2023年7月7日(日)東京・国立代々木競技場第二体育館『K-1 WORLD MAX』において、「K-1 WORLD MAX 2024 -55kg世界最強決定トーナメント」が行われる。
8名参加の同トーナメント1回戦では、第3代K-1 WORLD GPスーパー・バンタム級王者の金子晃大(K-1ジム自由ヶ丘/FROG GYM)が、カンボジアの“クンクメール最強の男”IPCCクンクメール世界-54kg王者のカン・メンホンと対戦。
金子は、昨年9月に玖村将史との3度目の対戦で、延長判定勝ちを収め、王座防衛に成功。12月はラン・シャンテンから判定勝利し6連勝。2024年3月は、RISEのリングに乗り込み鈴木真彦を破り、リベンジを成し遂げたばかりだ。
メンホンは、カンボジアの国技クンクメール-54kgの世界チャンピオン。戦績は111戦82勝(30KO)17敗12分とキャリアが豊富で、弾丸のごとく飛び込み、豪快なロングフックからハイキックにつなげるコンビネーションは脅威。世界で新風を呼び込んでいるクンクメールの最強ファイターが、K-1でも猛威をふるうことになりそうだ。
だから無ですよ、無
――金子選手は、今回の試合からチーム名が新しくなりましたね。
「はい。FROG(フロッグ)です」
――FROGは、カエルってことですよね。
「まあ、そうなってきますね。はい」
――カエルに特別な意味はありますか。
「意味はないですけど、カエルかなって。なるとしたら」
――なるとしたら?
「ええ」
――よくカエルの動画を見ているという話を聞いたことがありますが、本当ですか?
「はい。暇な時とか。寝る前とかもそうですね。練習終わった後とか」
――カエルのどういったシーンを見るのですか。
「捕食シーンですね」
――捕食?カエルが餌を食べるスロー映像ですか?
「スローじゃないっすね。そのまま、ありのまま」
――捕食シーンを見て何か感じるものがあるんですか?
「感じる? 感じるから見ているんですかね」
――捕食と格闘技の戦いが、少しリンクするところがあると。
「それもあるのかもしれないですね。まあ、捕食してるようなものなので、試合っていうのは」
――そうした動画から、何かインスピレーションみたいなものを感じるんですか?
「そうかもしれないですね。入ってるのかもしれないですね。捕食の感覚というか。ニュアンスが(格闘技に)」
――ヘビとかも瞬発力があったりすると思うんですけど。
「また違うっすよね。ヘビとカエルとじゃ。やっぱり、カエルの方が、淡々と食べるんで。ヘビの方が好きなんですけどね。でも、ヘビの方が強いからといってヘビの方に行かない。それが、カエルなんですよ。そこでヘビに行っちゃったら、面白くないんで」
――カエルが、淡々と餌を食べるところに興味があると。
「無っすよね。無。捕食するとき、無じゃないですか」
――会見では、「無」がテーマとも話していましたね。
「無ですね。自分に対しても、トーナメントに対しても無っす。己との戦いなんで」
――雑念のない状態ということですか?
「まあだから、己との戦いですね。そこは無なんですよ」
――ポーカーフェイスというか、ドヤ顔せずに。
「だから無ですよ、無。そう言うことかって。淡々と食っていく、捕食していくっていう感じです」
――今年3月のRISE対抗戦で、鈴木真彦選手へのリベンジを達成しました。一つの目標を果たせたなってところですかね。
「そうですね、一つの目標としては。まあ、それを目標にやっていたわけではないですけど、単純にもう流れが来ていたからそのままやっちゃおうかなって。やっぱり、すぐできるものではないんで、対抗戦は。じゃ、次の試合をお願いしますというわけにいかないので。そこを1個クリアできたっていうのは良かったっすよね」
――ダウンを2回とって力の差を見せて勝てたことは、自分としては納得されていますか?
「いや、そうじゃなきゃ意味がなかったんで。圧倒的差を見せないとリベンジの意味でも。単純に試合自体は、まあ良かったんで、そこは良かったんじゃないですか。まあ倒したんで2回も」
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なめんなよって感じっすね
――今回、-55kg世界最強トーナメントに出場されるというところで、その前に-70kg世界トーナメントで日本人選手3人が負けてしまったことに関しては、どういう見方をされていますか。
「まあ、なめんなよって感じっすね」
――日本人全滅に関して?
「いや、単純になめんなよって言う、もう、全てに対して」
――悔しさとかなかったですか?同じ日本人として。
「いや、悔しいとかはないっすよ、全く」
――魔裟斗さんがいた頃の-70kgのK-1MAXと違い、日本人最強は階級下げて-55kgが世界最強という自負は?
「だから、もうなめんなよって感じ」
――それは、誰が誰に対して?
「いや、もうだから全てです」
――世界チャンピオンのベルトを持っている金子選手が、1回戦から参戦で驚いたファンの多かったと思います。出場に躊躇はなかったですか?
「だから、もうなめんなよって感じ」
――世界王座のベルト持ってるのに、1回戦から出させるなんてと。
「いやいや、ほんとマジなめんなよって。ただそれは、出さないですよ、僕は。試合にも持って行かないです。今の感想聞かれたから、最初の言われた時の率直な意見がそれです。ただ、もう無なんで。ま、来るなら来いと。無っすね。無。それは別に対戦相手だけじゃないです。全てに対してなめんなよと思ったっすけど。まあ、無っすよね。それも全てに対して今は無っす。全てに対して。それこそ対戦相手とかじゃなくて。もう全てに対して無でいこうって自分に」
――そうなんですね。-55kg世界最強トーナメントの全カードが揃いました。出場選手を見て、どんなお気持ちがありますか?
「感謝という言葉しか出てこないです。“無”から“感謝”ですね」
――出ましたね、「感謝!」。記者会見では、「感謝」という言葉を何回も使っていました。どういう思いから、その「感謝」という言葉が出てくるんですか。
「このトーナメントに向けてだったり、僕に対する想いのある選手だったり、そういうのを色々含めて感謝という位置付けです」
――無から感謝に移っていく過程というのは何かあったんですか?
「練習をやっていく中で、日々過ごしていく中で、無を持ちつつ、感謝になったかなと。無を持ちつつ。無は無で、大事な部分なんですけど、感謝も感謝で大事な部分だなと。ただ、その感謝をしっかり感じなければ無になりきれないなと。無でいるためには感謝をしないといけないという。そういうことです」
――感謝は、自分に余裕がないとできないと思います。
「あー、なるほど。でもその考えはちょっと面白いですね。いいとこつきますね」
――色々積み重ねてきたものがあって、その言葉を言えると。
「そうですね。積み重ねたものがあって、それがまた自分の中で成長に繋がるというか。その段階にいったからこそ、その感覚になれる。自分の目標が一つずつできていて、そこはやっぱり僕の力だけでは無理なんで。色んなことのエネルギーが合わさって、初めてそれが成果になっているので、そこに対しては感謝しかないなという。僕に対しても感謝だし、僕の体に対しても」
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すごろくで言ったら振り出しに戻った
――1回戦の相手がカン・メンホンというクンクメールの最強選手に決まりました。
「クンクメールって言うのもよく分かんないですけど、試合映像を見た感じでは、しっかり身体も強くてガンガンくる選手っていう印象は持ちましたね」
――クンクメールはカンボジアの国技で、ムエタイに似ている競技のことだと思いますが、111戦82勝ってすごい戦歴があります。
「そういうキャリアのある選手が、わざわざ日本に来てくれてやるというのは本当感謝だなと」
――そこも感謝なんですね。金子選手は、この階級の絶対的王者とも呼ばれています。いち挑戦者みたいな形で挑むこのトーナメントっていう思いがありますか?
「そういうのを含めても感謝ですよね。やっぱ特別扱いするんじゃなくて。何も変わらない試合というか。振り出しに戻るというか。そこは逆に感謝だなと」
――特別扱いをされたくないという思いもあるんですか?
「特別扱いされたいという思いは別にないですよ。ただ、こういうことが起きるというのは、もう感謝だという、それしか言いようがないなっていう。それが結局は、のちのち自分のためになるっていうことなんじゃないのかな」
――玖村将史選手は、4回目の対戦をアピールしています。
「4度目までできるという、そこがまた感謝だなと。4度闘えるっていう。そこに対して感謝を持ちながらやっていこうかなと思っています」
――前回の3回目(金子の2勝1敗)で、決着がついたと思っているのではないのでしょうか。
「もう決着がつきましたけど、僕はチャンピオンなんで。そういう何回でも勝つまでやるというのが挑戦者なので。そういうのも含めて、そういう状況に対しての感謝だなと一つ思いますけどね」
――玖村選手にも感謝していると。さすが金子選手ですね。
「決まったことをしっかりやる。そこに対して、しっかり仕上げるというのがチャンピオンとしての仕事だと思っているんで。チャンピオンだから、僕とやりたい選手もいるし、それがチャンピオンとしての宿命なので。K-1というものを選んだ僕の宿命だと思ってます」
――カッコいい!日々練習している時に感謝というのは転がっているという感じですか。
「もちろん。一つひとつのことが感謝です。その僕の一つひとつの動きだったり、それが感謝で成り立つものなんで。そこを忘れないで、最終的には無でやります。その無でやる為には感謝が必要だなって。無で作っていく過程には感謝は必要なんです」
――そこが凄いと思います。日々の感謝を実感してやるって言葉では言えるんですけど、一つひとつのことを意識して実感する、その感性は凄いとしか言いようがないです。
「やっていけば、本当に自分と向き合っていけば分かります。感謝がなければたどり着けないという、一つひとつの動きに」――雑音みたいなものって入ってこないですか? 例えば悪口言ってるとか、自分に対して名乗りをあげてくる相手に対してとか。
「それは別に雑音じゃないです。そういう仕事なんでチャンピオンって。逆にそれがなかったら対戦相手がいなくなっちゃうんで。それを雑音だと思ったことないです」
――アンチファンの書き込みとか、そういうの全然目にしない?
「見たことないですね、アンチっていうのは。いたとしても別に、それぞれ意見があるんで気にならないというか。それも一つの意見なので、別にわざわざ見ないようにするわけでもないですし、見た上でこういう考えもあるんだなって。それでおしまいです」
――例えば、今回のトーナメントに新世代の大久保琉唯選手が入っていることについて、批判の声も出ていたりするようです。
「人に対してのそれは、なんとも思わないですよ。僕も、なんで入ってるんだって思ったですけど、ただ、それは決まったことなんでなんとも。それに対して言われても言われなくても僕の問題じゃないんで」
――例えば金子選手からしたら、「何で入ってんのお前」みたいなイライラはないですか?
「イライラはないです。あー、入ってんだくらいですね」
――関係ない?
「関係ないですよね。そういうもんじゃないですか」
――世界最強トーナメントの格が落ちてしまうみたいな、そういう感覚は?
「そもそも格があると思ってないですよね、このトーナメントに対して。振り出しに戻ってるんで。だから格とかないですよね」
――世界一を決める振り出し?
「振り出しっていうか、僕のやってきたことの振り出しに戻ったなって。鈴木戦が終わって、そして鈴木戦の前に戻ったみたいな。すごろくで言ったら」
――積み上げてきたのに、振り出し戻る。それは辛く苦しいことではないですか?
「それはそれで面白いなって。振り出しには戻ったけど、ただこのトーナメントをどう制するかで、ここの道は違いますからね。同じ道は進まないですから。同じ結果でも。3年前か2年前かのトーナメントで優勝して進んだ道と、このトーナメントは違います。振り出しに戻ったけれども、この道はまた違う道になってますから」
――なるほど。
「同じように見えてまた違うんですよね。振り出しには見えるけど、厳密にはめちゃめちゃ違うんじゃないのかっていう」
――金子選手は、独特の世界観を持っていますよね。つい、いろいろなことを聞いて答えを求めすぎてしまいます。
「答えを求めすぎると、またおかしなことやっちゃうんですよ。なんとなくでいいんです」
――今の時代、結構答えを求めるじゃないですか。これは何?どういうこととか聞いてしまう。そういうのは、ご自身の中では価値観としてはない?
「自分で考えて、自分で分からないと意味がないと思ってて。答えを聞いちゃったら、そこの面白さがなくて。もし、そこを何年後かにこういうことだってなれば、そっちも面白いかなと俺は思うっすね」
――例えば、インターネットで何でも調べられるじゃないですか。
「それは良くない。良くないというか、面白さが減っちゃう。だから僕は、それ(答え)は言わないです」
――自分で見つけていくものだと。
「見つけられる人は見つけるし、分からなかったら分からないで、ずっと分からないままだと思うし。ただ、それを見つけた時に面白いじゃないですか。ああ、そういうことだったのかとなると思うので」
――自然体というか。ニュートラルに感じるままに生きているように見えます。
「そうですね。思ったことを本当に言ってる。感じたこと。それを口に出すことによって、それが本当に生きてくるんで」
――でも答えは出さない。
「まあ、そうですね。FROGとか全部、死神とかも僕の中で思っただけじゃ生きてなかったので。それを会見で言ったことによってそれが生きたので。それを生かすのもやっぱり自分次第ですけど」
――鈴木戦の前は、「死神」がテーマでしたね。
「最初は訳がわからなくても、試合が終わってみたら死神だったじゃないですか。それでいいんです」
――ストーリーが繋がると。
「繋がるんですよ。その繋げるまでが、会見から試合終わるまでのそれが仕事なので。もう会見で答えを言っちゃって、答えがそこで出ちゃったら、試合終わっても面白くないじゃないですか。意味が、意味でなくなっちゃいます。そこで死んじゃうんで。答え言っちゃったら」――そこは、ファンも金子ワールドを楽しんでほしいところですね。
「わかんなかったらわかんないんですけど、なんとなくでいいんですよ。完全理解しないで、なんとなく分かるじゃないですか、この死神とか。なんとなくですけど、それでいいのかなと思っています」