MMA
インタビュー

【RTU】河名マスト「小手で押さえればぶん殴れる。僕にとってあのポジションが一番安心できる」=5月18日(土)『ROAD TO UFC 2024』

2024/05/15 18:05
 2024年5月18日(土)と19日(日)、中国・上海のUFCパフォーマンス・インスティチュート(UFC PI)にて、『ROAD TO UFC:Season 3』(U-NEXT配信)が開催される。  今回は、フライ級、バンタム級、フェザー級、女子ストロー級の4階級でトーナメント戦が行われ、各階級の優勝者は、UFCとの契約が決まる。日本からはフライ級に松井斗輝。バンタム級に野瀬翔平、小崎連、透暉鷹。フェザー級に原口伸、安藤達也、河名マスト。女子ストロー級に本野美樹が出場し、ワンマッチに雑賀“ヤン坊”達也が参戦する。  その初日18日のフェザー級1回戦で、韓国のソン・ヨンジェ(Wild Gym)と対戦する河名マスト(ロータス世田谷)にインタビューした。 ▼ROAD TO UFCフェザー級1回戦 5分3R河名真寿斗(マスト)(日本)9勝3敗ソン・ヨンジェ(韓国)6勝0敗1分 (C)GLADIATOR  河名は、元グレコローマンレスリングU-23世界王者。全日本社会人選手権優勝・国体二連覇などの実績を引っさげて、MMAに転向も、初戦でジェイク・ウィルキンスのハイキックを受けてカットしドクターストップ。苦い黒星を経験した。しかし、その後は約2カ月毎に試合を行い、怒涛の5連勝。武器であるグレコをMMAにアジャストし、急激にMMAファイターとして成長。し2022年8月には北米LFAでUFCのマイルズ・ジョンズと兄弟のイラジャ・ジョンズと対戦。判定負けを喫した。  2022年11月のNEXUSで寿希也を2R TKOに下すと、2023年6月のGLADIATOR 022でPANCRASEで透暉鷹、亀井晨佑を苦しめたパン・ジェヒョクにスプリット判定負け。9月の前戦でユン・ダウォンに判定勝ちで再起を飾ると、12月にチハヤフル・ズッキーニョスを1R TKO。2024年2月のパン・ジェヒョクとの再戦で判定3-0で完勝。今回のRTU出場を決めた。MMA9勝3敗。  対するヨンジェは、4連勝をマークした2019年6月の試合から2023年9月までブランクがあり、2023年9月のAFCでダン・ホアンミンに1R KO勝ちで復帰。12月には清水俊一を1R KOに下して、AFCフェザー級暫定王者となっている。MMA6勝0敗。  オーソから左ジャブ、ワンツーのストレートはモーションが小さくシャープな打撃で、5つのKO・TKO勝ちを記録している一方で、組みは未知数のヨンジェを相手に、河名は「僕のほうはどんどん、どんどん組みに引きずりこんで、苦しいしんどい試合をやり続けて、ドロドロになってUFC勝ち取る」と語った。 河名「『思い切ってダブルに入ればいいじゃん』と意識転換ができてフォールに持っていけた」 ──『ROAD TO UFC』(RTU)参戦が決まった瞬間はどのように感じましたか。 「『マジか!!』みたいな感じで(笑)、安心より驚きが大きかったです。というのは、参戦が決まってからビザを申請する時間のことも考慮すると、このタイミングで連絡が来なかったらもう厳しいのでは? と言われていた目安の時期を過ぎた頃にマネージャーから『もう少し待っていて』と言われて、その時にはもう期待はしていなかったので(笑)、拾われたというような感覚でしょうか」 ──エントリーするにあたって、たとえば年齢やキャリアも含めて、どういう選手であれば通るという選考基準が細かく提示されているわけではありません、その点は出場したい選手としてはやはり気がかりですか。 「そうですね。そういう意味では、1年前のRTUの時には自分は入れなかったけれども、実際に選ばれた選手たちはがみんなベルトを持っていました。だから『まずはGLADIATORのベルトを目指そう』と考えて、そこはつまづきながらもなんとかクリアできたので、自分としては人事を尽くして天命を待つという気持ちでした」 ──LFAのアライジャ・ジョンズ戦後、パン・ジェヒョクとの2戦を経て、打撃の進化が大きく見られました。どのような取り組みをしてきたか教えていただけますか。 「最初は“組むために組む”というか。スタートが組むところからだったから、初戦は結局テイクダウン切られてしまって何もできない状態だったので“組むためには立ち合いで殴らないといけないよね”というところになって、高谷裕之さんのところ、EX FIGHTでミットを持ってもらったり、立ち合いを意識しながら、なおかつ試合で、相手の打撃の距離で向き合いながら、自分も組むために振るし、でもそれだけだと怖さはないので、差しに行く、思い切りブン殴るっていうところは常に意識しながら、試合ごとに積み重ねていったという意識です」 ──打撃の練習で特に意識してきたことや成果をどのように感じていますか。 「組みにつなげる意識を持ちながら、始めた頃から『ミットはめちゃくちゃ硬い。当たれば効く』と言われていたのですが、でも当たらないから分かるらないじゃん、と(苦笑)。ずっと不安に思っていたのがいざ実戦になったら、ジェヒョク戦の初戦の3R目とか、べつにそんなに思い切り振っていないのに、相手の口が切れていたりして“もしかして効いているのかも?”というのが、だんだんそのあとの2戦を通して“当たれば効くじゃないか”と自信もついてきて。自分で殺しに行かなくても当たれば相手が死に近づいていると分かったら、より組みにいけるという意識に持っていけました。打撃が伸びたからこそ、組みを切られてももう一回いけばいい、という心の余裕が生まれました」 ──ジェヒョクとの2戦目では、河名瀬選手の左前手のフックに右ストレートを内側から打ち抜かれました。それでも後半にはその左をヒットさせていましたね。カウンターを被弾することも厭わず……。 「そのせいで脳の資源はだいぶ減り……(笑)、HP減りましたけど、得たものは大きいです」 ──打撃が強化されたことで、相手の上体を上げて組みやすくなった実感がありますか。背中を着けきれなかった初戦に比べていかがでしょうか。 「その点で言うと、背中を着けさせる前のところなのですよね、テイクダウンの入りを意識したというか。初戦はハイクラッチ、前に出ている足を掴めば倒せるだろうと思ったら、片足立ちで“残った、残った”をされて、自分が逆に削られる状況だったのが、“思い切ってダブル(レッグに)入ればいいじゃん”と意識転換ができたので、そのまま倒してフォールに持っていけたというのはあります。それを相手によって変えることをしています。上組みのほうが組みやすければ上組みするし、パン・ジェヒョクはハイクラッチに強いんだったらダブルで、ドライブして走って倒しに行くというところですね」 (C)LFA ──打撃を磨くきっかけとなったのが、LFAでの経験だったのでしょうか。 「あのときは打撃を振ることすら覚えていなかったので、レスリング一本槍で行ってそれをはじきかえされたので、今とは全然違います。ボコボコにされてこんなものかと思いましたが、逆にこのレベルに辿り着けなくはないと当時思ったことも覚えています。実際、対戦相手(ジョンズ)はチャンピオンになりました。フィダーショーでLFA王者にUFCへのチャンスがあるとして、そのレベルまで持っていく必要があるという見方だと、行けるだろうという見積りはあります」 ──河名選手の小手の強さについても伺いたいのですが、ジェヒョクとの初戦はテイクダウンしても押さえきれなかった。2戦目で倒して、あの立ち上がりの際で小手勝負で押さえ込む選手はあまり多くないのでは、と。相手が脇を差してきたところで小手を効かせる。ここでのパウンドでダメージを取り返しました。 「僕にとってあのポジションが一番安心できるというか。ただ差されて、小手が弱かったらそのまま後ろ取られちゃうんですけど、僕の場合は逆に小手でこっちが止めているという状態になっています。止めて、相手も差し上げられないし動けないから反対の手でバランスをとるしかない。たとえば左で差していたら、右手をマットに着いてついてバランスとるしかないですよね。そうしたら相手の両手が塞がっているので、僕は右手で巻いていたら左手でぶん殴れる、っていうイメージですね。  レスリングでずっとやってきたことなのでそこには自信があります。MMAというよりは組み技のなかで相手に下を選択されたときに上下入れ替わられないように、常に上にいるにはどうしたらいいか考えていたら、小手だと。組み技から派生して。僕にとってあそこからがぶりにいったり後ろに回ったり、いかに相手の上に乗った状態をキープできるのかという目的のために小手を選択しているという感じです」 [nextpage] 「殺し」を持っているヨンジェを引きずり込む ──なるほど。打撃の向上が上下の組みに繋がり、レスリングの組みがグラウンド打撃に生きる、MMAとしての進化ですね。さて、RTU1回戦の相手は韓国のソン・ヨンジェ選手となりました。相手の印象はいかがですか? 「きれいなボクシングができて、あとは“殺しを持っている”という感じです。 ──戦績が6勝無敗1ドローで、プロの試合すべてでフィニッシュ勝利を挙げています。早いラウンドでのKOが多いという点はいかがですか? 「僕のほうはどんどん、どんどん引きずりこんで、苦しい試合をできればなと思っていますから、逆に向こうがスカ勝ちできなくて苦しい試合になっていったときの準備をどこまでしているのかというところですよね。」 ──ドロドロの試合をしてやろうと決めているのですね。 「はい。そうなれば僕が勝つし、そうならなければ1Rで僕がぶっ倒れているっていう感じで(笑)」 ──その点で言うと、ドロドロの試合になってからどういう選手なのかはかなり未知数なところも。ヨンジェの組みに関してはどのような印象ですか? 「見ている感じだと、弾き飛ばすバネのような意味での体の力が強いと思うので、力づくで組み技をきってくるような想定はしています。自分は最終的にはやるべきことは変わらないのでそこに向かってとにかく走り続けます」 ──先ほど相手選手の印象として「殺しを持っている」ということでした。ワンツーのツーのタイミングが速く、右ストレートから左ボディの対角攻撃でのKOもあり、危険なパンチを持っていると思いますが、どこが鍵になると思っていますか? 「立ち合いでのプレッシャーの掛け合いの勝負だと思っていて、相手にとっても僕のテイクダウンは怖い部分だと思うので、もしかしたらあのワンツーは出せないかもしれないし、僕が立ち合いでビビって引いてしまったら、もう相手の射程に入ってしまうので、1Rの一番最初の入りが大事だと思っています。最初の1分、2分が重要ですね。1Rで自分がどう形を作れるのか。型にはめられれば最高ですが、うまくいかずに相手の体の力で切られて、立たれてもまた自分がプレッシャーをかけ続けられるか。そこはもう、ある意味自分との戦い的な部分があると思います。  あとはもう僕が自分の形が作れそうな時に、たとえばスタンドでバックが取れそうなときに思い切りアームロック仕掛けてくるといったような、そういう飛び道具の一発を狙ってくる可能性があれば脅威ですが、そういう選手ではないように思います」 ──相手を想定した選手役を誰かにやってもらうなどの対策も? 「毎回そんなに相手はこうという意識はせずにやっています。テイクダウンして徹底的に押さえながらずっとコントロールし続けて、相手がバテるまで引きずりこむというベースが自分にはまずありますから。どちらかというとそういう自分のやるべきことを徹底していくための練習をしてきました。最初は押さえるだけになっていたというか、押さえることが目的になっていたのを、押さえながら相手が動いてきたら叩こうとか、相手が萎えたら一本取ろうとか。パンチを振るにしても一本取りに行くにしても、力がいることですし、そこには勇気も必要になるので、そういう怖さと戦いながら、ベースを積み上げてきた感じです」 ──理想のフィニッシュは? 「一番いいのはパウンドを効かせて、一本を取れるといいですが、そう甘くはないとは思っています」 [nextpage] フェザー級で日本から選ばれた3人が全員レスラーで気になるけど── ──フェザー級トーナメント出場選手で、ほかに注目している選手や戦ってみたい選手はいますか? この階級は日本人選手が3名(安藤達也と原口伸)出場しますが、その点も含めて教えてください。 「やっぱり選ばれた3人が全員レスラーなので(笑)、ほかの2選手のことは気になりますよね」 ──準決勝がどういうブラケットになるのか分かりませんが、皆が勝ち上がってきたらどこかしらで日本人対決を経験することになります……。 「今のところ、あんまりそこに意識はないですね。結局、僕はUFCと契約がしたい。その契約をかけてここで戦わなくてはいけないので」 ──どちらと当たっても専修大学vs.国士舘大学ですね(笑)。 「そうなりますね(笑)。大学の教えにも特徴はありますけど、どちらかというと僕がグレコローマンで、ほかの2人ともフリースタイルなので、スタイルのぶつかり合いという話になってきますね」 ──昨年、RTUも行われたシンガポールの会場で開催されたUFCファイトナイトでの中村倫也選手のセコンドに付かれていましたが、UFCの舞台を体感できたことはよかったですか? 「そうですね、やっぱり想像しているものと現地の空気感は違うと思うので、その空気を味わえたのはよかったです」 ──オープニングラウンドの会場は上海PI。相手は中国人選手ではないのでアウェーと感じてはいないかもしれませんが、海外での試合について思うところは? 「アウェーというのを判定に関して考えれば、どこであろうと勝ち負けを判定に委ねた時点で分からないので、そうならないよう、フィニッシュを求めつつドロドロと引きずりこんでいければと思っています」 ──そういう試合をしていれば、その末にもし判定となっても文句なく勝利できているということですね。 「はい。」 ──UFCにつながる舞台に出場するにあたって、どんな選手として、世界の人にあるいはUFCに対して、この試合に注目してもらいたいですか? 「アメリカで、それこそUFCで勝てるようなレスリング出身選手は、打撃ができて、ボクシングするのかと思ったらタックル入ってくるというようなミックスされた部分が発揮できています。自分も、まだまだ足りていないですが、打撃とレスリングの融合的な部分がちょっとずつ形になってきているので、その発展途上なものを見せられたらいいと思っています。それからテクニックだけじゃなくてハートの部分で“コイツは人の心を動かせる”と思ってもらえたらいいなと」 ──ダイヤモンドの原石のような……。 「僕の場合、自分が光るというよりどちらかというと相手の光を消すような選手になっていけたらとは思っています(笑)」 ──ライツアウトする。UFCがどのような舞台だから、河名選手はそこを目指しているのでしょうか。 「そこはアマチュアマインド的な部分があると思いますが、僕はオリンピックを目指してレスリングという競技で戦ってきて、レスリングはもうオリンピックや世界選手権でチャンピオンになることが“この人が世界で一番強い”とはっきり分かる。MMAという競技においては、現時点で世界中を見た時に、UFCは『UFCチャンピオンが世界で一番強いよね』と誰もが認識するような舞台になっているので、そこに向かって走っていきたという気持ちです。  そこに高い山があるなら、じゃあ登ってみたいよねっていう。逆に言えば、世界の頂点を目指していなかったなら、たとえば自分が持つGLADIATORのベルトもそうですけれど、最初からGLADIATORのベルトまでを目指している選手では結局そこには届かないと思うのです。目標を高いところに持っているから、どんどんマイルストーンを置いて、乗り越えていけるという意識はあります」 ──そういう考え方はレスリングを始めた頃からずっと持っているのですか? 「いえ、全然考えていなかったですよ(笑)。とりあえず練習して、別に自分が強いかも分からないけれど、試合に出たら勝っちゃったということももちろんあるので」 ──そういうレスリングに対してどういう経緯で真剣に取り組むように? 「中学時代は陸上部で長距離走をやっていたのですが、高校入学にあたって陸上を続けるかレスリングを続けるか、というのが、一番最初に人生の選択をする機会でした。高校1年生の時の陸上のインターハイの会場が、47都道府県を回り回っての最後の開催地としての沖縄でした。一方レスリングは、石垣島だったんです。“陸上は3年間やっても多分無理だろうな”という意識もありました。  レスリングのほうは、県大会は結局人が集まっているチームが勝てるというか、レスリング人口が少ないから団体競技で7人が集まることだけでもそもそもすごいというのがあって“ここに自分が行けば、もし試合に負けても石垣島に行けるぞ”と思って(笑)。だからレスリングが違う開催地だったら陸上を続けていたかもしれない(笑)。結局チーム自体は強くなかったので、団体戦も初戦敗退して、顧問の先生が次の日に竹富島に連れて行ってくれたりして(笑)」 ──海を渡った話になったところで、U-NEXTでは河名選手の試合を、このRTUで初めて見る方もいるかと思うので、お名前の「真寿斗(マスト)」の由来についても伺えますか? 「父親がヨットに乗っていまして、ヨットの『マスト』=『帆柱』のように、みんなを支えられる人間になってほしいという意味でつけられた名前です」 ──その名にふさわしい人生を歩んでいると感じていますか? 「どちらかというと、僕が支えるというよりは、みんなに支えられて生きていますね。いっぱい周りにマストが立っているかのようです」 ──周囲のマストとともに、しっかりとマストを立てて悠然と海を渡って行ける人、ということなのかもしれませんね。それでは最後に、U-NEXTのライブ配信を通して応援する皆さんに、メッセージをお願いします。 「今回、トーナメント3戦、必ず、とにかく苦しいしんどい試合をやり続けて、ドロドロになってUFC勝ち取ります!」
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