2023年10月7日、タイ・ルンピニースタジアムにて『ONE Fight Night 15: Le vs. Freymanov』が開催され「無差別級サブミッショングラップリング」(10分1R)で、BJJ世界選手権4連覇を誇るマイキー・ムスメシが、青木真也を1R 3分05秒、ストレートフットロックで極めて一本勝ちした。
バンコクで食べたスイカが原因と思われる食中毒で体調を崩したムスメシが欠場の報告が、青木陣営に入ったが、病院から退院したムスメシは試合の実施を決断。前日計量&ハイドレーションテストに3度目のトライでパスし、青木戦に臨んでいる。
試合は、ガードから青木の右足を手繰ることに成功したムスメシは、左脇に抱えてヒールフックへ。股間に手を入て防ぐ青木だが、ムスメシはリバ―スデラヒーバでうつ伏せになり、ストレートフットロック=アオキロックに切り替えて、自身の二の腕で両腕を組んで絞ってタップを奪った。
試合後、ONEで5回目の5万ドルボーナスを受賞し、計25万ドルのボーナス獲得となったムスメシは、リング上でのインタビューで、今回の試合に至るまでの思いを下記のように語っている。
「先週41度の発熱をして、アメリカからきて、ここにたどりつけると思ってなかった。『出来ないです』ってONEにメッセージも送った。死にそうだと思ってたけどここに来れてとても感謝してる。だって、僕たちは、たったひとつの人生しかないから。自分は自分の大好きなことをしている人生を生きたい。自分を追い込んで挑戦すること。
やっぱり、自分の人生において、快適ではない状態に身を置くこと、居心地の悪さというのは好きだし、障害がある状態も好きだ。自分のことを本当に疑った。この試合に勝てるかどうかっていうのが分からなかったから。この1週間ほとんど練習できなかった。午前中に1時間トレーニングしようとしてみたけど気分が悪くて。でも自分に言い聞かせた、自分がどう感じるかは関係なくて、みんなに言いたいのは、とにかく戦いたかったってこと。
どう感じるかは関係なくて、そういう感情を無視して、自分を追い込むことで、人は成長できる。だから、ここに自分を試すためにやってきた、というのもあるし、ここに来るって言ったからには来るんだっていうこと。病気だったなんて関係ない。ここに来ると宣言したからには何がなんでも来るんだ。間違いない。戦っている時は自由だ。ただやるだけだ」
そして、フィニッシュについて、「自分が極めたポジションは“アオキロック”と呼ばれるもので、ヒールフックの改良型。このポジションは青木から教わったものと言える。彼が考案したサブミッションだから。だから何かと言うと、彼は柔術のマスターであり、下の世代の競技者に影響を与えている人だということ。みんな彼の作ったポジションを実践している、シンヤはこの世界でその名を刻まれて然るべき人だ。僕は彼に、彼のムーブをした。それは師匠と弟子のようなもの。僕はシンヤの大ファンだったけれど、今はその彼が作ったポジションを自分が取る。すごいことだ。彼がここで競技をやってること自体が賞賛すべきことで、つまり40代になってもまだ競技を続けて、自分自身に挑戦を続けている、それこそチャンピオンだと思う」と、青木に敬意を示した。
続けて、今後を問われ、「自分の次の挑戦と言えば、とにかく元気になること。先週医者に言われたとおりに。土曜に『2週間はトレーニングしちゃだめだ』と言われていて、心拍が110以上にならないようにと。それから自分はここで試合をしてしまったのだから、休まないと。1週間かそこらは休まないといけないと思ってる。とにかく本当に気分が悪くて。それから、いまムエタイのトレーニングをしてる、とっても楽しい。だから練習を続けて、もっと上手くなったら、いつかMMAをここルンピニーでやりたい、それが夢。でも、とにかく、いつも、毎月でも、自分はチャレンジし続けている。自分はONEの所属選手のなかでも一番活発な選手の1人だと思う。コンスタントに自分を追い込んでる。だから次の自分のチャレンジを考えてワクワクしてる。
(5万ドルのボーナスを告げられ)自分を信じてくれてありがとう、自分を大事にしてくれて。もう1度言うけど、死にかけてた。だからここに来られたことは本当に光栄で、ここにいたいって思わせてくれる。本当に好きだから。僕の試合を見てくれてたみんなも、ありがとう。僕は柔術でやり遂げたいんだ、みんなを楽しませるような試合を見せることを。つまりみんなのトイレ休憩タイムになんかしたくない。だから、みんなが楽しんでくれているといいな。みんな大好きだ。ありがとう、柔術を楽しんでくれて」と語っている。
その後、バックステージでの会見でムスメシは、あらためて試合前の食中毒が深刻だったこと、そして青木との試合の意味を語っている。マイキー・ムスメシとの一問一答は以下の通りだ。
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MMAでシンヤと対戦する気はない。彼は絶対に僕を殺すだろう(笑)
──青木真也戦での勝利は、あなたの中でどのような位置づけになりますか?
「現代柔術の中で僕が一番好きなポジションの一つである“アオキロック”を、このポジションの創始者であるシンヤに極められたことは、僕にとって最大の勝利の一つだ。僕が“ギ”で戦っていた時に有名になったポジションで、僕はストレート・フット・ロックで多くの世界タイトルを獲得した。ストレート・フット・ロックのバリエーションが“アオキロック”だから、かつて彼と練習してように、このポジションの創始者にやってもらう以上に、このポジションを極めることはできないと思っている。
僕にとって、この特別な技を生みの親であるレジェンド、アオキ・シンヤに極めることは特別な勝利であり、彼と対戦できることはとても光栄なことだった。僕は彼にそう言い続けた。試合前、リングに上がったとき、僕は彼に近づき、『プロフェッサーと対戦できて光栄です』と言ったんだ。そして、同じことを試合後にも言った。彼も『ありがとう』と返してきたよ」
──あなたは、青木真也選手のキャリアからどのような影響を受けましたか。
「今、ONE Championshipのトップ選手の一人であり、ONE Championshipを初めて見たのは、シンヤの試合だったから、僕がONE Championshipに興味を持ち、ONE Championshipのファンになったきっかけとなった選手と対戦することが、どれだけ特別なことか分かるだろう? それがシンヤだった。繰り返しになるけど、僕にとってはとても特別な瞬間で、全てはシンヤの試合を見て、彼の試合を見て育ったからなんだ。
この試合はマーシャルアーツ全般に関係していると思う。師匠が弟子にバトンタッチする。彼の世代が僕の世代にインスピレーションを与え、僕がシンヤに勝つことは、師匠が次の世代にそれを伝え、そして僕の世代では、最終的に次の世代の誰かに負かされる──というような武道を象徴している。それが格闘技の素晴らしさだと思う」
──試合前の食中毒について、教えていただけますか。
「食中毒のことを思い出しただけで、鳥肌が立つよ。まだ体調が悪いんだ。感染症にかかったような、とても無気力な感じなんだ。今はまだその状態が続いていて、あまりエネルギーがないんだ。
ドクターからは敗血症だとか、虫刺されだとか、熱帯性の感染症だとか言われた。狂気の沙汰だった。グラブ(配送サービス)で注文したスイカの可能性が一番高いようだけど分からない。正直に言うと、僕はスイカが怖くてたまらないんだ。もし大好きなピザが原因だったら、一番悲しかっただろうね(苦笑)。アサイーが見つからなかったからスイカに手を出したんだけど、もうタイでアサイー屋をみつけたから大丈夫(笑)。
(試合に臨んだのは)自分の気持ちなんて関係ないんだ。こんなにストレスやプレッシャーがあるのに、どうやって戦うのかとみんなに聞かれる。僕が彼らに言うのは、精神的に驚く必要はないということだ。心の中で完璧である必要はない。多くの人が、(試合に向かうには)今までで最高の気分でいなければならないと思っている。ただひとつ感じてほしいのは、どんな気持ちであっても、身体は動き続けるということだ。調子が悪くても機能する、そのための能力が必要なんだ。休めと言われ、気分が優れないときに、自分の心をシャットアウトするのには、精神的な強さが必要なんだ」
──試合後は、すでにムエタイを練習していること、将来的にMMA挑戦の可能性も示唆していました。もしMMAも戦うことになったら青木真也選手とも戦いますか。
「朝3時間柔術を行い、夜2時間のムエタイを練習している。病気になる前にグッドシェイプを保っていたから、病気になってもあれだけの試合が出来た。ムエタイでは青か紫帯くらいには成長してきているから、MMAにも興味はある。ただ、MMAでシンヤと対戦する気はない。彼は絶対に僕を殺すだろう(笑)」