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【RIZIN】平本蓮と朝倉未来は「陰性」──禍を転じて榊原CEOが起ち上げる「新RIZINアンチ・ドーピング・プログラム」が見据える未来とは?

2024/09/06 03:09
 2024年9月5日(木)、RIZINが『超RIZIN.3』(7.28 さいたまスーパーアリーナ)のドラッグテスト(尿検査)結果の発表会見を行い、メインイベントのフェザー級「RIZIN LMS(Last Man Standing)王座決定戦」に臨んだ平本蓮(剛毅會)と朝倉未来(ジャパントップチーム)が陰性だったことを公表した。その結果メールは日本時間4日の早朝に届いたという。  ファイターのドーピング疑惑を元練習仲間がSNSで告発したことで、世間の注目を集めた今回のドラッグテストの結果発表。下記に要点をまとめた。 平本への大晦日オファーにあたり血液検査も  練習仲間でもあった赤沢幸典のドーピング告発により嫌疑をかけられ、2日の弁護士を伴う会見でドーピングを全面否定していた平本の「試合当日の尿検査」の結果は陰性。  その追加検査について、榊原CEOは「我々のいまのルールの中でいうと遡りようがない。当日の尿検査が陰性か陽性かがすべて。それでこの試合に関しては裁く」とし、陰性であったことで、大晦日大会にオファーをする予定であることを明かした。  しかし、「平本には未来に向けた検査を受けてもらおうと思います。今回にプラスした検査基準で血液検査とかにも応じてもらい、明確に陰性であるという確認が取れた上で出場の相談をしていきたい」と、再度のドラッグテストを行うとした。  また、赤沢が電話口で平本に指南していたとされるドーピングのサイクルについて、榊原CEOは、「たぶん、そんな簡単な話じゃないと思いますよ。ほんとうに科学的にチームを組んで、その日(試合当日)にピンポイントで(陽性反応を)出なくするというのは──そのリスクを冒して1発勝負──当然賞金のかかる試合もあれば、ウィニングボーナスもあるなかで、今でもドーピング陽性が出ればファイトマネーの一部没収もあるし、そういうなかで簡単に“これとこれを飲んでおけば(ドーピングが)消える”というレベルじゃないと聞いているし認識しています」と懐疑的な姿勢ながらも、「ただ、そういう方法がほかのスポーツでも“チームを組んで組織的に徹底的にやることがある”と聞いていますので、今後そういう可能性さえないようなルール作りの機会に活かしたいと思います」と、新たなドーピングチェックの体制を作り、年内に実施していくとした。 [nextpage] 平本は「陰性」だが「アウト」  ドラッグテスト結果については「陰性」ながら、平本の一連の行動について榊原CEOは「アウト」と評した。 「WADAの基準(『世界アンチドーピング規定 2024禁止表国際基準』日本語版)からすると平本選手が意図か意図的ではないにかからわず、ドーピングに引っ掛かる薬物を入手していた時点で、ルールによってはアウト。現状のRIZINのルールではそこまでの規定がないので、今回の件をドーピングに該当という裁定はできないが、今後ルールを改定することによってそういう企てをしただけでもアウトになる側面がある。平本選手には猛省をしてほしいし、本人も誤解を招く行動をしたことは反省もしている。普段の生活から食物でもサプリメントでも疑ってかかること。安直な行動は慎んでほしい」と、強い口調で断じている。  また、平本が試合前の右ヒザ負傷時に、赤沢とは別のフィジカルトレーナーに勧められて、回復を早める注射を自ら尻に打ったという告白について問われた諫山部長は、「そのことは聞いておりますが、日本では医師以外で注射行為はできないし、ちょっと信じられない話」と困惑し、その薬の内容について問われると、「平本選手からのサプリのTUE申請はありませんので、全く想像することすら憚れる」と明かしている(※患者やその家族が医師の適切な指導管理の下に在宅自己注射を行うことは、医師法に違反しないものと解されている)。 「TUE申請」とは、治療使用特例(Therapeutic Use Exemptions : TUE)として、『禁止物質・方法』を治療目的で使用したいアスリートが申請して事前に認められれば、特例としてその『禁止物質・方法』が使用できる手続き。TUEが認められなかった場合に、その『禁止物質・方法』の使用を続けた場合、アンチ・ドーピング規則違反となる。  平本の場合、14万円以上をかけて購入した“サプリ”は開封も使用もせず、ヒザ治療用の薬は医師法に反する自己注射をし、その薬は、TUE申請をしていなかったことになる。  榊原CEOは、これらの説明について「まあ疑惑ですよね。“買ったけど飲まないって、本当?”って思うのが人間だと思います、正直。でも決めたルールで裁くしかないっていうのも現実です。だから今後、こういう疑惑を持ちたくないし、“ウチの選手は真っ白だ”と言い切りたいし、平本選手に関してはそれを飲んだか飲まないかは誰も分からないじゃないですか。当然“朝倉信者”とか朝倉未来の関係者からすると“ムッチャ怪しいじゃん、絶対飲んでるよ”って思っても仕方ないと思います。でもこれは水掛け論だし、僕らが決めた競技ルールのなかで現状、裁く以外にはないです」としながらも、「今後、彼は疑惑や疑念と戦うことになります。それは、クリーンな身体で戦うことで証明していけばいいと思っていますが、彼のキャリアのなかで7月28日に朝倉未来に勝ったと大手を振るって燦然と輝く物ではなくなったというのは事実です」と、疑いの厳しい視線にさらされながら、自身の実力を証明していくしかない、とした。 「朝倉未来が不憫でならない」(榊原CEO)  榊原CEOは、今回の騒動のなかで引退表明した朝倉未来に対しては、「ここは個人的な、プロモーターとしての立ち位置から逸脱する可能性があるんですけれど」と前置きし、忸怩たる思いを吐露した。 「2015年に旗揚げして朝倉未来がRIZINに出場して6~7年。RIZINの中で彼の活躍に一喜一憂し、彼の戦いに心を震わせた、7月28日も4万8千人のファンがあれだけの熱狂の中で朝倉未来の試合を見届けたわけです。  彼は格闘家としても人生を懸けて、引退を懸けて戦った試合が心無いこと、ドーピング疑惑で泥を塗ってしまったこと、汚してしまったこと。これが引退試合だと言うのは本当に悔しいです。未来が不憫でなりません。本当に悔しい。だからこの結果を招いたことは、全てにおいて最終的には主催者である私の責任だと思っていますし、この場を借りて朝倉未来にはこれが最後の試合になったことにはお詫びもしたい」と、ときに声を震わせながら謝罪した。 [nextpage] 罰則強化と意識改革、そして全結果公表と抜き打ち検査へ  今回の騒動は、ファンにファイトスポーツへの不信感を抱かせる出来事だったが、日本格闘技のアンチドーピングを、大きく前進させるきっかけになるかもしれない。  榊原CEOは、「当日の検査だけでは中立が保たれない、公明正大に行われない、選手の意識が高まらない、ということであれば抜本的なルールを見直す。当然、経済的な負担もマンパワーもかかると思いますが、中立で独立した組織体系でないといけないので、一定の決意と経済的な負担は当面RIZINがさせていただく中で、これまで以上に検査体制を厳しくする。そういう形のドーピング規定の見直しと新しいドーピングポリシーの策定に入ります」と宣言する。  新しいドーピングポリシーは、具体的には罰則の強化による選手の意識改革。そして今後、検討されるのが王座戦以外のドラッグテスト結果の公表と、大会日以外の“抜き打ち検査”の実施だ。  実際、RIZINでは、すでに出場選手の1/3からランダムに尿検査を行い、ドーピングチェックで「陽性」反応があった選手には、程度により罰則や以降の出場停止処分も行ってきた。その全選手の結果を、契約を変えて開示していくことも今後は検討される。 「やはり辱めを受けるということが、選手のドーピングに対する意識を変えさせることになるのであれば──選手たちの未来を考えて今までは非公開にしていますが、──これからはサスペンドの期間も考え直すべきだし、経済的な罰則も見直すべきだと思います」と、榊原CEOは言う。  そして「抜き打ち検査」を少しでも増やすことが抑止力に繋がるのでは、という本誌の問いにも「検討する項目のひとつで、除外することはないです。抜き打ち検査もやっていきたい。先生方を中心に何か方法論を考えてやれたらいいかなと思います」と前向きだ。 ビジネスになることが、システムを進める  ただし、そこには、実務面と経済面でハードルがある。だが、ピンチをチャンスに変えるのが榊原CEOだ。現在は米国の検査機関・SMRTL(スポーツメディカルリサーチ&テイスティングラボラトリー)に空輸しているドラッグテストが、日本でビジネスになれば、そこに取り組む団体や企業が増えるだろう。 「日本のプロスポーツのなかで、なかなか“ここの検査機関に行けば徹底的なドーピング検査をしてもらえる”という機関が無いんですね。だから、そういう機関をこれから独立してRIZINのなかで先生方とアクションを起こすことが礎となって(いくかもしれない)。どの団体も海外選手も中立に公平に調査できるのか、は簡単な話ではないですが、目指すところはそこまで行きたいと思っています。ほかの競技(のテスト)も請け負えるような組織に進化させられるような意識を持って」と、RIZINが率先して第三者機関としてのドーピングチェックシステムを構築していく意欲を語る。  MMAPLANETからは「日本スポーツ協会(Japan Sport Association/JSPO:旧日本体育協会)に加盟している団体と加盟していない・加盟が認可されていない団体との差や、WADAやJADAなど統括組織があることによって、格闘技団体のドラッグテストへの壁があるとしたら、日本企業でWADAやJADAに加盟していなくても同レベルの検査を安価に行える可能性はあるか」という質問が諌山医療部長にあった。 「現状でRIZINはじめコンタクトスポーツで、日体協みたいなスポーツ組織に属するということはないのは、皆さんご存じの通りなのですけど、我々医療部とししては、RIZINがそのスポーツのレベルまで目指したいとやっています。ドーピングではプロ野球しかり、Jリーグしかり、そこまでしてないのは経済的な問題かと思う。そこは主催者である榊原CEOに頑張っていただきたい」(諌山氏)  実は、日本にもWADA認定のドーピング検査における検体分析機関(WADA Accredited Laboratory)が存在し、東京五輪2020では、株式会社LSIメディエンスのアンチドーピングラボラトリーが、約8400検体(尿 約6800検体、血液 約1600検体)の分析を行っている。大会期間中は278名(LSIから90名、海外のWADA認定分析機関から49名、国内の大学から139名)が、24時間体制で分析を行い即日報告、さらに遺伝子ドーピング検査、乾燥血液スポット分析といった最先端の分析手法を世界で初めて採り入れたラボラトリーとしても有名だ。  そこまでいかずとも比較的安価に尿検査を行えるラボと提携し、検査要員を確保できれば、格闘技団体のみならず、日本のほかスポーツ団体が利用する可能性がある。  JMOC(日本 MMA審判機構)は出来た。JSPOに格闘技団体が入れないのならば、各団体が協力し、日本版アスレチックコミッション、日本格闘技版アンチ・ドーピング機構を作るタイミングが来ているのかもしれない。2029年秋にも国内初のカジノ施設が誕生するなか、スポーツベッティングが解禁されれば、試合の公正さを保つ機関はマストとなる。  既報通り、フルコンタクトスポーツであるファイトスポーツは、直接ダメージを与えるという点で、ドーピングで自身が得るもののみならず、対戦相手が失うものも大きい。  今回の王座戦のドラッグテスト結果は「陰性」だったが、ドーピングとは何か、なぜドーピングがいけないのか、それを出来る限り防ぐために何が必要なのかは、引き続き本誌でも考えていきたい。
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