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インタビュー

【UFC】平良達郎はいかにUFC6連勝を成し遂げたか?「あの形からグラウンドに持っていこうと話していた」「UFC日本大会を持ってきます!」──ペレス戦の告白

2024/06/17 21:06
 2024年6月15日(日本時間16日)米国ネバダ州ラスベガスのUFC APEXで開催された『UFC Fight Night: Perez vs. Taira』(U-NEXT配信)のメインイベントにて、日本の平良達郎(THE BLACKBELT JAPAN・13位)が、フライ級5位のアレックス・ペレス(米国)と対戦。 「パフォーマンス・オブ・ザ・ナイト」(5万ドル・約780万円)を受賞する2R 2分59秒 TKO勝ちで、平良は戦績を「16戦無敗」とし、UFCでの「日本人最多6連勝」を記録した。  2017年9月のUFC日本大会『UFC Fight Night 117: St. Preux vs. Okami』での岡見勇信以来、6年9カ月ぶりに日本人選手としてメインイベントに臨んだ平良。  試合は、1Rにペレスの打撃と、蹴り足を掴んだテイクダウンで先行された平良が、2Rにペレスの打撃に長身を活かした首相撲ヒザ蹴りで応戦。  打撃でも右アッパーを突くなど立ち会い、自ら両足タックルでケージまで押し込み、シングルレッグで足を刈ってテイクダウン。  ペレスが立とうとするところに背中に飛び乗り、ボディトライアングル(4の字ロック)、さらにおたつロックで二重がらみにして、いったんケージを押してペレスのバランスを崩して、マット中央側に歩かせると、相手の腕を対角の手で縛ってコントロール。ペレスに振り落とされずに、グラウンドへ引きずり込むと、ペレスが声を挙げて右ヒザを負傷、レフェリーが試合をストップし、平良の2R TKO勝ちとなった。 「世界一強い男」になって帰ってくる  初めてメインイベントで勝利した平良は試合後、「アイムハッピー、サンキュー!」といつもの決め台詞。続けてマイケル・ビスピンから次は誰と? と問われ、「パントージャ! レッグゴータイトルショット!」とフライ級王座挑戦をアピールした。  UFC米国の公式が「トップ5の相手に大活躍。無敗の平良達郎の次なる目標は?」と問うなか、平良は試合直後に、「次、パントージャ、首刈ったるで。まあ、またほんとうに強くなって戻ってきたんで、ほんとうにUFCのベルトを獲るために、“世界一強い男”になって帰ってきます。沖縄から世界へ」と答えている。  U-NEXTで解説を務めた元UFCファイターの金原正徳は、平良の勝利に「パントージャにも勝っちゃいそうですね」と期待を寄せる。  一方で、試合後会見で平良は、同じフライ級でUFC6連勝(※MM13戦無敗)と自身と同じ記録を持つ“英国の平良達郎”ムハンマド・モカエフ(6位)が、2024年7月28日(日本時間29日)の『UFC 304』で、元RIZINバンタム級王者でUFC4連勝中のマネル・ケイプ(7位・ポルトガル)と対戦することについて問われ、「(王者のアレッシャンドリ)パントージャに年内に挑戦したいと思っています。ただ、マネルとモカエフの勝者にも、すごく興味があります」とした。  そのモカエフは、3月の前戦でアレックス・ペレスに3R 判定勝ち(29-28×3)。ペレスのテイクダウンディフェンスとフロントチョークに苦しみながらも、要所でレスリングで上回り、スープレックスも見せながら、接戦をモノにしている。 「次期挑戦者争い」のひとつと目されるケイプとの試合を控えるモカエフは、平良の試合後、「平良のような選手がこの階級にいるのは嬉しい。自分と同じ年齢(23歳)の選手と戦ったことがないから。その時が来たら違いを見せてあげるよ」と、平良を意識しながらも、平良にはない強みがあるとした。  果たして、平良のフライ級王座挑戦は、いつ実現するか。  会見では「日本人初のUFCチャンピオンが誕生する場所として、UFC日本大会でやれたら最高」と、UFC日本大会を実現させて、そこでベルトを獲得したいと語っていた平良だが、会見後の単独インタビューでは、今後について「タイトルマッチは喜んですぐにでもやりたい」としながらも「もう一個、上位ランク(との試合)を挟んでもいい」とも話している。 [nextpage] 首相撲は「深く組まない」ため 「UFC6連勝」のなかで、試合毎に進化を見せている平良。  今回のペレス戦でも、沖縄「THE BLACKBELT JAPAN」での扇久保博正、福田龍彌らとの練習や、ボクシングジムでの出稽古、さらに米国デンバーのエレベーション・ファイトチームでの海外修行の成果を見せていた。  インタビューでは、「スタンドで自分がケージのセンターを取る」こと。「グラウンドではバックからの展開を予定していた」ことを明かしている。  レスリングのプレッシャーをもとに、外からの連打で詰めてくるペレスに対し、平良はしっかりジャブを刺し合い、カーフも蹴り返し。ペレスの入りにアッパーを突き上げ、近い間合いになると、長身を活かした首相撲ヒザでコントロールした。  その理由を平良は、「相手がレスリングがしっかりしているので“深く組まないように”序盤は四つで勝負するというよりはクリンチ、首相撲でヒザを狙っていこうと」と作戦を練っていたという。  そして相手にケージを背負わせる圧力をかけた上で、自らダブルレッグで金網まで押し込み、シングルレッグに移行してテイクダウンを奪っている。  これまでの強みの四つではなく、タックルからのテイクダウン。カレッジレスリング出身で、モカエフをも苦しめたテイクダウンディフェンス率80%を誇るペレスを相手に仕掛けたその動きは、北米修行の成果ともいえる。 チョークを極めるためにいかにバックを奪うか 「過去にチョークで負けた試合があるペレスに、僕はチョークを極めて勝ちたい」と語っていた平良だが、いかにチョークのポジションを取るか。そこにはペレスからバックを奪うという課題があった。  足を取りに来た平良に対し、金網背にしたペレスは左手をネルソンに組み両手で差し上げると、平良は右手のシングルレッグへ移行し、差し上げられた左手とインディアングリップでロック。ヒザ裏で引き付けて、左の大内刈の足技を合わせてテイクダウン。ペレスの立ち際に右足をかけて前に煽って、マットに両手を着かせてバックを奪っている。  そしてそこからは、時間をかけずに両足でボディトライアングルを組み、さらに右足を対角の相手の左ヒザ裏に差し込んでおたつロック、ペレスをコントロールした。  立ったまま平良を背負い、右手で平良の右手を掴んで前に落とそうとするペレスに対し、ここで平良はペレスの左脇下からペレスの右手を正面でロック(送り手)。右手でパウンドしながら、対角で掴んだ右手も引いて、右後方に体重をかけて引き込み。  左ヒザをおたつロックで固定されたまま、右ヒザ上に荷重がかかったペレスは、右足先が外を向くも、右ヒザが内側に固定されたまま倒れて、声を挙げてダウン。平良はパウンド1発だけを入れて、拳を止めている。 [nextpage] ヘンゾロックからおたつロック、そして──  このフィニッシュに、元UFC世界バンタム級王者のアルジャメイン・スターリングは、「“オタツロック”をグーグルで検索したけど、オモプラッタの動画しか出てこない。教えてほしい。僕はBJJの黒帯だが、これ(オタツロックでダメージを負わせる)が本当なら、間違いなく武器庫に加える。マット・セラと僕は何年もこれを“ヘンゾ”と呼んでいるが、これによる怪我は見たことがない」と驚きのコメント。  かつてヘンゾ・グレイシーが得意としていた対角のヒザ裏でのコントロールに、和田竜光が多用するボディトライアングルを合わせた“おたつロック”で、まるで猛牛をロデオのように乗りこなした平良は、「落とされる心配はなくて、得意な形だったので、あの形からグラウンドに持っていこうというのは試合前から松根(良太・代表)さんと話していました」と、作戦のうちだったという。  また、試合前に沖縄で平良と合同練習し、本誌『ゴング格闘技』で対談を行った同門の扇久保博正は「試合前からどちらがランカーか分からないくらい、平良選手が落ち着いていた」と、気合十分のペレスに対し、入場で笑顔も見せていた平良の落ち着きぶりに驚き。  スタンドでは、「ペレス選手が頭を下げるので、そこにアッパー、ヒザ。無理に詰めて来られたら首相撲ヒザ。あれはペレス選手がやり辛かっただろうなと。左フック、右フックの外からの攻撃を当てるしかなかった」と、ペレスが立ち技でも手詰まりになっていたと指摘した。  また、フィニッシュについては「2R、タイミングを見計らってタックル、バックテイク、おたつロック。あそこ、スタンドでペレスは守ろうとしたと思うけど、あのおたつロックをされた側が怪我するのはたまにある話で、ペレス選手の足も速攻、腫れてましたね。あれも見事な技」と、片ヒザを固定された形での立ったままの防御をさせなかった平良の巧さを評価。「パントージャとぜひ見たいなと思いました」と、かつて自身も対戦した現王者とのタイトルマッチが見たいとした。  ペレスの異変に気付き、2発目の拳は止めた平良。勝利は確かだったが笑顔は無かった。 「(ペレスの身体が)“伸びた”と思って“俺のタイムだ!”ってなって、パウンドをまとめようと思ったときの怪我だったので、嬉しかったというよりも、ちょっと残念な気持ちにもなりました。ちゃんと仕留めたかったなって」と、フィニッシュを語っている。 平良は王座挑戦圏内にいる  5位のペレスを下した平良は、13位から何位ジャンプアップするか。フライ級タイトル戦線を見渡すと、5位以下にもチャンスがあることが分かる(※追記・6月18日に平良はフライ級5位にランク)。  王者パントージャに続く1位はブランドン・ロイバル。2位はそのロイバルにスプリット判定で敗れたブランドン・モレノ。そしてその両者は昨年パントージャにいずれも判定で敗れている。UFC5連勝中のアミール・アルバジが3位につけているが、2月のモレノ戦を負傷でキャンセル。  そして4位のカイ・カラフランスは、5月に王者パントージャと好勝負を展開したスティーブ・エルセグと(9位)との試合が8月に決まっている。5位のペレスは平良に敗れてランクダウンは確定的。  そして前述の通り、6位のモカエフと7位のケイプが7月に対戦する。そのモカエフがペレスに「判定」で勝ったこと。また、8位のマテウス・ニコラウがペレスにKO負けしていることを鑑みると、ペレスをフィニッシュした平良は5位、あるいは8位にランクアップしても不思議ではない。それは、王座挑戦圏内にいることを意味する。  2017年9月23日のさいたまスーパーアリーナ大会以来、6年9カ月ぶりに日本人選手のUFCメインイベント出場を実現させ、勝ち名乗りを受けた平良。次は、止まっていたUFC日本大会を、この24歳が再開させるのかもしれない。 「チャンピオンを倒して、日本に、沖縄にベルトを持ち帰ります。そして、UFC日本大会を持ってきます!」──会見前のU-NEXTによる平良達郎インタビューは以下の通りだ。 [nextpage] 「俺のタイムだ!」って ──アレックス・ペレス選手に2R TKO勝ちでした。現在の心境は? 「勝ててホッとしているのですけど、あのままパウンドアウトか、本当は“首取って終わりたかったな”という気持ちもあるので。まあでも、すべてひっくるめてランキング5位のペレスに勝てたので、そこはひとつ自信を持ちたいのと、本当に次はあとはチャンピオンもそうですし、もう一個、上位ランク(との試合)を挟んでもいいですし、次を見据えてワクワクしています、また」 ──オクタゴンで王者アレクサンドル・パントーハの名前を叫びましたが、いま「もう一個挟んでもいい」と。 「タイトルマッチは喜んですぐにでもやりたいですけど、自分は(試合当日時点で)13位の立場なので、まあ、何でもやります(笑)」 ──ペレス戦でどんな作戦を考えていたのでしょうか。 「どこかしらのラウンドでバックチョークとかバックから極めようと思っていました。いろんなバックの4の字だったり、バックの寝技から考えていて、あとスタンドは自分がケージのセンターを取る意識でやっていこうと思っていました。バックのあの展開は、作戦通りです」 ──UFCのグローブが変わったと聞きましたが、感触はいかがでしたか。 「指の穴だったり、、サミングはそれとは関係ないと思うのですけど、だいぶ手にはめたかんじは結構変わりました。握りやすさとかは変わらないのですけど、一応いつもよりバンデージの厚さだったりを今回変えました」 ──スタンドではペレスの連打を止める首相撲からのヒザ蹴りが効果的でした。あれは対策でやりこんできましたか? 「首相撲を集中してやってきたわけではないですけど、対策として、すごい相手がレスリングがしっかりしているので“深く組まないように”序盤は四つで勝負するというよりはクリンチ、首相撲でヒザを狙っていこうとは思っていました」 ──レスリング対策だったのですね。 「ガツガツ組みに来る人ではないので、そこで押し込まれて後手にならないようにはすごく試合にも出たと思います」 ──最初に跳びヒザ蹴りを掴まれてテイクダウンされても、寝技に固執せず、首も取られず立ち上がったときに組み技の手ごてたえも感じましたか。 「下になっても間違いなく立てるな、というのは感じて、あとがぶりからの色々、ダース系、アナコンダとかあるのでそこも意識していましたね」 ──フィニッシュの場面、バックを取って、おたつロックから対角の腕も縛っていた。あれだけあおっても落とされる心配はなかった? 「落とされる心配はなくて、得意だったので、あの形からグラウンドに持っていこうというのは試合前から松根(良太・代表)さんと話していました」 ──決着した瞬間についてご自身ではどう思っていたのでしょうか。 「(ペレスの身体が)“伸びた”と思ってパウンドをまとめようと思ったときの怪我だったので、嬉しかったというよりかも、ちょっと残念な気持ちにもなりました。“俺のタイムだ!”ってなっていたので。“ちゃんと仕留めたかったな”というのがありましたけど勝てて良かったです」 ──兄の龍一さんがオクタゴンインタビューの通訳をされていました。今回お兄さんが帯同してくれたことは力になりましたか? 「力になりました。すごい面白かったです(笑)、兄弟が……(笑)“わあ、本当にお兄ちゃんがいるー!”と思って。負けたら(ケージインタビューが)実現しなかったので勝てて良かったです」 ──今後の展望を。 「チャンピオンを倒して、日本に、沖縄にベルトを持ち帰ります。そして、UFC日本大会を持ってきます!」 ──最後に日本のファンにメッセージを。 「めちゃくちゃ力になりました。U-NEXTで見てくれた方もありがとうございます。一言ひとことでいつも“頑張ろう”と思えて。次も世界一のファイターになるために強くなって帰ってくるので、また応援してください!」
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