ヒロヤの強みは勝ち方にこだわらないところ、俺がKOすれば全部かっさらえる
――あらためてですが、中国のWLFなども含めて9連敗のときに、気持ちが折れかけることはなかったですか。
「あったのかもしれないけど、常々俺はちゃんとやったらいけるというか、やることやれば、同じ練習量をやれば絶対いけると思いながら……練習をしてなかった時期があった。本当、練習好きじゃなかったんです。つらいし、疲れるし」
――それがなぜ出来るようになったのでしょう。
「“本当に勝ちたい”と思ってからは練習も好きになったし、格闘技がより好きになったんでしょうね。格闘技を自分から考える時間が増えたし、身体のこと、栄養のこととか、技術のこととか、自分から調べるようになった。そうすると必然的にうまく日常が回っていった。だから、諦めるという気持ちはなかった。その後、11連勝しても自分がしたことをそんなに大きく捉えてないというか」
汚ねえレコードだけど
— 新井 丈 ARAI JO (@jo_arai_mma) May 23, 2022
これが俺の人生#shooto0522 #修斗 pic.twitter.com/tJAKK2Lz7l
――まだ足りてないんじゃないですか。
「そう。二階級制覇も終わって、マイクで喋った後くらいから、もう冷静なんです。家に帰ったらベルトを触ることもないし。まだ全然ハングリーなんです。もっと大きなことをしたい、もっと多くの人に見てもらいたい。あの9連敗した反発っていうのか、反骨心はまだ満たされてない。11連勝しても」
――山内渉選手とだからあの試合になった。試合後、ケージの中で「ネバーギブアップ、この気持ちで格闘技を始めて、いまも一切ブレてない」と言っていましたね。年間ベストバウト級の二階級同時制覇の試合をしても、伝える側の力不足もあって、世間にはあまり届いていない。その意味ではRIZINの大晦日大会でヒロヤ選手と試合をするのは、より多くの人の目に触れることになります。同時にフライ級で朝倉未来ファミリーの人気選手と戦うことは、これまで積み上げたものを持っていかれる可能性もあります。
「みんな心配すると思うんですよ。本当に大丈夫なの? って。それをひっくり返すのが気持ちいいから、俺にはプラスになります」
――だからやってみたい。RIZINというプロモーションはどう見ていましたか。
「やっぱり日本で知名度を得るならRIZINなのかなっていうところですかね」
――「朝倉未来チャレンジ」という違うルートから抜擢されて、人気も獲得してきた選手を見て、ジレンマのようなものを感じることは?
「そんな無いですね。自分に無いものを持ってるからその場にその人がいるんだと思うし。別に妬みとかは基本無い。知名度が無いのも俺の実力だと思ってるし。たしかにあの試合で戦う場所がONEとかUFCだったら、5万ドルのボーナスをもらえてるんだろうな、とかは思ったりしますけど(笑)、俺は俺だから」
――これまでの会場人気を考えると、さいたまスーパーアリーナが完全アウェーになるかもしれません。
「全然アウェーだとしても、知名度のないやつとやるよりいい。“朝倉未来の弟子”として分かりやすいから、逆に引きがいいなと思います」
――ストロー級だと戦場は限られますが、フライ級で結果を出して身体も出来てきたら、海外も含めて戦っていきたい気持ちもありますか。
「あります。ただ、さすがに海外はさらに大きな選手になってくると思うので、気持ちだけではどうにもならない。壊れるんだろうなって。だから身体を作らなくちゃいけないし。でも行けるなら、やっぱり頂点のUFCに声かかれば戦いたいし、挑戦のしがいがあるところに一番行きたいから」
――そう考えると、DEEPフライ級GPべスト4の伊藤選手とスプリット判定のヒロヤ選手が今回の相手で、そのDEEPフライ級GP優勝が、元修斗王者の福田龍彌選手、そしてその福田選手に勝利した平良達郎選手がいま、UFC5連勝でランキング入りした。そういう階級での現在地が分かる試合になるかもしれませんね。
「たしかに。ずっと修斗でやってきた分、他の選手と実際に戦って比べることができなかったから、ものさしにはなりますね。それこそ直近でヒロヤ選手がやっている中村優作選手、伊藤裕樹選手はヒロヤ選手をKOできてないじゃないですか。俺がKOすれば全部かっさらえると思っているので、そこがモチベーションです」
――そのヒロヤ選手はKO・TKO負けが無く、2KO・TKO勝ちと3つの一本勝ち(ギロチン・ノースサウスチョーク、腕十字)、3つの判定勝ち、1ドローという戦績ですが、近年は得意の組みをフルラウンドやり続けるタフさが持ち味です。
「そうですね。ぐちゃぐちゃやって組んで、それをこっちが切って・離してとやってるうちに試合が終わっちゃうのは避けたい。たぶんそこがヒロヤ選手の一番の強みであり、怖さだと思います。勝ち方にこだわらない。何があっても勝ちたいという、ドロドロでも勝ちたいという立場だと思うから、そこが怖さだけど、自分がそれを飲み込むくらいの気持ちを作って、自分から前に出て、ガンガン殴ろうかなというところです」
――サッカーキックなどのRIZINルールも初となります。判定基準もラウンドマストではありません。
「判定はダメージ重視、サッカーもやってたから、サッカーキックはもしかしたら出やすいかもしれない(笑)。今のところやってないけど、練習はしておきます」
──9連敗から11連勝で修斗二階級同時制覇王者となりながらも、事故物件という安めの家賃の部屋で暮らしているそうですね。
「ハハハ、“幽霊物件”と書いたけど、実際出はしないというか、自分見えないから(笑)、だいぶ安いところに住んでます。まだ下積みですからね。仕事(ガソリンスタンド)をしながら練習して、相撲部屋の下積み力士の動画を見ながら自分を鼓舞して、メシを作って食っています」
――なかなか格闘技一本という形にはならないものですね。
「でも、来年からは下手したらいけそうっすね。スポンサーさんにもついてもらって、HEARTSとして大沢さんがうまく動いてくれている部分もあって、選手はだいぶ楽になっています」
――となると、あとは「NEVER GIVE UP」のバンダナが大晦日以降に売れてくれれば……。
「そうですね。RIZINでバズるしかない(笑)」
――ところで、その腕のロレックスは、二階級制覇の際に誰かからプレゼントされたものでしょうか。
「いや、自分で買いました。ずっと欲しかったやつが、試合前に計算してみたら、ボーナスとか諸々全部獲ったらいけそうだな、と思って、それをモチベにやってたんです。それこそ意味を持たせたくて。修斗二階級したお金でロレックスを買ったという意味を乗せれば、おじいちゃんになってもずっとつけてられそうだなって。バイトで稼いだ金で買ったら、たぶん俺売っちゃうんですよ、金が足りなくったら。その意味では思い出になるかなと思ってます」