2024年6月1日(日本時間2日)に米国ニュージャージー州ニューアークのプレデンシャルセンターにて『UFC 302: Makhachev vs. Poirier』(U-NEXT配信)が開催される。
メインイベントのUFC世界ライト級選手権試合(5分5R)では、王者イスラム・マカチェフ(ロシア)に、同級4位のダスティン・ポイエー(米国)が挑戦する。
13連勝中のマカチェフは、元UFC世界ライト級世界王者ハビブ・ヌルマゴメドフがセコンドにつくダゲスタン軍団の32歳の王者。MMA25勝1敗で、25勝中16試合でフィニッシュ勝利(5KO・TKO、11SUB)している。2022年10月のライト級王座決定戦でチャールズ・オリベイラに肩固めで一本勝ちで王座に就くと、2023年2月に当時のフェザー級王者アレクサンダー・ヴォルカノフスキーの階級を越えた挑戦を受けて判定勝ち。10月の再戦でも左ハイキックからのパウンドで初回KO勝ちした。今回はライト級4位のポイエーと対戦することになった。
対するポイエーは、元同級暫定王者。2019年4月に マックス・ホロウェイに判定勝ちで暫定王座に就くも、同年9月のハビブとの王座統一戦で、3Rリアネイキドチョークで一本負け。その後、コナー・マクレガーとの2連戦で2連続KO勝ちを含む3連勝も、2度目の王座挑戦となったオリベイラ戦でダウンを奪うも逆転のリアネイキドチョークで一本負けで戴冠ならず。
2022年11月にマイケル・チャンドラーを3R リアネイキドチョークで仕留めるも、2023年7月のジャスティン・ゲイジーとのBMFタイトルマッチで、2R、右ハイキックでKO負け。しかし、2024年3月の前戦は5連勝中のブノワ・サン・デニを相手に左ストレートを効かせ、直後の右フックでダウンを奪いパウンドでKO勝ち。アンダードッグの評価を跳ね返して再起を飾っている。35歳、最後のタイトル挑戦となるか。
マカチェフがV3達成なるか、それともポイエーが初の正規王者のベルトを手にするか。質疑応答でポイエーは、マカチェフへの挑戦を「お金のためでも、殿堂入りのためでも、記録のためでもない。17歳の時に妻に言った目標を追い続けて、再び登り続けて実現するためのものだ」と語った(※マカチェフ インタビュー)。
ポイエー「勝てなかった試合で得た教訓は多い。無敗のファイターが経験しないであろうことを俺は経験し、それが自分を成長させた」
──あなたにとって「今回のタイトルマッチがラストチャンス」と言う人が多いが、自身にとっていつもよりビッグファイトだと思う?
「特にいつもよりデカい試合だとは思わない。むしろこの状況に慣れているから、今までよりも快適に過ごせているくらいだ。キャリアの終盤にいるから、ビッグファイトであることは間違いないけどね。何度も伝えている通り、ここで負けたら、またタイトルマッチの順番待ちをしようとは思わないかもしれない。俺は35歳だ。何度もチャンスをもらえるわけじゃないし、何度も山の頂上まで登れるわけじゃない。その部分はあまり考えないことにして、他の試合と同じように、プレッシャーを感じないようにしているんだ」
──誰もが無敗でキャリアを終えたいと思うだろうが、負けても立ち直ってタイトルを取ることの意義とは?
「無敗でいることは非常に難しく、素晴らしいことだ。でも、負けても立ち上がり、決して諦めない態度を見せること、過去のミスから学び、困難な状況でも前進し続けることで、その人の人間性や意欲、信頼を示せると思う。勝てなかった試合で得た教訓は多い。無敗のファイターが経験しないであろうことを経験し、それが自分を成長させるんだ」
──マカチェフは、あなたにとって「自分は最悪のスタイルの相手だ」と言っていたが、ハビブ戦との違いは何ですか?
「その試合は数年前のことで、もし俺が当時よりも強くなっていなければ、無駄に時間を過ごしたことになる。でも彼が言っていることは正しい。18年間戦ってきた中で、圧力のあるレスラーやトップコントロールが得意な相手は最も厄介だった。俺は戦いの中で強さを発揮するタイプだ。相手が失速させようとしてきたり、より競技的な展開を狙ってきたら、俺はどうにかファイトに持ち込ませないといけない」
──もしテイクダウンされた場合、どうやって冷静に対処する?
「テクニックに集中し、現在のポジションを認識するんだ。何年もトレーニングしてきた経験が、自分をどんな状況からも抜け出させてくれることを願っている」
──あなたもあなたのATTのコーチも「この試合に勝てるとは思っていない」とマカチェフが言っていたが、それについてはどう思う?
「確実にこの試合に勝てると思っている。彼の顎を捉えれば、倒れるだろう。それを土曜日(日本時間日曜7時~)に証明するつもりだ。彼が自信を持とうとしているのは良いことだが、嘘は良くない」
──ハビブ・ヌルマゴメドフやイスラムのトレーニングキャンプであなたを過小評価しているという意見があったが、それについてどう思うか。
「知らなかったよ。戦いにおいて学んだことの一つは、メディアや対戦相手、彼らのキャンプ、批評家の意見は重要ではないということだ。勝敗を決められるのは自分だけだ。全ての決断は自分次第。運転席で運転しているのは俺で、後部座席に座っている人が色々と話しているだけなんだよ。俺は自分に破壊力があることを知っているし、自分のスキルを信じている。他はただの雑音で、気にしていない」
──他の選手たちがあなたについて悪いことを言わないのはなぜだと思う?
「多分、長い間戦ってきたからだろう。彼らがMMAに興味を持ち始めた時、自分はすでに大舞台で戦っていた。また、自分の戦い方も好まれているのかもしれない。試合の時は、いつも“やるか・やられるか”だ。使い古された言葉だが、これが真実。イスラムの息の根を止めにいくが、逆に息の根を止められるかもしれない。それが俺の戦い方なんだ」
──イスラムの総合力についてどう思うか。イスラムのコーチは、ボクシングでもあなたに勝てると言っている。彼のボクシングやレスリングの評価は?
「評価は高いよ。でも、ボクシングは俺が上だと思う。彼のコーチが本気でそう言っているのかは、俺には分からない。もちろん誰でもパンチを当てて勝つことはあるが、俺が彼を打ち負かすつもりだ」
──新しいUFCのグローブについての印象もお聞かせください。
「新しいグローブの方が快適だ。拳を握るのが簡単だ。ただ、パッドが薄いから、カットが増えるかもしれない。俺にとっては、このグローブのほうが良いよ」
──ハビブとイスラムのスタイルの違いについてどう感じるか?
「アメリカン・トップチームには素晴らしいグラップラーやレスラーがいるが、彼らのスタイルは違う。身体の乗せ方や各ポジションでの体重の掛け方だったり、スタイルが違うんだ。ハビブと戦ったとき、感じたことのない類のプレッシャーがあった。イスラムとハビブのテイクダウンの方法は若干違いがあるが、グラップリングの状況において、トップポジションでのプレッシャーの掛け方は似ているだろう。ハビブ戦での経験はアドバンテージになるだろう。俺はずっとグラップリングやレスリングを経験してきたけど、試合に出て体感しないと分からないことがある。誰かが説明してくれたり、見せてくれたりすることはあっても、実際に試合をして、相手のプレッシャー、知性、体重配分なんかは、経験してみないと分からないものなんだ」
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ポイエー「どれだけ自分自身をこのスポーツに捧げられるか。毎回ケージに上がるたびに、取り戻せない部分を失っている」
──暫定タイトルを獲得したときの満足感は?
「リビングルームに俺の名前が書かれたUFCの世界チャンピオンのタイトル(暫定王座)がある。マックス(ホロウェイ)を倒してそのベルトを手に入れたとき、彼は12連勝中で、現役のフェザー級チャンピオンだった。だから、正規王者と戦えなかったから、デタラメな相手が選ばれて、暫定タイトルを手に入れたわけじゃない。俺は世界王者と戦ったし、大きな勝利だった。だから、誇りに思っているよ。でも、正規王者ではない。それが最後の目標だ。このスポーツでできることが、他になにがある? 長い間戦ってきたし、自分の世代の中で、ライト級で最も強い選手たちと戦ってきた。そのうち何人かとは二度戦った。多くの選手に勝ってきた。でも、正規王者の称号は手に入れていない。世界一になることが、17歳の時に初めてグローブをつけた理由だ。
土曜日の夜、自分が世界一だと言えるチャンスが25分間与えられている。お金のためでも、殿堂入りのためでも、記録のためでもない。17歳の時に妻に言った目標を、追い続けて、再び登り続けて実現するためのものだ。ビジネスのためではない。もし正規王者になれれば、過去を振り返って満足できると思う。自分が歩んできた道を誇りに思う。何も知らない子供の頃に設定した目標に向かって歩き続け、躓いても立ち上がり、ついに達成したことに満足できると思う。
誰かが言っていたように、キャリアを通じて無敗でベルトを守り続けることは本当に素晴らしいことだ。でも、アンダードッグとされ、打ちのめされ、再び立ち上がって本当に成し遂げた人、それが自分が追い求めている姿だ」
──今後の進退は、勝敗に基づいて決めるのか? それともパフォーマンス次第?
「そのときの感情次第だ。もう一度戦いたいどうか。俺はMMAを愛している。再び戦う機会が持てないのは怖い。でも、同時に、同じことを毎回言っている気がする。どれだけ自分自身をこのスポーツに捧げられるか。毎回ケージに上がるたびに、取り戻せない部分を失っている。これは健康に良くないことは理解している。MMAが全てを与えてくれたし、愛しているし、たくさんのことを教えてくれた。でも、35歳になり、8歳になる娘がいる。ビジネスも家族もある。妻も、トレーニングキャンプで自分がいないことに疲れていると思う。俺が試合のストレスを感じることにも、サッカーの練習、チアのパフォーマンス、誕生日パーティーに出席できないことにも疲弊している。家族のために家にいたいと思っている。格闘技には本当に感謝しているし、もう一度やるかもしれない。でも、どこまで自分を犠牲にできるかという問題だ」
──アスリートの一部は引退について話し始めると、引退が間近に迫る感覚があると言うが、あなたは?
「経験に感謝して、全てを楽しもうとしている。でも、5、6年間『もう終わりだ』と言い続けながら、まだこの野郎どもをぶちのめしている。だから、自分は違うんだ。まるで中毒みたいなもので、もう十分だと思っても、また戦いたくなる。バーベキューをして、フットボールを見て、娘のサッカーの試合を見ていると、また戦いたくなるんだ。若い頃からずっと戦ってきたから、カレンダーに名前が書かれていると安心する。戦いが終わると、その感覚が恋しくなる。ハビブとの試合の後、股関節の手術を受けた時も、キャリアで最も長い休養期間だったから、狂いそうだった。完璧に説明できないけど、試合中毒なんだ」
──あなたはレガシーを追求しているが、毎年“レジェンドファイト”としてコナー・マクレガーを倒して素晴らしいファイトマネーをもらうことには惹かれない?
「それもいいけど、俺が求めているものではない。どれだけ自分の人生を捧げられるか、何のために戦うのか、ビッグファイトや金がどれだけ必要なのか、バランスを取らないといけない。今は十分にお金もあるし、家族も問題なく生活している。試合のためだけに、格闘技を続けたくは無い。だけど、試合中毒なのが問題だ」