ヒロはパントージャに勝つと予想されていた
──米国で『ヒロ』と呼ばれていた扇久保選手は2016年の『The Ultimate Fighter 24』で、ジョセフ・ベナビデス率いるチーム・ベナビデスに所属し、フライ級トーナメント決勝まで勝ち上がっています。あのとき、アーチュレッタ選手とも練習で組んだと聞いています。
「そうだ。TUF24は『トーナメント・オブ・チャンピオンズ』で、世界中からフライ級の王者が集まっていた。ヒロは日本の修斗のチャンピオンとして参加していたよね。僕は当時、すでに前にいた団体のKOTCの王者で、4回目の防衛戦(※KOTCではフライ、バンタム、ライト、ジュニアウェルター級の四階級を制覇)のときだったけど、ベナビデスが当時のスパーリングパートナーだったので、彼のチームのレスリングのパートナーとか、出場選手たちのコーチというような立ち位置でここに参画した。ちょうど自分もタイトルマッチ前だったから、調整も含めて、非常にいい環境で練習ができたよ」
――そのときの扇久保選手のことは覚えていますか。
「まだ自分が当時はMMAファイターとしては2年目だった。僕もタイトルマッチ前の練習の一環としてやっている中で、ヒロはすごく強かったし、上手だった。いろいろなものを僕に見せてくれたし、僕もレスリングを教えた。非常にいい刺激を与えあったと思うよ」
──扇久保選手がTUF24で、3試合を勝ち上がったこと──その準決勝でアレッシャンドリ・パントージャを下した試合をどう見ましたか。
「もちろん覚えている。ヒロは、いまUFC世界フライ級王者のパントージャに判定勝ちした。こういう展開になることを、彼とか彼の周りは、ヒロの持っている能力を見て、確信していたよ。とにかくパントージャをテイクダウンして立たせないようにしてドミネートする。事前にそういうことを言っていて、その通りに遂行したのはすごかった」
――その扇久保選手とまさか7年後に試合をするとは……。
「このMMAというスポーツは非常に不思議なもので、対戦相手として出会うときもあれば、離れることもあって、交錯している。ヒロは、決勝でティム・エリオットに判定負けして準優勝となったが、エリオットやパントージャ、ブランドン・モレノ、カイカラ・フランス、マット・シュネルらがUFCと契約するなか、ヒロはUFCとの契約がかなわなかった。彼はUFCで戦うにふさわしい戦績を残したのに。優勝すれば王者のデメトリアス・ジョンソンへの挑戦権を獲得できていたはずだ。しかし、その後、RIZINで活躍し、GPで優勝し、Bellatorファイターの僕と戦う。こんな邂逅があるなんて、非常に不思議というか、面白いと思うよ。そういったことの繰り返しなんだ。このスポーツは」
――このパントージャ戦を見ても分かる通り、お互いにストロングポイントが似ています。扇久保博正選手をどう警戒していますか。
「ストライキングとかレスリングとか柔術とか、あるいはキックボクシングのように、一つひとつが分かれてしまうような展開ではいけないと考えている。ヒロのような相手と戦うには、すべてが一つになったような形で戦っていかなくてはいけないし、それが各パーツに分かれたところが弱点になっていくだろう。つまり、まさにミックスト・マーシャル・アーツという、MMAとして一つになったような動き、戦術を含めて、それが体現できるところが、自分にとってキーポイントになるし、それが欠ければウィークポイントにもなりということさ。そして注意すべきもうひとつは、RIZINのルールセットだ。その経験はヒロの方があるけど、僕ももうしっかり頭と身体に入っている」
――そのMMAとして融合した力を球状としてとらえると、扇久保選手の球より、アーチュレッタ選手の球の方が一回り、大きいと評価することもできるかと思います。それは適正階級も含めて。
「その通りだ。まずはカーディオというか、そういったスタミナの部分においても、彼がこれくらいの円だとしたら、僕はもっと出せるだろうし、もし彼がもっと出せば俺ももっと出す。それは力やスタミナのみならず、テクニックにおいても同じで、彼がテクニックを駆使してきても、僕もその上を出す。どの部分においても、僕が彼が出す以上のものを出していくだろう」
――扇久保選手にはアーチュレッタ選手の球を突き破る部分もあるのではないでしょうか。
「どうだろう、あえていえば彼の極真空手の蹴りは警戒している。オーソドックス構えから左の蹴りを巧みに使うよね。でも、その蹴りが出ないような距離に詰めていくこと。もし出しても、その瞬間、インパクトのポイントに僕はいないよ」
──となると、互いのスクランブルの勝負になる。
「互いの“戦士の魂”を試そうじゃないか。僕は自分の勝利を確信している。熱い戦いになるだろう。彼も命がけだろうし、俺も最善を尽くす。7月30日は忘れられない日になる。それは僕だけでなく、この戦いを見るみんなにとっても。とんでもない地獄の戦いになるだろう。ヒロとの戦いが待ち切れないよ。扇久保をボコボコにして、ベルトを肩にかけて天に掲げて、皆に誇らしく思ってほしい」
日本で望まれるチャンピオンになりたい
――日本でRIZINのチャンピオンになることは、アーチュレッタ選手にとってどんな意味を持つのでしょうか。
「この戦いは自分にとって人生なんだ。ファイトキャンプもそうだし、怪我もそうだし、相手が変わること、もしかしたら家族に何かあっても──僕は戦いの場に自分の身を置くこと、それがファイターとしての生き方だし、それ自体が僕の生きる意味でもある。これが僕の人生なんだ」
――そのベルトを獲ることが出来たら、日本でももっと防衛戦をしてもいいと思っていますか。あるいは米国でRIZINのベルトの価値を高める試合をしていくのか。
「日本で試合することが、非常に大好きなんだ。RIZINのオーディエンスに、格闘技の母国のひとつとしてのファイターへのリスペクトと、格闘技への深い理解がある。憧れた国なので、この国で試合をして行きたいけど、一番重要なことは、この国でいかにファンに求められるか。求められているところで、しっかり自分が結果を出して、そこでまた自分が戦いを望まれて試合をすることが重要だ。もしもそうじゃないなら、米国に戻って試合をすることになる。僕がRIZIN王者として、戦う。それを望まれるチャンピオンになりたい」
──分かりました。減量に向かう厳しい練習の合間に、インタビューを受けていただき、ありがとうございました。最後に日本のファンにメッセージを。
「今回は、父と母(スペイン系とメキシコ系の両親)も来日するんだ。ファンのみんなには、“俺たち”がタイトルを勝ち獲り、ベルトを肩にかけ、腰に巻いたら、こうして声を挙げてほしい。『スパニヤード! スパニヤード!! スパニヤード!!!』と。それが“俺の日”の証だし、みんなにとっての日にもなる。押忍!」