MMA
インタビュー

【RIZIN】山本アーセン「暗闇の中にいた。ついに小さな光を人生に見出せた。いつか恭司さんともやれる日がきたら」、伊藤「『レスリングを強化したらもっと強くなるよ』と」

2023/05/08 16:05
 2023年5月6日(土)東京・有明アリーナにて『RIZIN.42』が開催され、第4試合のフライ級(5分3R)で、2年9カ月ぶりの復帰戦に臨んだ山本アーセン(KRAZY BEE/SPIKE22)が、伊藤裕樹(ネックス)に判定3-0で勝利。2019年6月の『RIZIN.16』以来、約4年ぶりに白星を掴んだ。  RIZINで3連勝中、DEEPフライ級GPベスト4の伊藤を、15分間、MMAレスリングでドミネートしたアーセンは、試合後の会見冒頭で、かつて叔父の山本“KID”徳郁がDREAM.14での復活勝利後に語ったのと同じように「やっとゆっくり寝れるような気がします」と語り、「ちょっとした呪いがとけた」と安堵の表情。 「試合してなかった2年9カ月くらい、生きてる実感を持てずに暗闇の中にいた。この試合で勝利することができて、ついに小さな光を人生に見出せた。この小さな光を見続けていかないと。とにかく前に進むんだ」と、MMAファイターとして生き続けることを誓った。  フライ級転向も力強い動きでスタミナも切れることなく、逆に対戦相手の伊藤のギロチンチョークやキムラロックを「力を使わせようと思った」と余裕の試合ぶり。「階級落として、この肺が潰れそうとかは正直あんまりなかったので、俺ここの階級でいいやと思いました」とフライ級で戦っていくと語った。  今後については、「誰でも、RIZINが用意する相手と誰とでも戦い、勝利するだけ。“この人と戦うんだ、分かった、ベストを尽くして、勝ちます”、その繰り返し。それを続けていけば、最終的には恭司さんともやれる日がきたらいいんじゃないかなって」と、KRAZY BEEの先輩で、フライ級の第一人者である堀口恭司を目標とした。 山本アーセン「試合終わらせられなくて、サーセン! ちゃんとしたファイターになります」 ━━試合後の率直な感想をお聞かせいただけますか。 「やっとゆっくり寝れるような気がします。なんか、ちょっとした呪いがとけたような気がします。良かった」 ━━それだけこの復帰戦は減量など辛いものがありましたか? 「復帰するまでの2年9カ月かな? よくピッタリとした時間は分からないけど、それが一番辛かったです。何のために生きているのかも正直、分かってなかったので。仲間がいなかったらとっくのとうに変なこと、ほかのことやってたのかなと思ってますし、本当ここまでキープするのは、まず1人だったらキープできてないし。キープするのがすげえ大変でした。でもなんか結果に、自分が望んでいるような結果じゃなかったけど、結果が出て良かったなと思っています。家族全員に感謝します、で、とくに(セコンドについた)漆間將生くんに感謝しています」 ━━望んでいたような結果ではなかったというお話が今ありましたが、やはりフィニッシュは狙っていてそれができなかったというところが悔しいところですか。 「もちろん15分で判定があるのがスポーツじゃないですか。でもやっぱり俺たちはその、格闘技ってやっぱその倒し合いだと思っているので、そんな、時間内で決められなかった=選手としてはあんまり良ろしくない結果なんじゃないかなとは思ってるんで、まあ次は“決闘で”勝てるような試合をしていきたいです」 ━━対戦相手は試合前のイメージと違う部分はありましたか。 「正直、今回、伊藤裕樹選手のことは何も調べてなくて、何を言っているかも、何も俺、本当に情報入れないで、ただ自分がやらないといけないことばっかりを考えて自分がやりたいことだけを考えて。で、相手のことは弟分の將生が全部真似してくれて、でそこから自分はアイディアをこう見つけたり、一緒に話し合ったりしてたんで、正直、今回伊藤裕樹君のことは何も知らなかったです」 ━━試合を終えたばかりですが、今後の展望・目標をお聞かせいただけますか。 「ちゃんとしたファイターになります。でもこの1勝のおかげで、なんか一つ吹っ切れた部分もあるし、今まではファイターとしての発見が試合中なかったんですけど、今回はファイターとしての発見があったので、それをしっかり伸ばしていけたらと思います。なんか明確に目標が見えて、なんか試合に勝ったというより、『あっ、俺まだ強くなれる』って、本当にそっちの方に嬉しさを感じてるんで、まあとりあえずちょっとこの傷を今から縫って、後輩の試合の準備を手伝おうと思っています」 ━━ベースとなるレスリングを前面に打ち出したように見えましたがいかがでしょうか。 「まさにっス。だからあの、“塩漬け”とかあるじゃないですか。ガーッとコントロールしてっていうのもやろうと思ったんですが、やっぱそれもチームと話し合って、やっぱワンポジションに押さえつけても相手がバテないし、自分が当たったら腕がパンパンになる。まあ結局、蓋開けたら手パンパンになっちゃったけど、でもその細かくポジションチェンジ、チェンジ、チェンジしてたら意外に相手を逃がさなくて済んだので、何かそれも言っちゃえば100%成功とは言えないんですけど、成功のうちに入るから、それをもっとどんどん極めてって。でやっぱウチの叔父が山本KID(徳郁)っていうイメージがあるから、すごい爆発的な試合イメージとかしてると思うのですけど、やっぱ俺は俺で山本アーセンなんで、山本アーセンの最強の道をこれから極わめて行けたらと思っています」 ━━フライ級に階級を落としてのパフォーマンスという部分では、いかがでしたか。 「正直あんまり苦ではなかっすね、やっぱ試合は全部辛いもんだし。ただ階級落として、この肺が潰れそうとかは正直あんまりなかったので、俺ここの階級でいいやと正直思いました」 ━━では今後もフライ級で? 「はい。この階級でやらせていただきますので、今後。よろしくお願いします」 ━━復帰までの道のりで一番キツかったことは何でしたか。 「一番キツかったこと? 自分が生きている理由が分からなかったことじゃないですか。ただ単に普通に生きてるのが一番辛かったです。何の刺激も無くて、何の目標も無くて。やっぱ自分は小っちゃい頃からレスリングとかトーナメントとか世界選手権とか、いつも何かしら目標があったんですけど、それが全くなく、ただ単にこう、ジムで生きていくっていうのがすごく辛くて……。だんだんそれが当たり前になってって、当たり前になってくのも辛かったっス。本当に人間として刺激がない毎日を過ごしてたから、でも本当にそれを起こしてくれたのが、もう何回も何回も言うのも面倒くさいですけど、本当に今回のセコンドの將生だったんで、ギリギリ皮一枚救われたなみたいな。ほんとよかった、今すーっごい生きてる感じがします」 [nextpage] SNSよりと生身の愛情を受けたい人間だから『俺に伝えてくれ』 ━━ツイッターの日本のトレンドで「アーセン」が1位になっていたのはご存じですか? 「いやー、試合終わらせられなくて、“サーセン!”マジ、サーセン!(笑)」 ━━今2位です。 「ああっ、サーセン! 2位にしちゃってサーセン!」 ━━いろんな格闘家の方が、青木(真也)選手とかも、「俺が一番愛してる」っていう風に発言されてたりしますが……。 「いや、それだったら『俺に伝えてくれ』って言っといてもらっていいですか? そんなSNSばっかりでねえ、その動画使われたり書かれても、俺はあの“こっち”(スマホを持つ仕草で)より、ちゃんと生身の愛情を受けたい人間だから、あの青木さんにもし時間あったらそれを俺に伝えて、って言っといてください」 ━━今回の試合をいろいろな格闘家の方が絶賛していますが、そのことについての心境はいかがですか。 「うん、別に。とりあえず他の人の意見も何も入れずに、さっきも言ったけど、山本アーセンをこれからどんどん極わめて行きたいと思ってます。チームと一緒に」 ━━勝利は1434日ぶり(※2019年6月のティム・エスクトゥルース戦以来)です。 「ワーッ! 4桁いったっすか?」 ━━そう考えると、どうですか。 「良かったー! マジで良かった!! そう考えると長かったっス。本当に長かった。良かった。これからそれをどんどん短くしていきます、日にちを。良かった!びっくりした俺、今」 ━━試合後のマイクにも感動したという声が多くあります。話す内容は事前に考えていたのですか。 「まあ、そうっスね。なんか、ちょっとやっぱお互いを傷つけ合うことが多いなって、正直、日本に住み始めて思ってて。たとえばグアムとか海外にいたらこう、そんなん無いんですよ。貶し合いとか。みんなこう仲良くて愛情を正直に伝えてっていうのが当たり前のカルチャーだったんですけど、日本に帰ってきたらなんかお互いをこう恨み合うようなことばっかりだったから、もうちょっと、何か、俺が言ったことで、数人でも気持ちを変えられたらいいなと思ったし、それも自分の欲しいものだったんですよ。  勝たないとあのマイクパフォーマンスの数10秒ってもらえないじゃないですか。だからその欲しいものを奪うっていうのはちゃんと自分が伝えたいことがあるから、あの人をブッ倒して、その数10秒もらおうっていう気持ちもひとつあったんで、はい。その一語一句間違わずに言うこと決めてたわけじゃないですけど、ある程度言いたいことは“あ、これは言いたいな”っていうの決めてました」 ━━試合後のマイク・パフォーマンスもモチベーションのひとつだったと。 「だって、それ勝者しか無理じゃないですか。負けた奴がマイク持てないし、持ったところで何もいいことないから、勝たないといけないなとは思っていました」 ━━次戦は、お母様の山本美憂選手に合わせて大晦日を目指しますか? それとももっと早い段階でもう一戦やりたいでしょうか。 「フロウで。流れに任せます」 ━━今後フライ級で戦っていくということで、フライ級のトップファイターである堀口恭司選手を意識することはありますか? 「のちのち。こんな試合内容じゃそんな言えないくらいのトップ選手だから。まあでも、聞くところによるとやっぱり伊藤選手もすごいトップファイターで、(漆間に尋ねて)トップファイターだよね? で、こう、強いよっていう人にまあ判定ですけど勝てたんで。まあこうやって地道にどんどん一段一段上に行って、で、いつか分からないけどまた戦えたらいいなと思います。また、じゃないけど、戦えたらいいなって。その時はもう俺、レベチになっていると思うので。頑張ります」 ━━(海外記者からの質問)最後、とてもエモーショナルになっていましたね。あの感情的になっていた理由というのを教えていただけませんか。 「(英語で)自分は2年9カ月くらい、試合してなかったんですよね。それで、実際のところ、生きてる実感を持てずにいたんですよね。暗闇の中にいたんです。それで全く光が見えなくなっていた。それで、自分がなんで生きてるのか、分からなかった。レスリングをやっていた頃っていうのは、自分には……そうだな、競技として大会があって、世界選手権とか色々ありました。でもこの2年9カ月っていうのは本当にクソ。マジで。何も無くて。だから“なんで俺生きてるの?”みたいな。“俺、何やってんだろう?”って。  それでこの試合がやれることになり、勝利することができて、ついに小さな光を、人生に見出せた。それで、感覚として“ああ、マジでめちゃくちゃ長い旅路だった”って。実際、始まったばかりだよ、だけどマジでクソ長い旅のようだった。だからだよ。それから(試合後に)ママの顔や、俺のチームを見たら、みんなも泣いてたんだ、だから気持ちがめちゃくちゃこみ上げてきた。やっと遂に、小さな光が差したんだ。すごく幸せに感じてる。そして、小さな光を見続けていかないと。とにかく前に進むんだ」 ━━(英語)次の対戦相手は誰に? 「誰でも、RIZINが用意する相手と戦い、勝利するだけ。俺は“こいつとやりたい”とかないんだ。誰だっていい。“この人と戦うんだ、分かった、ベストを尽くして、勝ちます”、その繰り返し。それを続けていけば、最終的には恭司さんともやれる日がきたらいいんじゃないかなって」 ━━試合が終わった後、山本美憂選手が涙されていましたが、何かお話はされましたか。 「すぐ泣きますからね、あの人。俺の母ちゃんすぐ泣くんでね、そんな毎回『泣きましたよ』って言われてもキリがないので。でも試合前に言ってくれて嬉しかったことは、『あんた、今回勝てば私超えられるから』と言ってもらって、『おー、やってやるよ!』みたいな感じで、そのことはすごい気合い入ったっス。でも泣いてることに関しては、すぐ泣くからね、あの人ね。だからそんな深いアレはないと思います」 ━━公開練習の時に、「勝ったらみんなでパーティーしたい」と仰っていましたが、どうしますか。 「その“パーティー”は、クラブとかじゃなくて、ただラーメンとか食べたいっていうパーティーっすね」 ━━今一番食べたいものは? 「今一番食べたいもの……コッテコテの家系ラーメン食いたいっスね(笑)。まじ横浜行きてえ。がっつり行きたいです、押忍」 [nextpage] これをどうにかシンクロさせたらもっといいファイターになれる ━━試合内容に納得が行ってなかったり、満足してなかったり、KID選手のような試合ができないっていうことを言われてたんですけど、今日のあのテイクダウン狙い、常に相手のギロチン(チョーク)が待ってて、バックテイクに関してもキムラ(ロック)が待ってて、そういう中で現状アーセン選手ができる、すごい斬り合いをしてたんじゃないかな、と思います。その辺りは? 「それはなんとなくもう分かっていたので、“これ来るだろ、これ来るだろ、これ来るだろう”みたいな。で自分も今回やっぱ色々今回、勉強していく中で、極めに行こうとするとやっぱり体力減るじゃないですか。で、自分の中で安心はしてるけど、ここでパッて抜いても、相手そんな疲れないかなと思ったから、自分が安心する場面だったら十分にそれを使わせてたっスね。で、やっぱりそれをちょっと放置してあげると、息が荒くなったりグリップが(手を握ったり開いたりしながら)“ウン、ウン”っていうこの感触っていう筋肉が締まる・解けた、みたいな。  何かこれでどんどん疲れさせちゃおう、グリップを無くさせちゃおうかなみたいな意味で、ちょっとそんなにすぐは抜かなかったんですけど、あそこはあんまり、フロントチョークは苦しいは苦しかったですけど“ああ、これ極まんねえだろうな”みたいな。“じゃあ(相手の力を)使わしとけ”みたいな。で、セコンドも『それ、どんどん疲れるから!』みたいな。“ウン、だよな!”みたいな感じで、頭の中で考えながらやってたんで、正直フロントチョークだったりキムラとかは別に心配はなかったです」 ━━あの試合を続けるというのは、勝っても自分も疲れる試合です。そういう部分で、別に殴り合わなくても、相当な覚悟を持って戦っていたのではないかと。その辺りは? 「ごもっともでございます。だからもうこのファイトスタイルの呪いっすよね、まあ、頑張れば勝てるけど、ちょっとでも気を抜いたら負けるし。ただ自分の中で、本当に打撃とかが超調子良くなってきて、練習とかバチバチ当ててるし、打撃に関してもすごい自信がついてたんですよ。ただ今回の試合は久しぶりの試合だっていうこともあって、その、勝ちにこだわってしまったっスね。  だから勝ちにそんなにこだわらず、今までやってきたものを前面に出すっていうことをやってればちゃんと打撃ももっと出てたと思うし、半分半分になってたなと思うんですけど、どうしても今回勝ちたいなっていうことがあって。だから、すぐテイクダウンに行ったり、相手が立ったら速攻テイクダウンし直したりというファイトスタイルになっちゃったんで、それもさっきチームメイトと話していて、『これをどうにかシンクロさせたらもっといいファイターになれるね』っていうこともあったんで。だから出直しっす。また作り上げてきます。次の試合までに」 ━━公開練習ではオーソドックスの構えも見せましたが、今日やはりサウスポーに構えたのは立ち合ってみてしっくりきたからですか? 「全部騙してただけです、ははは(笑)、久しぶりの試合だから何言っても信じるだろうなあと思ってたから、嘘バラまいてました。もうバレたから言いますけど、自分はサウスポーです。サウスポーのほうがしっくりきているので、こっから極わめていきます」 ──楽しみにしています。 「押忍! これからもよろしくお願いします!」 [nextpage] 伊藤裕樹「気持ちがすごい伝わってきた」 ━━試合後の率直な感想をお聞かせいただけますか。 「自分の実力が出せなかった試合なのですごい悔しいです」 ━━タックルや投げが印象的だったアーセン選手の技をどのように感じていましたか。 「レスリング力がすごい強くて、対峙しているときも気持ちがすごい伝わってきました」 ━━試合を終えたばかりですが、今後の展望・目標をお聞かせいただけますか。 「もっと練習して自分の弱点とかももっと埋めて、これからトップに食らいつけるように頑張ります」 ━━今後強化したい課題などはありますか。 「組みの面で、今レスリングとかすごい強化しているんですけど、今日の試合も練習みたいな展開だったので、ここをもっと上達していけば、もっと強くなれるんじゃないかなと思います」 ━━想定していたことを相手がしてきたけれど、想定以上だったということでしょうか。 「そうですね、アーセン選手がすごい気持ちが強かったので、自分の実力不足ですね」 ━━試合後に対戦相手のアーセン選手と言葉を交わしましたか。 「『レスリングを強化したらもっと強くなるよ』と言われたので、もっとそこを埋めてければなと思っています」
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