2023年1月18日、UFCのダナ・ホワイト代表が主催する『パワースラップリーグ』が、米ワーナー・ブラザース・ディスカバリー・ネットワークスが運営するTBSチャンネルで放送された(UFC Fight Pass配信)。メキシコでの家族旅行中に、ダナ代表が夫婦喧嘩で妻を平手打ちする動画が拡散されたため、予定より1週間遅れての公開となった。
もともとスラップファイトは、東欧を中心に行われており、そこにダナ代表らが、新たに競技として手を加え、『パワースラップリーグ』として展開したもの。
互いに平手打ちで勝敗を競う『パワースラップ』の主なルールは以下の通り。MMAに準ずる階級分けで、男性と女性の2部門で行われる。
各試合はコイントスでどちらが先にスラップ(平手打ち)またはディフェンス(防御をせずに踏ん張る)を選択できるかを決定。
3Rから最大5Rのスラップファイトで、各ラウンドで、両選手は相手の顔面に一発のオープンハンドの打撃を与える機会があり、また、相手の打撃を受ける義務がある。倒された選手は、レフェリーから10カウントが数えられ、その間に立ち上がり、試合続行が可能であることを証明しなければならない。その準備と回復には30秒が与えられる。
打つ側は足を平行にして床につけたままにして立つ必要があり、レフェリーにどちらの手を使用して、ウォームアップを何回行うかを伝え、何回目で当てるかを宣告する。受ける側は肩を直角にし、あごを上げ、手を後ろにしてスティックやタオルを持って待たなければならない。
勝敗は「KO、TKO、判定」に決定。3Rを過ぎると「10点マストシステム」の判定が採用され、ラウンドの勝者が10点、相手が9点以下であることを基本とし、判定基準は、打撃の有効性と、打たれた側の反応と回復時間によって採点する。
エンターテイメントとしてのスラップファイトの残虐性が議論されるなか、UFCチーフビジネスオフィサーのハンター・キャンベルは、『パワースラップリーグ』がMMAと同様の医療チェックのもと、階級別にマッチメークが行われるとし、マウスガードと耳栓着用で、反則の規制なども厳しく実施されることを説明した。今回のルールは、米国ネバダ州のアスレチックコミッションが承認したものだという。
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脳にダメージ「攻防」が無い危険な打ち合い
米国ラスベガスのUFC APEXで行われた同大会は、放送と同時に多くの賛否両論に包まれた。
互いに平手の打ち合いは、階級を合わせているとはいえ、顔を無防備に曝け出さなければならず、「攻防」が生まれない“危険なタフマンコンテスト”になっている。
クリス・トーマスとクリス・ケネディによるウェルター級戦では、トーマスの平手打ちにより、ケネディが完全に意識を失って床に倒れ込んだ。周囲にはコミッションから派遣されたレフェリーが取り囲み、倒れる選手の頭部を保護しようとするが、それが十分に間に合っているとはいえない形もあった。
ケネディのもとにかけつけたドクターは、「座ってください。あなたはノックアウトされました」と話しかけると、ケネディは、「何をしてノックアウトされたのですか? 私は戦っていたのですか?」と試合を覚えていない様子。脳震盪を起こしたケネディは、一時的な記憶喪失を起こし、事態をうまく把握できていないようだった。
倒れて腕が硬直する選手、立ち上がろうとして踏ん張れず前に転ぶ選手……この動画を見た、元WWEレスラーで神経科学者のクリス・ノウィンスキーは、「これはとても悲しいことです。ダナ・ホワイトとTBSは恥じるべきだ。純粋な搾取だ。次に何が起きる?『誰が刺されて、生き残るのか?』」と警鐘を鳴らしている。
防御が出来ないこのスラップファイトは格闘技ではなく、エンターテインメントとしても、人命に関わり、後遺症が残る可能性がある、危険な見世物になっている。
この倒れ方が危険なことは、UFCを運営しているダナ・ホワイト代表が理解していないはずもなく、映像では一瞬退くような驚きの表情を浮かべている。
AEWレスリングに続いて放送された同番組の評価は、1月18日の米国ケーブルテレビ放送で45位。導入部として放送されたAWEは、その夜の3位になっている。
『Power Slap: Road to the Title』の第1シーズンは、『The Ultimate Fighter』と同じように、さらに7つのエピソードで構成され、PPVイベントのフィナーレに向かう。