高橋SUBMISSION雄己「RENA選手はヒザを内側に向けたかった」
この大会をプロデュースする高橋“SUBMISSION”雄己自身も、グラップラーとして、世界で活躍中で、2022年6月に英国で行なわれたプログラップリング大会「Polaris 20」で判定勝利したのに続き、2023年2月には、米国フィラデルフィアで行われた「Finishers Kombat04」でラミロ・ヒメネスから内ヒールで21秒勝利も収めている。
今回の6月11日の『Level-G』開催に向けてのコメントを求めた際に、4月29日の『RIZIN LANDMARK 5』で、RENAに足がらみによるヒザ十字で一本勝ちしたクレア・ロペスの動きについても高橋は語ってくれた。下記にその解説も紹介したい。
「あの両足で極めるオーバーアンダーのニーバーは、グラップリング界ではゴードン・ライアンやクレイグ・ジョーンズらが使っており、日本の大会では『QUINTET.1』で元UFCのマーチン・ヘルドがテオドラス・オークストリスに極めていた事が印象深いです(※公式動画の3分08秒~)。
それ以前でも有名な柔術家では、ベルナルド・ファリアが使っていました。ファリア曰く、『ノーリスクで仕掛けれるサブミッションなので極まればそれでいいし嫌がってきたらパスしやすくなる』との事で、ゴードン・ライアンも海外の柔術技術動画サイトのYouTube内で同様の言及をしています。
ちなみに、“パス”とは何か? という点についてひと言だけ補足しますと、寝技の攻防において下の人の攻守の要となるのは“ガードワーク”と呼ばれる足の動きですが、この“ガード”の届かない完全に有利なポジション、(相手の両足を越えたマウントやサイドポジション)を上の人が取るべく、ガードを越える動作を指します。
関節技や絞め技が得意なRIZINの選手達が下から三角絞めや腕十字を極めている時、足を相手の身体に何かしら引っ掛けたりして形を作っているかと思います。ギロチンチョークなども、極まっているときはほとんどの場合、相手の身体は下の人の“足の中”にあるでしょう。それが下の人の生命線である“ガード”です。
さて、話をロペス選手のヒザ十字に戻します。『ブルドッグニーバー』『ドッグバー』『オーバーアンダーニーバー』などと呼ばれるこの技術、極まる理屈としてはヒザ十字そのものなのですが、見ての通り、相手の足先側に自身の頭がくるように足を抱える通常のヒザ十字とは形が異なります。
ヒザ十字とは、その名の通り腕十字の要領でヒザの皿に股間を押し当てて足先をその逆方向に引っ張る事で主にはヒザの周辺の靭帯を破壊する技です。
今回、RENA選手が極められたヒザ十字は、通常手で引っ張るはずの足先を自身の足先で(今回は最終的にはヒザ裏で引っ掛けているような形になっていましたが)引っ張り上げている点が特徴的な形ですね。
更に細かい話をすると、腰を固定するために用いた上半身はオーバーアンダーパスの形(右肩で相手の足を担ぎ、左手は上から下へ腰を抱いて相手の腰の動きを制限するパス)を取っています。
ヒザの圧迫と足先へのフックが完成してしまった時点で、ヒザの皿の向きを相手の股間に向き合っている状態から内側にズラす事でヒザの破壊を防ぐ事が出来ます。
この試合のRENA選手の場合は外側に開くようにヒザの向きを変えようとした為に、相手が足先のフックとオーバーアンダーのクラッチを用いてついてきてしまい、極め切られてしまった形になりますね。
これ以上はRIZINでの攻防の中に無かった話しなので蛇足にはなりますが、皆様がいま考えたであろう“じゃあ、ヒザを内側にズラした場合にはどんな攻防が生まれるの?”という点についても少しお話しします。
ここで、ファリアやゴードンの発言にあった『パスと組み合わせる』という点に繋がります。ヒザを内側にずらした場合、横に倒れているヒザを相手が身体でドミネイト出来る状態になります。ここから、ボディロックパス(腰を抱えて骨盤の動きを殺してポジションを取るパス)や、レッグドラックパス(相手の足を自分の腿の上に乗せて腰の動きをコントロールするパス)に移行出来るわけです。
下の人は自身の腕のフレームを用いて相手の上半身を押し、潰されている足を逃がせるスペースを作る事、逃す事が出来たならニーシールドハーフガード(半身になり、上の足のスネを相手の身体側に向け、相手の進行をヒザとスネで止める形のガード)を作る事が必要になります。
ちょっと、半分競技者向けの技術教則のような細かさの話しになってきてしまいましたが……『オーバーアンダーニーバー』の対処について要点を整理すると、
・仕掛けられた場合、気付いた時点でヒザを内側に向ける。
・内に向けた時点でパスを狙われるので、フレームを用いて肩口を押してエビを切る、ニーシールドを作り直す。
・そもそも論、あまり無防備に相手のシッティングガードの下に足を投げ出しておかない。
ですね! ひと言コメントを求められただけのハズが、何だか分かんないほど話が細かくなってしまいました(苦笑)。じゃあ、みんな、明日からグラップリング練習しましょう!」