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【UFC】UFC CONFESSIONS──パントージャはいかに朝倉海を極め、朝倉はいかに敗れたか。「純粋なタックルは取られない自信があったけど、あれは──」

2024/12/14 12:12
 2024年12月7日(日本時間8日)、米国ラスベガスのT-モバイル・アリーナで開催された『UFC 310: Pantoja vs.Asakura』(U-NEXT配信)で、朝倉海(日本/JTT)がUFC世界フライ級王者アレッシャンドリ・パントージャ(ブラジル/ATT)に挑戦。2R 2分05秒、リアネイキドチョークでパントージャが朝倉に一本勝ちし、3度目の王座防衛に成功した。  敗戦後、12日に帰国した朝倉海は自身のYouTubeを更新。また、王者もアリエル・ヘルワニの番組に出演し、試合を振り返っている。王者から対戦を指名されたデメトリアス・ジョンソン(DJ)の言葉も含め、主に試合の動きにフォーカスして、本誌のインタビューも併せて、紹介したい。  試合から4日後、朝倉はパントージャについて、「思っていたより“強かった”というより“上手かった”。さすがだなと。まあちょっと派手に狙いすぎた。正直、狙いすぎたっていうのはある。それが俺だから仕方ないんだけど“とにかくKOで勝ってやろう”っていうのを狙いすぎた」と、スタンドの動きが大きく雑になっていたと振り返る。  その“上手さ”とはどこにあったのか。  MMAはスタンドから始まる。ともにオーソドックス構えから。朝倉はいつものようにワイドスタンスで構えると、いきなり王者はその前足に堀口恭司戦同様に、右カーフをヒットさせる。  さらに右ストレートを突いて詰めるパントージャに、朝倉は下がりながらもカウンターの跳びヒザ蹴り。その蹴り足を掴んでバックテイクしたパントージャだが、ここは朝倉がクラッチさせずに正対、突き放しに成功。  しかしすぐに間合いを詰めるパントージャは右のダブルから左を当てて金網に詰めてダブルレッグへ。ここもすぐに差し上げた朝倉は、尻は着かずに立ち上がり、左で差して体を入れ替え押し込み。ここで最初のテイクダウンを奪われている。 【写真】パントージャは小手巻きから釣り手と引き手の組み手に変えて足払いでテウクダウンした。朝倉にとってはバックテイクのチャンスでもあったが……。  それは、朝倉が予想していなかったパントージャの足技だった。  1回目は1R序盤。パントージャに金網を背負わせて頭をアゴ下につけて押し込む朝倉に、パントージャは右の小手巻きを解除し、右釣り手で奥襟を掴むように後ろ頭を引き寄せ、引手の右手も掴むと、その組み手を嫌った朝倉が腰を引いて離れると、そこにパントージャは右の小外がけを合わせて見事にテイクダウンを奪っている。  ここは背中を着かされた朝倉が、フルガードから右腕でオーバーフック。パントージャが上体を上げた動きに合わせて足を引いて立ち上がることに成功した。「Rは相手を疲れさせる」作戦だったパントージャとしても、無理にパスガード、スクランブルの動きは見せず、立たせている。 パントージャは打撃に対して1ミリもビビってない(朝倉) 【写真】朝倉海に圧力をかけて関節蹴りを突くパントージャ  間合いが空くと、右のスーパーマンパンチ、左インローの連打、右ボディストレートと自身の打撃の距離で戦う朝倉。  右を見せてパントージャの打ち返しの左を誘うと、ここにカウンターの左ヒザをヒット!  このテンカオの動画を見たデメトリアス・ジョンソンは、朝倉のヒザを「肝臓に突き刺したヒザ蹴りは見事だった。美しいショットだった。パントージャは中に入る瞬間に食らったね」と評価する。  表情が変わり一瞬、動きが止まったパントージャだが、苦しい時に前に出るのが王者だ。さらに右ボディストレートで腹を突く朝倉を歩いて詰めると、左右で顔面を叩いて前に。  そこに再び右の跳びヒザ蹴りを腹に狙った朝倉だが、ここはパントージャも当てさせず。朝倉の間合い・リズムになりかけたところに右の関節蹴りを出している。  試合後、パントージャは「彼のヒザに繰り出した関節蹴りが有効だった」という。 「ジョン・ジョーンズのように関節を蹴ったときに、彼の出鼻を挫くことが出来ると気付いたんだ」(パントージャ)  朝倉も右のフェイントからの左を当てるが、決定打にはならず。パントージャが詰めると、テイクダウンを警戒する朝倉はバックステップで一気にケージを背に。入り際のカウンターの打撃を警戒するパントージャはここでも関節蹴りを使っている。  パントージャの右をかわして圧力をかける朝倉は、オーソから鋭い左ハイ。  DJは、「朝倉海のハイキックが速くて美しい、掴めない。海の悔しさを晴らしたいね。彼は動きが速くて目もいい」と賞賛も、「でも“戦い”なんだよね。アスレチック競技ではなく格闘競技なんだ。ハイキックも彼のブロックの上だった。もしこれがもう少し高ければ、頭頂部に当たったかもしれないが、パントージャは大袈裟に反応せずにブロッキングしたのも上手かった」と王者がグローブ1枚挟んでいたこと、すぐに右のミドルを打ち返していることに着目している。 「パントージャは必ず蹴りをかまして終わらせる。なぜなら相手が自分から離れようとしている時、パンチを出そうとしないことを知っているから」(DJ)  ブラジルムエタイで20戦無敗のパントージャは、関節蹴りのみならず、足を上げてのチェック、ガードも巧みで、蹴り返しも左右で打てるのが強みだ。  朝倉は、「パントージャの関節蹴りは別にそんなに何とも思わなかったけど、やっぱり向き合ってみて強さを感じた。打撃に対して1ミリもビビってないし、“もらってもいいよ”という感じの雰囲気もあるし、攻撃力の重さもある」と、パントージャの打撃の圧力を語る。 [nextpage] 両手で突き放す朝倉にクリンチやレスリングがあったら──(DJ)  1R終盤もパントージャは、166cmの身長より7cm長いリーチを活かした左ジャブから右ローで朝倉を後退させると、左右の足を交互に上げながら、右の関節蹴りのフェイントで間合いを詰めて右から左で再び組み。ここも突き放した朝倉だが、またもパントージャの右ミドルを被弾。パントージャの詰めてのダーティボクシングにも両手を伸ばして突き放すが、右ミドルに後退。最後の跳びヒザにも関節蹴りでストッピングされている。  この朝倉のスタンドについて、DJは「ケージの中で1人は戦っている、もう1人は走っている。朝倉はノックアウトするスペースを確保するために走っている。パントージャはどんなスペースがあっても戦おうとしている。それがこの2人を見たときの違いだ。  朝倉は組みついたり、レスリングしたり、クリンチや何かをする代わりに、パントーヤを押しのけようとしている。彼はいつも相手を両手で突き放そうとするから、頭が開いたままになってしまう。クラッシュを起こしたいヤツがいる一方で、彼は戦いから逃げようとしているように見える。朝倉は壁を壊されたくないんだ。  僕なら? パントージャが突進してくる。OK、僕もクラッシュで迎え撃つか、クリンチを始めるか、ヒジを入れるか、右手で彼の頭をどけるか。逃げずに踏み込んで、この手を上げて内側を取ってボディにヒザを当てれば、相手が足を取りに来るから、その時は頭を落としてスプロールして立って殴る」と、朝倉にクリンチゲームが無いことが、王者のペースになったことを指摘する。  寝技を警戒する朝倉にとって、その対処は相手を剥がすこと。そこに自ら組んでいい形で削り、スタンドに戻すという選択肢は、今回に関しては、優先度が低かった。  DJは「アレッシャンドリ・パントージャのゲームだ。朝倉は足が速いが、交通事故のような展開になると、パントージャはムエタイクリンチやレスリング、柔術、グラップリングも織り交ぜてのトランジションのやり方を知っている」と王者の方が、MMAの引出しが多いことを語った。 引っかけられた、あそこは警戒してなかった(朝倉) 【写真】2Rのパントージャの足払いに両手を着いて残した朝倉だったが……。  初回のジャッジペーパーを紐解くと、3者が10-9でパントージャを支持。5R戦において経験豊富な王者が得意とする後半よりも、前半に勝負をかけたい朝倉にとって、大事な1Rを落としたことで、より“KOで勝ってやろうと狙いすぎた”動きになっていった。  逆にパントージャ陣営のマルコス“パルンピーニャ”は「1Rはプレッシャーをかけてところどころでテイクダウンを入れて、相手を少しずつ削る。“朝倉を動かさせて疲れさせる”のが作戦だった」と、作戦通りの展開だったと明かす。  そして2R、序盤から間合いを制したのはパントージャだった。  圧力をかけるパントージャに、足を止めたまま左ジャブを突いた朝倉。そこにパントージャは踏み込んでの左ジャブを顔面にヒット。真っ直ぐ下がった朝倉は右を返すが、そこに内側から左を突いたパントージャは、さらに左のダブルで朝倉に金網を背にさせるとダブルレッグへ。  朝倉はこの瞬間を、「パワーっていうよりテクニックで引っかけられちゃったっていう感じだった。あそこは警戒してなかったとこだった。純粋なタックルは多分取られないなっていうのはあったから。やっぱ引っかけみたいなのが上手かった」と、相手のシングルレッグ、ダブルレッグのタックルを切ることに強い自信を持っていたことを明かす一方で、その後のパントージャの崩しが想定外だったと吐露する。  パントージャのタックルを左で小手巻き=オーバーフックで差し上げた朝倉は、ケージから離れて左に回るが、右手で差してアンダーフックのパントージャは朝倉の胴を右手で固定し、右足を朝倉の左ヒザ裏に差し込んで足払いで崩してテイクダウンへ。ATTでは堀口恭司も得意とする動きだ。バランスを崩すも背中を着きたくない朝倉は両手を着いて中腰となった。  この瞬間、パントージャは朝倉のバックについて背中に跳び乗った。  ここで朝倉は完全には背中に乗らせなかったが、パントージャは右手を首横に左は脇下のシートベルトの形から右足を大きく腹の前から朝倉の奥足の左足まで差し込んでいる。 「ボディトライアングル」=4の字ロックを狙っているのは明らかだった。しかし、まだ片足立ち。ここで左肩を金網につけて完全バックは許していない朝倉だが、右肩は内側に入らず。  ここでひと呼吸を置くことで、パントージャに次のアクションを起こすタイミングを譲る形に。パントージャはバックからシートベルトではなく両脇差し=ボデイロックに切り替え、右足も着地して崩しにかかる。  タイトな上半身で右肩を正対出来ない朝倉に、パントージャは右足フックは解除しながらも、左足で朝倉の右足を小内刈りのように右に引き寄せて背中を向かせると、一気に背中に跳び乗った。  足払いに続く、見事な足運びだった。  パントージャはすぐさま左足を外からフック。このとき、朝倉はパントージャの体重移動で背負いきれず、両ヒザをマットに着いてしまう。  亀の体勢で腕を喉下に巻かれたくない朝倉は右手でパントージャの右腕を払うが、その動きを利して、パントージャは朝倉を仰向けにさせた瞬間、かけていた左足を胴に巻き、4の字ロックを組んでいる。 [nextpage] 4の字はマジで全く動かなかった(朝倉)  朝倉はその瞬間を「足をかけてから、ずっと相手がどういう体勢になるっていうの全部計算していて、隙間も無いし、その辺の読みとか連動してる感じがすごく上手かった。あとバックの時の密着度とか。めちゃくちゃタイトだった、本当に。(4の字は)マジで全く動かなかった。想像よりも強かった」と、ボディトライアングルに腰をずらす隙間がなかったと振り返る。  王者は試合後、本誌の取材に「もちろんそれこそが極めるために必要だった。すごく得意だから。あの時、ボディトライアングルをとてもタイトに力を込めて絞めた。それは相手を疲れさせることにも繋がる。相手が“解除しなくては”となるから。1Rは足をフックできなかったから海に逃げられたけど。2Rには相手も疲れてきてフィニュシュに繋がった」と言う。  胴をタイトに両足で巻かれた朝倉はハンドファイトでも劣勢に。  肩越しのパントージャの右腕をツーオンで両手で掴む朝倉に、パントージャは左脇に差していた左手を抜いて、背後から左手で朝倉の顔を片手で強力なフェイスロックに。  定石通り、足を組まれた右側を向いて後ろ手を組ませないようにする朝倉だが、パントージャが腕を組み直した瞬間、朝倉の両腕は無防備に。右腕を顎上から巻いたパントージャは、左の二の腕を掴み、左手は掴まれないように自身の頭後ろにいったん隠している。  この時点で、朝倉はパントージャの右ヒジを押し上げようとするが、二の腕で組んだパントージャの右手は顎下に食い込み。それでも朝倉は両手を頭後ろに伸ばしてパントージャの左手を掴んで剥がして手前に落とすが、その腕はパントージャのワンハンドチョークの右手の上で蓋をする形に。パントージャはその蓋をした自らの左肩・二の腕付近を掴み絞めた。  朝倉は右手でパントージャの左手は掴んだままながら、左手の力が抜け、失神。レフェリーが両者を分けると、王者は笑顔でスキップしてケージの上に飛び乗った。  このフィニュシュをDJは、「バックを取られても海はハンドファイトしている。でも、これは僕が柔術をするようになったから言えることなんだけど、パントージャがボディトライアングルを組んだのは、この腰の部分を制すれば上から攻めることができるからだ。だから、彼に背中を取らせてはいけない。  これがゴールだ。ここから脱出するためには、組んでいる足の側を向かなければならない。ボディトライアングルから二重にからんだ足も解除し、正対する。けど、パントージャはそれもさせずに彼の首を絞めた。ボディトライアングルはとても効果的だ。ガリガリに痩せているときは特に」と、極限まで減量した朝倉にとって、4の字&おたつロックの解除が向き直りに必要だったと語っている。  パントージャは、「最後は確かに片手で極めた。コーチが僕に常に言うのはフィニュシュするときに100%を使ってはいけないと。とにかく肩を掴んで時間がまだあって、海のうめき声が聞こえたから、ラウンドも序盤で時間があったし、状況に従って極められる方向についていった。それが上手く出来た」と、冷静に組み手争いを行っていたとした。 フライ級は調子が良かった。ただ、パントージャは俺より──(朝倉) 「パントージャに勝つのに必要なのは、1つ目は鉄のアゴ、2つ目は掴まれないこと、3つ目は身体の大きさ」と言うのは、DJだ。「パントージャはATTでベストの選手と練習している。堀口恭司、アドリアーノ・モラエス……階級上の選手とも」と、自身も対戦した強豪たちとの練習がそのタフさの源にあると語る。  パントージャも「朝倉とのフェイスオフのときに『君はそんなに大きく見えないね』と言ったんだ。でも大きかった。ただ、あの試合のために、僕はATTでたくさんのバンタム級ファイターとトレーニングをしてきた。ATTには多くのいいファイターがいる。だからパワー差は感じないよ」と、朝倉にアドバンテージがあると見られた体格差は感じなかったという。  7年半ぶりのフライ級転向のため、大幅減量とリカバリーに不安が残るなか、最後の水抜きで約5kgを残していた朝倉にとって、5Rの王座戦でどれだけバンタム級時代の出力が出せていたか。パントージャに背中に乗られた場面、朝倉は背負って振りほどくことが出来ず、クラウンドに引き込まれている。  試合後の朝倉は、この階級で手応えを得ていたことを語る。 「正直、フライ級に関しては調子が良かった。減量も水抜きもまだ余裕があったし、リカバリーも普段のバンタム級と変わんないぐらい、当日多分65kgくらいまで戻してた。それでも(身体の)重さみたいなのも無い。試合前のアップとかでもすごい調子が良かったし、試合中も力が出ないとかスタミナが無いとかっていうのは全然無かったし、リカバリーもしっかり出来てた。パワー負けしてる感じはしなかったし、組んだ時も全然軽いなと思った。ただ、パントージャが上手くて、その点で俺の実力不足だった。適正が(フライかバンタムか)どっちの方がいいのかっていうのは、100%は分からないけど、ただフライ級に落として、なんか力が落ちたとか、体力無いとかっていうのはあんまり感じなかったから良かったと思う」と、今後もフライ級で戦う意向だ。 「ただ」と続ける朝倉は、「パントージャは俺より戻していたかもしれない。だからその辺はやっぱり、UFC選手は戻し幅が本当に大きいからね。身体作りもより力を入れて考えないといけないっていうのはある」と、フライ級で戦う経験値を、心技体ともに高める必要があることを語った。 [nextpage] UFCはフライ級で朝倉海という最高のカウンター・ストライカーを見つけることができた。「俺を罠にハメようとしているんだな」と思ったよ(パントージャ)  3度目の王座防衛に成功し、トップランカーたちを無双したパントージャについてDJは、「もし朝倉海がもっとグラップリングが上手くて、クリンチが上手くて、レスリングが上手かったら『よし、これは大変なことになるな』と思っただろう。パントージャにとっては色々ハードなマッチアップだったが、自分はこの結果には少しも驚かなかった。パントージャのグラップリングゲームはあまりにも素晴らしく上手すぎるから」と、かつて自身が巻いたベルトを持つ王者を称える。  一方で、パントージャは今回の前RIZINバンタム級王者・朝倉海のUFCデビュー即挑戦について、ある思いが巡ったことを明かす。 「ショーン・オマリーのビデオを見ているみんなは、彼が投稿した僕とのスパーリングを見ているだろう。何年も前のことだ。あの時、彼は僕の腹に蹴りを入れて倒した。それからUFCは、それをやってくれるいいヤツを日本から見つけてきたんだ。UFCはフライ級で最高のカウンター・ストライカーを見つけることができた。その時、“俺を罠にハメようとしているんだな”と思ったよ」  試合後、アリエルから、朝倉が再び王座戦線にからむことが出来るか? と問われると「朝倉はナイスファイトだったし、皆チャンレンジャーになりたいものだ。でもいますぐには無理だと思う。俺がどうやったら彼を倒せるか見せてしまったから。ジョン・ジョーンズキックもフライ級ランカーの多くが使うことができる」と、朝倉が再び王座にからむためには進化が必要だとした。  敗戦を見つめ直した朝倉は、「今までの格闘技人生の中で一番悔しい。この試合に向けて本当に準備してきたし、1ミリも妥協せずに毎日過ごしてきたから、この1年間の格闘技に。だから本当に自信があったし、記者会見の時とか計量の時とか、見栄を張ってるとかそういうのじゃなくて、本当に勝てる思ったし、自分のやりたいことやれれば勝てた。でもそれをさせずにここで勝つのがパントージャの強さだと思う。  今回はやる前から結構批判されたし、その分期待も大きかったけど、挑戦したことは間違ってなかったと思うし、結果は出せなかったけど、自分にとってはすごくいい経験になった。やっぱりトップの選手を知るってことはすごく貴重な経験だし、そこで自分に何が足りないか気づかされたし、逆に言えば、何をやればいいかというのも分かった。自分で決めた夢なので叶えるまでやるしかないと思ってる」と、試合前に確かな自信があったこと、敗れたことで大きな気付きがあったと語る。 「戦ってみて、すごく実力差があったってみんな思うかもしれないけど、自分の中では、全然いけるんだよなっていうのがずっとある。やられたけど、全然勝てない相手ではないなって。“この人には全然敵わないな”ってなったら諦めがつくんだけど、逆に絶対勝てるようになるなと感じたので、そこは大事にしていきたい。  悔しいけどすごい勉強になった。やり返すだけです。落ち込んでる時間はないなと。もう俺の格闘技人生も多分長くないし、あと2年とかで絶対チャンピオンにならなきゃいけないと思ってる。本当に限られた時間だから、ショックを受けてる時間なんて1ミリも無くて、どうしたらあいつに勝てるか、UFCで勝っていけるかっていうのを考えて、必ずまた下から這い上がって一つひとつクリアして、最後はチャンピオンになるんで。腐らずに頑張ろうかと思います」と、ファイターとしてのピークを迎える35歳までのあと2、3年で王座にたどり着くために「下から這い上がって一つひとつクリアして行く」と前を向いた。  試合後、フライ級14位にランクされた朝倉は、ランカー以外にも強豪が集うUFCでどこまで戦えるか。そのライバルは海外勢のみならず、日本にも24歳で同級5位の平良達郎、22歳の鶴屋怜らが、頂を目指している。 [nextpage] 誰が本当の『GOAT』か (C)Zuffa LLC/UFC  そして、UFCで敵無しの王者は、GOAT(Greatest of All Time=史上最高の選手)として、新たな目標を掲げる。 「UFCの中で最も次戦に現実的な選手」というカイ・カラフランス、「一度だけ僕に勝っているが、次は僕が勝つことが100%分かっている」というデイブソン・フィゲイレード、「ほかの団体だが、今の僕にとっては優れたグラップラーと戦うことは問題ない」というムハンマド・モカエフ(13日のBrave FCで1R ダースチョークで一本勝ち)らを語りながらも、パントージャはそれを超える2人の選手の名前を挙げる。 「僕はいくつかのインタビューで言ったんだけど、UFCは堀口恭司がいるのに間違った日本人を連れてきたなと」「恭司と話したときにこう伝えたんだ。『もし君がUFCに来てタイトルをかけて試合がしたいなら、僕は君の友達だけど喜んで受けるよ。ベルトをかけて君と対戦できるのであれば光栄だ』と。彼のことが大好きさ」と、ATTの盟友がいまなお世界のトップにいると語る。  そしてケージの中で「今年引退したけれども、デメトリアス(ジョンソン)へのメッセージがある。僕がGOATだ。あなたがGOATだと証明したいなら戻って来い」と指名したDJの名をあらためて挙げた。 「僕はいまその堀口とアドリアーノ・モラエス、それに元谷友貴ら日本人選手、カザフスタン選手とも練習している。そしてブランドン・モレノ、ロイバル、そして彼らの仲間たち、たくさんの優秀なファイターたちと戦ってきた。僕はプロフェッショナルとして成長している。いま僕は“自分の最高の瞬間を生きている”と感じているんだ。  DJが今、ハビブ・ヌルマゴメドフらダゲスタン勢とトレーニングをしているのを見た。すごいメンバーだ。僕の人生において抱いている夢がある。デメトリアス・ジョンソンの強さは世界中が知っている。僕はそのために挑戦者のように言った。戦いたいファイター、デメトリアス・ジョンソンはその中の一人で、彼は最高の一人だ」  その勝算を問われると、パントージャは「僕は100%彼を抑えられると思っている。彼はカウンターストライクにとても長けている。そして恭司と試合している。でも、今の僕には伸びしろがあるし、パワーもあるし、柔術もたくさん使えると思う。もし僕のことを知っていて、ケージの外での僕を知っているなら、僕が何かをやると言ったら、1000%本気なんだ。僕は白か黒だ。やるか、やらないかだ」と、DJが復帰するのなら対戦したいと望んだ。  対するDJは、「僕は自分のことをGOATと呼んだことはない。人々が僕をGOATと呼んだ。それがGOATになる方法だ。(自分をコールアウトした)パントージャはレガシーを残そうとしているのだろうか。しかし、デメトリアス・ジョンソンのレガシーにアレッシャンドリ・パントージャは必要ない。僕のレガシーはすでに残されている。ジョン・ジョーンズのレガシーにトム・アスピナルが必要ないようにね。まだアスピナルは暫定王者だが、僕は1年半前に引退しているからね」と、UFC復帰をきっぱりと否定している。  2023年5月のアドリアーノ・モラエス戦の勝利後、じっくりと自身に問いかけてオープンフィンガーグローブをマットに置いたDJは、柔術にシフトしていった。その決断はゆるぎないもののように見えるが、ここにきて道衣を脱いでトップ中のトップとトレーニングをともにしているのもまた事実だ。  そして世界のフライ級では、堀口恭司が大晦日にRIZINフライ級王者として、エンカジムーロ・ズールーを挑戦者に迎えることが決定。大晦日後はどうなるか。DJの古巣ONEでは、空位の王座に1位のモラエスと2位の若松佑弥が名乗りを挙げており、2025年にはONE日本大会も予定されている。  朝倉海は敗れたが、試合後の会見でダナ・ホワイト代表は、「あの試合が何を意味するのか、あの男が今夜勝ったら、(次は)日本での試合になっていただろうし、今夜の彼のパフォーマンスでも、もしかしたら日本で試合をするかもしれないという話になっていただろう。来年まだ日本でUFCをやる可能性があることに変わりはない」と、2025年のUFC日本大会について前向きであることをあらためて語っている。  次に“絶対王者”パントージャの王座を脅かすのは誰か。ロイバル、モレノと再び“3強”の王座戦時代となるのか、それとも──。
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