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インタビュー

【MMA】プロ修斗で戦い、『ジョン・ウィック』シリーズを監督、チャド・スタエルスキ「キアヌは喜んで苦しみへと立ち向かう」

2023/09/21 23:09
 キアヌ・リーブスが伝説の殺し屋に扮した大ヒットシリーズの第4弾『ジョン・ウィック コンセクエンス』の劇場公開に合わせ本作の監督・チャド・スタエルスキが来日した。  かつてプロ修斗で後楽園ホールのリングで戦っているチャド監督は、USA修斗の代表として、エリック・パーソンとともに、日米対抗戦を戦っている。  その後、スタントマンを務め、映画の道に進むと、2014年、キアヌ・リーブス主演の『ジョン・ウィック』で映画監督デビュー。自身も柔道・柔術を嗜むキアヌとのタッグで生まれた斬新なアクションが世界中から圧倒的な支持を集めている。  その第4弾となる『ジョン・ウィック コンセクエンス』でのスタイリッシュながらも生身のアクションにこだわるチャド監督の、格闘技におけるバックグラウンドと、映画作家としての現在に、格闘技と実戦経験がいかに影響しているのかについては本誌11月号(2023年9月22日)にインタビューを掲載した。  ここでは監督と格闘技との出会いと、4作目となる『コンセクエンス』にまつわるエピソードを紹介したい。 創造とは痛みを伴うもの。最高の仕事というのは逆境から生まれてくる (C)PHOTO:motoi ――チャド監督は、格闘技とどのように出会い、いかにしてダン・イノサント・アカデミーヘと辿りついたのですか? 「格闘技は10歳の時に日本の柔道を始めたのがきっかけです。僕の出身地はマサチューセッツ州パーマーにあるすごくちっちゃい街で本屋さんが1カ所しかなかったのです。そこで扱っていた格闘技雑誌が『Inside Kung Fu』と『Black Belt Magazine』でした。それらの表紙を常にダン・イノサントが飾っていて、しかもダン・イノサントとヒクソン・グレイシーとかダン・イノサントとブルース・リーであったりと、いつもダン・イノサントが異なる格闘技の人たちと一緒に映っていました。で、僕は幼心に思ったわけです、“この人は只者じゃない。すごい人だ”って。彼がやっていることはひとつのスタイルじゃなくて、あらゆるスタイルのマーシャルアーツを嗜んでいるのだと気づきました。  それで雑誌を通じて調べてみて、当時はまだインターネットのない時代で検索とかはできないので電話を手に取り問い合わせました。それで、彼が学校をやっていることを知ったわけです。地図を見ればいかに離れているかは一目瞭然ですが、自分は東海岸在住でイノサント・アカデミーは西海岸にあると知りました。そこで一生懸命勉強してカリフォルニアのUCLA大とUSC大に合格したんです。地図をじっくり眺めて、どっちがよりイノサント・アカデミーに近いか調べたらUSCだったのでそちらに入学しました。 R, TM & c 2023 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.  昼間は大学の講義を受けながら毎晩イノサント・アカデミーに通い、そこで有名なスタント・コーディネーター(で、フィリピンの伝統武術カリの使い手である)ジェフ・イマダに出会いました。彼もまたダン・イノサントの弟子だったのです。それから(ブルース・リーの一人息子であり、チャド監督が『ザ・クロウ』でスタントを担当した)ブランドン・リーにも出会いました。彼らと僕と、他にも何人かが一緒のクラスで練習していましたが、この2人と友情を育んだことが、自分がスタントの世界に足を踏み入れるきっかけです」 ――スタントマンになる前に修斗で1試合し、競技から離れたということですね? 「そうです。修斗の後WCCができて自分のトレーニングパートナーのエリック・パーソンはそこでも競技を続けて……って、『ゴング格闘技』は彼のことはよくご存じですよね。そんなわけで彼は試合に出続けていたけれど、僕はというと同時にスタントの仕事をやっていきたかったからこの修斗の試合をもって引退したに等しくて。だんだんスタントの仕事に専念するようになっていきました」 R, TM & c 2023 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved. ――そしてスタントとしての代表作『マトリックス』を経て、現在のキャリアへと繋がっていくわけですね。シリーズ4作目ともなると新しく続きを作る大変さも実感しますか? 「何事にもコストがかかりますからね。自分を鍛えてくれた人たちからは、『どんどんしんどくなっていくから自分が望むものを手に入れたい時にどれくらい苦しい思いをする覚悟があるかを自問しなくてはいけなくなる』と言われてきました。非常に優れた人たちに囲まれて、そして苦悩を厭わないのであれば、どんなことだってできます。というよりそうじゃなきゃいけません。  創造とは痛みを伴うものだと思います。そして我々のクリエイティビティというのは苦悩から来る戦いです。“最高の仕事というのは逆境から生まれてくる”そこが肝心です。自分には格闘技のバックボーンがあって柔道や柔術を経験してきた。どこに挑戦をしたのか? もしトレーニングしてないなら減量の話だって出来ないはずだし、ディシプリンがなくては最高の選手にはなれない。これは映画制作をはじめ創作現場においても何ひとつ違いはありません」 R, TM & c 2023 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved. ――ひとりでは作れないものですから、周りの人たちも同じような覚悟を持ってくれているかも重要ですよね。 「その点でキアヌという人は別格です。もし夢とは山であるならばそこを喜んで登れなければいけない。キアヌは喜んで苦しみへと立ち向かう。彼は喜んで登りに行くしその過程を楽しめる。今日はとんでもなくキツい日になるとわかった上で朝、目を覚ますことができる。多くの人は辛い一日なんて迎えたくないし楽な日がいいでしょうけど、それは『ジョン・ウィック』の創作現場には当てはまらないです。  スタントチームも撮影監督も製作陣も、みんながキアヌと同様だからです。どんな仕事にもちょっとした恐怖は伴っていると思うけど、一番しんどいのはいつだって最初の一歩ですよ、ジムに練習に行くのもそう。まずはベッドから出ることが一番しんどいでしょう?(笑)でもジムにさえ辿り着けば問題なく練習できる」 ※注:ここからは映画本編にかかわるネタバレを含みます。 R, TM & c 2023 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved. ――その山登りを共に楽しんでいたであろうシャロン役のランス・レディック氏が急逝しました。お悔やみ申し上げます。 「彼はプレミアの直前に亡くなりこの作品の完パケは見ていなくて。ひとつ前のバージョンは見ているのですけど……」 [nextpage] 『もののあはれ』や、侘び寂び・渋みは非常に重要な考え方だし、元々本作のコンセプトは『葉隠』だった R, TM & c 2023 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved. ――映画の最後に追悼の意が表されますが完パケ前ということで本編中に何か変更した点はあるのですか? 「それはありません。彼がここにいたとして、そんなことをしたら怒り出したと思います。ランスは本当に……そうですね、『ジョン・ウィック』は『キャスト1=キアヌ・リーブス。以上』という状態から始まった。そんな作品にキアヌ以外で最初にキャスティングした人です。その次にミカエル・ニクヴィスト(ヴィゴ役)だったかと」 R, TM & c 2023 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved. ――特別な想いがあることでしょうね。 「まず、おそらく『ジョン・ウィック』の脚本の初稿を読んだら“酷いな”って思うはずなんですよ。ジョン・ウィックという主人公が犬を殺されたからって80人も殺す話って何? っていう。今となっては作品のカラーやアクションを通じて現代のファンタジー映画であり“現代のサムライ”というような世界観が通じているけれど、一番初めは絵的な情報が皆無で読まなくてはいけないからとてもダメなものに見えてしまう脚本でした。  僕が描きたかったものというのはギリシャ神話であり『イリアス』と『オデュッセイア』だったのだけど誰にも伝わらなくて。キアヌも『そうか』という感じで(笑)。会社側は作ってほしくなさそうな感じでしたね。それで僕はランスとビデオ通話で簡単に話したのだけれど、彼は即座に理解していました。これは暗殺者の映画だ。彼は結婚し、妻は死ぬ。『イリアス』と『オデュッセイア』みたいなもの。そして『ロード・オブ・ザ・リング』みたいなファンタジー映画でもある。故郷への旅を描いているがダンテの『神曲』のように地獄から出られないと。  ランスはピンと来たっていう感じで『わかった!』って。彼は僕が最初に電話した人で他にもたくさんの人と話をしたんだけど、彼以外は僕のことを少し(日本語で)“バカ” だと思っている感じで、ちょっとクレイジーな奴だと思われたけど、ランスだけはただ理解してくれたのです。彼が演じたシャロンはとても愛情深く、思いやりがある。あのキャラクターが大好きです。シャロンとはカロンのこと。つまりギリシャ神話に出てくる冥府の河の渡し守の名前なのです」 R, TM & c 2023 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved. ――とても重要なロールだったと思うのでかなり早い段階でああいう形で作品を離脱したことは観ていてびっくりしました。 「ランスが撮影にあたって『何だよクソ! 何で死ななきゃならない』って言うものだから自分は『いやあ、ごめんよ』って言うしかなくて。ただ彼は非常にスマートな人だから『嫌だけど、理解はした』と。観客にショックを与えてやろうと企んだわけではないし、映画のために必要なことでシャロンの末路はああせざるを得ない。ジョン・ウィックは自分の行いに責任を感じる必要があって、つまりヒーローがただ人を殺し続けるだけではとても共感できるものではない。  彼らがそうしなければならないように、『4』の一部は贖罪について描かれていて自分のやったことを受け入れてもらわなくてはいけなかったのです。因果応報を描いているから。ランス本人はというともうすぐ60歳とは思えないグッドシェイプだし元気でした。彼の奥さんから急死したと連絡を受けて、ちょっと乱暴な結末だなと思うけれど、ランスは本当に超ハッピーな人だったし『ジョン・ウィック』シリーズにとって重要な存在でした。しんどいシーンであっても理解して演じてくれていましたし」 R, TM & c 2023 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved. ――本シリーズではとんでもない人数を殺すのはもちろんですが、主人公に近しい人間が命を落とすことも多いなか本作のシャロンに対しての描写はとても丁寧です。演じているご本人が亡くなったことを知った上で観ると、どうしても重ね合わせてしまいエモーショナルになりますね。結果としてそうやって映画が違う見え方を持つという点についてはどのようにお考えですか? 「ちょっと変な気分ですね、作品を見なくてはいけない時は。登場人物の死によってニュアンスが変わる。だから実際に見ていてこうなります、“はあ……”って。ちょっとキツいけれど、でもとても重要なことだと思っています。ランスとはとてもよく知る仲で、もし彼がここにいたとして僕たちと同じようにそれを理解していたはず。そうですね、不幸な偶然ではあるけれど、この映画をより強力なものにしたとは思います。実際にその人は亡くなったけれども少なくとも彼は本当に愛されることをして亡くなっていった、それこそが真実です」 R, TM & c 2023 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved. ――前作の劇中で生きようとする理由を問われたジョン・ウィックが「亡くなった妻のことを語るため」と答えていたことを思い出しました。亡くなった彼は見ている我々の中で生きている、と。 「公開を楽しみにしてくれていた彼の姿も見ていたし、彼と仕事をして演出させてもらったことは誇らしいです。今の気持ちとしては日本語の言葉が合うと思っています。“ビター・スイート”というような意味の言葉ですね、『もののあはれ』。日本の影響がテーマ的にもある作品なので、『もののあはれ』や、侘び寂び・渋みは非常に重要な考え方ですし、元々本作のコンセプトは『葉隠』でした。副題にすることはできなかったのですが、武士の掟や心得を記したものです。キアヌと話していたのは、こういう内容の映画だからと言って『善人/悪人』の二項対立にしたくないということです。違った立場の人間が同じ掟を重んじている。そういう物語にしたかったのです」(※インタビューの全文は『ゴング格闘技』NO.328にて掲載)text by YUKO ◆『ジョン・ウィック コンセクエンス』キアヌ・リーブスが伝説の殺し屋に扮した大ヒットシリーズの第4弾。ジョン・ウィックは、裏社会の頂点に立つ組織・主席連合から自由になるべく立ちあがる。ケイン役でドニー・イェン、シマヅ役で真田広之が出演。チャド・スタエルスキ監督・製作。2023年9月22日(金)より劇場公開R, TM & c2023Lions Gate Entertainment Inc. All RightsReserved. ◆監督:チャド・スタエルスキ CHAD STAHELSKIダン・イノサントに師事し数々の格闘技を経験したのちスタントの道へ。スタントダブルとしての代表作は『マトリックス』(99/スタントダブル:ネオ)。アクション/スタントコーディネーターとして『マトリックス リローテッド/レボリューションズ』(03)、『300〈スリーハンドレッド〉』(07)、『ウルヴァリン:SAMURAI』(13)ほか。『マトリックス レザレクションズ』(21)では俳優としても出演。『ジョン・ウィック』シリーズ全作を監督。
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