに話して、実は一緒にスパーしようかとも思ったんだ。彼も低身長でパンチが強いし、俺はリーチがあるから、お互いにいい練習相手になれそうだった。でもタイミングが合わなくて実現しなかったね。それでも“こうするといいぞ”っていう技術的なアドバイスをいくつか教えてもらった。もし試合でその動きがうまくハマったら、パトリシオには大きな感謝とともに、その映像をシェアするつもりだよ」
──3年前に“ザ・バディ・ファウンデーション”を立ち上げ、男性のメンタルヘルスや子どもたちの食糧支援に取り組まれていますね。進捗はいかがでしょうか?
「すごくいい感じだよ。イギリスには“James's Place”っていう男性向けのカウンセリング施設があって、俺自身もそこに通って助けられたんだ。そこでの相談員を1人(もしくは2人)増やせるくらいの資金を、俺たちのファウンデーションから寄付して雇用をサポートできた。ああいう場所が増えれば、追い詰められてる男性が自殺を選んだりせずに済むかもしれない。そういう活動を続けていきたいんだ」
──マイケル・ チャンドラー(7位)は、一部ファンや対戦相手から“反則を辞さない”とか“ダーティーファイターだ”と言われることがあります。その点についてどう考えますか? 対策としてレフェリーに何か伝える予定は?
「彼ってケージの外ではすごくナイスな男なんだけど、中に入ると、ずいぶん荒っぽいことを平気でやるよね。でも俺からすれば“ルールすれすれの行為も勝つためなら仕方ない”って考えも分かるよ。俺自身、“やれることは全部やる”ってタイプだし。だけど、やっぱり後頭部やグローブを掴むのはレフェリーにもしっかり見てもらいたいよね。オリヴェイラとの試合でも後頭部を何発も打ってたし、ゲイジー戦のときもアイポークがあったのに、そのまま殴り続けたりしてた。それを許容するレフェリーは勘弁してほしいし、できればハーブ・ディーンやマーク・ゴダードみたいな、厳正なレフェリーがいい。試合外では彼と昨日も会って話したんだけど、本当にいいやつなんだよ。ただ、オクタゴンの中では“めちゃくちゃ荒いヤツ”ってことは間違いないね」