2023年3月10日(日本時間11日)に米国カリフォルニア州サンノゼのSAPセンターで開催の『Bellator 292』にて、優勝賞金100万ドル(約1億3千万円)の「Bellatorライト級ワールドグランプリ」(5分5R)が開幕する。
日本ではU-NEXTでライブ配信される同大会で、GP1回戦の2試合が行われる。
ひとつは、Bellator世界ライト王者のウスマン・ヌルマゴメドフ(ロシア・16勝0敗)と、元UFC世界ライト級王者のベンソン・ヘンダーソン(米国・30勝11敗)による、GP1回戦&ライト級王座戦。
もうひとつは、RIZINワールドGP2019優勝のトフィック・ムサエフ(アゼルバイジャン・20勝4敗)と、7連勝中の強豪アレクサンドル・シャブリー(ロシア・22勝3敗)によるGP1回戦となる。
8日に行われた会見から、今回はダゲスタン出身で、叔父アブドゥルマナプと従兄弟ハビブのもとで格闘技を学び、UFCファイターのウマル・ヌルマゴメドフを兄に持つ、24歳の王者ウスマン・ヌルマゴメドフの言葉を紹介したい(text by YUKO)。
ベンソンという素晴らしい経験を積んだ相手と戦うことによって、学びも多いし、実力を証明することにもなる
──ウスマン・ヌルマゴメドフ選手、いよいよヘッドライナーでライト級ワールドGP開幕戦&王座初防衛戦というキャリアのなかでも大きな瞬間に際して今の気分は?
「肉体的にも精神的にもとてもいい状態、すごくいいキャンプができて、準備万端だよ」
──チャンピオンとして参加するトーナメントとしては、毎回タイトル防衛をしながら勝ち進まなくてはいけませんが、GP優勝に向けての流れを意識しているのか、それとも一個一個、防衛戦という風に考えているのでしょうか。
「自分はいつだって、次の相手に集中している。自分の相手を通り越して誰かを見据えたりしたことは一度もないし、しないよ」
──ベンソン・ヘンダーソン選手のようなレジェンドファイターとの対戦になったことがエキサイティングだと思っているのか、それとも違う相手がよかったでしょうか。
「どうであれ組まれた相手を全て倒していくのみ、という点においてはマッチアップについて特別な感情というのはないけれども、この試合に関しては非常に良いマッチアップだと感じていて──というのもベンソンは最高の対戦相手だから。素晴らしい経験を持ち合わせているしそれだけ有名でもあり、開幕戦を彼に勝利できたらすごく勢いづくと思う」
──かつてのUFC王者であったりWEC王者であったりという相手を倒すことが、自身のキャリアにおいてどういう意味を持つと考えますか。
「もちろん、最高のスタートだと思う。数多くのタイトルを獲得し、よく知られている相手に勝利することは自分の記録においても大きい、というのも素晴らしい経験を積んだ相手と戦うことによって、学びも多いし、自分自身の実力を証明することにもなる。だからこういう試合から始まることになるのは、すごく自分のためになることだと思っている」
──「一つひとつの試合に集中する」と仰っていたのは理解しているのですが、対戦表を見渡して、次に当たると面白いと思っている相手などがいるでしょうか。
「僕は全然、誰が次にということについて優先順位のようなものを付ける気はないし、ほとんどの相手にとって自分が標的であると思えばみんなに聞いたほうがいい。僕は常に、一戦必勝で考えてるよ」
──チャンピオンであり、16勝無敗という記録を保持していますが、このGPを総ナメして頂点に立つというのはどういう意味を持つでしょうか。
「自分自身が見据えていることというのは、“プロフェッショナル・ファイターとしてより進歩していきたい”ということであって、今年はこうしてGPが開催されることにより、そこにさらにボーナスが加わるということだけれど、自分にとっては試合そのものがより意味を持っている。だから将来的にもどんどん試合をしていきたいんだ。そういう中で、今、目の前に用意されているのがこういう仕組みのなかの試合だというだけのこと。そりゃもちろん、負けるのは好きじゃない。広く、あらゆる面で──つまりMMAであろうが、人生においても、と言ったらいいかな。だから、再び、そしてもっともっと、ただ勝ち続けていきたい、それが自分が思っている、このGPの意味かな」
──ベンソン・ヘンダーソン選手はBellatorに来てからアップダウンがありましたけど、今は再び上り調子という状態ですよね。そういう過程を経ていま好調で、かつてチャンピオンったこともある彼を、対戦相手としていることについて、警戒心を持って臨むのか、大変な思いもしている人だということでアドバンテージを感じているのか、どういう感じでしょうか。
「MMAにおいても、そして人生においても、僕は決して誰かを、そしてその人の行いを、蔑むようなことはしない。彼についた黒星ひとつとっても、いろんな理由があったのだろうと思うし、加えて人は、というか、賢い人であれば、失敗から学ぶということができるわけだから、僕は彼を過小評価することはないし、間違いなく彼は強敵であり、強いファイターだっていう認識だ」
──あなた自身が対戦相手を侮らないという事実があり、一方で、オッズは圧倒的にあなたが優勢で、25対1の割合です。これはタイトルショットとしても異例の差ではないでしょうか。そういう意味で、専門家が、チャンピオン経験者相手にそれだけの数字をつけるということについてはどう思いますか?
「いや、まったく気にしていない」
[nextpage]
地元から遠く離れてAKAでトレーニングをするようになって2年。ホームのような感覚に
──コーナーには誰が?
「イスラム・マカチェフ、イスラム・マメドフ、兄のウマル・ヌルマゴメドフと、(AKAの)ハビエル・メンディスコーチです」
──ハズブラ・マゴメドフさんも来ますか。
「いや、来ないと思う。彼は忙しいから(笑)」
──2月のUFCで、同門のUFC世界ライト級王者のイスラム・マカチェフ選手と、アレクサンダー・ヴォルカノフスキー選手の階級を越えたすごい試合がありました。あなたの見解を聞かせてください。
「自分としては、イスラムの勝利に何の疑う余地もない。彼はほとんどの時間ドミネイトしてたからね。ただ最後の瞬間を除いて。あの時、彼はパンチをミスして、バックを取らせてしまった。とはいえ彼が支配していた試合です。それは自分が彼の友人だから言っているわけじゃなくて、あの試合を見てそう思ったし、ヴォルカノフスキーが素晴らしい選手であることも僕は分かっていて、その上で分析してみて、マカチェフの勝利を確信している」
──ライト級王者vs.フェザー級王者という試合、しかもそれが彼のタイトル初防衛戦だったマカチェフ選手から、どんなアドバイスがありましたか。あの試合を経たチャンピオンとして特別なことは何か?
「メンタル面で、チャンピオンとして、リラックスして自分の出せるものをただ出し切ればいい、ということ。そして、初心者であろうが、チャンピオンであろうが、しっかりとわきまえて謙虚に、そしてとにかく練習に一生懸命励むこと。僕たちがジムで一緒に練習しているとき、いつも彼がアドバイスをくれる。彼は言うまでもなくグラップリングにめちゃくちゃ長けているから、練習している時、いつもいろんな、グラップリングのテクニックを見せてくれるんだ。彼がこれまで発揮してきたものなんかをね。ジムで、そうやって全てを分け与えてくれている」
──ジムで、イスラム・マカチェフ選手との間ではどんなトラッシュトークを繰り広げているのですか。
「一緒にふざけ合ってちょっとジョークを言ったりするくらいかなあ。彼に『ナンバー3だったっけ? え? ナンバーワンだったっけ?』みたいな(笑)。いまや彼はパウンド・フォー・パウンドNO.1だから、ちょっかいだしたりしないよ」
──ところで、今週の初めに、アブバカル・ヌルマゴメドフ選手が、病気でUFCを離脱したという話が入ってきました。が、調子は問題ないのでしょうか。状況をご存知ですか? 何か言葉を交わされたりは?
「一緒にトレーニングキャンプを張ろうとしていたのだけれど、彼が病気になってしまって。彼が病気でジムに来られなくなったんだけど、彼はちょっと回復の時間を持ってから戻ってきた。だけど、また罹ってしまって……、今度はもう病床に留まるしかなくなってしまった。すごく弱ってしまって、何か免疫系の問題のようなのだけれど、よくは分からない。インフルエンザなのか他の病気なのか。どうあれ、起きたことは起こるべくして起きた、それは神の御心によるもの。だから自分としては、彼が良くなることを祈り、彼の今後を祈ってる」
──お兄さんのウマル・ヌルマゴメドフ選手はあなたがチャンピオンになってから厳しいのか、あるいは讃えてさらに愛情を持って接してくれているような感じなのか、ダゲスタンの兄弟というのがどういうふうに敬意を示すものなのでしょうか。
「ウマルとの間に、何かプレッシャーを感じたりというようなことはない。自分のほうが何かで勝るというようなことがあったとして、(従兄弟の)ハビブ(ヌルマゴメドフ)とともにウマルもいつも落ち着いて、すごく自分を支えてくれているし、とっても兄弟関係は良好だと思うよ」
──ウマル選手とあなたは息抜きに「FIFA」(ゲーム)をやるとか。お気に入りや、どういう編成でプレーしてるのでしょうか。
「特別ひいきのチームというのは、言わないよ(笑)。みんなFIFA好きでプレイしていて、ウマルはそんなにいい対戦相手ではないかなあ。自分がいつも一番だよ、FIFAで(笑)」
──あなたの故郷ダゲスタンはとても離れているけれど、サンノゼのAKAでトレーニングをすることで、そしてSAPセンターでの大会で、ホームのような気持ちで試合に臨める、という感じでしょうか。
「そうだね、確かに2年になるからね、地元から遠く離れたここ(サンノゼのAKA)でトレーニングをするようになって。みんないい人だし、もう土地勘もあるし、ホームのような感覚にはなってきたかな」
──インスタグラムに元UFC王者のケイン・ヴェラスケスとトレーニングしている動画をアップしていましたが、何かアドバイスをもらいましたか。
「彼は僕が出会ったなかでも、いちばん良い人の一人。彼はいつもいつも、練習すると最高の面を見せてくれていて、ジムで彼を見ると驚くけど、いったいどれだけ顔を出すんだと。住んでるのかと思う。彼の身に起きたことはとても不幸なことで、彼に恩赦が与えられて、彼と彼の家族の状況が何もかもいち早く良くなってほしいと思ってる」