スティペ・ミオシッチ「ただ戦場に出て、全力で戦って、すべてを稼ぎ取った男として覚えてほしい」
──しばらくファイトウィークであなたの姿を見ていなかったけど、以前はメディアの質問攻めをあまり好んでいなかったように思う。少し離れてみて、今はもう少し受け入れやすくなった?
「まだ嫌いだよ……冗談だ(笑)。これも試合の一部だし、人々は自分の話を聞きたい、見たいと思っていることは理解している。それがちょっと面倒なのは、やっぱり同じような質問が繰り返されるから。でも、これが仕事だからね。皆が記事を書きたい気持ちも分かるし、昔よりは慣れたよ。受け入れて、理解している」
──ジョン・ジョーンズ戦が無ければ復帰しない予定だった? それとも、いずれにせよまだ試合をするつもりだった?
「必ずしも復帰すると決めていたわけではなかった。もちろんジョンとの試合が一番望んでいたことだ。でも、もしそれが実現しないなら、それで終わりでもいいと思っていた。でも、すべてが上手くいったんだ」
──当初この試合が組まれたときは、ファンはかなり興奮していた。ただ、一度試合が延期となってからは、別に暫定王者(トム・アスピナル)も生まれた。この試合後には、やはりこの試合がヘビー級ベストファイターの一戦だったと評価されると思う?
「そうなってほしいけど、そこは気にしていないよ。このキャリアを通じて学んだことの一つは、人がどう思うかを気にしすぎないことだ。それぞれが意見を持っていて、それは変わらないからね。正直、気にしていない」
──ジョン・ジョーンズはヘビー級転向初戦でシリル・ ガーン(ヘビー級2位)を倒したけど、彼のリーチや体格が注目される中で、ヘビー級だとその影響が小さくなるかもしれない。君もジョンと同じくらい大きな体格を持つことで、彼の強みを無効化できると考えている?
「体格は確実に試合に影響するね。ヘビー級は他とは全く別モノなんだ。相手は大きく、強い打撃を持っている。いろんな要素が違う。俺もいくつかの策を用意しているよ」
──ジョンは君が「ビッチ」と呼んだことに怒っていたみたいだね。
「そうか、まあそういうこともあるよな。奴だって俺を叩きのめすって言ってたんだろ? だから仕方ないだろ。お互いに言いたいことを言う場面もあるけど、別に気にしないよ」
──ジョン・ジョーンズは試合を盛り上げるために、あえてあなたと火花を散らすような言動をしている思う?
「そうかもしれないけど、正直何を考えているのか分からないな。だけど、いくつかの発言を聞いて、『おいおい、マジかよ』って思うこともあったよ。誰かから聞くまで全く知らなかったし、正直笑っちゃうような話だよ。本当におかしな感じで、ちょっと笑えるくらいだ」
──周囲の意見や批判は気にしないと言っていたけど、キャリア初期の頃はどうだった?
「キャリアの初期は少し敏感だったと思う。『君は俺を知らないし、俺も君を知らない。なのに何でそんなことを言うんだ?』って感じだった。ひどいDMをもらうこともあって、『どうしてそんなことを言うんだ?』って思ったよ。でも、だんだん気にしなくなった。なぜなら、彼らは俺を知らないし、俺も彼らを知らないからだ。彼らはただ何かに苛立っていて、それを俺にぶつけているだけなんだって気づいたんだ。だから、今は本当にどうでもいいと思っている。これが自分にとって一番の決断だった」
──周囲の批判は少し落ち着いた感じはある? 憎しみの言葉や攻撃的なコメントは減った?
「いや、全然。常に何かしら来るよ。DMも毎日のようにくるし、『お前はクソだ』『死ね』とかいろいろね。でも、それが現実さ。仕方がない」
──休養期間は、どれくらいMMAに関心を持っていた? ペイパービューを買ったり、ヘビー級の試合をチェックしていた?
「ペイパービューはキャリアを通じてほとんど見なかったと思う。基本的には見なかったんだ。でも、友達が試合をする時は見ていたよ。例えばクリス・ワイドマンや、スティーブン・ トンプソンが試合をする時は見ていた。それ以外では、たまに面白そうなカードがあった時や、ライブで観る時くらいかな。でも、特に意識して見ることはなかった。人生には他にもやることがあるからね」
──ヘビー級の他の試合は特に注目していなかった?
「いや、注目してたよ。周りの人が試合についてメッセージをくれたりするからね。ただ、インスタやSNSから離れることも必要だった。試合を絶対見なければ! という感じではなかったかな」
──ジョン・ジョーンズ戦が以前に流れた際、あなたは苛々していたとコーチは言っていたけど、実際はどうだった?
「本当にそうだったよ。試合が近づいていて、一生懸命準備してきたのに、直前になって流れたからね。彼が怪我をしたこと自体に怒っていたわけじゃない。ただ、その瞬間、すごく悔しかったんだ。“もうすぐそこまで来ていたのに”と思ってね」
──ジョンは対戦相手の映像を徹底的に見て研究するタイプだけど、君もジョンの映像を同じように見ている?
「俺も確かに彼の映像を見るよ。彼には癖がある。確かに状況によっていろいろなことをするけど、誰にでもあるような傾向があるんだ。それを見つけて突くのがポイントだよ」
──もし今回勝利すれば、ランディ・クートゥアーに続いてUFC史上2人目の3度目のタイトル獲得となるけど、それは君にとってどんな意味を持つ? 初めての戴冠となったファブリシオ・ヴェウドゥム戦、リベンジを果たしてベルトを奪い返したダニエル・コーミエー戦、そしてこのジョン・ジョーンズ戦、どれが一番特別だと思う?
「どれも特別だよ。俺は勝つことが好きだから、すべてが特別なんだ。でも、今回の勝利は一味違うかもしれない。なぜなら、相手はジョン・ジョーンズだから。みんなが『ジョン・ジョーンズはすごい』って言うし、これ以上の相手はいないからね」
──ジョン・ジョーンズと同じように、あなたもレジェンドだ。引退する時、どのように記憶されたいと思う?
「ただ戦場に出て、全力で戦って、すべてを稼ぎ取った男として覚えてほしい。何も与えられたものはなく、自分でつかんだものだけだ。普通の肉体労働者としてただ戦うのが好きだった、そんな風に覚えてもらえればいいよ」
──引退の話が出たけど、最近消防署を異動したんだよね。消防士としてはどれくらいで引退できるの?
「それはまだまだ先の話だよ。そっちの引退については、しばらく話す必要はないな(笑)」
──トム・アスピナル(ヘビー級暫定王者)がバックアップファイターとして控えているけど、ジョン・ジョーンズのファイトウィークには何かが起こる可能性もあるよね。それについて準備する必要があった?
「いや、正直に言うと、ジョン・ジョーンズに集中しているのが今の優先事項だ。トムのことについても話し合ったし、彼がどんな動きをするか映像を見て研究した部分もあるけど、現時点ではジョン・ジョーンズだけを見ている。それ以外のことは考えないよ。万が一のことがあれば、その時は対応するさ」
──ジョンが1年前に試合を辞退した時、他の相手と戦うことを考えたことはあった?
「いや、正直に言うと、どうしてもジョンと戦いたかったんだ。最高のファイター同士の試合をファンも見たがっていたし、これは偉大なレガシーを築く戦いだとみんな言っていた。でも残念ながら、怪我はこのスポーツの一部だし、それが起きてしまった。だから、彼に怒っていたわけじゃない。怪我をしたら仕方ないし、俺に何ができるわけでもない。ただ、本当に悔しかった。もうすぐそこまで来ていたのに、怪我で止まってしまう。それが本当に辛かったんだ」
──ジョン・ジョーンズがアレックス・ペレイラ戦に興味があると言ったり、トム・アスピナルについてXで話題にしているけど、自分を軽視しているように感じる?
「そうだね。もし俺を軽視しているなら、それは良くないことだ。俺は試合翌日のことすら考えていない。今の俺が見ているのはジョン・ジョーンズとの試合だけだ。俺のすべてを彼に向けている」
──ブランクがあるから、試合に慣れるために序盤は少し時間が必要?
「いや、関係ないよ。準備は万全だし、すぐにトップギアで戦える」
──君のヘッドコーチであるマーカス・マリネリは、これまであまり注目を浴びていないかもしれないけど、君がファイターとして成長するために人生を捧げてきた存在だ。ファイターとしてではなく、一人の人間として、それは君にとってどんな意味を持つ?
「彼は俺だけのために人生を捧げているわけじゃないよ。もちろん、俺にとって特別な存在だけど、チーム全体に時間と労力を注いでくれる。俺たち全員のために全力を尽くしてくれるんだ。彼は俺の親友でもあり、娘の名付け親でもある。それくらい彼を尊敬し、愛している。
彼もいずれ認められるさ。彼は地元の選手を育てて、彼らを強くしている。多くの選手がジムを変えることがある中で、彼は地元の選手を一から育てる。それがいかに難しいことか分かるだろう。それでも彼は結果を出している。本当に素晴らしいことだよ」
──クロアチアのルーツについて聞かせてほしい。
「世界で最高の国だ。(最後にクロアチアに行ったのは)2019年か2020年だったな。その後はコロナの影響もあって難しかったけど、家族と行ける機会を楽しみにしているよ」
──クロアチアを再訪する予定は?
「実は母を連れて行くつもりなんだ。母が行きたがっているからね。でも、もう少し待つつもりだ。娘は問題ないけど、息子がもう少し成長して落ち着いてからかな。トイレトレーニングがもう少し進んだら、良いタイミングになると思う」
──もしUFC外で誰か一人と戦えるとしたら、誰を選ぶ?
「妻だな。いつも俺を叩きのめしてるからね。もし別の舞台で戦ったとしても、結果は変わらないよ。彼女に叩きのめされるだろうね。どのみち俺は負けるよ(笑)」