2023年3月25日(土)シンガポール・インドアスタジアムで行われる『ONE Fight Night 8』で、ONEデビュー戦を、元王者のアレックス・シウバ(ブラジル)と戦う、PANCRASEストロー級王者の山北渓人(リバーサルジム新宿Me,We)
2018年東日本学生選手権(秋季)フリースタイルレスリング57kg級準優勝などの実績を持ち、プロMMA7戦無敗の山北は、2022年7月の北方大地とのPANCRASEストロー級タイトルマッチで王座奪取以来の試合に向かう。
対するシウバは、ONEストロー級戦線のパイオニアで、ベテランながら直近1年半で5戦を3勝2敗と勝ち越している。
四点ヒザが認められたONEルールでも、ボトムからの仕掛けを武器とし、ディープハーフガードからのスイープ、足関節からのトランジッションでポジションを奪い返すなどMMA柔術を駆使して戦う。日本人相手には、内藤のび太と1勝2敗、鈴木隼人に一本勝ちも、猿田洋祐、箕輪ひろばには判定負け。しかし、いずれも熱闘を繰り広げている。
山北が粘り強いケージレスリングでドミネートするか。シウバが経験を生かした多彩でタフなMMAで新鋭を跳ね返すか。
シンガポールでの試合に向かう“サムライジャパン”山北渓人に、代々木のMe, Weで聞いた。
「冬の時代」も格闘技が好きだった
――2022年7月にPANCRASEでストロー級のベルトを獲得して、ONE Championshipと契約。2023年3月25日、アレックス・シウバとの試合を迎える山北渓人選手です。まずは、ONEとの契約が決まったことについて、どう感じていますか。
「ベルトを獲るまで負けずに契約できたので、これはすごいいいスタートだと感じていました。(海外参戦は)ベルトを獲った時点でもう決まったなって、やっといけたなって感じで、あとは相手を待つだけだなと」
――試合前から「ベルトを獲ることでスタートラインに立つ」と言っていました。海外勢と試合をしていきたいという思いはいつから?
「僕の世代だとDREAMなんです。DREAMを見て育ったので、DREAMのような舞台で海外トップと戦いたいとずっと思っていました。なかでもビビアーノが好きだったんです」
――DREAMでバンタムとフェザー級で王者だったビビアーノ・フェルナンデス。そして元ONE世界バンタム級王者でもあります。
「そうですね。前もシンガポールに試合を観に行かせてもらって、そのときもちょうどビビアーノの試合もあって。やっぱりずっとDREAMで見ていた選手と、同じ舞台で立てるということで気持ちが高まりましたね」
――そして、3月25日にそのONEの舞台で元ストロー級世界王者アレックス・シウバと戦います。
「もう一番のチャンスというか、一番やりたい選手の一人だったので嬉しかったですね。名前もあって、望むところです。でもここでつまずけないなという感じです。正直全盛期ほどの強さはないですから」
──とはいえONEストロー級戦線のパイオニアでMMAのなかで柔術を駆使する、ほかに類を見ないファイターです。山北選手のバックボーンは三重県いなべ市で始めたレスリングですよね?
「はい。小学校4年からキッズレスリングを始めて、高校、大学とレスリングを続けてきました。総合格闘技は、その頃ブームだったので、父が見ていて、僕も一緒に見ていて、なぜか兄弟のなかで、僕だけがはまっちゃって、3人兄弟なんですけど、格闘技をやっているのは自分だけなんです。その後、ちょうど“冬の時代”というか、PRIDEが無くなって……」
──でもDREAMを見続けたと。
「そうなんです。地上波も無くなったときも格闘技を見続けてましたね。PRIDEの頃に比べれば“冬の時代”でしたけど、中量級の選手も出て来て、その時代に好きだったので、なので、自分もそうとう好きだなって(笑)」
――高校以降も大学でレスリングを続けられた。高校卒業後すぐにMMAに転向するより山北選手にとって良かったのでしょうか。
「そうですね。レスリングでしっかり下地を作りたくて。桜庭和志選手やほかの選手を見ていても、やっぱりMMAでもレスラーが強いなって見ていて思っていたので」
――高校レベルのレスリングよりもさらに上のレベルでレスリングの下地を作りたかった。
「高校にも技術の高い選手もいるのですが、けっこうフィジカルで勝てる舞台だったので、大学のほうが技術のウエイトが高くて、そこを学ぶことが出来ました」
――専修大学レスリング部というと、柔道部とも交流があって、高阪剛選手をはじめ、中村K太郎選手、佐藤天選手、矢地祐介選手らもいますが、世代的にはその後ですよね。
「はい。上迫博仁さんや江藤公洋さん、武田光司さんが先輩で1個上。二つ上に中村倫也先輩、河名真寿斗先輩がいて、たまに江藤先輩も来たり、佐藤天さんも。柔道部の先輩だったんですけど、レスリングにも来ていました」
――恐るべし虎の穴ですね(笑)。それで、佐藤満先生がおられる。佐藤先生は秋田商業ですから、桜庭選手と同じで、時々、山北選手はサクラバロックも使いますよね。レスラーとしては珍しいかと。
「影響、ありますね。サクラバロックとかは昔から好きだったので」
――そして佐藤先生は今でも非常にお強いと。
「強いです。今はもう61、2歳くらいなんですけど、けど、全然重量級とか重い選手でも、合気道みたいなレスリングで力を使わないで、相手を制してます。力のいらない組み方をするというか」
――そういうことが可能なんですね……。
「『1分なら誰でも勝てる』って言ってて」
―─頑張り屋の山北選手もそうしてみたいですか。
「そうですね。やっぱ普段はけっこうフィジカルで勝ってる部分もあると思うんですけど、最終的な目標は、技術を一番上に。あまり力を使い過ぎずに戦えるようになりたいと思っています」
――とはいえ、PANCRASEでの北方大地選手との王座戦でも5Rをクラッチし続けることも出来る。あれはよくもちますね、5ラウンド。
「そうですね。技術的な話なんですけど、クラッチの仕方で、握らない、掛けるだけという組み方も使っているので」
――先日、Bellatorとの対抗戦でガジ・ラバダノフと戦った武田選手にもクラッチについてうかがったのですが、場面に応じていろいろ組み方を変えていると。
「はい。組む箇所によって変えて、こうして指を組むクラッチ、手のひらを合わせるクラッチ、手の甲をかぶせるクラッチ……いろいろ組み替えています」
――いわゆるインディアングリップのときに利き手の親指を上にして組むことも?
「はい。使い分けてますね。たとえば指を組むクラッチでも下の指だけ組むときもありますし」
──おお、ザッツ・レスラー。その組みのメリットはどんなところにあるのですか?
「これは引き付けにくいんですけど、外れない。キープできます」
――なるほど。瞬時に細かく使い分けているのですね。
「そうです。その使い分けが考えずとも出てきます」
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動き続けて勝つのが僕のスタイル
【写真】同門でレスリングの先輩でもある倉本一真と。倉本は4月29日にRIZINで太田忍とケージで対戦する。
――それを前戦の北方戦でも5Rのなかでやっていた。あのチャンピオンシップをどう戦いましたか。
「北方選手は、打撃も組みも全部強いなと思ってたんですけど、やっぱり5ラウンド戦というのも、僕けっこうスタミナに自信があるので有利なのもあるし、組みのテクニックで、ちゃんと勝負できる位置にいれたので、気持ちを切らさずにいけば絶対勝てると思っていました」
――山北選手はシングルバックからの攻めもしつこいです。足を四の字で組んで頭をつけて、二重絡みにもして、最後はバックを奪ってもシングルでからめる。
「最近バックを取りに行く動きはけっこう得意なんですけど、フルバックでは逃げられる展開もあるので」
――体格的にフルバックだと正対されるときもあると。
「上取ったときもそうなんですけど、キープだけだとやっぱり逃げやすい。攻めてどんどんポジションを変え続ける、そういう練習をしています」
――レスラーである山北選手ですが、下になることも恐れずにボトムからの展開もある。これはやはり柔術が山北選手の動きに入っているからでしょうか。
「そうですね。柔術をほんとうによく練習をするので。このMe,Weで、総合格闘技を始めるのと同時にやってきました。最近はちょっと出てないですけど、タイトルマッチが終わった後も柔術の大会は、道衣ありとノーギでも出場しています。好きでやっているというのもあります。そういうことをずっとやりたかったので」
――表彰台の姿も見てきました。MMAにおいて、自身のレスリングとの融合が必要だと考えたのでしょうか。
「必要というより、自分のイメージでは、総合格闘家って“全員柔術家”みたいなイメージがあるんです」
──26歳でPRIDEも好きという山北選手らしいです。
「打撃だけならキックボクシングでいいかなみたいな。組み技、寝技もあるから総合格闘技をやってるみたいなところがあります」
――そのつなぎの部分がどう出せるか。
「そうですね。始める前は、ある程度キックボクシングができて、レスリングができて、柔術ができたら、最強なのかなと思っていたら、やっぱりそうでもなくて。1個1個はもちろん大事なんですけど、やっぱそのつなげる作業というのが一番大事かなと思ってやってきました」
――このMe,Weでも、さきほど渡米前の倉本一真選手、藤田大和選手らとディープハーフの形を繰り返していましたね。シウバ選手が得意な形です。
「自分もやることで分かる。柔術の展開でも、ピュア柔術の場合は下から攻める技が多かったりするんですけど、MMAだからちゃんと上を狙うことを意識しています」
――ポジションを失わずに。
「MMAだと狙うポジションを変えたり、下になっても下で攻めるだけじゃなくて、ちゃんと立ちに行く。そして打撃を入れていく。特に今回はけっこうそういう場面が多いと思うので。動き続ける試合になると思います」
――これまでのアレックス・シウバと対戦した日本人選手の試合も参考にしていますか。
「そうですね。一番近いのは箕輪ひろば選手。イメージ的には、まさにああいう試合になるかなと思っています」
――ベテランのアレックス・シウバ選手はいろいろな引き出しがあります。
「打撃もうまい選手でスイッチしてくる。今まで以上に打撃も大事な試合になると思っています。今までは僕がずっと組みたい展開だったんですけど、組みたくない場面になるかもしれない。今まで以上に打撃にも力を入れてやっています。タイトルマッチが終わってからもずっと練習してきたので。ベルトは取れたんですけど、自分が目指している総合格闘技の完成形ではまだない。グラフでいうとでこぼこが無く、もっと大きな円に出来るように。ちゃんと完成に近づけるためにまだまだやることはあります」
――ONEのルールはがぶりヒザが使える。この点では山北選手にとって有利な部分ではないですか。
「そうですね。蹴りたい場面がいっぱいあったので、『Road to ONE』のときも寝技でのヒザありルールでフィニッシュに結び付けることができたので、やっぱり武器が1個増えたなという感触はあります」
――計量ではONE独自のハイドレーションテストもあります。
「以前、計量も見させてもらってたんですけど、いかに通るか。僕、水抜き前でちゃんとフライの体重、56.7kgを作れているので、油断しなければ大丈夫です」
――それは通常体重が小さいということでもありますね。
「そうですね。やっぱり計量を見ていると、ストローの選手でもでかいなとは思っていて、今後、サイズアップが必要だなとも感じています」
──ONEでのアレックス・シウバ戦を初戦にどんな目標を描いていますか。
「アレックス選手は今はノーランカーなので、やっぱり誰でもいいのでランカー相手と戦えるように。そして、最終的なゴールはジャレッド・ブルックスなので」
――王者ブルックスをどう見ていますか。
「タイトルマッチも、その前の試合も見たのですが、試合ごとに進化している感じが強いです。外国人選手特有のパワーもそうですが、瞬発力がやっぱり強い。打撃も組みでも」
――そこにたどり着くためにも山北選手の粘り強さで勝ち上がっていくと。
「そうですね。固められないでスクランブルを作って、動き続けて勝つというのが僕のスタイルなので。このジムには倉本さんや大和さん、ストロー級だとPANCRASE3位の高島俊哉さん、今ちょっとけがで休んでるんですけど神部建斗選手とも練習して、上の階級にも究極に強い人がいっぱいいて、山崎(剛)代表のセコンドがある。心強いです」
――では、シンガポールでの初試合に向けて、最後にファンにメッセージをお願いします。
「今回は初めての国際戦ということで、PANCRASEのチャンピオンとして、PANCRASEを代表して、そして、勝手に日本代表を背負わせてもらって、しっかり日本人の強さを見せつけてきたいなと思います。応援、よろしくお願いします!」
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シンガポール入りした山北「いずれ猿田さんとはPANCRASE代表としてタイトルマッチで戦って『国内ナンバーワン』と胸を張って言いたい」
「現地入りしてもほぼ体重のリミットで、水をいっぱい飲んで尿比重もチェックしながらやっていますが、あまり心配いらないかなと思っています。通常体重が61、2kgくらいなので、ほぼダイエット程度です。
対戦相手のアレックス・シウバ選手は、柔術が強い、経験豊富でその自信も伝わりますが、僕をフィニッシュするのは難しいと思います。
組み技はもちろん打撃もしっかりフィニッシュできる打撃を準備してきました。デビュー時から見てもらっている藤田大和選手とやってきました。
スタミナには自信がありますが、勝ち方も問われるので、動きが止まらない戦い方、早いラウンドでの決着も狙っています。2R、3Rいかない展開も考えて。フィニッシュを狙い続けて、寝技の評価が高いシウバ選手から一本を狙いたいです。ONEならではグラウンドヒザは一番の武器と言っても過言ではないです。
複数試合独占契約ですが、今回はPANCRASEのベルトを持ったまま戦いたいと思ってます。
アレックス選手に勝てば、次はランカーとやらせてもらえると思っています。ボカン・マスンヤネン選手とやったらすごい動きになると思うのでやらせてもらいたいです。PANCRASEではフライ級で戦っていて、ONEではストロー級なのでどこかで当たるなと思っていました。ONEでも勝っていて本物なんだなと。来年、再来年にタイトルマッチまでたどりつきたいと思っています。
(同階級の日本人選手について)敵対というわけではないですけど、箕輪選手も言っていたように、ほかの日本人選手が活躍するのは嬉しいですけど、当たるとなると僕、PANCRASEのチャンピオンで、向こうは修斗でベルトを巻いた。PANCRASE対修斗で、一度、ONEで猿田選手が北方選手に勝っているので、僕も勝ち続けて、PANCRASE代表として勝って『国内ナンバーワン』と胸を張って言いたいです。一番はタイトルマッチで(猿田と)当たれれば理想的だなと思います。
いま、海外で勝ったり負けたりの日本人選手のなかで、僕も入ってきて、勝てる自信があるので、期待してほしいです。ぜひ応援よろしくお願いします」(※3月22日のメディア囲み取材にて)
【写真】カンフー映画をこよなく愛するが、まだ自身のスタイルには取り入れてはいないという山北。好きな映画は『酔拳2』。家では格闘技を嗜む奥方とウーパールーパーの山北もちまる君が勝利を待っている。