2023年3月10日(日本時間11日)に米国カリフォルニア州サンノゼのSAPセンターで開催の『Bellator 292』にて、優勝賞金100万ドル(約1億3千万円)の「Bellatorライト級ワールドグランプリ」(5分5R)が開幕する。
日本ではU-NEXTでライブ配信される同大会で、GP1回戦の2試合が行われる。ひとつは、Bellator世界ライト王者のウスマン・ヌルマゴメドフ(ロシア・16勝0敗)と、元UFC世界ライト級王者のベンソン・ヘンダーソン(米国・30勝11敗)による、GP1回戦&ライト級王座戦。
もうひとつは、RIZINワールドGP2019優勝のトフィック・ムサエフ(アゼルバイジャン・20勝4敗)と、7連勝中の強豪アレクサンドル・シャブリー(ロシア・22勝3敗)によるGP1回戦となる。
2023年11月にパトリッキー・フレイレを判定で下し、Bellator5連勝で新王者となったウスマンに対し、ヘンダーソンは2022年1月にイスラム・マメドフとの熱戦をスプリット判定で勝利。9月の前戦でピーター・クウィリーに3-0の判定勝ちで2連勝をマークし、今回のGPでUFCとのダブルタイトルを狙う。
自身のキャリアの最終章へと向かうなかで、ここに来て充実したMMAの動きを見せているベンソン・ヘンダーソンに、大一番への意気込みを聞いた。
Bellatorに「すごく日本に行きたいんだ」って何度も何度も頼んでいたんだ
──ベンソン選手、お久しぶりです。日本からのZOOMでの取材を受けていいただきありがとうございます。
「久しぶり、こちらこそインタビューありがとう。年末に日本でBellatorとRIZINの対抗戦があって、すごく良かったね! 実は、Bellatorに、僕はすごく日本に行きたいんだって何度も何度も依頼をしていたんだ。出来れば来年には行きたいと思っているよ。ここ数年、Bellatorで、少し盛り上がりに欠けていた大会もあったけど、今回のRIZIN×Bellatorを皮切りに、すごくいい年になると思っているよ」
――その大晦日にはメインとセミで、日本の2人のトップ柔術家、ホベルト・サトシ・ソウザ選手とクレベル・コイケ選手が、BellatorのAJ・マッキー選手とパトリシオ・ピットブル・フレイレ選手にいずれも判定負けでした。あの2試合をライト級のベンソン選手はどう見ましたか。
「まず、とてもすごく興味深い試合で、サトシとクレベルは敗れたけど、柔術の技術がすごくたくさん見られた試合でもあったので、すごく良かったね! 敗因は……トランジションかな。サブミッションからサブミッションにいく移行を、もっと早くスムーズに、シームレスにしなきゃいけなかったと思う。
たとえば一つのサブミッションがうまくいかない、ポジションがうまく極められないとなったら、もうすぐに判断をして、次のサブミッションにいかなければいけない。30秒、45秒以上ずっと待って、待つだけだったら、そのままラウンドが終わってしまう。大抵の場合、1度目のサブミッションは極まらないことが多くて、トランジションで2度目のサブミッションから、より素早く次へと繋げていけるものだから」
――トランジション、技から技への連携ですね。互いに動くなかで隙が生まれると。では、ベンソン選手の前戦についても伺いたいのですが、2022年1月の試合、イスラム・マメドフ選手との試合は、スプリットの判定勝ちで接戦でした。初回のギロチンが極まるも、2Rと3Rはテイクダウンされている。ご自身ではどう総括していますか。
「たしかにあの試合はとても接戦で、すごくタフな戦いだったと思う。サブミッションもすごく接戦だったと思うし、20勝1敗のロシアのタフなファイターにペースをすごくプッシュしていかなきゃいけない試合だった。彼らはすごくレスリング技術が高くて、トップポジションでコントロールして試合を支配していくタイプのファイターなので、キーとなったのは、スクランブルをし続けることだった。スクランブルを続けることによって、相手を疲れさせようと。人間だから、誰でもいつかは疲れていく。自分の方から大きいスクランブルを続けていくことが戦略だったんだ」
――となると、それは今回のウスマン・ヌルマゴメドフ選手との試合でも、同じようなポイントが試合のキーになりそうでしょうか。
「願わくば同じようなパターンで同じように勝てればいいとは思っているけれども、もし彼がレスリングで攻めてきたら同じようにスクランブルを続けて疲れさせるように進めたい。もし彼が立ち技で攻めてくるのであれば、ボクシングの距離感で戦って、彼のキックボクシングの距離感にならないようにしていきたいと思っているよ」
――ウスマン選手の蹴りの間合いで戦わないようにする、と。彼のサイドキックや関節蹴りで距離をコントロールされるのは厄介でしょうか。
「いや、スタンドでは自分のボクシングのレンジで戦おうと思っているから、そんなに難しくはないよ。蹴りたいのであれば好きに蹴らせてあげて、自分がダメージを受けなければいいだけだ。逆にこっちも蹴らせてくれるんだったら、きちんと蹴り合ってダメージを負わせることができる。とにかく自分のボクシングレンジに入れば問題ないかなとは思っているよ」
――ところでキックといえば、前回のピーター・クウィリー戦でグラウンド状態からキックをベンソン選手が繰り出していました。あれは日本では「猪木─アリキック」と呼べるかもしれませんが、ベンソン選手の稀有なのはあの蹴りが下からハイキックに届くことです。
「おおっ、モハメド・アリとの異種格闘技戦だね。あれはあのとき咄嗟に出したのではなく独自に練習している技なんだ。やっぱりみんな立っていると、下の相手から蹴りが来るなんて想定をしていない選手が多いから、自分の技としてけっこう練習をしているよ。今までもフランキー(エドガー)との戦いで同じキックを出して相手に攻撃できているし、相手がパンチとか他の攻撃を予測している中で、下からキックを蹴ることはなかなか意表を突くんじゃないかな」
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衰えは感じていないけど、Bellatorと契約した妻のサポートもしていきたい
──そして、クィリー戦の勝利で、ライト級GPに出場を決めました。
「Bellatorがライト級GPを開催するのをずっと待っていたんだ。まだライト級でやったことがなくて、どの選手を見ても『いつになったらライト級に愛情を注いでくれるんだ』と思っていたはずだ。今こそ、Bellatorのために輝き、ショーを見せる時さ。このGPで優勝することはとても素晴らしいことだ。僕は多くの仕事をしてきた。自分がしてきた全ての決断──このGPを勝ち取ること、3本目のベルトを手に入れること、それは僕にとって全て意味がある」
──あらためてウスマンの実力をどのように評価していますか。
「ウスマンは良いチャンプだと思う。彼は素晴らしいストライカーだ。前回の試合では、レスリングのスキルがあることを示し、『お前ら、俺がどこから来たか忘れたのか!?』って感じだった。彼はこのスポーツの中では比較的若いから、彼が持っているスキルのうち、まだ披露できていないものがあるということが最大の収穫だと思う。彼がまだ見せていないものを、他にどんな形で持ってくるのか、もちろん、その点に僕も大いに注目しているよ」
――今回は王座戦の5R。UFCでも5分5Rを経験していて、接戦になればなるほど、その強味を生かしてジャッジの裁定をもぎ取るあなたにとって、このトーナメントは有利にも感じますか。
「5Rできるのであれば、自分のペースをずっと保てるので、相手を疲れさせることで勝利に繋げられるのではないかと思う。一度、5Rの判定で負けたことはあるけど、それは自分のペースを保てなかったことが原因だから、長期戦でも自分のペースをうまく保つようにしていきたいね」
──この試合のアンダードッグであることについて、会見で聞かれていましたが「気にしない」と。
「僕は人生で一度も(ベッティングの)オッズを見たことがないんだ。オッズがどのように機能するのかさえ知らない。そんなことは気にしていない。でも、アンダードッグのことは理解している。僕はキャリアの大部分で劣等生だった。僕がチャンピオンになったときのことをみんなは覚えていて、その試合では僕がフェバリットだったけれど、その前の長い間、僕はアンダードッグだったんだ。僕はアンダードッグであることに何の問題もない。真のベテランにとっては、そんなことはどうでもいいこと。戦いなんだから。ホームの観客、ウォークアウト……あれやこれやと、戦い以外の他の付帯事項はすべて重要じゃない」
――39歳になって、まだ自分のフィジカルの衰えは感じていませんか?
「幸いなことにまだそんなに衰えは感じていないんだ。ただ、練習でもしっかり20分のリカバリーを取ったり、逆に1、2時間のしっかりとしたフルリカバリーを取るように、計画して練習しているので、いまのところ特には年齢による衰えを感じていないね」
──クイリー戦後に「引退までの感情的な影響は、まだ全く準備ができていないが、あと3試合はある」と語りました。このGPは、有終の美を飾る戦いになるのでしょうか?
「そうだね。まずはGPを戦い抜くこと。僕にとって、僕の最期はこの3戦で、それで終わりになる。4試合契約したんだから、もういい。次は妻の番だ。マリアがBellatorと契約したからね。妻は、多くの妻がそうであるように、自分のキャリアを先延ばしにした。妻は4人の子供を産み、今はジムでトレーニングをしているから、次は僕がその世話をする番だ。
トム・ブレイディ(元NFL選手)を見れば分かるように、定年退職を迎える人は皆、もう1回プレーできると考えていると思うけど、僕にとっては、妻が自分の番を迎えることが重要なんだ。彼女はトレーニングに集中する必要があるし、MMAで良い成績を残すために必要な仕事量もある。子供たちの世話をするのが主な仕事である以上、その時間を確保するのは難しいんだ。だから今度は僕が子供の面倒を見たり、学校の送り迎えをしたり、そういうことをやっていって、妻のキャリアの育成に集中していければいいなと思っている」
(C)Zuffa LLC/UFC
──輝かしい戦歴の中で最も好きな思い出は?
「ここサンノゼのケージで妻にプロポーズしたこと。僕はあまり積極的な性格ではないから、そういった機会を持てたことはとても良かったんだ。(ここで何があっても)妻へのプロポーズには勝てないだろう、素晴らしいことだと思うよ」
――ベンソン選手の最終章がGPで、キャリアの集大成を見せることになりますね。ところでお母様も柔術をまだ続けているのでしょうか。
「ああ、いまは柔術を止めている。長く働いて手がもうボロボロなので、道衣をなかなかうまく掴むことができなくてね。だから、母のこれからもケアしていきたいと思っている」
――王者への挑戦という大きな試合に臨むベンソン選手の戦いに注目します。最後に日本のファンにメッセージを。
「UFCで日本で戦って以降、日本のファンはいつも僕をサポートしてくれてありがとう。僕は今回、GPでタイトルマッチを戦うからぜひ見ていてください。そして、さっき言ったとおり、格闘技が生まれた場所のひとつである日本に、どんな形であれぜひ行きたいんだ。また皆さんに会えることを楽しみにしているよ!」(text by Matsuyama Go)