2024年5月4日(日本時間5日)ブラジル・リオデジャネイロのジュネス・アリーナにて、『UFC 301: Pantoja vs. Erceg』(U-NEXT配信)が開催される。
そのメインイベントにて、MMA12勝1敗・UFC3連勝のスティーブ・エルセグ(豪州)が、フライ級世界王者アレクサンドル・パントーハ(ブラジル)への挑戦者に大抜擢された。
ダビッド・ドヴォジャーク、アレッサンドロ・コスタに競り勝ち、3月に当時9位のマット・シュネルを2R TKOに下した28歳のエルセグは、地元・豪州でアマチュア選手のなかで練習し、自身の技術を磨いてきた。
昨年末に米国デンバーから帰国した平良達郎は、『UFC 295』を機内で視聴し、印象に残った選手として真っ先にエルセグ、ジョシュア・ヴァン(※6.1『UFC 302』で平良が対戦)の名前を挙げており、ファイターからの評価も高い技術とハートを持っている。
謙虚にハードにトレーニングする“アストロボーイ”は、本誌の取材に「最終的には“どっちがもっと勝利が欲しいか”って事になると思う。そしてそれは僕の方が求めている」と静かに、しかし、力強く語った。
多くのアマチュア選手が僕を支えてくれる。他では叶わないことだ
──オクタゴン無敗の3連勝で王者アレクサンドル・パントーハとの試合が決まりました。その話を聞いたときは?
「一番最初に決まった時の気持ちは、びっくりしたよ。こんなに早い段階でオファーがあるとは思わなかった。実は父親がこの試合を予想をしていて、それについて話した時があったんだけど、『馬鹿じゃないの?』って言ってしまったんだよね。謝らないと(苦笑)」
──お父様が正しかったと。あなたは2016年にMMAのキャリアをスタートさせて、Hex Fight SeriesやEternal MMAで8連勝でUFCとの契約を決めましたが、そもそものバックボーンは何だったのですか?
「僕はラッキーだと思うんだけど。ストライキングと柔術を同じくらいの頃に始めたんだ。だから自分のバックボーンは? って聞かれると困るんだけど、柔術かムエタイになると思うよ」
──西オーストラリア州パースでクロアチアとイタリア系の家族に生まれて、ムエタイの州タイトルとレスリングでも全国大会で優勝して、柔術も黒帯だと。それにしても、あなたの打撃に対する見切りと反応の良さには驚きます。
「自分の目の良さはどこからきているのか分からないけど。生まれ持ったものかもしれない。スウェイしたりする反応は、ジムで僕は16歳の頃からトレーニングを始めたんだけど。そんな若い頃から大人ばかりを相手に練習してきて自分の技術もまだないし、自分のベストを出すためには、大きな相手に常に避けて動いていないと自分の打撃が入らなかったんだ。そういう影響もあると思うし、自分のコーチは素晴らしいから。テクニカルディフェンスの指導やスリッピング、ダッキングなどのタイトなディフェンスをしっかり教えてくれていて、それが今に身についてきているのではないかと思うよ」
【写真】回線状況が良くないなか、ZOOMで蜃気楼のように映っていたエルセグだが、話を聞いていくなかで霧が晴れて、その素顔を知ることが出来た。完全アウェーでの試合に落ち着いた表情だった。
──なるほど……デイヴィッド・ウィルキスコーチが率いるWilkes MMAは、プロ選手が多くないジムかと思います。そんななかでティーンエージャーから大人たちを相手にスキルを磨いてきたのですね。
「確かにプロ選手は多くない。ただアマチュアからでもたくさんの人が集まっているんだ。試合に出ないような人たちでも自分をすごく支えてくれてきた。安定した素晴らしいチームメート達もいる。彼らが自分を本当に押し上げてくれていて、この旅路を支えてくれている。他では叶わないことだと思う。出稽古でも、レスリングはグラディエイターレスリングに行っているし、そこには世界レベルのレスラーたちがいる。柔術はたまにスクラッピーMMAにいってMMAトレーニングで他のパートナーとトレーニングをしたりもしているんだ」
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パントーハに対しての自分の強味は、僕のレンジとアングルだ
──強い組み技と柔術があるから、スタンドでもあの距離で戦える。そして抜群のディフェンススキルがある。3月のフライ級9位のマット・シュネルとの試合では、フィニュシュの左フックの前に、シュネルの左をかわして、右ボディストレートからの左フックでした。あの攻防、コンビネーションはいつも練習している賜物でしょうか。
「いつも顔面とボディはミックスするようにしているよ。格闘技をして、ボクシングをもっと深く学んでいくと顔面ばかり狙っていたら相手のディフェンスが安易になるし上手くディフェンスされるだろ? だからガードを開かせる為にも顔面やボディで変化をつけながら、ガードの腕を上下させるようにしている。全てをディフェンスする事は無理だからね。それが自分にはすごく合ってるんだ」
──そしてあなたには、長い蹴りと柔術もある。今回の対戦相手のパントーハの打撃は、MMAらしいパワフルな左右に、蹴ることもできて、首相撲ヒザもあります。それに対し、エルセグ選手の強みをどう感じていますか。
「パントーハに対しての自分の強味は、僕のレンジとアングルだと思う。彼が大きくワイルドな打撃を打って来ても、自分は自分の距離を保てるし、僕のスペースまで動かせてそこで仕留められるはずだ」
──そしてあなたも柔術黒帯です。UFC入りを決めたEternal MMAでの最後の試合、平井聡一郎戦でも相手の最初のテイクダウン狙いを切ってバックを奪い、リアネイキドチョークを極めました。長い手足で首系のサブミッションも多いですが、寝技の部分でも後手に回らない自信もありますか。
「もちろん。あの試合は国際戦だった事もあってちょっと緊張していた。だからどうなるか想定できなかった、もちろん勝つつもりだったけど。そういった状況の中で自信も身につけたし、これまでタフな試合を色んな海外の選手と経験を重ねてきて、その自信は更に増していると思う。今回のブラジルでパントーハを相手に、このレベルでも戦えるんだって自分を信じる事ができる」
──ズバリ、どのような試合になりますか?
「そうだね、厳しい戦いになるとは思う。かなりやりあう形になって、最終的には“どっちがもっと勝利が欲しいか”って事になると思う。そしてそれは僕の方が求めている。最終的に判定になるだろうけど、自分が勝つと思っている」
──そういえば、あなたはオージーボール、AFLのベン・カズンズをヒーローとしているそうですね。様々なトラブルを乗り越えた彼はいまスポーツニュース記者として活躍しているとか。なぜ、カズンズを挙げたのですか。
「一番の理由は、自分がまだ若かった時にフットボールをしていたんだけど、好きな選手を探していたのもある。試合を見ていた時、父親がベンがフィールドで吐いているのを指さして『あの吐いている選手が見えるか? あれは自分をそれだけハードに追い込んでるからなんだぞ。フットボールをやるなら、あれくらい自分を追い込まないといけない』と言われたんだ。そこからだ。彼が献身的に頑張る姿と、もちろん彼の上手さも。それがヒーローになったきっかけだと思う」
──強い心と献身といえば、あなたは「アストロボーイ(鉄腕アトム)」とも呼ばれていますね。
「コーチと当時の彼女がつけたニックネームなんだ。もう少し若い時は似てるところもあったと思う(笑)。彼は控えめな(Unassuming)ヒーローだろ? だから、うん、やっぱり少し似てるんじゃないかな」
──日本に来たことも?
「ないけど、夢のひとつだよ。もちろん昔はPRIDEをすごく見ていたし。だから日本で戦いたいとも思っている。観客も素晴らしいらしいしね。人生に一度くらいは体験してみたいよね」
──フライ級には日本にもUFC5連勝中の平良達郎選手がいます。どんな印象を持っていますか。
「あぁ、とてもいい選手だよね。特にグラウンドゲームが強い。グラウンドになると強さを発揮する。ティム・エリオットにどう対応するかすごく楽しみだったけど、代わったジョシュア・ヴァンも強豪だから楽しみだ。彼の試合はいつも見るのを楽しみにしているよ」
──日本のファンへメッセージを。
「いつも応援ありがとう。『UFC 301』で戦います。そしてリオ・デ・ジャネイロで戦争のような戦いを見せます。楽しんでください!」