2019年5月12日、愛知県武道館にて全日本空道連盟『2019 北斗旗 全日本空道体力別選手権大会』が開催され、ひとりのロシア系アメリカ人女子選手が、女子220+クラスで優勝を果たした。
チツァレフ・タチアナ──大道塾早稲田準支部所属の女子大生だ。
「道衣と顔面防具を着用して行う総合格闘技」である空道に、なぜ米国からやってきた21歳の彼女は挑戦したのか。
ロシアで生まれたタチアナは、両親の仕事の関係で来日。6歳で空手を始め、小2で米国へ移り、中学時代にバージニア州で二宮城光館長率いる円心会館で再び空手を学んだ。
高校卒業後、日本の大学に進学を希望。「日本に戻り、武道を続けたい」という思いから、早稲田大学に入学し、大道塾空道に出会った。
大道塾空道の創始者・東孝は1975年の極真会館主催『全世界空手道選手権大会』準々決勝にて二宮城光と対戦するなど、2度闘い、2度敗れており、二宮とライバル関係にあった。
【写真】『ゴング格闘技』に掲載された二宮城光と東孝の試合。“貴公子”二宮の軸足に東が下段蹴りを打つ。
その両者の空手を日米で学んだタチアナは、2人の師匠の物語を「大道塾に入会した後、円心会館の先輩に教えてもらいました。円心会館では打撃と投げ技(サバキ)があり、空道には寝技もある。総合的でとても魅力的だと思いました」という。
同大会では、女子の二階級はいずれも早稲田の学生が初戴冠。
「女子215+クラス」では、タチアナが過去全日本優勝経験をもつ吉倉千秋らを下して優勝。「女子-215クラス」では、熊谷鞠月が全日本優勝経験をもつ渡邊富紀恵らを下し、優勝した。
熊谷は早大入学に伴い長野から上京するまでは、大道塾から独立した団体である禅道会で、かつて大道塾の女子エース選手でMMAでも活躍した石原美和子の指導を受けていたという。熊谷は現在、主将を務めており、同部30年の歴史で女子が主将となるのは初のことだという。
二宮城光と東孝、石原美和子と熊谷鞠月、歴史の輪廻と邂逅を思わせる2019年の女子北斗旗・優勝の2人。今回は、チツァレフ・タチアナに、その軌跡を聞いた。
タチアナ「顔面パンチが最初は怖くてダメダメでした」
──『2019全日本空道体力別選手権大会』女子220+クラス優勝、おめでとうございます。
「試合が終わった直後はホッとして、もちろん嬉しかったです。練習してきたすべてが出し切れたかどうかは不安ですが、結果は結果です。また試合に出たい気持ちが強く、これから前へ進めるよう頑張りたいと思います。また、周囲に感謝しています。自分が諦めなかったのは、一緒に練習してきた早稲田準支部の皆さん、出稽古に行った総本部やお茶の水で練習してくださった皆さん、指導してくださった先生、みんなに感謝の気持ちでいっぱいです」
──タチアナ選手のスポーツ歴を教えてください。
「私が武道に出会ったのは京都に住んでいた頃でした。生まれはロシアですが、親の仕事の関係で日本へ引っ越し、埼玉で5年間、京都で2年間暮らしました。6歳で空手を始め、そこで2年間弱習い続けました。小学校2年生の秋、アメリカへ移動し、武道とは別のスポーツに挑み、水泳、サッカー、体操などに挑戦しました。ミズーリ州で別の空手を1年半習い、また引っ越しし、武道歴にまたギャップが開きました。中学にバージニア州でフルコンタクトである円心会館で空手を始め、高校に入学してからはボート競技、バレーボール、陸上などにも取り組みました」
──幼い頃と小学生の頃に学んだ空手から、ほかのクラブ活動に取り組み、再び空手に戻ったのはなぜでしょうか。
「メリーランド州の高校を卒業し、日本の大学に進学することになりました。それで、現地のアメリカの学校に通うのと同時に、毎週土曜日、日本語学校へも通っていました。せっかく習い続けてきた日本語と7年間ほど学んだ空手を無駄にしたくない気持ちと、11年ぶりに日本ヘ戻りたいという思いもありました。
それで早稲田大学に2016年の9月に入学し、武道を続けたいと思ったのですが、早稲田には円心会館のサークルがなくて、それで大道塾を知って2017年の春に大道塾に入会しました。円心会館では打撃と投げ技(サバキ)がありましたが、その上に寝技があるという空道は、総合的でとても魅力的だと、当時思いました。そうして空道を始めて2年が経ちました」
──いま仰られたように、通常の空手とは空道は異なる部分は多いです。戸惑いは?
「ほんとうに顔面パンチに慣れてなくて、最初は怖くてダメダメだったんですけど(苦笑)、それに2年前に寝技を始めて、それも全部フレッシュで時間はかかりましたが少しずつ。今でも練習中に勉強しています」
──今後の目標は?
「もっと練習してもっと強くなれればいいかなと思っています」
──ところで3月に行われたONE両国大会では通訳をされたそうですね。
「3月に行われた東京でのONEの大会で通訳をしていました。知人の紹介だったのですが、英語と日本語が話せる会場のスタッフを探していると聞き、アルバイトすることにしました。試合の4日前から試合までの準備などのお手伝いをしました。ONEのスタッフがほとんど英語で話していたため、現地のホテルのスタッフ、会場のスタッフ、日本人選手のために計量やメディカルチェックの案内などを行いました」
──アジアの武術を軸に置くONEの大会でどのようなことを感じましたか。
「英語・日本語のスタッフとしてバイトするつもりでしたが、ロシア語メインの選手もいらっしゃったので、ロシア語の通訳のサポートもさせていただきました。カザフスタン出身のカイラット・アクメトフ選手が試合中に指を骨折したこともあり、セコンドと一緒に試合後、病院までついて行き、医師とのやりとりをロシア語と日本語を交えて通訳などをしました。大会を通じて、選手の試合に臨む姿勢や、大会スタッフからも刺激をもらい、とても充実した時間を過ごすことができました」
【RESULT】全日本空道連盟 2019年5月12日@愛知県武道館『2019 北斗旗 全日本空道体力別選手権大会』
▼最優秀勝利者賞渡部秀一(大道塾岸和田支部)▼女子220以下優 勝:熊谷鞠月(大道塾早稲田準支部)▼女子220超優 勝:チツァレフタチアナ(大道塾早稲田準支部)▼男子230以下優 勝:目黒雄太(大道塾長岡支部)準優勝:小芝裕也(大道塾関西宗支部)▼男子240以下優 勝:寺口法秀(大道塾横浜北支部)準優勝:伊東駿(大道塾仙台東支部)▼男子250以下優 勝:安富北斗(大道塾総本部)準優勝:玉木直哉(大道塾横浜北支部)▼男子260以下優 勝:渡部秀一(大道塾岸和田支部)準優勝:加藤智亮(誠真会館東伏見道場)▼男子260超優 勝:奈良朋弥(大道塾青森市支部)▼成績優秀道場第1位 大道塾横浜北支部第2位 大道塾行徳支部 大道塾岸和田支部(同率)
※空道とは「道衣と顔面防具を着用して行う総合格闘技」である。道衣&フェイスガード着用によって、無着衣MMAで用いられる技術以外に、頭突き、帯を掴んでの相撲的な攻防、道衣を掴んでの柔道的な投げ、柔術的な襟を使っての絞め技が展開されることが特長。体力別大会では、体力指数と呼ばれる身長と体重を合わせた数値によって、男子5、女子2のカテゴリーに分かれて争う。