2023年1月28日(日)東京・後楽園ホール『Krush.157』にて、Krushフライ級タイトルマッチ3分3R延長1Rで大夢(WIZARDキックボクシングジム)の挑戦を受けての初防衛戦に臨む王者・悠斗(HUNGRY GYM)のインタビューが主催者を通じて届いた。
悠斗こと高橋悠斗は、元々はキックボクサーで2011年に国士舘大学所属として全日本学生キックボクシング連盟のフライ級王者となっている。プロデビュー後はNJKFの上位ランカー(最高2位)として活躍したが、2014年にボクシングへ転向。2019年10月に世界ランカーでもあった王者・堀川謙一を破り、日本ライトフライ級王者となった。しかし、2020年3月に決まっていた初防衛戦が新型コロナウイルスの影響により度々延期に。気持ちが切れてしまい、4月にタイトル返上と現役引退を発表。プロボクシングの戦績は11勝(5KO)4敗。
2021年6月にキックボクシングに復帰し、『KNOCK OUT』で白幡裕星に判定負け。2022年9月にはWMC日本ライトフライ級王座を獲得している。2023年7月のKrush初参戦で松葉斗哉を左フックでなんと9秒でKOした。10月には大鹿統毅を47秒でKOし、王座を奪取している。戦績は22勝(11KO)13敗4分。自らを“KO体質”と称している。
僕が目指してるところまではまだまだ距離がある
──試合が迫ってきましたが、練習の状況などいかがでしょうか?
「いやあ、疲れてますね。過去一番ぐらいで疲れてるかもしれないです」
──そうなんですか。過去一番というのは?
「毎回、自分の限界を超え続けてきていて、前回から試合間隔が短いのもありますし。新たな気づきもあって、確実にレベルを上げてますし、練習の強度も上がってきてるので、それに合った疲労はありますね。言い方を変えれば、過去一番いい練習ができてるんじゃないでしょうかね」
──それだけ仕上がってるということですか。
「そうですね。もう一段階ぐらい、欲を言えばもう二段階ぐらい仕上げたいですけど。そういう意味ではいつも通りではあるんですよ。毎回こういう風にトレーナーと話し合いながら、『あともう少しやれたっていう感じで毎回仕上がるよね』っていう。それが毎回レベルアップしてるっていう感じはあるんですけど、今はそういう状況ですね」
──Krushでの2試合の勝ち方、倒し方はこれ以上ない衝撃でした。あれ以上がまだあるんですか。
「前回勝った時は、だいぶ完成に近づいてるかなと思ったんですけど、やっぱりトレーナーに自分のその目標を話した時に、僕のトレーナーはそこに向けて引き上げてくれる人なので、そうやって引き上げてもらう練習をしている中でやっぱ全然まだまだだなって感じましたし、だから体はけっこうボロボロで(笑)。そこに向けて仕上げているので、あくまで通過点というか。しっかりその先も見据えつつ今回必ず勝たなきゃいけないという形ですね」
──カード発表会見では、「これに勝ったら、K-1フライ級を作ると約束してもらった」という話をされていましたよね。そこについての反響は感じてますか?
「正直、K-1自体が今まではなかったような動画を作ってくれたりとか、僕のプロモーションを強化してくれてるなというのはすごく感じてます。周りの反響も多少は感じますけど、やっぱりまだまだだと思いますね。それは僕が目指してるところまではまだまだ距離があるというとこもありますし、今はまだKrushの王者なので、これが新しい歴史を作って皆さんに認めてもらえるような時期が来たら、またさらに違う世界が見えてくるんじゃないのかなと思ってますね。全然まだまだだと思ってます」
──2試合連続ですごいKOを見せたので、ファンとか観客の期待は「あれ以上」になってくるかと思います。そこについては?
「そのへんは全く気にしてないですね。毎回話してますけど、『すごいKOをしてやろう』とは思ってないんですよ。KOする練習は誰よりも知ってると思うんすけど、KOしようとは思ってないので、いつも通りなんですよね、結局。気負ってしまうと自分の精神面がよくないというのは、もう40戦やって分かってるので、そういう気負った感じとかは今のところないですね」
──逆に言うと、気負わないでやれる状態を編み出せているという感じですか?
「それはすごくあると思いますね。僕が今回、一番強化してきたところはメンタル面だと思っていて、その領域はもう僕は通り越してると思うんですよね。練習通りの自分を出すというのはできるので、その先にあるものというか、今はその先の領域に行こうとしてるというか」
──その先があるんですか。
「だからサッカーで言えばメッシだったりロナウドだったり、ボクシングではメイウェザーとかパッキャオであったりとか、そういうアスリートの領域っていうんですかね。大谷翔平選手とか井上尚弥選手とか、必ず予想の上を行くじゃないですか。そこには偶然ってないと思ってて、そういうところを自分の中で強化してきました」
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いちいち相手に気を取られてたら、孤独な自分の道を進めない
──今挙がった名前って、各種目の英雄たちじゃないですか。悠斗選手もそこに近づこうとしている?
「そういう認識を持っていただきたいですね。そういう人たちって、常に予想の斜め上を行くじゃないですか。1回とかまぐれじゃないんですよ。僕も練習のスパーでも普通にガンガン倒しますし、おそらく実力はそういう領域に入っていて。ただ選手として、安定性というのもすごく大事だと思っていて、世界中のトップの選手は、競技関係なく結果を出し続けるんですよね」
──そうですね。
「結果を出し続ける選手、出し続けられない選手というのは確実に差があって、そこを今回はすごく考えてきたというか。僕はこのK-1ルールでの強さというのは間違いなくあると思うんですけど、例えば人格だとか、そういうものも関係してくるんですよ。絶対王者と言われる人だったり突き抜けてる存在、誰も越えられないような成績を残すような人たち。今まで自分が成し遂げてきたことはそういうところにあると思っていて、やっぱり僕も選手としてもかなり密度が濃いというか、すごく熟してきて、今はそういう戦いをしてるというか。ただのチャンピオンじゃなくて偉大なチャンピオンにふさわしい実力と人格とその発言と見た目だったり思考だったり、そういったところを磨いてきた感じですね」
──なるほど。
「それはもちろん実力の部分をおろそかにしてるわけじゃなくて、それは全て一緒で。やっぱり王者としてのプライドというのは、その団体を背負ってるわけなので、他の団体になめられちゃいけない。K-1、Krushが決めているのは『倒しに行ってくれ』ということなので、そこをやり切る中で俺は自分はトップなんだと。それも1回だけのトップではなくて、トップでい続けられる絶対的な結果を残しつつ、周りにいい影響を与えていくような存在を目指してる感じですね」
──とても試合前のインタビューとは思えない内容になってきました(笑)。
「(笑)。やっぱり普通の格闘家だったら、試合前は相手のこととか話すんでしょうけど、もうそういう感じじゃないっすね。僕に関しては逆というか、試合前ほど自分を高めることに集中しているというか。でも、みんなそうなんじゃないですか。やっぱりチャンピオンって孤独じゃないですか。突き抜けた存在って孤独だと思うんですよ。その人の苦しみとか、誰も分からないと思うんですね。今回だったら、期待されてる僕のプレッシャーは誰にも分からないわけですよ。立ち技三冠、誰もやったことないことをやりましたと。次は何してくれるんだと。そういう孤独の中で、さらに強さを見つけるというか、今はこんなことを考えてます」
──大夢選手のことは、考えてはいないんですか?
「いえいえ、バッチリ考えてますよ。相変わらず試合はまだ1回も見てないですけど。これはもういつものことなので。ただ情報なんかは入ってくるし、代わりにトレーナーが2週間前ぐらいに見てくれるんですけど(笑)」
──それでもその程度なんですね。
「そんなもんですね。結局僕には僕のスタイルがあるので。絶対王者は人に合わせることはしないじゃないですか。井上尚弥は相手によってスタイルを変えないですからね。自分の絶対的なスタイルがあるので。そういう部分も含めて、いちいち相手に気を取られてたら、孤独な自分の道を進めないよねと。よりもっと前に進んでる、強いライバルたちがいるわけで。僕もそういう存在に近づきたいので」
──では先ほど「考えてますよ」とおっしゃったのは、どれぐらいのものなんですか?
「前回は同じ日に試合もしましたし、控室も一緒でしたし、正直、体とか姿勢を見ればだいたい分かるというか。これ以上具体的なことは、試合前は控えておきますけど」
──そうですか。では、今の時点で試合について一番考えていることは何ですか?
「試合については、『勝ちたい』っていう、ただそれだけですね」
──そこは意外とシンプルなんですね。
「シンプルなんですよ。だからもう、シンプルが一番強いんですよ。『シンプル・イズ・ザ・ベスト』って、僕が一番好きな言葉なんです。僕のトレーニングもメンタルも、結局シンプルなんですよ。僕は事業もやってたりしますけど、自分の店とかでシンプルにいかないことがたくさんある中で、僕1人で戦ってるわけじゃないんで。妻とか子供も応援してくれてますし、従業員とかいろいろ背負ってる中でやるんですけど、やっぱりシンプルなんですよね、自分の中では。いかにシンプルにするかっていう。メンタルもいかにシンプルにするか。最終的には『勝ちたい』っていう、そこだけなんですよね。それがあるから、余計なことは後回しでもいいんですよ。試合の前であればあるほど、誰よりも勝ちたいです。勝った後にまた目標ができて、そこへ自分を高めて。だから結局、相手じゃないんですよね」
──では最後に、この試合への“決意”を、改めて教えていただけますか?
「歴史を変える瞬間を見届けてくださいって感じですね。この試合でだいぶ歴史が変わりますから。フライ級という、今まで日の目を見ることがなかったような若い選手、まだ体ができあがってないような選手でもフライ級で活躍して、K-1という偉大なプロモーションの力を借りて、もっともっとやる気を出して階級を上げてもいいと思いますし、フライ級で僕を打ち取ってやろうという強い子が出てきてもいいだろうし。作ってしまいさえすれば変わるんですよ、やっぱり」