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インタビュー

【UFC】父との壮絶なスパーリング、古流柔術&ブラジリアン柔術黒帯のタイソン・ペドロ「自分にとってオクタゴンの中にいるときが一番平穏なんだ」

2024/02/29 13:02
 2024年3月2日(日本時間3日)米国ラスベガスのUFC APEXにて『UFC Fight Night: Rozenstruik vs. Gaziev』(U-NEXT配信)が開催される。 ▼ライトヘビー級 5分3Rビトー・ペトリーノ(ブラジル)10勝0敗(UFC3勝0敗)※UFC3連勝中タイソン・ペドロ(豪州)10勝4敗(UFC6勝4敗) (C)Zuffa LLC/UFC  セミファイナルのライトヘビー級戦では、MMA10戦無敗・UFC3連勝中のビトー・ペトリーノ(ブラジル)と、タイソン・ペドロ(豪州)が対戦する。  本誌では、ペドロにインタビューを行ったが、その前にペドロの生い立ちを紹介したい。  まだケージファイトが豪州で世間に認められていないなか、『King of the Cage Australia』のオーナーの父により、マイク・タイソンからその名がつけられたタイソン・ペドロは、幼い頃から格闘技が身近にある環境で育った。  UFCのドキュメンタリーで、親子はタイソンが「戦いを生業にしたい」と望んだときのことを振り返っている。  父ジョン・ペドロは、「テストしなければならなかった」という。タイソン・ペドロに「度胸があるかどうか。彼が辞めたりしないかどうか」。そもそも息子に不安定なファイターの仕事をさせることに賛成はしていなかった。  息子の「テスト」の過程で、ジョンはタイソンを気絶させ、鼻と前歯をへし折った。テスト終了と思われたが、父は息子にリングのマットから折れた歯を拾わせて、コーナーマンに渡すようにうながし、「このラウンドはまだ80秒ある」と伝えた。 (C)Zuffa LLC/UFC  ジョンはそのときのことをこう回想している。 「彼はフラフラで血まみれで、ジムには彼を助けに飛び込もうとする男たちがいた。でも、“私の世界”ではそんなことは一度もなかったから『消えろ』と言った。私の知っている人生では、誰も助けに来ない。そして息子には、人生で立ち上がるとき、本当に立ち上がるとき、誰も傍にいてはくれないことを知ってほしかった。  彼は歯が抜けた顔で這って戻ってきた。タイソンは私にパンチを繰り出し始めた。ますます強くなったようだった。私は彼を掴み、彼の顔を見つめて言った。『お前は大丈夫だ。ファイターになるだろう』」と。  ここまでが、よくタイソン・ペドロについて語られるストーリーだが、そこには後日談がある。  MMAファイターになったタイソンの試合に向けてのトレーニング中、形勢は逆転した。  スパーリングが白熱し、タイソンが打ち込んだパンチで父は「人生で初めて打ち倒された」。意識を取り戻したとき、息子は父に謝罪し、「戦いをやめようと思う」と涙ながらに語り、ジョンはタイソンに「これからはお前がこの家族を守るのだ」と伝えたという。  4連勝後、2016年11月にタイソンはUFC入りを果たし、2018年のマウリシオ・ショーグン戦でヒザの靭帯を断裂。2022年に3年4カ月の長期ブランクから復帰し、2連続KO勝ちした。2023年2月のモデスタス・ブカウスカス戦で判定負けも、9月の前戦でアントン・トゥルカリに1R TKO勝ちで再起を飾っている。  しかし、今回の対戦相手のビトー・ペトリーノは、無敗の26歳のプロスペクト。アンダードッグとして、コメインに臨む32歳のタイソン・ペドロに聞いた。 [nextpage] 僕は人生の中でもかなり早い時期から総合格闘家だったと言える ──タイソン・ペドロ選手、今回のペトリーノとの試合に向けて、どんなファイトキャンプを行ってきましたか。 「4週間、ニュージーランドのシティ・キックボクシングに行き、ファイトキャンプを終えた。4週といってもまあ、ここ6、7試合のキャンプは全部そこでトレーニングしていて、拠点なんだ。ヴォルカノフスキーは僕の故郷に近いオーストラリアのウーロンゴンで練習しているから、ホームタウンのシドニーにいるときはヴォルカノフスキーのところへ行って一緒に練習するし、ニュージーランドにいるときはいつもイスラエル(・アデサニヤ)と練習しているんだ」 ──豪州とニュージーランドの両方に練習拠点があるのですね。ところでペドロ選手は、父ジョンさんの影響もあり、武術がバックボーンにあるのですか。 「自分は最初はブラジリアン柔術から始めて、それから拳法空手や柔術、そのあといったんボクシングへ行って、またブラジリアン柔術をやってからMMAに転向したんだ」 ──古流柔術とブラジリアン柔術の両方の黒帯だと思いますが、その二つの違いとは? 「伝統的な柔術には武器の使用が前提として含まれていて、相手を傷つけ、殺すことを目的としているんだけれど、ブラジリアン柔術のほうは、より穏やかな武術、というべきかな、つまりセルフ・ディフェンスに重きが置かれている。小柄でも大柄な相手を倒せるような、そういうものだと感じている」 ──なるほど。護身と殺傷で目的が異なると。 「そのおかげで、僕は人生の中でもかなり早い時期から総合格闘家だったといえるよ。立ち技と寝技とを取り入れていたからね」 タイソン・ペドロとミノル・タバレス・ツチダと父ジョン・ペドロ。(C)john pedro ──あなたがファイターになりたいと望んだときの父親のテストはハードでした。それでもなぜMMAを続けたいと思ったのでしょうか。 「いつも戦って育ってきたんだ、だから戦うことは、僕にとって日常会話をするよりもずっと“普通”のこと。一般的にノーマルなことほうが自分にとっては難しいんだよ。自分にとって、オクタゴンの中にいるときが、一番平穏な状態なんだ。そこに入ることで、外野の喧しい問題から解放され、ただただ自由を得られる」 ──幼い頃から周りにもファイターがずっといる環境だった? 「そう。ずっと戦い漬けの人生だ。だいたい、格闘技を始めた4歳くらいから、ずっと。だから28年くらいの格闘技人生だ」 ──そんなファイター人生で大きな怪我がありましたが、ヒザの故障を経て現在は万全でしょうか。 「完璧だよ。あの試合以来、テストしてきた。スパーリングでも最大限の力を発揮して、足への蹴りにも耐えられたし。だからもう大丈夫」 [nextpage] いま『五輪書』を読んでいるんだよ ──あなたの右クロスは強力な武器です。 「ああ、そうだね」 ──では、今回の対戦相手ビトー・ペトリーノのスタンドをどう見ていますか。 「彼の打撃は、間違いなくすごくハードで、強敵だ。だけど『MMA』で考えた時にまだ底が知れていて、彼と同じようにタフで強い選手はいる。だから今回とても基本的な試合の作戦で組み立てるということが彼に勝つために必要なことなんだ」 (C)Zuffa LLC/UFC ──ペトリーノのオーソからの前手のカウンターの左フックは警戒すべき武器では? 「その点で考慮するべきは、入り(エントリー)だ。彼はフックをチェックするのが上手くて、相手が入ってくるのをかなりじっくりと待って狙っている。だから思うに、この試合は忍耐勝負になる。であればこそ、自分としては、自分のアプローチの仕方が戦略上正しいものであるかをしっかり確認することが重要だ」 ──彼は元極真のマルチン・プラフニオにテイクダウンを決め、肩固めでキャリア初の一本勝ちもマークしています。組み技・グラウンドにおいての自信は? 「自分の柔術のほうが、断然上だよ。とはいえ、彼はトップポジションで強いようだし、彼のテイクダウン、爆発力は目を見張るものがある。彼が3Rまでその強さをキープできるかどうか、要注目だね」 ──元ランカーのあなたにとって、この試合の持つ意味は? 「この試合で自分がいいなって思えるのは、自分がアンダードックであることだ。誰にも期待されていない状態というのはいいものだよ。自分にとっては、みんなは間違っていたんだと、そう証明できるというのが良いことなんだ」 (C)Zuffa LLC/UFC ──ところで古流柔術にも親しんだあなたにとって、日本の文化は近しいものでしょうか。 「見て、いま『五輪書』を読んでいるんだよ」 ──ラスベガスのファイトウィークに『五輪書』を持ち込んでいるのですか! 「まさしくサムライ文化そのものさ。規律、そして誉れを学んでいる。それに、実際のところ日本は旅行先として大好きな国のひとつで、今年もまた行きたいと思っているんだ」 ──日本に来た時は何をされたのですか。 「IBJJFの試合に出る予定があって、パンパシフィック・アジアだったかな。紫帯の頃だな。日本で紫帯になったんだよ。でも、手を骨折してしまったんだ。だから試合はできなくてね」 ──なんと柔術の試合のために来日していたのですね。またいつか日本で試合を見せてください。 「日本のファンのみんな、いつも応援ありがとう。日本で試合をしたいと思っていて、その気持ちが通じれば、大観衆の皆さんの前で実現するかもしれない。PRIDE時代からの大ファンで、ヒョードルの試合も大好きだった。あんなすごい会場が湧いた状態で試合をしてみたいよ。ぜひ、今回の僕の試合も、日本からU-NEXTで応援してください!」
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