MMA
インタビュー

【UFC】王座防衛のメラブ・ドバリシビリ、試合2カ月前に27針の裂傷も身体検査で「無傷の足を2度見せる」“マジック”でクリアしたことを明かす──王者のメンタルとは?

2025/01/22 16:01
【UFC】王座防衛のメラブ・ドバリシビリ、試合2カ月前に27針の裂傷も身体検査で「無傷の足を2度見せる」“マジック”でクリアしたことを明かす──王者のメンタルとは?

(C)Daiki Watanabe/GONG KAKUTOGI/Zuffa LLC/UFC

 2025年1月18日(日本時間19日)米国カリフォルニア州イングルウッドのインテュイット・ドームにて『UFC 311: Makhachev vs. Moicano』(U-NEXT見逃し配信)が開催され、コメインの「UFC世界バンタム級選手権試合」5分5Rで、王者メラブ・ドバリシビリ(ジョージア)が、18勝無敗のダゲスタンの挑戦者ウマル・ヌルマゴメドフ(ロシア)に判定3-0(48-47×2、49-46)で勝利。試合後の会見に応じた。

 そこに、ファイトショーツのままで現れたドバリシビリは、試合前に背中を傷め、さらに右足に深い裂傷を負っていたことを公表した。

 今回のLA大会は、様々なチェックが厳しいことで知られるカリフォルニア州アスレチックコミッションの管轄。その事前チェックでドバリシビリは、負傷した足をみせる際に、無傷の左足を2回見せて、ピンチを乗り切ったことを、米国の『The Ariel Helwani Show』で明かしている。

 ドバリシビリは、「怪我をしたのは11月の中旬だと思う。切り口が開いたままで、治るのにすごく時間がかかっていて、5週間後にやっとふさがった。心配だった。戦わせてくれないのではないかと。毎日クリームを塗ったり、マッサージをしたり、あらゆる治療をした。

 僕の写真を見てもらえれば分かると思うけど、僕の足はいつもシンガードに包まれている。でも、小さな怪我や痛みを伴う部位はいつも、誰もがそこに偶発的に触れるものだ。27針だったかな。僕は2つの切り傷を負っていた。ひとつは小さかったが、下の方は深かった。階段でトレーニングをしていてぶつかったんだ。階段でスネを打った」と振り返る。

 問題は、事前の身体検査だった。

「知っての通り、カリフォルニア州は非常に厳しいアスレチックコミッションがある。彼らは僕の身体のすべてをチェックし、木曜日にパンツを履いていたら、コミッションの人が『スネを見せるために足を見せてくれ』と言うので、足を上げたんだ。僕は左足のズボンを持ち上げて見せた。『もう一方も見せてくれ』と言われた。同じ足を2回見せた。だって、もしかしたらパスできるかもしれないんだから。心配だったんだ。長い間カットしていたから」(ドバリシビリ)

 長きにわたり、ドバリシビリのトレーニングパートナーを務めるアルジャメイン・スターリングも同番組で、そのときのことを振り返っている

 ドバリシビリが身体検査をパスした経緯を明かしたことを知り、苦笑するスターリングは、そのときのことについて「見てたよ 。いや、見てなかった。見てなかったけど、聞こえたんだ。後ろでパニックになっていたよ。彼らは足を見たら『一発で開く』と言うだろう。あれは、DCのタオルのトリックのようなものだ(※2017年4月にダニエル・コーミエーがアンソニー・ジョンソン戦前の再計量で目隠し用のタオルに両手をかけて、体重を少しでも軽くしようとしたこと)」と、ドバリシビリが検査をパスしたことは苦肉の策が奏功したとした。

 実際に、ドバリシビリが階段で怪我を負ったのかどうかは不明だ。氷の池に頭から飛び込み、氷が思うように割れずに痛い思いをした動画を自ら笑い話とするドバリシビリだけに、裂傷を負った動画からは、そのいきさつが判断できない部分もある。

 その経緯を問われたスターリングは、「彼や(コーチのジョン・ウッドが)何が起きたか話さなかったのなら、僕は話さないよ。(凍った池に飛び込むのと同じくらい酷いこと?)いや、そんなもんだ。それもまた違うメラブなんだ」と語るにとどめている。

 UFCで連勝していたドバリシビリは、スターリングがバンタム級の王座にいるとき、同門対決を望まず、スターリングの階級転向を待っていた。


(C)Zuffa LLC/UFC

 会見では、ダゲスタンレスリングの猛者であるウマル・ヌルマゴメドフとの試合を振り返るなかで、「スパーリングパートナー、特にアルジャメイン・スターリングが教えてくれたことに感謝したい。アルジャメインのレスリングはヌルマゴメドフよりもずっと優れていると思う。別次元のもので、誰も見たことがないし、アルジャメインのレスリングは僕に自信を与えてくれた」と語っている。

 その練習環境は、朝倉海も通っていたラスベガスのシンジケートMMAで、そこではThe Ultimate Fighter Season 7に出場経験を持つジョン・ウッドらがコーチを務めている。

 ウッドは、今回のヌルマゴメドフ戦に向かうドバリシビリのコンディションに当初は問題があったことを認めながらも、身体検査の前までに、ドバリシビリが驚異的な回復を見せていたという。

「私はそこ(身体検査の部屋)に座っていた、明らかに足に問題があった。最初に言っておくけど、このキャンプは荒っぽかったし、足はずっとひどかった。背中も悪かった。6週間のキャンプのうち、1週間はできなかったんだ。背中が痛くて、足を使ってのトレーニングが半分もできなかった。でも、クレイジーなことに、彼はスパーリングで必要なところにまで到達したんだ。(回復は)驚異的に見えた。だから、試合前に僕が『今まで見た彼の中で一番いい感じだ』って言っていたのは、決して嘘じゃなかったんだ。今まで見た中で一番暴力的だった。だから、僕たちはキャンプを乗り切ることができた」と、その過程を語る。

「ただ、明らかにカリフォルニアのコミッションは非常に厳しい。感染症は無かったが、足にはゴルフボールのようなかさぶたができている。だから本当に心配だった。ドクターの検査のとき、どうなるかわからないと思ったんだ。そう、私はじっと彼の様子を見て──彼のマジックは上手く行った」と、その瞬間を“マジック”と評した。

「でもそれは、確かにずっと怖いことだった。信じられない。だから、彼をこの試合からキャンセルさせるという考えがなかったと言ったら嘘になる。この状況でタフな相手と戦うことは考え辛い。相手は無敗でこっちはかなり短いキャンプだ。足はぐちゃぐちゃだ。全部で26針縫ったって言ってた。背中もぐちゃぐちゃだ。タイトル防衛戦に行かせるなんて、どう考えたらいいんだ?

 彼がタイトルを取れるかどうかは誰にも分からない。私は彼にそのこと(試合キャンセル)を話したと思うし、ある種の投げかけを見て、それに対する彼の反応を見たんだ。正直なところ、あまりにひどい状態だった。私がキャンセルを提案したら、彼はそれに応じたかもしれない。でも、彼はとても動揺し、怒り、一日の終わりには何もかもがうまくいかなくなっていただろうね。彼はまだ元気そうに見えたけど、病気や怪我をしている。それでもまだ最低でも10ラウンド、世界最高の選手たちとハードなスパーリングをしていた。

 それを彼にぶつけたのだから、コーチとしてそれを見ているとき、彼が必要なときにすべてのシリンダーをフル回転させているときに、“どうやってこの男を試合から引きずりおろそう”というようなことはなかった」と、アクシデントのなかでもドバリシビリを信じて、ともに試合に向かう決意を固めたことを明かす。

 そして、最強挑戦者を迎えた、5R戦の中盤からの巻き返し。ウッドは、メラブ・ドバリシビリのファイターとしての資質を称える。

「メラブが長年にわたってやってきた、.仕事の仕方を学ぶことができた。計量が終わってあとは試合だけで、インタビューももうないとなったとき、彼の中に輝きを見ることができる。彼の目が輝いているのがわかるだろう。別人だ。心底、ファイトデイが大好きなんだ。メラブは興奮している。だから試合の日になると、スイッチが入る。そして神に誓って、私たちがそのような会話(キャンセル)をする必要がなかったことを喜んでいる。明らかに結果は出たのだから」。

 ドバリシビリは試合後、その怪我について、「試合中は何も問題なかったよ。いまも問題ない」という。

 試合前の会見では、MMAでUFC入りを決める前から続けていた建設業の仕事について「もしウマルのようにこの競技だけに打ち込んでいたら、違うキャリアになっていたと思いますか?」と問われ、「逆に建設の仕事をしたからこそ、違うパワーとメンタルが身についたと思ってる。8時間ぶっ通しで作業するのは普通だし、25分の試合なんて大したことない。あれで培った体力や根性が今のファイトスタイルに生きてるんだ」と答えている。

 本誌のインタビューでは、「長い道のりを歩んできたんだ。2020年までの生活がどれだけ大変だったか考えると、本当にいろんな苦労があった。“格闘技を続けるべきか、それとも建設業に専念するべきか、結婚して夢を諦めるべきか”って、毎日自分に問いかけてたんだ。“もしかしたら、これは自分には向いてないのかも”と思ったり、フルタイムの仕事をしながらトレーニングするのがどれだけ大変だったか。炎天下や雪の中で働き、家に帰ってからもトレーニングを続けた。それが本当にきつかった。

 でも2020年以降、たくさんのことが変わった。UFCで試合をたくさんして、いい収入を得るようになり、仕事を辞めてフルタイムのファイターになったんだ。そしてラスベガスに引っ越して、移民の書類も整って、今では祖国や他の国に自由に行けるようになった。今では市民権を得て、ショーン・オマリーのコーチを叩いても、アメリカから追放されることはない(笑)。本当に嬉しいよ。多くのことが変わって、感謝してる。まずはUFCに感謝してる。今は自分の家で眠れて、家族や友達をサポートできる。さらに、他の人々を励ますことまで出来る。俺は良いサンプルだと思う。俺にできたんだから、みんなもできる。ただ夢を追いかけて努力し続ければ、すべては可能だよ」と、夢を諦めずに人一倍の努力を重ねたことで、夢を現実のものとしたと語っていた。

 今回の試合後の会見の冒頭と最後に、「戦いは僕にとって何でもない。普通の日」だと語ったドバリシビリ。

「今日は何もない。僕の生活は何も変わらない。同じ友達がいて、同じ生活をしていく。でも、僕はハングリーだし、このベルトを守りたいし、勝ち続けたいし、ベストを尽くしたい。それが僕の人生なんだ。日々、ベストを尽くすこと。トレーニングをしてファイトする」──ドバリシビリの一問一答は以下の通りだ。

MAGAZINE

ゴング格闘技 NO.336
2025年1月23日発売
ブラジリアン柔術&総合格闘技専門店 ブルテリアブラジリアン柔術&総合格闘技専門店 ブルテリア

関連するイベント