MMA
インタビュー

【RIZIN】ヒロヤと対戦する新井丈「まだ満たされてない。9連敗から11連勝しても──」=大晦日連続インタビュー(1)後篇

2023/12/23 11:12
 朝倉未来がYA-MANにOFGのキックルールで倒れた同日、後楽園ホールで年間ベストバウトとも言える死闘を生き残った男がいる。  新井丈(25・和術慧舟會HEARTS)──修斗史上初の二階級同時制覇王者は、MMA9連敗から怒涛の11連勝で、修斗ストロー級(52.2kg)そしてフライ級(56.7kg)王座についた。  2022年から2023年の2年に7戦全勝。「年間MVP」候補としてのインタビューの最中、2023年の4試合目が決まった。RIZINでのヒロヤ(ジャパントップチーム)との57kg契約試合だ。  急転直下のRIZIN参戦。そして朝倉未来門下の人気者とのフライ級戦。小学生の頃、ジョン・シナの逆転劇を“食らって”、公園の仮想リングで拳をかわしていた新井丈は、大晦日、さいたまスーパーアリーナのリングに立つ。  そんな新井を、師匠・大沢ケンジは「みんな試合前にいろいろ覚悟を言うけど、実際の試合で言葉と行動はリンクしない。でも丈は、試合を諦めない。言葉と行動がリンクしてほんとうに行ける」と語った。 【独占インタビュー】大晦日連続インタビュー(1)新井 丈大晦日連続インタビュー(2)斎藤 裕大晦日連続インタビュー(3)ヒロヤ大晦日連続インタビュー(4)新居すぐる大晦日連続インタビュー(5)YA-MAN大晦日連続インタビュー(6)皇治大晦日連続インタビュー(7)弥益ドミネーター聡志大晦日連続インタビュー(8)堀口恭司大晦日連続インタビュー(9)朝倉海 試合の気持ちを作れなかったことはない ――(前篇からの続き)新井選手は9連敗から、11連勝。その連勝の兆しが2019年頃から出始めた。 「少しずつ出始めましたね。タックルを切れるようになったくらいに。(新宿)FACEのリングの試合も見てもらっていると思いますけど、連敗していた頃の試合は本当恥ずかしいです、今も。プロフェッショナル修斗にこんなやつが出ていいのかっていうのが。ムカつきますよ、今の俺が見たら」 ――でも自分で動くことで環境を変えてそれこそ“ちんちん”にされながら、強さを得てきた。 「やっと形になってきた。自分の動きをしっかりMMAに落とし込めるようになったところで、蹴りの選手も組みの選手もいいところをちょっとずつエッセンスをもらっています」――いまの新井選手は、ステップというよりじりじりと追い足が強い。そして踏み込みの強さがありますね。 「できるだけ圧をかけるように前に出ていく。逆に負けてたときは、今思い返すとステップを踏む選手だったんですよ。ピョンピョン飛んで、触れられずに当てる、というのは言われていて、それこそ(テイクダウンディフェンスという)穴がデカすぎるから、速さでバッとやって、もうすぐその場からいなくなれみたいな。そういうステップを極めていた時期もあったんですけど、ステップを踏むだけだと自分の強みを活かしきれない。今タックルもしっかり切れるようになったので、逆にどんどんじわじわ前へ出ることが出来ます」 ――新井選手がボディを当てているが打てるということは、近い距離で立ち会うということ。同時にテイクダウンディフェンスという、難題をこなしていることになりますね。 「そうですね。一番難しいところかもしれない。とりあえず相手を殴りたい、そして、たぶん殴られるのとテイクダウンが怖くないから懐に入れる。そのために俺も殴られる瞬間があるのは当たり前だと思っているので、全然怖がらずにボディの距離にもいけるんだと思います」 ──そこは少し武尊選手が打ち勝つところに似ていますね(※ここで大沢ケンジ代表がジムに戻って来る)。 大沢 決めたぞ。 「ありがとうございます」 ──おおっ、次戦、決まりましたか。 大沢 このインタビュー、カード発表後ですよね。ヒロヤ選手と大晦日RIZINで試合です。 ──何kgですか。 大沢 57kgですね。 ──RIZINのフライ級ですね。YUSHI選手と新井選手がSNSでやりとりをしていたので、まさか、と思ったら「丈」違いの平本丈選手との対戦で、新井選手の「ボーナスステージ」は無くなったのだなと思っていました。 「本当ですね。あれギャグですよ」 ――しかし、ヒロヤ選手とは……。戦績以上に強い選手だと思います。伊藤裕樹戦、とくに前戦の中村優作戦は際どい判定でした。 「YUSHIなら10日で十分かと思ってたけど、“ヒロヤか、ちゃんと練習しないとな”って。調子乗ってると足元すくわれる相手だから、本当、もう1回気持ちを作れるか次第。大沢さんもそこを一番気にしてて。『前回の試合のようにもう一度気持ちを作れるなら、今持っている武器で戦えると思うよ』と。『ただ、気持ちが乗らないなら本当全部持っていかれる可能性があるから、それ次第だよ』と言われました。自分もまさにそれだなと思って。でも気持ちを作れなかったことはないので。大晦日のさいたまスーパーアリーナ、出るチャンスがあるなら、間違いなくそれもボーナスなので、本当2023年にエネルギーを残さず、一滴残さず絞り切って、走り切ろうって決めました」 ――もう一度、地獄の底に戻るということですね。 「“またか”って思いながらもそれをやってますね。試合前の追い込みに入っているので」 ――また体重が下がってしまうのではないですか。 「痩せちゃいますよね。本当に2年連続4試合してるんですよ、今回で」 ――2年で8試合……正直、大晦日は無理してほしくないという気持ちもありながら、知名度が高まる大晦日に新井選手が試合をするというのは、プロファイターとして意味があることだろうなとも感じます。ただ、適正階級はやはりストロー級だと個人的には感じてしまうので、体格差はあるでしょうね。 「だから、ここ3、4年身体を大きくしたいって常に思って生活してきましたけど、4試合やってたら、いまは大きくしている暇がないんですよ。だから、どこかの時点でしっかり休んで増量期というか、本当ボディビルダーみたいな生活を半年近くやって肉体改造をするのもありかな、ということはトレーナーと相談しています」 ――ここ3試合のヒロヤ選手は58kg契約でした。57kg契約でも修斗フライよりは重いですが、RIZINフライの57kgというのは、大沢代表がしっかり交渉されたのだと思います。しかし、リングは、新宿FACE以来になりますね。 「いつなんだろう……3年前くらいかな(2021年6月の飯野タテオ戦以来)」 ――いま確認したら、2年半ぶりですが、リングはどうですか。 「今のところはそれほど大きくは考えてなくて。猿田さんが“仮想ヒロヤ”になってくれるので、猿田さんと集中的にやって行くつもりです。ヒロヤ選手はフィジカルもあると思うけど、やっぱり技術やしつこさという点では全然猿田さんのほうが上。“猿田慣れ”して、自分より大きな選手とも練習しているので、自信を持って臨みます」 [nextpage] ヒロヤの強みは勝ち方にこだわらないところ、俺がKOすれば全部かっさらえる ――あらためてですが、中国のWLFなども含めて9連敗のときに、気持ちが折れかけることはなかったですか。 「あったのかもしれないけど、常々俺はちゃんとやったらいけるというか、やることやれば、同じ練習量をやれば絶対いけると思いながら……練習をしてなかった時期があった。本当、練習好きじゃなかったんです。つらいし、疲れるし」 ――それがなぜ出来るようになったのでしょう。 「“本当に勝ちたい”と思ってからは練習も好きになったし、格闘技がより好きになったんでしょうね。格闘技を自分から考える時間が増えたし、身体のこと、栄養のこととか、技術のこととか、自分から調べるようになった。そうすると必然的にうまく日常が回っていった。だから、諦めるという気持ちはなかった。その後、11連勝しても自分がしたことをそんなに大きく捉えてないというか」 ――まだ足りてないんじゃないですか。 「そう。二階級制覇も終わって、マイクで喋った後くらいから、もう冷静なんです。家に帰ったらベルトを触ることもないし。まだ全然ハングリーなんです。もっと大きなことをしたい、もっと多くの人に見てもらいたい。あの9連敗した反発っていうのか、反骨心はまだ満たされてない。11連勝しても」 ――山内渉選手とだからあの試合になった。試合後、ケージの中で「ネバーギブアップ、この気持ちで格闘技を始めて、いまも一切ブレてない」と言っていましたね。年間ベストバウト級の二階級同時制覇の試合をしても、伝える側の力不足もあって、世間にはあまり届いていない。その意味ではRIZINの大晦日大会でヒロヤ選手と試合をするのは、より多くの人の目に触れることになります。同時にフライ級で朝倉未来ファミリーの人気選手と戦うことは、これまで積み上げたものを持っていかれる可能性もあります。 「みんな心配すると思うんですよ。本当に大丈夫なの? って。それをひっくり返すのが気持ちいいから、俺にはプラスになります」 ――だからやってみたい。RIZINというプロモーションはどう見ていましたか。 「やっぱり日本で知名度を得るならRIZINなのかなっていうところですかね」 ――「朝倉未来チャレンジ」という違うルートから抜擢されて、人気も獲得してきた選手を見て、ジレンマのようなものを感じることは? 「そんな無いですね。自分に無いものを持ってるからその場にその人がいるんだと思うし。別に妬みとかは基本無い。知名度が無いのも俺の実力だと思ってるし。たしかにあの試合で戦う場所がONEとかUFCだったら、5万ドルのボーナスをもらえてるんだろうな、とかは思ったりしますけど(笑)、俺は俺だから」 ――これまでの会場人気を考えると、さいたまスーパーアリーナが完全アウェーになるかもしれません。 「全然アウェーだとしても、知名度のないやつとやるよりいい。“朝倉未来の弟子”として分かりやすいから、逆に引きがいいなと思います」 ――ストロー級だと戦場は限られますが、フライ級で結果を出して身体も出来てきたら、海外も含めて戦っていきたい気持ちもありますか。 「あります。ただ、さすがに海外はさらに大きな選手になってくると思うので、気持ちだけではどうにもならない。壊れるんだろうなって。だから身体を作らなくちゃいけないし。でも行けるなら、やっぱり頂点のUFCに声かかれば戦いたいし、挑戦のしがいがあるところに一番行きたいから」 ――そう考えると、DEEPフライ級GPべスト4の伊藤選手とスプリット判定のヒロヤ選手が今回の相手で、そのDEEPフライ級GP優勝が、元修斗王者の福田龍彌選手、そしてその福田選手に勝利した平良達郎選手がいま、UFC5連勝でランキング入りした。そういう階級での現在地が分かる試合になるかもしれませんね。 「たしかに。ずっと修斗でやってきた分、他の選手と実際に戦って比べることができなかったから、ものさしにはなりますね。それこそ直近でヒロヤ選手がやっている中村優作選手、伊藤裕樹選手はヒロヤ選手をKOできてないじゃないですか。俺がKOすれば全部かっさらえると思っているので、そこがモチベーションです」 ――そのヒロヤ選手はKO・TKO負けが無く、2KO・TKO勝ちと3つの一本勝ち(ギロチン・ノースサウスチョーク、腕十字)、3つの判定勝ち、1ドローという戦績ですが、近年は得意の組みをフルラウンドやり続けるタフさが持ち味です。 「そうですね。ぐちゃぐちゃやって組んで、それをこっちが切って・離してとやってるうちに試合が終わっちゃうのは避けたい。たぶんそこがヒロヤ選手の一番の強みであり、怖さだと思います。勝ち方にこだわらない。何があっても勝ちたいという、ドロドロでも勝ちたいという立場だと思うから、そこが怖さだけど、自分がそれを飲み込むくらいの気持ちを作って、自分から前に出て、ガンガン殴ろうかなというところです」 ――サッカーキックなどのRIZINルールも初となります。判定基準もラウンドマストではありません。 「判定はダメージ重視、サッカーもやってたから、サッカーキックはもしかしたら出やすいかもしれない(笑)。今のところやってないけど、練習はしておきます」 ──9連敗から11連勝で修斗二階級同時制覇王者となりながらも、事故物件という安めの家賃の部屋で暮らしているそうですね。 「ハハハ、“幽霊物件”と書いたけど、実際出はしないというか、自分見えないから(笑)、だいぶ安いところに住んでます。まだ下積みですからね。仕事(ガソリンスタンド)をしながら練習して、相撲部屋の下積み力士の動画を見ながら自分を鼓舞して、メシを作って食っています」 ――なかなか格闘技一本という形にはならないものですね。 「でも、来年からは下手したらいけそうっすね。スポンサーさんにもついてもらって、HEARTSとして大沢さんがうまく動いてくれている部分もあって、選手はだいぶ楽になっています」 ――となると、あとは「NEVER GIVE UP」のバンダナが大晦日以降に売れてくれれば……。 「そうですね。RIZINでバズるしかない(笑)」 ――ところで、その腕のロレックスは、二階級制覇の際に誰かからプレゼントされたものでしょうか。 「いや、自分で買いました。ずっと欲しかったやつが、試合前に計算してみたら、ボーナスとか諸々全部獲ったらいけそうだな、と思って、それをモチベにやってたんです。それこそ意味を持たせたくて。修斗二階級したお金でロレックスを買ったという意味を乗せれば、おじいちゃんになってもずっとつけてられそうだなって。バイトで稼いだ金で買ったら、たぶん俺売っちゃうんですよ、金が足りなくったら。その意味では思い出になるかなと思ってます」 [nextpage] 大沢ケンジ代表「丈は試合を諦めない。戦いのなかでも言葉と行動がリンクする」 「丈の強さは、まずは気持ちの強さ。覚悟。みんないろいろ言うんですよ。『怖がらずに前に出ます』とか、『今回は死ぬ気で行きます』とか、でもそういう言葉と行動のリンクって、実際は数パーセントというところだったりするじゃないですか。でも丈に関しては、言葉と行動のリンク率がだいぶ高いな、と思うので、そこじゃないですかね。『気持ちの強さ』って、本人が生まれ育ってきた環境からなのか、常々の意識なのか、生まれ持ったものなのか、何で作られるのか、分からないですね。でもその気持ちの強さは、玉砕じゃない。丈は試合を諦めないので。  あと、思うのは、やっぱりしっかり自分の拳を当てたら倒せるというものがあるから、そのゴール地点を信じているから、我慢できるというのもあると思うんですよ。判定で終わりそうだとなったときに、逆転まで持っていくって、相当、気持ちが強くなくちゃいけないけど、“当たれば倒せる”と思えていれば我慢できる。普通は、思い通りに行かないときに、試合中に自分のことを信じれなくなったりするものだけど、丈は、ちょっと比較にならないくらい自分を信じているなって。(ヒロヤは厄介な相手になってきているのでは?)そうですね。厄介ですね。すごく根性あるし。たぶん(朝倉)未来とかに、けっこう無理難題を吹っかけられて、断れない状況でこなしていくうちに、その覚悟がついていったのかなと。他の人がやってないことをやらされたり、本当にやっぱり未来のそばにいて、あれだけの知名度があるという、それなりのしんどいことはやってきてるな、という風に思います。戦績はそんなについてきてないんですけど、戦績ほどの弱さじゃないし、これから必ず上にくる、いい選手だなと思います。 (積み上げた連勝を持っていかれる?)積み上げてきたという感じは僕も無くて。いまは修斗、DEEP、PANCRASEとそれぞれの山が三つで分散しているし。その中から、またさらにメジャーリーグに行っている人もいる。丈の今回の試合も過程でしかなくて、結局この先、ゴールだけがはっきりしていて、それはUFCなのか、RIZINなのか、メジャーでしっかり成績を残すこと。  だからまだスタートもしてないし。ここからメジャーで名を残してしっかり稼ぐというところまで行ったら、やっとその道の入り口に立てたということ。今まではその下積みみたいなイメージです。全然、稼げていない。僕の中では“ベルトを取れた”ということが輝かしいけど、でもスタート地点は一緒で、結局ここから先どうあるかのほうが重要。  勝たせるというよりも、選手がやることに対して僕が手伝うみたいな感覚で、それがぬるくならないように尻を叩く、ジョッキーみたいな感じなんです。馬の力が絶対大事じゃないですか。本来の力はお前次第だから、結局は俺じゃないよって。  元々連敗中にウチに練習に来たときに“打撃が滅茶苦茶いいな”と思ったんです。これは丈にも言ったんですけど、『この打撃を持ってて負けるってことは、お前絶対、練習をやってねえぞ』って。ウチに『移籍したい』って言ってきたときも、『俺は別に構わないけど、ウチのプロ練は練習キツいよ』って。『この打撃でこの戦績ということは、たぶんお前は練習をやりこんでいない。ウチの名前で試合するんだったら、練習来てもらわないと困る』と言いました。  でも、『ウチで練習するのは構わないし、プロ練でやるのも全然構わない。“ウチの名前で出なければ”。普通の一般のクラスとかも出るんだったら会費をもらう。だからそれは選んでいいよ』って。そうしたら丈は『在籍でやりたい』と。  実際に来てるのを見たら、結構すごく練習する。『練習するのになんで負けてたの?』と聞くと『ここに来る前はやってなかった』と。勝ち始めて気持ちが変わったんだなと思いました。だけど、僕はけっこう疑い深いので、どこかで練習しなくなるのかなと思ってたら、練習は今のところは続いてる。その結果が現れていますよね。  今回は緊急参戦でワンマッチを決めた。やっとメジャーの入り口に立てたので、ここから、ですね」
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